喫煙室
佐々木は喫煙室に向かう。
最近は分煙であったりと、喫煙者にとって風当たり強い時代になっている。
この会社の喫煙室は、ガラス張りになっているため、誰か入っていることが外から分かるようになっている。なんだか、あまりサボっていないか監視されているようで、少し落ち着かない空間である。
しかし、他にたばこを吸える場所があるわけでもないので、喫煙室に行くしかない。
喫煙室の前まできてみると、あまり人がいるようには見えず、空いててよかったなと、扉を開けた。
そして、中に入ってみると、喫煙室には折橋一人しかいなかった。
「よっ!」
そう爽やかにあいさつをされた。俺も適当に、よっとあいさつを返してたばこをポケットから取り出した。
「最近、お前、俺に冷たくない?」
「そんなことないだろう、今まで通りだよ」
そう答えたが、自分でも最近少し、折橋に対しての当たりきついような気はしていた。
ただ、それは、折橋が無駄に江田に絡んで、女らしさの指導の邪魔になるからしょうがなくって感じだろう。
「そーかー?」
っと折橋は少し不満そうなので、
「お前が、江田の特訓の邪魔するからだろう」
とだけ返して、たばこに火をつけて、ふーっと煙を吐き出した。
「邪魔なんかかしてないだろー」
そういって、折橋は不満そうに口をとがらせる。女がやるなら可愛げもあるものだが、男がやっても気持ち悪いだけだ。
「その口、きもい」
とはっきり言ってやると、
「やっぱりひでー」
っと返してきた。
「俺は、自分の気持ちを素直に言っているだけなんだけどなー」
「それが、邪魔だって言ってるんだよ」
折橋は、なんに対しても肯定的だ。それは折橋の長所である。
しかし、今回のように、特訓をしているような場合だと、なんでもかんでも肯定されてしまったら特訓にならない。
駄目なものは、駄目と言わなけれなけば改善されることなんてありえないからな。
「なーそういやさー」
っと折橋が、こっちを向いて話しかけてきた。
「そもそもなんで、女らしさの指導なんかしてんの?」
「だって、あいつってあまりにも女らしさのかけらもないだろ。だから、あわれに思ってな」
「確かに江田は、女らしいって感じじゃないけど、別にモテないってわけでもないってことはお前だって知ってるだろう」
それは、知っている…指導始めるきっかけになったのも、あいつがモテたいと言ったからである。
江田は、普通にしてれば、モテるに決まっているのに、性格がサバサバしているとか、男らしいとかっていうよりも、むしろ自分から男同等に扱ってもらえるようにふるまっているように思えた。
だから、江田がモテることはない。そりゃ、自分から跳ね返しているんだからな。なので、江田がモテたいと言ったときは驚いた。
わざと、モテないようにしているんだとばかり思っていたからな。
---あっこいつも女なんだな…
そう痛感したのを覚えている。自分から男避けをしてしまっているこいつが、女になりたがっているなら、女にさせてやろうと思い、コーチを名乗りでたのである。
そう考えていると、折橋が話を続けた。
「江田って仕事が趣味みたいだろう。だから、男は相手してもらえないって思ってるだけだよ。例えば、俺とかに」
そうだ、江田は、自分で自分の首を絞めている状況なのだ。
男に興味ないってはっきりわかる江田の態度だと、取りつくしまもないって感じだから、男は江田に興味を持たないのである。
---んっこいつ最後に変なこと言わなかったか?
「お前今、なんていった…」
「えっいやだから、江田は仕事が趣味みたいだから、男が気おくれしてしまってるだけだって」
佐々木は、折橋の話を遮った。
「そうじゃなくって、そのあとだよ!最後なんて言ったんだよ!!」
「ああ、例えば、俺とかに。って言ったけど」
なにさらっと答えてるんだよ。
「お前、マジで言ってんのかよ!?」
「当たり前だろ」
---つまりあれか、折橋は、江田に興味があったが、江田の方がつれないから諦めていただけってことか?
佐々木は、急にざわざわっと心がざわめいてきた。
「だからお前には感謝してるよ!」
急にそんなことを言われ佐々木は驚いた、なんで、折橋に感謝されなきゃならないんだ?胸のざわつきがもっと酷くなってきた。
「だいぶ、お前の指導のおかげで、江田も付き合ってくれそうな雰囲気になったよな。本当にお前のおかげだよ、ありがとうな!!」
「そんな雰囲気になってない!というより、お前に特別にそうしてるわけじゃない!全員にそうしてるんだよ!!」
「それでも、今までは全員駄目って雰囲気から、変わったってだけで大きな変化だよー」
だから、ありがとうなっと折橋は言い、たばこの火を消して喫煙室から出て行った。
一人残された佐々木は、たばこを握りしめた。
---折橋なんて駄目だ!あいつには似合わない。
折橋に、言い返してやろうと、まだまだ長いたばこの火を消して、すぐに追いかけた。
しかし、折橋の姿はない。佐々木は、行き場のない苛立ちをどうすることも出来ず、壁を叩いた。




