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 折橋とあんなことあったし、気まずいな…なんて思いながら出社した。

 気まずくならないように気まずくならないように、と念仏を唱えるようにフロアに入って行くと、折橋と目が合い、

「よっ!」

と、いつも通りのあいさつをしてれた。そのことが、奈央は嬉しく、

「よっ!!」

と、いつもより元気にあいさつをした。


 今日は、新プロジェクトの第三回目のミーティングだ。今回のミーティングで主な方向性が決まる。

 ハンディタイプの案について聞くところがあったので、佐々木を探す。

 昨日佐々木への気持ちに気づいてしまったが、佐々木は全く気にしていないだろうから、話しかけるのは気が楽であった。


 しかし、会議室を見回すが、佐々木はみつからない。そのまま、会議は始まった。少し会議が進んでから、

「遅れました!!」

佐々木が、走って入ってきた。その姿を見て、先輩が、

「なにかあったのか?」

と、聞いたら、

「忘れてしまっていました。すみません!!」

と、佐々木は素直に謝った。

「だらけてんなよー」

「はい!すみません…」

 そう言うと、佐々木は席に着いた。

 その後佐々木の、発表の順番になり立ちあがって資料を配り始めると、転んで資料をぐしゃぐしゃにしてしまった。身うちだけのミーティングなので、多少資料が読みにくくなっても問題はないが、

「なにやってんだよ!時間ないんだから早くやれよ」

と、先輩に叱られてしまう。

「本当に、すみません!!」

 そう言って佐々木は、資料を急いで拾い集め、配っていった。

 しかし、そのあとのプレゼンも酷いものだった。なにが言いたいのかまとまっていないといった感じである。

「お前、いったんミーティングから出ろ。邪魔だ!」

 先輩は容赦なく、佐々木を追い出した。


 奈央は、佐々木のことが気になったが、ミーティングの途中なので、出て行くわけにもいかない。

 あとで、佐々木が居なくなってからの、ミーティング内容を伝えようと、いつも以上にメモを取った。


 終業時間になり振り返ると、まだ佐々木は落ち込んでいるようであった。

 なので、今日のミーティングの続きの内容を伝えるだけじゃなく、元気づけるためにお酒でも誘ってみようかと、奈央は、声をかけた。

「今日は花金だよ!お酒飲みに行こうよ!!」

 佐々木は、奈央にそう言われ、折橋は良いのかよ?っと聞こうと思ったが余計イラついてきてしまい、

「それなら、さっさと行くぞ」

と言って、帰り支度を始めた。


 店に着くと、いきなり佐々木はハイペースで飲み進めていく。

「そんな飲んで大丈夫?」

「別に俺がどんだけ飲もうとお前には関係ないだろう」

「いやいや、倒れられでもしたら大変だし…」

「あっそうかよ、そういう心配かよ!!」

 佐々木は、そういうと、グラスに入っていたお酒を一気した。なにが佐々木の沸点なのかわからずに、奈央は焦る一方であった。

「とりあえず、一回、お水とか飲もう…」

「なんで、水なんか飲まなきゃいけないんだよ!!」

 そう言って、佐々木は、ガンガンと酒を飲み進めていく。


 数時間後には、佐々木は見事に泥酔していた。ろれつもまわらないし、立ちあがるのがやっとといった状態であった。

「佐々木、家帰れる?送って行くから駅教えてよ」

「お前に家泊めて」

「えっ!?」

「俺ん家より、お前ん家のがちけーもん」

 このあと何度か、佐々木の家を聞こうとしたが、全く答えてくれない…さすがに、このまま放置するわけにはいかないので、佐々木の言うように奈央の家に連れていくことにした。


 なんとか、奈央の家にたどり着いた。重い佐々木を、ベッドまで運び、奈央はキッチンに行って水をくんできた。

「水、飲んで」

 そういう、奈央の手を佐々木は掴んだ。えっと驚いているあいだに、佐々木に抱き寄せられていた。

「お前警戒心ねーな。誘ってるのかよ?」

「そんなんじゃないよ!!」

 急な行動と、言葉に戸惑っていると、佐々木は、言葉をつづけた。

「いいや、誘ってるんだろ。そうやって折橋も誘ったのかよ」

「折橋!?なんで?」

 急にこんな状態で、なんで折橋の名前が出てくるのか本当に疑問だった。

「抱き合ってたろう」

「あれは、そういうんじゃないよ…えっと、事故みたいな感じだよ…」

 まさか告白されたなんて言うわけにもいかず、奈央は適当にごまかした。

「事故でお前は抱かれても良いわけだ」

 そういう、佐々木の目はなんだか怖い。

「お前、女の自覚が足りねーんだよ。俺が思い知らせてやるよ」

 そういうと、佐々木は荒々しく、キスをしてきた。怒りをぶつけるようなキスに奈央は、痛みを感じた。佐々木の手が、奈央の体に伸びる。

 これは、酔った勢いでだ…こんなの良くない…そう思い、一度、佐々木の体を押し返した。

 すると、佐々木は、凄くかなしそうな表情になった。その顔を見て、拒めない、私、佐々木の事好きだもん…と奈央は、伸びてくる佐々木の手をもう一度押しのけることは出来なかった。






 奈央が目覚めると、佐々木がベッドのふちに座り、頭を抱えているのが目に入った。

 佐々木のその姿は見ているだけで痛ましく感じた。奈央が、佐々木の方を見ていると、佐々木と目があった。

 その瞬間、佐々木は、床に行き土下座をした。

「本当に悪かった!!あんなことするなんて…」

「なんであんなことしたの…?」

「酔っぱらってて、気がついたら…でも、本当にあんなことするつもりは一切なかったんだ…」

 ---なに期待してたんだろう…

 佐々木の言葉に奈央は傷ついた。どこかで、もしかしたら佐々木も私を思っていて…なんて思っていてしまった。

 佐々木の謝罪で、昨日のことが本当にお酒のせいなんだと、思い知った。当たり前なのに、なに変なこと思っているんだろう…となんだか逆に笑えてきてしまった。


「大丈夫だよ。気にしないで。なんにもなかったんだよ。忘れよ。ねっだから、土下座なんてやめてよー」

 奈央は、出来る限り明るい声で、そう言って、佐々木を立たせた。佐々木は、奈央の顔を直視することが出来ずにじっと下を向いている。

「本当に、悪かった」

 佐々木は、そう言ってもう一度、頭を下げて帰って行った。






 佐々木は、奈央の部屋から出てふらふらと駅の方へ向かう。

 ---なんにもなかったことになんて出来るわけないだろう…忘れるなんて無理だ…




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