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特訓の結果



 なんとか、設計図を完成させたとはいえ、本来昨日やらなくてはいけなかった業務が残っているので、もちろん仕事は山ほどある。

 午後からは回復してどんどん仕事していけたが、それでも足りないので今日も残業していた。しかし、なんとか一区切りつき落ち着いてきた。


 振りかえると、佐々木がまだいる。お昼のお礼をしなくてはいけない。

 このあいだ、お礼の仕方を、佐々木に指導されながら特訓したことを思い出した。このあいだ言われたことを思い出しながら、なんて言うのかをまとめ、小さい声で練習をしてから立ち上がった。

 そして、いざ参る!といった気分で、ぽんぽんっと佐々木の肩をたたいた。


「佐々木君。今日のお昼はパンにコーヒーをありがとう!佐々木君のおかげで倒れずにすんだわ。はい、これ、お金」

 そう言って、お金を差し出した。

 すると佐々木はそれを受け取らずに、微妙な顔をしている。

「まあ、合格かな。ただ金返すなよ」

「えっなんで?」

 パン買ってもらったにも関わらず、お金を支払わないなんて駄目に決まっているのになんで、お金を受け取ってもらえないんだろうか?お金を差し出した手が宙をさまよう。


「なんつーか、お前甘えるの下手過ぎだよ。そんな大した額じゃないのに、金返されると、他人って線引きされたような気分になるんだよなー」

 そう、佐々木は、顎に手をあてながら言う。

 ---おごってもらうというのが、甘えるということになるのだろうか…?

「どうしてもなにか返したいなら、こないだみたいにコーヒー入れてくれるとかでいいんだよ」

「ふーんそうゆうものなのねー。でもなんかそれじゃ悪い気がするんだけどなー」

「パン一個なんて社会人からしたらはした金なんだから、そのくらいのおごりを気になんかするなよ。本当にお前は、甘えるのが下手過ぎだ」

 確かに、おごってもらうのは苦手な方である。金額とかに関係なく返さなくてはいけないと感じてしまう。

 それは、今まで、いろんな男の人に様々なものをおごってもらっている女の人を見てきたため、おごってもらうというのはなんだかいやしい気がしてしまうからである。


「そんで、そんなに甘えないから、隙が一切ないように見えて、他人行儀に感じるんだよ」

 ほー!!そういうものなのか!甘えることで親近感みたいなものが生まれるってことなのだろう。そう感心したが、どうしてもおごられるというのは苦手だから、佐々木が言ってくれたように、コーヒーのようになにかで返すことにしようと考えた。

「適度な甘えは必要ってことなんだねー」

「そーいうこと」


 そんな話をしていると、横から、足音が聞こえてきた。

「お前ら最近ふたりで何やってんの?」

 そう話しかけてきたのは、設計部の同期の折橋であった。

 折橋も良く残業しているが、席が少し離れているため、佐々木ほどは終業後に話をすることは少なかった。


「お前には関係ない。さっさと帰れ」

 折橋の問に、佐々木は冷たく返した。

 佐々木と折橋も同期のため、飲み会なんかでは話をする姿なんかもよく見る。なので、仲は良いはずなのだ。しかし、なぜだか、佐々木は、折橋を適当にあしらう。

「そんなこというなよー。なんか、最近、江田違うしさー」

 えっ折橋にも違いがわかるの!?と、とても嬉しくなった。人に言ってもらえると、やっぱり、効果があるんだと実感することが出来る。もっともっと頑張っていこう!!と思えた。


「佐々木に、女らしさの指導を受けてるんだよー」

 さきほどの折橋の発言が嬉しすぎて、ニコニコと答えた。

「はー?女らしさの指導?そんなの江田には必要ないだろう」

「お前みたいに鈍感で、ずれてる男は黙っとけ。てか、早く帰れよ」

「なんだよーさっきから酷いな。俺も混ぜてくれよー。女らしさの指導ってどんなんなのー?」

 佐々木の言い方は酷いが、確かに、私に女らしさの指導がいらないっていうなんて、やっぱりずれていると思う。


 指導内容かー、どんなのあったかなーと思いだしながら答えた。

「今までやってもらったのはー、姿勢をなおすこととか、声の高さを変えることとか、笑いながら抑揚つけて話すようにするように言われたこととか、なんかだよ!」

 佐々木の顔をうかがってみると、怒っているようには見えないので、忘れていることはないようである。

 良かった、とほっとする。次に折橋の方を向くと、なんだか興味しんしんっといった顔をしている。

「今、その指導の成果を、やってみてよー」

 そんなに期待されると少し恥ずかしい気持ちになってしまう。

 しかし、コーチである佐々木に良いとこ見せてやろうと真剣に取り組んでみた。


「えっと、んーっと、いくよ…」

 一度、息を吸い込み気合を入れる。

「折橋君、今日もお疲れ様!」

 二人とも反応がない。よく考えなくても、ただお疲れというだけなのに、わざわざ時間をとってしまうとか私、めっちゃ恥ずかしいことしちゃった!?恥ずかしすぎて、いたたまれなくなり、

「みたいな…?」

と言ってごまかしてみた。


 すると、折橋は急に前のめりになってきた。

「おー確かに!そっちのが可愛い!ときめく!!」

「かっ可愛い!?」

「折橋の可愛いは、女のいう可愛いとおんなじだから気にすんな」

 可愛いといわれドキッとしたが、佐々木の言葉で落ち着いた。

 確かに折橋の事を考えれば、女の子が女の子同士でキャッキャうふふと可愛いって言い合っているのと変わらない雰囲気だなと思った。もしくは、お世辞かな。

「佐々木、失礼だな。江田、本当に可愛いかったよ!」

 目を見て言われたため、またドキッとしてしまった。

 いやいやこれは女の子に言われているのと同じだー!!と自分に言い聞かせ、頭を振ったらなんとか赤面せずにすんだ。


「お前、マジ黙れ!今指導中なんだよ」

「だから、一緒に見てたいんだってー」

「お前がいたら出来ないんだよ!!」

「えーなんでだよ。俺そんな邪魔ー?」

 捨てられた子犬のような折橋の瞳に見つめられ、そんなことないよ!!と叫びたくなった。しかし、私の発言は遮られ、

「江田、お前仕事終わったんだろう。今日は指導は終わりだから、さっさと帰れ」

と佐々木に追い出されてしまった。


 奈央は自分の席に戻り、パソコンの電源を切って片づけをしていく。簡単に机の上をまとめた。

 そして、もう一度、佐々木の方に振り返った。

「あっ佐々木、パンの差し入れ本当に嬉しかった!ありがとうね!!じゃあお先しつれいしまーす!」






 奈央の笑顔に、佐々木はドキッとした。その後は、佐々木はぼーっと奈央の後ろ姿が見えなくなるまで眺め続けていた。

「やっぱり、江田は、可愛いな…」

 折橋に話しかけられビクッとしてしまう。

「可愛くなんかねーよ!全然…」




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