覇者野球
西オールスター VS オールビー。
東西球宴という幻影。
果たして、西リーグの選手達は12球団の中で最強の選手達に勝てるのだろうか?
パアァァンッ
「ストライク!バッターアウト!!」
「牧!完全投球!!打者6人に対し、5人から奪三振!!最強オールビー打線を蹂躙します!!」
とはいえ、西リーグの選抜だ。
捕手のハンデを感じさせない圧倒的な怪物がいる。
牧真一。圧巻の5Kで2回を完全投球してみせる。やはり投手として別格にいる。そして、牧の投球に即発されるように
「ストライク!バッターアウト!!」
「田中昌も負けていない!!対抗心を見せる奪三振!4者連続奪三振!」
東リーグ最高右腕、田中昌もまた奪三振を重ねる。投手としての実力はほぼ互角。
「いつものバッテリーのくせに三振4つか。俺の勝ちだな」
「なんだと!?なら3回も来いよ!次の回で逆転してみせる!」
両ベンチから、大エースが殺意のような睨み合いを開始するまで発展。マジで2人が投げ合ったらどっちが勝つか、気になる。この2人が全国シリーズで投げ合って欲しいものだ。
大エースを宥めるのは二番手のエース様。
「引っ込んでろ。次は俺の出番だって決まってるだろ?」
「落ち着け、田中昌。ベンチ内じゃクールに行こうぜ」
AIDAのエース。石田。そして、田中昌の二番手、ベアストーンが登板。
両チーム共に完全な投球を喰らい、打線は沈黙していた。先に点を獲った方が有利なのは明らかであった。その1点は、
カーーーーーーンッ
「と、特大の一発!キングランド!石田のフォークを落ち切る前に叩いて、スタンドイン!!」
石田の失投を逃さず、スタンドに放り込んだ大ベテラン打者。キングランドの一発を機に、オールビー打線が火を吹いた。
「ちっ……」
「ちゃんと投げろよ、石田!ストレートが甘ぇよ!」
「うっせー!フォークをちゃんと捕ってから言え!制限が掛かってしょうがねぇぞ、お前なんかが捕手だとよ!」
シールバックの守備陣にも足を引っ張られ、石田はこの回で4失点。多様な変化球を武器にする牧。引き出しが多く、河合の単調なリードにも対応できる投手能力がある。一方で、一つに対して絶対的な威力を発揮する石田の投球は捕手の安心感がなければ成立しない。
明らかに合っていない2人だった。
オールビー相手に4点差、これはもう終戦に近いと西リーグのファン達は思っていた。投手レベルはオールビーだけでも西リーグより上だろう。
「みんな!しっかりしろよ!」
このビハインド状況。チームワークもできていない西リーグのオールスターを一喝したのは曽我部であった。
「一発狙いでMVPを狙うにしても、まずは俺達が勝たないと意味ねぇーんだぞ?そのへん分かってるか?」
打者一巡でノーヒット。西リーグを代表する打者達の多くは長距離砲。本塁打を狙い過ぎたのがノーヒットの原因でもある。
「お手本を見せてやらないとな、曽我部」
「打点は任せるぞ。新藤」
友田が2打席凡退し、1アウトで曽我部が打席に立つ。
相手投手のベアストーン。コントロールが良く、打たせて捕る最高峰にいる投手。四球率はもちろん、ボールを与える確率も少なく、ストライクゾーンでもっとも戦える投手として高い評価を持つ。
この手の投手は石田と河合のようにバッテリーとの相性が非常に重要になってくる。それと、石田と違って三振にとれる球はほぼない。打たせて捕ることを重視している。
パキイィィッ
厳しいインローをフルスイングして打球を飛ばす曽我部。完全に芯を外されたが、長打力が生み出す打球のノビ。
「西リーグの初ヒットは曽我部!!ファーストの頭上を越えるライト前ヒット!」
「こーゆう投手はフルスイングしやすいな」
とはいえ、下手したら内野ゴロとして打たされていた。フルスイングといっても、曽我部のスイングには確かな技術がある。
「3番、セカンド、新藤」
1アウト1塁。無論、打っていく新藤だ。
点差が十分にあり特別に警戒する必要はしていなかった。4番打者が集結しているという明らかなオーダーの不意を突いた攻撃。
「走った!!」
初球、曽我部が無警戒のバッテリーを突く、2盗を決める。1打と1盗塁で一気に流れを呼び込んだ。わずかに曽我部を意識するベアストーン。決してリードは広くない。これ以上の仕掛けはないと思った2球目。
「また走った!!」
バッテリーの動揺は少なかったが、内野陣のわずかな動揺があったのは事実。
落ち着いて、野田が三塁へと送球すれば刺せるタイミングである。しかし、新藤は守備陣のわずかな動きを読み、その裏を突くようにボール球を打ち返した。
