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局面打破

「チマチマ逃げる奴だと思ったが、随分とホームが遠くなる投手だな」



5回まで無失点。オールビーが5回まで無得点になるのは久々だ。

いるもんだな。牧や、AIDAの石田などといった名の通っていない。本物のエースが。



「神里か」


ピンチを防いだ後にはチャンスあり。



「3番、サード、流合」



オールビー。クリーンナップから始まるこの回。なんとしても、得点をあげたいところ。今日1安打を放っている流合だ。

後ろの五十五は今日まだノーヒット。とはいえ、当たりは良い。



ま、美味しいところばっかやらねぇよ。後輩にはよ。



「プレイ!」

「渥美監督。この場面、オールビーとしては追いつきたいところですね」

「そうね。後ろが強打者ばかりだと楽ですわね。流合も思い切って、フルスイングしてくるでしょう」



ツーベースも多いけど、本塁打も多い。たぶん、狙ってる。



「得点の挙げ方。神里みたいな打たせて捕る投手には、どんな点の獲り方が効果的か。一番知っていると思うわね」



あの表情。チャンスメイクするような、優しい男じゃない。



流合は神里の性格を2打席でかなり把握した。打者に合わせて、巧くかわしていく投球。データ野球をしていれば逆に嵌められる。田中昌にはないクレバーな投球。最高の褒め言葉を使えば悪役向きの投手。



どーせ、ストレートは俺と五十五には投げないんだろう?ボールでも、球威のないストレートは怖くねぇ。見逃しもあり、打っても俺はヒットにできる。ならこれからは変化球。カウントをとりにくるか、勝負に来るだろう、カーブを狙い打つ。色んな変化球を投げられても、それ一つにはほぼ怖さはない。コントロールと球種の数だけが神里の生命線。




