打ち上げ
今日は、第ニ回目の掃除機新プロジェクトのミーティングの日である。
ハンディタイプの掃除機案の資料や、プレゼンはもうまとめてあるが、先輩たちの前で、下っ端の私が発案するのだ。
問題はないか、酷い内容じゃないか、何度も何度も確認を行った。
私が、ビビっている姿を見て佐々木は、
「何ビビってんだよ。お前らしくない」
と声をかけてくれるが、なかなか緊張はほぐれない。
「お前の、良い物をつくろうとする姿勢は唯一の長所なんだから頑張れよ!」
「唯一ってことはないでしょ!?」
「じゃあ、他になにがあんだよ?」
---そう言われると、困る…。
「残業しても次の日に響かないところとか…」
「それも、仕事のことじゃないかよ!!」
そう言って佐々木は笑いだした。あまりにも佐々木が笑うもんだから、奈央も本当だーっとつられて笑ってしまった。
そんな風に、佐々を話していたら、ミーティングの時間になった。んっ!と佐々木が拳を突き出してきたので、ゴツンと拳と拳を合わせてから、会議室へと入っていった。
会議が始まり、先輩が、
「まず、江田から意見があるそうです」
っとふってくれた。それに対して、
「はっはい!!」
と裏声になりながらも、答えた。そうして、全員に資料を配ってから、プレゼンを始めた。
ハンディタイプにするメリットや、実現性、コスト、設計案、制御案などを詳しく説明していった。
途中、先輩たちから質問されることも多かったがおおむね、しっかりと発表することが出来た。
発表後は、先輩たちから、良い案でかつ、現実的に考えられてると言ってもらうことが出来た。まだ、この案になるかはわからないが、一つの案の候補にしようとまで言ってもらえた。
発表が終わると、奈央は、椅子にへたり込んでしまった。終わったーという解放感と言うよりも、緊張がとけたといった方が正しい。
しかし、その後もミーティングは進んでいくので、ぼーっとしているわけにはいかない。
奈央は、気合を入れ直し、ミーティングに参加していった。
ミーティングが終わりまた、奈央と佐々木は会議室の後片付けをしていた。
「ハンディタイプ、良い反応だったよな!!」
「うん!!もしかしたら、本当に実現されるかもね!!」
佐々木と奈央は、興奮気味に話しあった。
「よっし!じゃあ、今日は打ち上げとして飲みに行こうぜ!!」
「良いねー!うん、いこいこ!!」
今日は、少し早めに仕事を終わらせて、会社近くの居酒屋に向かった。
そういえば、佐々木と二人きりで飲み行くのって初めてだな…前に向かい合って座ると少し緊張した。
だが、緊張はすぐにほぐれいつものように軽口をたたき合った。少し酔いがまわってきたところで、佐々木が、
「俺が、女らしいしぐさの指導してやるよ」
と、言い始めた。
「ほらほら、あごひけよ」
そう言いながら、魔法で奈央のあごを固定させる。
「そんで、上目づかいしながら、小首をかしげる!」
ぐきっといきなり首を曲げられ、奈央は不満をいう。
「痛いから、やめてよー」
「女らしくなんなくて良いのかよ?ほらほら、そんな怖い顔してないで笑えよ」
笑えと言われ、奈央は、少し恥ずかしそうにはにかんだ。その姿を見て、佐々木はドキッとした。
---可愛い!!いやいや、相手は江田だぞ!!可愛いはずがないだろう。もう一度確認してみよう。そうすれば、落ち着くはずだ。
佐々木は、すーはーっと一度大きく深呼吸をしてから、奈央の方にもう一度目を向けた。
一方奈央は、あまりに見つめられて、恥ずかしくなってきてしまった。そのため、少し恥じらうような表情になった。
---この表情も良い!!って違うだろう俺!!江田に発情するなんて、欲求不満なのか!?最近、プロジェクトとかあって忙しかったからな…そうだ!しょうがないんだ!!
佐々木は、顔が赤くなってしまっているのを、飲んでごまかそうと、酒を飲みまくった。
佐々木は、凄い量の酒を飲んでいった。奈央がさすがにまずいと思って止めた頃にはもう遅かった。
佐々木は、真っ赤な顔で、舌足らずと言った雰囲気で語り始めた。
「俺さー、父親が早くに死んだんだよ。そんで、母親一人で俺を育ててくれたわけ。母親は魔力が弱い人だから、仕事もして家事もするなんて大変だったわけだよ」
佐々木は目の前にある酒を一気した。
「だから、俺もさ、母親の助けになりたいなーなんて思ったりしたわけよ!!だけど!残念なことに、俺も魔力弱いんだよなー。そんでさ、考えたわけ。魔力弱い人間でも楽して使えるような家電がつくれないかって!!考えたわけだよ!!」
そういい、佐々木は、わかるだろ!!と肩を組んできた。
「俺はさ、便利なものがつくりたいんだよ!!誰もが簡単に使えて、楽出来るような商品がつくりたいんだよ!!」
そう叫ぶ、佐々木を見て、奈央は苦笑いをした。でも、佐々木に、そんな思いがあるなんて思ってもみなかった。
昔、研修で組んだときなど、佐々木のことを、横文字ばかりの格好つけやろうっと思っていた。そして、物つくりに熱い想いなんてないと思っていた。
しかし、そんなことなんかなくて、本気で消費者のことを考えて物をつくっているんだと思い知った。
「俺は、もっといろんな人が使えるような物をつくって皆が笑顔になるような社会にしたいんだよ!!」
そう叫ぶ佐々木を、面倒な酔っ払い…と思いつつ尊敬してしまった。