「三遊間!抜けたー!!ヒットエンドラン成功!!西リーグ!すかさず1点返した!」
わずかに広くなった三遊間へと狙い打つ、稀有なバットコントロール。
2人の技でまずは1点を獲った西リーグ。ベンチに戻り、チームから祝福される曽我部。
「おーし!さっさと3点返して引っくり返そうぜ!」
「おおおぉっ!」
このプレイで西リーグに勢いをつけたのは事実だろう。
バギイイィィッ
ボールが壊れるような炸裂音。相手バッテリーが一瞬、怯える一撃。
これほどのフルスイングができるのは東リーグにもそうはいなかった。打球音にも負けていない、
バヂイイィッッ
「っっ!」
ファースト、松嵩。強烈な痛みが襲いながらも、真正面に来た強烈なライナーを捕球。さらに飛び出していた新藤よりも早くベースを踏む。
「アウトーー!」
「痛烈な当たりではありましたが!ファースト正面!追加点ならず!」
河合、併殺打。ファーストへのライナーであるため、併殺とは言えないが……。
「なにやってんだ!やる気あんのか、河合!」
「せっかくの追い上げムードを壊しやがって!」
「うっせーー!正面にいっただけだろう!」
ブーブーと、そのフルスイングを批難する西リーグの面々。しかし、バッテリーとファーストの松嵩は驚いたことだろう。コースが少し甘かったら、確実に一発を喰らっていた。
「あのフルスイング。五十五と同レベルか?」
「西リーグにもあんな打撃ができる奴がいるとはな、中々面白いじゃねぇか」
「手ー痛ぇー。避けてれば良かったぜー。打撲してねぇよな?」
河合の打者としての凄さが十分に伝わった一撃であった。
4回裏、石田は立ち直って上手く0点で切ってとる。流れをしっかりと保ったまま、5回表の攻撃。
こっから眠っていた打線が目覚め始める。
ベアストーンから変わった辰真に襲い掛かった。
「牧や田中昌ほどじゃなきゃ、十分よ!」
5番、徳川。
「泉ほどのヤバさもねぇなら、叩き込む!」
6番、荒野。
2者連続の本塁打でその差を1点まで詰め寄る強打をみせる。さすが、球団の4番打者。決して甘い球ではないが、そのフルスイングで辰真のストレートを弾き飛ばしていた。
しかし、小田と新潟が凡退。2者連続アーチを喰らいながらも、大きく崩れてくれない辰真。
そこへ西リーグが仕掛けてきた攻撃は足。
コンッ
「杉上!お家芸のセーフティバント!!2アウトながらランナー1塁!」
警戒していても決めてしまう。西リーグ一の走力。ずば抜けた足で辰真に動揺を与えた。
「ふふふっ、まだ驚くんじゃねぇよ。俺の足はまだまだこれからだぜ!」
1点差にまで詰め寄ったことでバッテリーは当然警戒する。西リーグの現盗塁王でもある。絶対にやってくる盗塁を刺そうとしている。
それでも決めるのが本当の盗塁王の理想像。杉上は曽我部と同様に初球から仕掛けに行こうとしていた。のに、それを阻んだ者がいた。
守備側ではなく、打者。
バギイィィッ
高めを狙っていたのだろう。美味しいところを決める嫌な奴。
「友田ーー!!テメェ、何してくれてんだーー!俺の見せ場を潰しやがって!」
ダイヤモンドを駆けながら、打者であった友田に吼える杉上。友田の打球は弾丸ライナーでレフトの五十五の頭上を超え、スタートを切ってなお、圧倒的な走塁を持つ杉上ならば楽々とホームを踏めたのは当然であった。
しかし、その杉上の走塁以上に観客の目がいってしまうスピードで走る友田。レフトオーバーした打球で一気に二塁まで蹴って、三塁を狙う。
五十五も強い返球をするも、杉上よりも速いのではないかと思わせる果敢な走塁意欲。杉上からしたら嫌味でしかなく、友田も嫌味を訴えるよう回っていた。つまりは本気であった。
「セーフ!!」
「友田!タイムリースリーベース!同点!!」
盗塁王は杉上であるが、持っている華は明らかに友田の方であった。
小細工を粉砕する驚異的な走力と杉上にはない天性の打撃センスと長打力を持つ友田。
「くそ~~。嫌なことを思い出すぜ」
友田との差をひしひしに伝えられた結果であった。
この後、曽我部が友田を返すタイムリーヒットを放って西リーグが逆転に成功する。打線の厚さはオールビーにだって負けていない。
「逆転されちまったな。どうするよ、鈴一。五十五。俺の自動アウトを止めようか?」
「五十五。さっきのスリーベースは前進し過ぎていたぞ。ポジショニングが甘い。もう少し引いていたら傷は広がらなかった」
「……鈴一さん。流合さん。俺にチャンスを回してください。この試合は俺が引っくり返します」
しかし、この逆転がオールビーの絶対的打者達。
鈴一、流合、五十五の闘志に火が付いたのであった。