カーーーーーンッ




完全に流れを変えた一発。



「神里!!被弾!!カウント2-2から、インコースのカーブを打たれました!!オールビー待望の初得点は、流合のソロホームラン!!」



狙い打ち。バッチリ。


「おっしゃー!流合!!」

「史上最強打者!!」

「1点差だ!もう追いつくぜ!この回で追いつこう!!」



オールビーの雰囲気が一変した。完全に変えた結果だ。


一発を打たれた神里はポーカーフェイス。だが、失投はなかった。これが思ったよりも響いている。神里と流合の実力差。



「4番、レフト、五十五」



やはり、真向勝負では勝てないのか。詰められた点差に神里の投球が自分の考えではなく、自分のミスを生む。


「ボール、フォアボール!」

「ちっ。ストライクに入れてくれないか。残念だ」



神里に抑えられている五十五だったが、この場面では神里に逃げられた。

周りはそう思うが……。神里が勝負にいけなかった。ちっと手元が震えていた。ストライクゾーンが狭すぎると感じる威圧感が、五十五から放たれていた。


「作戦だよ、作戦」


タイムをとって集まった内野陣。本塁打に四球。これは完全にダメになる流れだった。ここで間をとるのは最良か、それとも一歩遅れたか。



「確認するぞ。内野ゴロ打たすから、新藤は早く二塁ベースに入れよ。俺、林さん、日向が捕ったらすぐに二塁だからな!」

「ああ。寄っておくよ」

「神里がまた作戦を言うのかよ……」

「お前はただボールを捕るだけの男だろ!河合!良いから、俺の作戦を聞け!守りはエースの俺に任せておけ!打撃馬鹿共!」

「この野郎……」


心配はなさそう。この、守備陣をまるっきり信頼してない口調で指示を出すのが神里。だが、絶対に抑えてくれるのが神里なのだ。


「俺は計算で抑えるタイプだ。五十五のはな、計算された四球だ!」

「……清々しい発言ですね。神里さん」

「一球もストライクない時点で怪しいが……」

「同点になったらテメェ怨むからな。いつも言ってるけどな」


自分が逃げてしまった四球を、この場面でもみ消す。度太いメンタルであるのは間違いないエース。この開き直りも投手には必要だ。


「分かったら散れ!ボールを"落とす"んじゃねぇぞ!エラーは許さん!」



神里の最後の言葉。それに気がいったのは、林と新藤だけだった。



「そーゆうことか」

「なるほど」


修正能力の高さは相当だ。


「5番、ファースト、松嵩」


今の内野陣の集まり、そして敷かれる守備のシフト。


「おっ?」


打席に入る松嵩。左の強打者であり、引っ張りの意識は強い。そんな彼のためのシフト。内野陣が右寄りに守っており、特に三遊間は広く空いていた。

流し打ちすればあっさり抜けそうなシフト。新藤の守備範囲の狭さも考えれば愚策とも思える。



「プルヒッターである松嵩のための守備ですかね!?」

「そうね。ちょっとやりすぎかもしれないけど」



危険過ぎるシフトだ。しかし、成功もある。そのリターンは大きい。



「ここを内野ゴロで仕留めれば併殺は固い」

「一気に2アウト。神里の得意な併殺プレー狙いだな」


決まれば、まずこの回。流合のソロホームランで終わる。



「ば、阪東さん!あんなシフト!裏を掛かれたらピンチになりますよ!あなたのご指示なんですか!?」

「神里の独断だろう。心配するな。勝算はあるはずだ。揺さぶりかけてるんだ」



つーか、神里の揺さぶりでなんで味方があわわしなきゃなんねぇーんだ。津甲斐監督はもっと選手を信頼しろ。



「勝っているんだ。賭けに失敗したって、同点で帰ってくればいい。一発はさすがにないし、神里がすでに狙わせてない」



ともかく、どーやって凌ぐ神里?少し、俺も気になるぞ。あの円陣で上手い作戦を閃いたんだろ。任せるぞ。



「プレイ!!」


極端な引っ張り対策。しかし、それをやっているのは内野陣のみ。これはもう明らかに神里が松嵩を内野ゴロで仕留めるという意思表示だった。無論、それを簡単に松嵩がやるわけもない。




ゴロは打たねぇ。併殺はこいつ等を勢いづける。流し打ちをして、繋ぐ意識を見せる場面だ。




ただ、松嵩は餌に釣られた魚だった。神里と阪東の自論であるが、ぶっちゃけるとさ。


『ゴチャゴチャ考えず、ヒット打て。打率10割なら何も文句は言わん!』


そんな感じである。内野陣が極めて変則なシフトを組み、それを破ろうとして変に力んだり、自分の打撃を忘れてしまうのは愚。また、その変則シフトに投球を合わせて自分の持ち味を消すのも愚である。

よーするに。神里はこの変則な守備陣形で松嵩の本来の打撃を奪わせた。当の本人には自覚はない。

右方向に打とうという意識に、ゴロは避けるという意識。かなり松嵩の打撃に枷をつけさせた。



ありがてぇぜ。



神里。大胆に初球から松嵩に打たせるような、甘めのインハイへのシンカーを投じる。打者を脅かすインハイでもないし、球速もない。だが、1・2塁間に転がしてはダメだという恐怖がある。



カギイィィッ



「高々と上がった打球はセンター!!本城の守備範囲!!」


併殺は狙っていきたいが、それはこの場面で強欲というものだ。打者に器量がないなら良いのだが、こいつ等にはある。狙ってやれるわけがない。確実に1アウトでいい。



「本城、キッチリ掴んで1アウト!」


フライなら、1塁走者の進塁がされることはまずない。

野球の守りはなんであれ、敵に本塁を踏ませずに3アウトをとること。併殺もその作戦の一つ。


「お前!ゴロ打たせろよ!」

「黙ってボールを受けてろ、馬鹿野郎!これでいいんだよ!」

「んだと!?」


内野が集まって作戦を言った本人が、完全に無視している。(そうでも言わないと、敷けないシフトであったが)。フライという悪くはないが良くもない当たりの誘発。


「6番、キャッチャー、野田」


オールビーの弱点とは言わないが……。機動力のあるスタメンの選手は鈴一、伏世、ホモリンの3人ぐらい。あとは好打者と強打者が並んでいる。

1塁走者がいるという同点のピンチはあるが、上手く打ち取れば併殺はとりやすい。全員俊足を置いて勝てるわけでもないから、弱点ではないことは再度書こう。

併殺という最悪の結果を打者に想定させ、進塁打にもさせないフライを作り出す。神里の処世術。



「これもレフト下がる!打球は上がりすぎか!」



良い打者達とはいえ、長打の警戒は必要ない。良い当たりはあるが、外野に全部捕らせるフライになる。



「木野内、掴んで2アウト!少しツキがないか!?オールビー!」

「うーん。これは神里が上手く打たせてるわね。打球はゴロになりにくいけど、ヒットにはさせない配球で相手を絡めとってる。緩急が効いてる。二人ともタイミングがちょっとずれてるわね」

