疑惑
佐々木と、デートをした。とっても楽しかった。
急に帰ってしまった佐々木を疑問に思いながら、あそこまで付き合ってくれたんだから、もう一度ちゃんとお礼を言わなくちゃ!っと奈央は考えていた。
早く月曜にならないかな…なんて、社会人としては変だが思ってしまう。
待ちに待った月曜日である。洋服に、髪、化粧全部を何度もチェックしてから会社に向かった。なんでだかわからないが、気がつくと早歩きになっていた。
そのため、いつもより少し早く会社に着いた。佐々木は、まだ着ていない。佐々木が早く来たら、始業前にお礼を言おうっと考えていた。
しかし、佐々木は、始業ギリギリにやってきたため、話しかけることが出来なかった。
仕事についてからはじめて、お昼休憩が早くこないかな…なんて思ってしまったりした。何度も時計を確認してしまった。あと、30分。あと、10分。あと、10秒。そんな風に思っていると、お昼休憩のチャイムが鳴った。
振り返ると、佐々木がいた。っているに決まってるか。話しかけなきゃ。
「佐々木!土曜日は本当にありがとう!!」
「別に、良いよ」
「私、デートなんて久しぶりだったから、あれで良かったのかな?なんか失礼なことしちゃったかな?」
「別に、普通だったよ」
「そっかーよかった。佐々木急に帰っちゃったからもしかして怒ったのかなーって心配になったよー」
「別に、そんなんじゃねーよ」
佐々木は、一度もこっちを見ずに答える。その態度を見て、やっぱり怒っているのかな…と不安になった。
横から音が聞こえてきた。そちらを向いて見ると、佐藤と折橋が立っていた。
「今、話し聞こえちゃったー。ごめんね。二人ってデートに行ったの?」
「ああ、女らしくなる特訓の一環だよ」
「このあいだも、二人は、一緒に買い出しいったりもしてたよね。もしかして付き合ってるの?」
「そんなことあるはずがないだろう!!」
佐々木が大きい声をあげた。一回咳払いして、
「ただの、特訓だよ」
と言い直した。
---そんなに否定しなくたって…いいじゃん…
「えーそういう特訓なら、私がしてあげるよ。男の人じゃ難しいでしょー」
ねーっと佐藤が話しかけてくる。
「でも、女らしくの特訓なんて面白いことやってるねー。今まで、どんなことしてきたの?」
折橋にも同じ質問をされたことがあったが、あれとは、聞いている理由が全く異なる。
折橋はただの好奇心だったが、佐藤のは、明かなる探りである。私なんか、気にする必要ないのにな…と思いつつ佐藤に答えた。
「姿勢を正すとか、話し方なんかだよ」
「姿勢そんな悪く見えないけどなあーそれに、奈央ちゃんの話し方って、はっきりしてて聞きやすくて良いのにー。直す必要なんてないよー」
私のやってきたことが否定されている気がする。でも、悪口言われているわけでもないので、嫌な気持ちにはならない。
「他には他には?」
「えっと、服装とか、化粧なんかを選んでもらったりとか…」
「あーそれが、買い出しに行ったときだったよね。佐々木君ってセンス良いね。奈央ちゃんの服可愛くって羨ましかったの!佐々木君、私にも選んでくれない?」
「いやだ」
奈央は、佐々木が断ったのを聞いて嬉しくなってしまった。不謹慎だし、酷いのはわかっているのに、なぜだか、佐藤の誘いを佐々木が断ったことが嬉しくてしょうがない。
「やっぱり、奈央ちゃんは特別ってこと?」
「そんなんじゃねーよ!!そもそも、こいつを指導してやってるのは、あまりにもあわれだからってだけだ!!」
「じゃあ、俺が指導するよ。」
折橋が、急に話に入ってきた。
「なに言いだしてんだよ!?」
「いや、だって、佐々木は、いやいや指導してるんでしょ。俺は、嫌じゃないもん。だから、俺とコーチ交代。それで、別にいいんだろー」
「っ…勝手にしろよ!!」
そう言って佐々木は、席から立ち上がって、フロアから出ていった。奈央は、その後ろ姿をただただ見つめることしか出来なかった。




