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行動意義

オールビーの中継ぎ打ちは止まることを知らなかった。

植木は2回5失点で降板。続いて登板したのはケントであった。



「ストライク!」


すでに12失点。自慢の打線も辰真と鉄壁の守備陣の前に零封状態。ケントがこの試合で投げることは敗戦処理と同じだと分かっていた。

ふざけやがっての一言であった。

吉沢と植木がボコボコに打たれたせいで回って来た役。

そもそも、奇襲とはいえ須見を鈴一で代えたのが原因だ。阪東のせいである。

投手の肩は消耗品なんだぞ。こんな無意味な2イニングのために投げろってのかよ!!



ワンポイントリリーフとして、ペナントレースで活躍したケント。投手としての能力ならば沼田、井梁、安藤クラスの物があるだろう。しかし、肩を商品として考える彼は球数制限を球団側に申し出ていた。短くハデに輝くより、長く活躍することを決めていたのだ。

実際、阪東がこのゲームプランを考えた段階でケントを説得するのには骨が折れたほどだ。

序盤や中盤の重要な場面ならば、ケントの火消しは想定されること。ケントがマウンドに上がれば、オールビー打線は積極的な姿勢を潜めて粘り強く、カットに徹してボールを見極めた。

球数制限を自らに枷せている投手にとって嫌なのは、ホームランよりも四球であった。打たせることと三振に獲れる能力を持つケントであるが、そのいずれもさせない器量がオールビー打線にはある。すでに敗戦処理という状況で、イライラしているだろう。



「ボール!」



能力は文句なしだが、いかんせん精神的なムラがある。

この得点差でもじっくりとケントの失投、あるいはテンポを崩すことに徹しているオールビー。


「残り2連戦。頼みの中継ぎを崩壊させておけば何もできんだろう」



澤監督の狙い通りになりそうな展開だった。

炎上こそ上手く避けたケントであるが、2回2失点。すでに敗戦処理状態であり、集中力はかなり欠けていただろう。

このまま打線は続いていき、セットアッパーである沼田と井梁まで引き摺りだそうという魂胆だ。残り3イニングを二木で投げ抜くのは難しいし、なにより明日と明後日をどうすりゃいい?



この敗戦の落とし所を考えなければいけない。その責任のとり方も。



「……………」



恥とか屈辱とか。

勝利するならどーでもいいかもな。説得はできるか?


阪東はこれだけの敗戦の中で一つの道筋を描いた。ここからが本当の勝負だった。自分の采配な以上、何がこのチームにできることか。攻守両面から潰されたオールビーの恐るべき打線と投手力。



まだだ。

全国シリーズは、終わってはいない。



誰よりも勝利に飢えてなければ監督なんてやれるわけがない。ファンや選手よりも勝ちに拘らなければいけない。だからこそ、敗戦の仕方を考えた。この試合もそうだ。

残り3イニング。さらに激しくオールビーは襲い掛かるだろう。大人気ないというのは子供が発する表現。徹底的に弱らせる狙いのオールビーと、トカゲの尻尾切りをなんとしてもやりたいシールバック。これ以上、試合を続けることは選手達、ファン達の自信や期待を裏切ること。無くしてしまうこと。

監督がそうなっていないなら、最後まで負ける戦いをする。意味のある戦いに変える。



「阪東さん。次の投手は誰にするんですか!?」



ベンチは冷え、実際に戦っている選手達もオールビーとの実力差に、頭の整理が追いつかない。今日は負けるのかよりも、オールビーには勝つことができないという暗い思想に陥ろうとしていた。事実、今日は無理だ。