「少し甘く行けば長打もある中、多彩な変化球でよくかわしているよ」

「松嵩さんと野田さんの2人じゃ、内野ゴロでゲッツーだからな。低めを捨てるのは悪い判断じゃない。足の速さは正義だよ」


併殺がなくても外野フライ2つでオールビー打線を追い込んだ神里。ここまで来ればあとは大丈夫。余計な作戦はもう要らない。


「7番、指名打者、キングランド」


前の打席で安打を打たれたキングランドを迎える。もう野田と同じく、大ベテランの領域だ。

選球眼は昔ほど良くなかったか?目というのはあんまり鍛えられる箇所じゃないから、いくら練習しても無駄だったりする。年をとると困ったもんだな。普通につけこませてもらうぜ。

俺はそーゆう奴だからな。



パァァァンッ



「ストライク!バッターアウト!」

「最後は見逃し三振!外一杯のフォークボールでキングランドを抑えます!」



キングランドには8球も使ったが、押し切った。

田中昌のような恐ろしい球ではないが、変幻自在の投球。



「やっぱり入ってたか」



打ったとしても、ヒットは難しかった。フルカウントになれば少しは甘くくると思っての、つい緩んだ見逃しであった。どのみち抑えられたのは確かだ。




「おーし!よく踏ん張った神里!!」

「テメェなんで併殺を狙わなかったんだよ!」

「アホ!併殺なんか狙ってやっちまったら、鈴一が先頭打者になる可能性もあるだろうが!あいつは絶対に先頭打者にしたくねぇーんだよ!」



なるほど、そーいう考えがあるから1塁走者を残しておいたのか。

だが、見苦しい言い訳だな。五十五からどう考えてもびびって逃げただろう。


「なんとでも思え、なんとでも言え!結果出てる人間に口出すお前等がアホだって言ってやる」

「ちっ……6回1失点でいい気になんなよ」

「んだと!?河合!!ノーヒットの四番が!!結果出せ、馬鹿野郎!あれは見逃し三振だろ!?」

「よせよせ、喧嘩は止めろ。まったく、いつまで経ってもお前等ダメだな」



エースと正捕手がこんな不仲だから……思ったより勝ち星なかったんだよな。



7回表。シールバックの攻撃は6番の尾波から。

失点とは関係ないが、失策を反省になんとしても打撃で貢献したいという気持ちはあった。だが、粘りをみせるも田中昌の決め球、SFFの前に空振り三振。

続く、木野内もいいところなくショートゴロ。林も初球攻撃でオールビーを脅かすも、ライトフライに終わってしまう。あっけなく三者凡退。

調子をあげてきた田中昌に手も足も出ないシールバック打線。



「ちっ」



下位打線じゃ、さすがに時間稼ぎにもならないか。まぁ、相手が相手だしここは我慢してやる。いちお、俺が勝っているのは確かだ。


「あと3イニングだ」



7回裏、神里を続投させるシールバック。

疲労が見えてきた神里であるが、オールビー打線は流合以外噛み合っていない。今日の出来は間違いなく良いのだ。いけるところまで引っ張る。


キィィィンッ


「白原!シュートをひっかけた!サードゴロです!」



先頭の白原をキッチリと打ち取った。良い流れだ。この回を凌げれば脅威の上位打線に、自慢の中継ぎ陣を回せる。ほんのあと一歩のところだった。



カァァンッ



「ホモリン!これも内野ゴロ!高くバウンドした!」

「!」


狙っていたわけではなかった。完全に打たされたとホモリンもしてやられた顔。

だが、飛んだコースが面白い。


「新藤!」


投手の後ろ。新藤が捕球し、彼なりの守備をしたが……



「セーフ!セーフ!!」

「ホモリン!セカンドへの内野安打!!」

「ウチの高崎くんだったらアウトにしてたでしょーけど……」

「不運な当たりだな」


新藤の守備範囲は極めて狭いが、今のをアウトにできるとしたらシールバックでは旗野上ぐらい。


「俊足のランナーをおいて、この人か。今日4打席目」


