給湯室
佐々木と顔合わせずらいな…と思っていても、月曜日はやってくる。
土曜日は泣いて過ごしてしまったが、さすがに今日には、目のはれもひいてきたかな…っと思える程度にはなったので良かった。
一応念には念を入れて、今日はちょっと化粧を濃くしてみた。これなら、誰にも泣きはらしたと気づかれることはないだろう。
出社して、フロアに着くと、佐々木と目が合ってしまった。なんでこういうときばっかり…と悲しくなったが、お互いに、
「おはよ」
とだけあいさつを交わして、席に着いた。
昼休憩になりいつものように佐藤がやってきた。
「奈央ちゃん、お昼食べよー」
「ごめん、今日は、人と食べる約束してるから…」
「えーそうなのー?ざんねーん」
そう言って、佐藤からの誘いを断ってしまった。佐藤と佐々木のかけ橋なんてしたくない、そう思ってしまった。
人と食べる約束なんかないが、そう言ったからには、フロアから出なくてはいけなくなった。
有紀をご飯に誘うことも考えたが、今は一人になりたくて、人目の付かないところにあるベンチに座って、いつものパンを食べた。
食べ終わったが、まだまだ昼休憩は時間がある。デスクに戻って佐々木と、佐藤が話してるとこなんかは見たくないしな…なに、しよう。
そう、迷っていたが、頭をすっきりさせるために、コーヒーでも飲もうと、給湯室に行くことにした。給湯室の前に行くと、女の人たちの声が聞こえてきた。
「江田さん、佐々木さんを飲みに誘ったらしいよ!」
---あーまただ…私ってなんでこんなに間が悪いんだろう…
「嘘っ!!身の程知らずにもほどがあるでしょう!!」
「でも、佐々木さんも一緒に飲みに行ったみたい…」
「だって、今、新プロジェクトであの二人一緒なんでしょ。仕事上断れないのよ!!」
「それって酷くない!!パワハラってやつ!?」
---同期相手にパワハラっておかしいでしょう…ていうか、とうとう、こんな人に聞かれる可能性も高い、給湯室で言われるレベルにまでなったか…
「マジ、江田調子ノリ過ぎ!!」
「佐々木さんが優しいのにつけこんで、飲みに誘うなんて!」
「ほんと!最低よねー」
---そういえば、あのとき佐々木は、私が誘ったとか言ってたな…そんなつもりなかったけど、良く考えれば、女の部屋に男の人入れるなんて誘っているようなもんよね…最低だな私…
「てか、どうしたらあんなに調子にのれるんだろうね!?」
「設計部は女が少ないから、ちやほやされるんでしょ」
---いえ、ちやほやなんてされた覚えは一度もありません…。
「顔も良くないし、年齢だっていってるし、なに一つとして良いとこなんてないのに!!」
「本当にそうよね!」
「マジ身の程を知れって感じ!!」
そのとき、
「相手をけなしている暇があるなら、自分みがいたら?」
と、佐藤の声が聞こえてきた。
なんで、佐藤さんが私のことをかばってくれるの!?っと奈央は驚くことしか出来なかった。
「はーなによそれ?私が江田さんよりも劣ってるって言いたいの!?」
「別にそうは、言ってないわよ。ただ、確かに、こんなところで陰口叩いてる女よりはマシかもね」
「なによその言い方!?」
「別に、私は思ったことを言っているだけだから」
奈央は話を聞いていることしか出来なかった。自分のことでもなくなってきているのに、急にハラハラしてきてしまった。
「あんたのこと前々から、気にいらなかったのよね!!」
「’陰口叩くなんてさいてー。もっとみんな仲良くしよー。’っとでも言いたいわけ!?でも、あんたが、江田さん利用して、佐々木さんに近付いているなんてこと、みんなわかってるんだからね!!」
女の人たちが、佐藤に詰め寄る。
「そうよ、私は佐々木君を手に入れるために、必死で努力してんの」
「あんたのしてることなんて、私たちと同じじゃない!!」
「あんた達みたいに、裏でねたんでいるだけの人間と一緒にしないで!!」
そう言って、給湯室から佐藤が出てきた。給湯室の扉の横でつったていた奈央は、出てきた佐藤とガチッと目が合ってしまった。
佐藤は、目を反らし、無視して、進んでいこうとした。しかし、奈央は、
「佐藤さ…里奈!!明日は一緒にご飯食べよう!!」
と呼びとめた。すると、佐藤は、少しそっぽを向きながら、
「しょうがないわね。そんなに言うなら一緒に食べてあげるわよ」
と答えた。その姿は、なんだか照れくさそうに見えた。




