新社会人-2-
晴れて、私、江田奈央は、家電部門の設計部に所属することが出来ました。もう、バリバリといろんな製品をつくっています!
なんて言いたいのですが、新人社員にそんなことがやらせてもらえるはずもなく、最初は、今までのデータの整理や、紙データをパソコンに打ち込み直す、類似商品の現状調査、なんていう本当に事務作業のようなことばかりやっていた。
少し、時間がたつと担当してくれる先輩がつき、その先輩の補助的な仕事を任されるようになった。
といっても、まだ、先輩が考えた図面を描きおこしたり、プレゼン発表用の資料の作成をするなどといったことしか出来なかったが、だんだんと物作りに近付いていく感覚があり、一つ一つの作業が新鮮でとても楽しかった。
また、電話対応などで、お客さんの意見を聞くことは、とても良い勉強になった。昔は電話がかかってくるなんてクレーム、なんだろうな…嫌だな…怖いなぁ…なんて思っていたが、実際に電話対応をして話を聞いてみると、使い方が分からない、こんな症状が出た、こういう風には使えるのか、などの話が多く、製品の欠陥やお客さんの要望が見えて来て面白かった。
そういった、お客さんの声などは、出来るだけたくさんメモに残しておいた。いつか自分がつくるときに役に立たせたいと考えたからである。
そして、そんなメモを見ながら、早く物をつくりたーい!と思いを募らせたりしていた。
私は、こんな風に、忙しくはあるがとても充実した生活を送っていた。大変で弱音を吐きたくなる時もあるし、よく失敗もするが、おおむね物づくりへの道に向かってなにもかも上手くいっていて楽しかった。
後ろの席が佐々木ということ以外では。
佐々木は、ことある毎に毎回毎回絡んでくる。よくもまあ飽きないもんだと驚かされる。まあ、それにのってしまう私も私なのだが…
私達は、仕事関係でもなんでもなく、とんでもなくくだらない言い争いを良くしている。例えば、この間なんかは、私が、昼休みのときにパンを食べていたら、
「そのパンよりも、こっちのパンがうまいに決まってるだろ。そんなの買うなんて味覚おかしいんじゃね?」
とまで言ってきた。
それから、どっちのパンのが美味しいか、そしてコスパも含めて一番良いのはどれかなんてことで言い争いをしていた。
その際も、というかいつも、私達の言い争いを止めるのは、同期の折橋であった。折橋は、毎回毎回、
「お前ら、またなんだかくだらないこと話し合ってんなー」
なんて言いながら、話に入ってくる。
そんな、のんびり楽しそうに言う折橋の姿を見て私達は、言い争うのが馬鹿らしくなってやめるのだ。
多分、折橋は言い争いを止めようなんて気は全くなく、ただ純粋になんか話し合ってるから、何かあるのかなーと思って話しかけてきている程度の気持ちなのだろう。
そもそも、折橋は、私達が本気で言い争っているということをいまいちよくわかっていないようだ。
折橋はよく、私と佐々木を見て、お前らは本当に仲良いなという。
「「どこが!?」」
言われるたびに毎回二人で言い返してしまう。
そして、折橋は笑いながらそういうところが、と答えてそれに、
「「ありえない!!」」
と二人で、はもって言い返すので折橋にまた笑われるのだ。
こんな風に、時々、佐々木に邪魔されながらも、私は新人社員としてキビキビと働いていた。担当してくれている先輩からも少しづつではあるが、信頼してもらえるようになり、仕事がちょっと重要な物に変わってきていた。
このあたりで、少し気付いたことがある。
会社は、研究室なんかの倍以上にミーティングや、報告会があるということである。
今、良いところ!あとちょっとやらせて!なんて思うような、自分の作業をやっていたいときにも関わらず、なんだかよくわからない会議に参加させられることもしばしばある。
それがどんなものかというと、会社通勤のあり方などといった安全教育的なムービーであったり(月に一度は見させられる)、どこかの誰かが失敗した話を聞かせれ教訓にしろといわれたり、今週やったことなんかを皆の前で発表させられてやいのやいの言われる、といった本当に研究室と変わらないようなことも行われていた。
社会人というのは、自分の仕事だけやってれば良いというわけではないということを痛感した。
まさに、ほうれんそうの重要性なのだろう。自分一人で仕事を進めていくことなんてことは絶対にあり得ないようだ。
どんなに偉くなっても、どういう風に進めていくのか毎回話し合い、他人からOKをもらって初めて始動することが出来るようだ。
バリバリ働く社会人とは孤独で一人で進めていくイメージだったが、基本は設計部の中でも班に分かれて、その班の中で皆協力して、分担して、確認し合いながらやっていっているということが分かった。
そのため、商品開発部としての話し合いに、設計部としての話し合い、班での話し合いまであるから、実作業以外の話し合いの時間が多くなるのだろう。
そんな、ミーティングなんかにも参加しながら、少しづつ仕事だけではなく、社会人としての在り方を学んでいった。
そうこうしている間にあっという間に、2年の月日が経ってしまっていた。