オールビーの攻めは苛烈だった。運も引き寄せよう。



「1番、ライト、鈴一」


要注意人物の前に走者を出してしまった愚。決して逃してはくれないだろう。


「おっ」

「……ちっ、クソが」


交代を告げられたのは神里の方だった。阪東も鈴一のところで投手を代えようとは考えていた。まだ鈴一と戦えるだけの体力と気力はあるだろうが、勝てる見込みはない。


「ナイスピッチング!よくやった!上出来だ!」

「…………勝利投手になんなきゃ、意味ねぇよ。阪東さん」


阪東の労いの言葉すらほぼ無視する神里。どかっとベンチに座って、自分のミスの反省をする。セカンドにどうして転がったか、運だけなんて認めたくない。

こーいったところはホントに意識のあるエースだ。


「あとは後ろの投手を信じて休め。6戦目にも、お前の出番はある」

「分かってる。そこまで、シールバックを勝たせてくれよ」

「当たり前だ。みんなそう思っている」


神里。

6回1/3、1失点の好投で降板。エースとしてはイニングを喰えなかったが、オールビーを相手に見事な投球をみせた。勝利投手の権利を得ての交代だ。



「ピッチャー、神里に代わりまして、井梁」



シールバック2番手。"人類最速"、井梁が登板。


「ここで井梁ですか……左はもう1人、沼田という投手がいます。この起用についてはどうお考えでしょうか?渥美監督」

「並の左打者なら沼田でしょうけどね。鈴一は五十五や流合ほど、長打力はない。内外の出し入れで勝負する沼田より、球威の力押しで打者を切れる井梁を登板させるのは正解だと思いますね。ノーコンが怖いですが」



鈴一から三振をとれる投手は、シールバック内では井梁しかいないだろう。

渥美の言う事は、阪東の考えている事と同じであった。



「これがシールバックの強みだな」



シーズン中、長く選手として戦ってきた曽我部はシールバックの中継ぎの厚さについて語った。


「シールバックの中継ぎ陣は、"方程式"じゃなく、状況に応じて投入できる。"臨機応変"さ」


層が厚い上に、種類も様々だからこそやることができる投手起用。


シールバックの守護神は形式上は安藤が務めているが、対戦する打者達の特徴などによって変更している。全体的に控え投手のホールドポイントが高いのも、シールバックの特徴だ。

チーム1のコントロールを持つ左のサイドスローの沼田。人類最速を叩きだした左のオーバースローの井梁。直球、変化球、制球力、体力、経験、いずれにおいても非凡な実力と実績を持ち、中継ぎ陣の中でもっとも信頼を集めている右の安藤。



「確実に相手打者が嫌がる投手を投入する。その場面で最高の投球ができるあの3人と、そーゆう起用が厄介だったな」

「選手達も納得する方も、恐ろしいけど」



3人で7回、8回、9回を、固定にして回すのではなく。3人で9アウトをとる起用方法なのだ。それゆえ、ホールドポイント以外の成績は伸び悩む。さらには自分のチーム同士で中継ぎ争いをするような形となってしまう。

現に最優秀中継ぎは井梁が選ばれたが、2位は沼田であった。



「ズバッと、お前の直球で鈴一を抑えてこい」



シュートやSFFといった小細工は要らない。

全球ストレートのサイン。



「プレイ!!」


その初球からである。井梁の自慢の剛速球。165キロという速過ぎるに対し、鈴一は



「ファール!」



なんなくボールを当てる!サード方向へのファール。


「井梁のストレートを、初見から当てるのかよ」

「東リーグには井梁ほどのストレートを投げる選手はいないのに」


井梁も化け物であるが、鈴一も化け物。このままゴリ押しでストレートを続けるも、一度たりとも空振りを奪えず。また、鈴一もフェアゾーンに飛ばせずファールで追い込まれていった。明らかなボール球は見逃したが、際どいところは全て打ちにいった。



