プロジェクト成功
奈央は、右手を見つめていた。
「どうかしたの?」
里奈にそう聞かれたが、
「なんでもないよ…」
と、だけ返した。ふっと、自分の後ろの席に目をやる。
しかし、そこには誰もいない。つい先日まではそこで、佐々木がパンを食べていたはずだ。だが、佐々木は、数日前からお昼休憩のときにはいなくなるようになっていた。
いつからなのかははっきりしている。奈央が佐々木に平手打ちをした日からである。
奈央が、佐々木の席の方を見ていたことに気付きながら、里奈はふーんっとだけ返してきた。
仕事上佐々木と話すことはあるが、それ以外では一切話していない。やっぱり、私が平手打ちしてしまったからだろうか…だけど、さすがに、あんな言い方ってないわ!!っという怒りもあり佐々木に自分から歩み寄ろうとすることが出来なかった。
でも、助けてくれたのに…やっぱり、ごめんくらいは言った方が良いかな…でも、やっぱり、酷い!!何度も何度も奈央は頭の中で繰り返していた。
そんなときに、新プロジェクトの打ち合わせが入った。今までとはことなり、急きょであった。いったいなんだろうと、奈央は不審に思いながらも、会議室に入った。
すると、設計部、魔法部の部署長がいた。最初のミーティングを思い出し、奈央は緊張した。計画がポシャになったのだろうか?
そういうのはよくあることである。製品はほぼ出来上がっているにも関わらず、会社の方針が変わったと急に投げ出されてしまうのだ。
投げ出された製品に今まで携わっていた人の気持ちを考えるとやるせない。奈央は、まだ、急に製品案がボツになった経験がない。
というより、今回のプロジェクトが初めて一から携わった製品である。そのため、今回の製品にかける思いは人一倍強い。
しかも、今回は、奈央が最初に言い出したハンディタイプの掃除機ということで進んでいっている。そのため、プレッシャーのようなものも人一倍強い。
しかし、ハンディタイプは私一人の力ではなく、佐々木が、消費者目線で考えたからこそ生まれたものである。だから、佐々木のためにも、上手くいってほしいと願ってしまう。
最初のときと同じように、設計部、魔法部の部署長同士が話し合いをした後、魔法部の部署長が話を始めた。
「今回、進めていたプロジェクトですが、試作品が完成しました」
部屋中から、おー!!という声が上がる。
「まだ、問題点の把握や改良などありますが、実際に製品化に向けみなさん頑張って下さい」
その言葉を聞き、さっき以上に大きな歓声が上がった。奈央は、なぜ歓声が上がったのか理解することが出来なかった。
だって、今だって製品化に向けて努力をしている最中なのだから、改めてそれを言われたからと言ってなんなのであろう。
そう、奈央が不思議に思い、隣に座っていた設計部の先輩にたずねると、
「そうか、お前は初めてだからわからないか」
と言ったあと、
「部署長が製品化に向けて頑張れっていうことは、商品化が決まったっていうことなんだよ!」
と、耳打ちしてくれた。
それを聞き、奈央も未だ、歓声をあげている先輩たちに交じって、やったー!!と声を出した。
ミーティング後は恒例の後片付けである。しかし、奈央は未だに興奮が冷めやまらない。その気持ちは佐々木も同じようだ。
「商品化決定したね!!」
「おう!本当に長かったなー。これのせいで残業がめっちゃ増えたよな…」
「うん、いっぱい話し合ったね!!」
「いやーでも、お前のハンディタイプってアイデア本当に良かったよ!!」
「佐々木がもっと消費者の目線になって考えるべきだって言ったから浮かんだだけだよ」
「まあ、そうともいえるな」
「あっ卑怯者!!私のアイデア取らないでくれますかー!?」
「はー!?だって、お前なんて、最初の重い掃除機のままで良いとか言ってたじゃないかよ」
「それは、先輩をたてる手前言っただけで、最初からハンディタイプって構想がありましたー」
「嘘つけよ!!お前嘘つくと鼻の穴膨らむからすぐわかるんだよ」
「えっ嘘!?」
奈央は慌てて鼻を押さえる。それを見て佐々木は指をさして笑う。
「嘘に決まってんだろ、ばーか!!」
「馬鹿とはなによ!!あんたのが馬鹿に決まってるでしょう!!」
「そんなことあるわけがないだろう!!」
「そんなことあるわよー!!」
そう言って、二人で思いっきり笑いあった。
「なにはともあれ、」
「「商品化おめでとう!!」」
奈央と佐々木はハイタッチした。その瞬間、避け合っていたことを思い出し、二人して、顔をそむけた。
その後は、静かに二人で会議室の後片付けを行った。




