苛立ち
あの日以降なにをやってもうまくいかない…そう佐々木は、イライラする気持ちを抑えながら会社に向かう支度をする。
本来ならもう、出ているはずの時間なのにまだ、支度が終わらず焦る気持ちで余計に苛立つ。
コーヒーだけでも口に入れようと、すると、手が滑りシャツにコーヒーをこぼしてしまった。なんで、急いでるときに限ってっとすぐにシャツを脱ぎすて、クローゼットに向かった。
車に乗り込むと、甘い香りがした気がした。江田の匂いだ…何回か助手席に乗せたことを思い出していた。
そんなことを考えていると、本格的にまずい時間になってきたため、焦ってエンジンをかけた。
会社に着いて時計を確認すると、なんとか間に合った…と安心する。
今日も、先に後ろの席の江田が出社しているのが見えた。いや、出社していないわけがないが。
昼休憩になり、佐々木はいつものパンを取りだした。ほとんど毎日デスクで食べている。江田のやつも一人でデスクでパンを食べる派であった。
しかし、ここ最近は、佐藤とかいう同期と一緒に食べている。
佐藤ってやつは、最初は俺目当てで話しかけてきたのかと思ったが、もう一切そんなそぶりは見せず、普通に江田と飯を食べている。
「もう!奈央ってばまたそのパン!!」
「ごめんって今日も時間なくって…」
「毎日そう言ってるじゃない!そうやって偏食してると肌がぼろぼろになるわよ!」
「肌がぼろぼろ…どうしよう!!」
「それが嫌なら、お弁当くらいつくってきなさい!ていうか、奈央一人暮らしよね…朝ご飯とかはちゃんと食べてるの!?」
「た…食べてるよ…」
---絶対に嘘だ。あいつの家行ったとき、大量のシリアルが置いてあるのが見えた。
「本当に!?」
「本当だよー。もう、里奈ってお母さんみたい!」
「なによそれ、失礼ね!奈央がしっかりしてな過ぎなのよ!!」
「私そこまで、酷くないよー」
佐々木は、ふっと後ろを振り返ると、江田の笑っている顔が見えた。
---本当に俺とはなにもなかったように普通だな…
佐々木は、江田の笑っている顔を見ていたらイライラっとしてきた。
仕事中、設計部に用があるため、そちらの方に振り返る。すると、江田と折橋が一つのパソコンを覗きこんでいる姿が見える。
イラッとして、手に持っていた資料を握りつぶしてしまいそうになった。慌てて手を離すが、少し汚くなってしまった。
今日の仕事の最後に、新プロジェクトの第四回目のミーティングが入っている。残業になってでも、今日話をまとめあげるつもりなのだろう。
現在江田の出したハンディタイプの掃除機案が実際に進行中である。
今日は、その途中経過の報告や、今後組み込む機能などを話し合って決めていかなくてはいけない。
江田は、普段通りに、ミーティングに参加している。それこそ、完璧な仕事ぶりだ。そのことが、佐々木を余計に苛立たせた。
やっと、ミーティングが終わり、会議室を片づけようとしたら、先輩たちに、
「今日は疲れたろ。片づけは明日で良いよ」
と、言ってもらい片づけは明日することになった。
帰り支度をしていると、ある魔法部の先輩がこっちにやってきた。なにかあったかな。と、そっちに体を向けると、先輩は俺を通り過ぎ、江田に話かけた。
「江田さん、今日、お疲れ様!!」
「お疲れ様です」
その奈央の抑揚の付いている明るい声を聞き、そんな相手に女らしくする必要ないだろ!!と佐々木は、苛立った。
「江田さん、これからご飯でもどう?」
「いや、でも、時間も遅いんで帰ります」
「えー俺おごるよー」
「お腹も、へってないんですよ…」
「えーマジでー!?じゃあ、時間遅いし、家まで送ってってあげるよ」
そう言って、その先輩は、奈央の肩に手をまわした。その手を佐々木は、ガバッとひき離し、
「そいつは、俺が連れて帰るんで」
と言って、奈央をフロアから連れ出した。
二人で駐車場に向かう。カツーンカツーンっと足音だけが、響き渡る。
「さっきは、ありがとう」
江田にそう話しかけられた。
「お前、あの男に気でもあんの?」
「全然そんなんじゃないよ!」
「じゃあ、なんで笑顔ふりまいてんだよ!!」
「佐々木がそうやって指導してくれたんじゃない…」
そういわれると、そうである。しかし、苛立つものはどうしようもない。
「肩に手まわされてたじゃねーかよ!!」
「あれは、急だったから…」
「お前は、隙だらけなんだよ!そうやって、誰にでも抱かれんのかよ!!」
バチンッ!!と駐車場に音が反響した。江田に平手打ちされたのだ。
「最低!一人で帰るわよ!」
そう言って、一人帰って行く江田の姿をただ眺めることしか出来なかった。
「くそっ!!」
佐々木が、そう呟いた声が、駐車場にむなしく反響した。