球の見極めが難しい。速過ぎる上に凄まじいノビ、圧力。今まで出会った投手の中で一番のストレートを投げる。


カウント2-2。その6球目。井梁はインハイへのストレート。


「!!」


鈴一は逃げない。体にぶつかるような球に対し、一歩も退かずにバットを振り抜いた。



バギイイィィッ



「!いかん」


打球は強く引っ張った当たり。ライトへと飛んでいく。この当たりに少し渋そうな表情を作った鈴一。


「ほぼ正面だ」



ライナー性の当たりはライト尾波の守備範囲。今度は後逸しないよう緊張しながらも、



「アウト!!」

「鈴一を打ち取りました!2アウト!」


難敵、鈴一をライトライナーに抑えた井梁。しかし、タイミングは合っていた上に力負けをしていなかった。結果、打ち取れたというだけ。


「もう少し引っ張って、3塁1塁を作ろうと思ったんだが……」

「はははっ!鈴一~~。お前がいくら天才だからって、俺や五十五みたいに力で一発にするタイプじゃねぇだろ!」

「流合さん」

「今の打席。お前、逆転ホームランを狙っただろ。悪くないがそれは俺達2人の仕事だからな。ボール球なんかに手を出してよ」

「いや、あれは際どかった」



2アウト1塁。



「2番、センター、伏世」



流合、五十五の前で切れるかどうか。右の代打も覚悟していた阪東だったが、向こうベンチの動きはなかった。伏世の足と守備力を買っているのか。

好打者であるが、鈴一ほど恐ろしいわけじゃない。井梁のストレートで押し切れる。その計算でいたが……。



「あっ」


井梁がどうしても守護神として計算できない欠点の一つ。

投じた瞬間に力み過ぎたという表情を作り出していた。




バヂイィッ


「っ~~~」

「デッドボール!!」



SFFが抜け、伏世の足に当たって死球。せっかく鈴一を打ち取ったというのに自滅でピンチを作ってしまった井梁。

当然ながらベンチも観客達も慌しくなるし、守る野手達も緊張が走った。


「がぁぁ~!ここで死球!?よりによって、今日1発を打ってる流合ですよ!」

「う~……あいつはここ一番でミスするな。ヒットならともかく、死球とはな」


阪東もこれには頭を抱えた。ここはしっかり伏世を抑えておきたかった。

1点差。2人の走者は俊足。ツーベースでも逆転される恐れはある。流合の次は五十五。



右打者の流合と左投手の井梁はぶつけたくない。かといって、敬遠して満塁で五十五となると……裏目に出た時は最悪。同点の押し出しなんてやったらもうその時点で負ける。逆転打もありえる。


「仕方ない。井梁を交代させる」

「ええぇっ!?この場面でですか!?」

「準備はできてるだろ?元々、流合に合わせているんだ。8,9回は継投で凌ぐしかあるまい」


ちっと勝負が早いが。今のピンチを切り抜けなければならない。


「ピッチャー、井梁に代わりまして。安藤」


このピンチを乗り切れる投手は井梁を除けば、この男しかない。


「ここでシールバックの守護神!安藤が登板です!」

「守護神というか、暫定守護神?」

「打者は流合だ。甘い球は逃さないし、力負けもしない」

「ここは頼れるベテランに託したわけか」


右投手。沼田や井梁とは違い、万能な中継ぎ投手。



「おいおい、一打同点の場面で登板なんだが。お前等、エラーをしたのか?」

「うるせぇな、おっさん。あんたは1アウトをとる仕事なんだ。走者は関係ねぇーだろ」

「そーですよ。1アウト。好きなところでとってください」


内野陣が集まり状況を声で確認しあった。

三振をとれる井梁とは違い、神里と同じく打ち捕るタイプの投手。


「捕ったら近いところでいい。ただ、流合の打球は速いから内野は深めな」

「ああ、流合はそんなに足は速くないからな。内野が捕れば十分間に合う」

「初球から打ってくるから、入りは慎重にいってくださいよ。安藤さん」

「俺は慌てんよ。河合、シンカーとフォークを低めに集めるからしっかりと止めろ。自信がないなら、福岡とかいるし代わるのもありだ」

「茶化すな、おっさん!!任せろ!2,3塁になったら、流合は敬遠して満塁策だって、阪東は言っていた」

「河合のミスでも計算できてるわけね」

「最悪な!心配するな!ヘマはしねぇ!止めるさ!失投は知らん!」



やれやれ。



「全員。気持ちは大分落ち着いたし、確認できたな。あとは俺に任せてくれ」

「内野深め、捕ったら近いとこ」

「投球は徹底的に低めな」


野手全体に走った緊張を解く間も必要。そのための円陣でもあった。

安藤は平常心というか、緊張感を外に見せない気持ちを出している。




「そりゃま」


力んでフォークを投げたら、どこに行くか分からんからな。



安藤VS流合。

その初球は打ち気を逸らすための、低めのフォークから入った。


「っとと」

「!」


河合、なんとかボールを前で止める。2塁走者のホモリン、動く事ができず。

流合の狙いはおそらくストレートだと、安藤は経験から察している。打ちやすい球種だし。



フォークの見送り方。ストレートを打つタイミングだったな。

俺にはストレートと似た軌道で曲がるカットボールもある。少しは頭に入っているだろう。だから……



パァァンッ



「ストライク!!」


また低め。インローのカットボールで1-1。流合、安藤のカットボールのキレを確認するためここは見送った。

シールバックの2番手エース、川北のカットボールほどではないが芯から外されるほどのキレはある。パワーで内野の頭は越えるかもしれないが、そーゆう賭けはまだいらない。できるだけ綺麗にボールを捉えるチャンスはある。