津甲斐監督が阪東に助言を頼む顔は、どこか神にでもお願いするような表情だ。

そんな中で阪東は選手達に一喝ではなく、質問をした。チーム全体に聞いた。



「この負け試合をどう締めくくる?」

「っ……」



今日は明らかに采配のミス。阪東の奇襲が失敗したからこその敗戦。それでも阪東の言葉には自信があった。単なる勘違いじゃなく



「このままボロボロにやられるか?それともオールビーみたく、執拗な攻撃を続けて抗ってみるか。休みたいなら前者だな。だが、勝ちたいなら後者を選べ」

「勝つって、10点以上離れたんだぞ」

「河合。落ち着け。たかが、1勝2敗だ。まだオールビーに1回負けることができる。得失点差が勝敗じゃない。勝ったゲームの数だ。ミーティングで言っていただろう」



どう負けるかの試合。



「オールビーはこのまま打線が沈黙してたら辰真の完封で来る。そうなれば次から手の内ようもないし、これが実力差とハッキリ分かる」



打線が爆発すること。泥試合よりも馬鹿試合をしろという意味。



「今日の敗戦は全部俺にある。だが、俺は完全優勝を捨てたくない!また信じてくれないか?ただ負ける試合にだけはしないで欲しい」


試合は勝てないことを意味している。だが、続けてくれと選手に頼み込んでいる阪東。


「阪東さん」

「失点は投手の責任だが、俺達野手も悪いし……」

「その全てを請け負うが阪東さんなだけだろ」

「つーか、お前がいなかったらこのステージにも立てやしなかったぜ」


オールビーの本当の強さに冷静さを失い、焦りや緊張を味わった。だが、この敗北を受け入れたことと阪東の言葉に闘志ではないが、



「イライラしてるぜ。打ってねぇのは俺達らしくねぇ」



戦意が蘇ってきた。相手の完封勝利なんか望んじゃいない。そこまで選手全体が負けることを理解するのに苦しんでいたと知った。


「あの、阪東さん。次の投手は……」

「まだ俺達の6回裏の攻撃が始まってないだろう。大丈夫だよ、もう決めている。頼んではいないけどな」


ちょっとは空気を読んでくれ、津甲斐監督。

ともかく、野手達が落ち着きを取り戻し、自分達の得意な打撃で一泡吹かせようという魂胆。


「9番、ピッチャー、ケントに代わりまして、代打、地花」



ここから上位打線に繫がるこの回。得点、あるいは出塁でもすれば流れが少しは変わるとは思えるが、地花、友田、尾波。3人共、辰真と鉄壁の守備陣に出塁できず。

渇や気持ちの入れ替えでどーこうならない実力差。オールビーの全ての良さが現れ、逆にシールバックの弱点が露呈し続けるだけ。

阪東は6回裏の攻撃中、自らブルペンに行っていた。


「悪い。予定変更だ」


ブルペンに入っていたのは二木、井梁、安藤の3人。この敗戦処理という状況で、誰が投げるべきか。


「安藤。分かっているな?」

「……………」


残っている投手は4名。その中で最も実力がない二木ではなく、なんと暫定守護神にして、一番信頼のある安藤を指名した阪東。


「7回、8回、9回。あのオールビー打線を相手に投げ抜いてくれ」


阪東の言葉に安藤は意外にも、


「やっぱりか?」


ここでの登板を予感していた。


「オールビーはこれから先、容赦なく攻め立てるだろう。一気に4連勝を狙う気だ」


全戦必勝が理想であるが、相手がいる以上そう上手くいかない。実際、1戦目のオールビーはプレッシャーなり、神里と二木の好投も光って勝つことができなかった。澤監督がオールビーの最強戦力に物を言わせた、総力戦に持ち込めば必然的に全国シリーズを制するだろう。


「吉沢、植木、ケント。この3人を打ち崩したオールビー打線はなんかしらの情報を掴んでいるだろう。また、短期決戦は選手の自信が直結する。これ以上の投手のつぎ込みは、敗北以上だ」


打ち崩されたというショックは、投手にとっては深い傷を生む。特にこーいった大舞台ではより心の根に刺さる。長いペナントレースの1試合とは違い、短期決戦は調子の良い選手を使い、悪い選手は極力使わないのが筋。

阪東も頭の中に、吉沢や植木、ケントの継投の配置転換をせざる負えないことを認めていた。ここまでは澤監督の読み通りだろう。



「俺達が勝つためにはせめて、あの強力打線を1回だけでも無失点にできなきゃ無利だ。井梁と沼田の実力はお前なら分かってくれるだろ?」

「俺より若いもんな。先考えたらこーゆう経験は見るだけに限るな」



予想外だったのは、



「次の1試合も捨て、残り3戦、久慈、神里、川北、沼田、井梁の5人で乗り切る」



残り3勝をするため、勝つために残す投手を素早く決めたことだった。

ビハインド、あるいは接戦の状況下で信頼できる中継ぎを潰し、守備の脆さを含めて、シールバックを完膚なきに叩き潰すというオールビーの作戦はここで霧散してしまったのだ。

勝つため、選手を犠牲にする。それもまた非情だが非情でなくて、勝利がつかめるものか?力が劣勢であるのならなおさらだ。



「打線はどうするんだ?新藤と河合が抑えられているんだろ?」

「今の惨状には何も言えないが、必ず打線に流れは来る」

「沼田と井梁だけじゃ、2イニングが限界だぞ?」

「十分だ。こっちがそれ以上の点を獲るだけだ」


安藤はその場で見るしかできないことにちょっとだけ残念な気分だった。捨て駒扱いは悔しい。何も意味はない。

だが、安藤は不敵に笑って。一球だけ、ブルペン捕手に向かって投げ込んでから


「こんだけ馬鹿みたいに勝ち、打つ、……そんなオールビーがよ。本当に負けるなら腹一杯笑えそうだ」



7回表のマウンドに登っていったのだった。



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