打ち損じはできない。ここはオールビーにとって、最後のチャンスかもしれないのだから。



「ボール!」


3球目。フォークを見送られる。少し力み、初球よりも落ちるポイントが早かった。ミスができないのは安藤も同じ。さすがに力みもある。



フォークを見送られるとキツイな。シンカーに切り替えるか?

いや。


河合のサインに2度、3度。首を振って投じた安藤の4球目。


「!!」


アウトローに決まるフォーク!今度はストライクを獲りに来た球であった。しかし、流合もこれについていく。ボテゴロのファールで粘った。


「カウント2-2!」


少しビビッた。良いところに投げてくんな。手が出ちまった。ファールになって良かったぜ。


流合。安藤の良いピッチングに一瞬だが、足元をすくわれかけた。

ともあれ、追い込んだ。そして、追い込まれた。両者、残りをどう攻めていく。安藤は迷いなく、河合のサインに頷いた。


残りのストライクに、小細工は要らない。インハイへのストレート。



「っ!」


さっきまで低め中心にボールを集めてきたのに、ここでズバッと差し込ませるストレートかよ!初球からやれや!



ガギイィッ



「ファール!」

「流合!インハイへのストレートにも、タイミングが合ってます!強気の勝負を仕掛けます、安藤!」



三振を狙ったが、しっかりとついてきた。コントロールも申し分ないのに。これでも流合から空振りを奪えないか。


「手を出さなきゃならんだろうが。追い込まれちゃーよ」


追い込まれると冷静な見極めが効き辛い。しかし、それでも今のストレートは上手くストライクゾーンを通過していた。狙い球を絞っていた初球だったらまず、ヒットにできただろうが……。追い込まれるといろんな事に警戒しなきゃならない。ファールで粘ったのがやっと。


6球目。一度だけ、安藤は首を振った。それは流合の読みをわずかだが鈍らす、小さいが大きな駆け引き。まだ投げてきてないシンカーか、4球目に良いところに決まったフォークか。


迷いなく、頷いたとき来た球はストレート。つまり、ストレートの可能性は低い。河合のリードを嫌ったか。


「!!」


投じられた6球目は変化球を待っていた流合の裏を突く、ストレート。

5球目と同じインハイ!


裏を掛かれること、無意識に近くても、体が準備してしまっていた。そして、その前の球が際どく突いた良いコースだったからこそ、流合のバットは止まらなかった。流合は数コンマ遅れている。


「!」


始動した時にはもう遅い。ここから止めるスイングはない。ハーフスイングという行為は、流合にはないし。したとしてももうストライクにされる。



バギイイィッッ



打球は高々と上がった。流合のフルスイングがそうさせた。中途半端なスイングはヒットになることがない。


「くそ、一本損した!」


インハイのつり球だった。見送ればボールだった。

打ってからそれを察する。打球はレフトのポール際へのフライ。



パァァンッ



「レフト木野内、捕って3アウト!流合!凡退!あともう一伸びあれば、スタンドに入っていたという当たり!!」

「ま、ファールになるけどね。にしても……」



インハイのつり球を外野の深くまで持っていくパワー。


「芯には当たっていたな」

「ミートできるゾーンが広すぎだろ」


さらに本来なら、空振りになるコースであるのに。確実にミートしていた。

追い込んでいなければ手は出していなかっただろうが、どんなコースでもフルスイングができ、しっかりとボールを捉える確かな技術。



史上最強打者は凡退だったとしても恐ろしさを伝える。



「この7試合。3打数1安打ぐらいにはまけてくれよ、流合」



第1試合は安藤に軍配!

阪東は自慢の中継ぎ。特に井梁、安藤、沼田には、ワンポイントリリーフで回すように考えていた。

鈴一には井梁を、流合には安藤を、五十五には沼田を……。



オールビーの強力打者である3人をキッチリ抑える作戦。




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