疲れ-2-
ピピピピッピピピピッと遠くから聞こえてくる。うるさいなーなんの音だよー早く静かにしてよーなんて思っていた。
そんな風に、ぐだぐだとしていたら、その音が、目覚ましの音だと気がつくのに時間がかかった。
気がついた瞬間血の気が引き、ガバッと起き上がった。自分の姿を確認してみると、昨日の服のままで、バックを片手に持ちつつ、コンタクトも着けたままの状態になっている。
時計を見てみると、会社に間に合ったもんじゃない時間である。もうこのまま行ってしまおう!!と考えたが、鏡を見て絶望した。
適当に寝てしまったから、寝ぐせが本当に酷く、まさに鳥の巣のようになっている。
さすがに、こんな姿で会社に行くことは出来ない。というか、そもそも、昨日もシャワーも浴びていないのだから、さすがに浴びないというわけにはいかないか…と思い直した。
間に合わない!そう焦りながらも、さっさと支度していく。もちろん食事をする時間もない。しかし、どんなに急いでも出社時間に間に合う電車には乗れそうもない。
魔石フォルダを開けてみると、魔石は薄い青い光になっていた。昨日の飛行でかなり魔力を使いきってしまったようである。
しかし、またクッションで会社へ行くしか間に合う方法はない。
魔力を貯める使い捨て装置や、魔力が満ちている魔石をコンビニに買いに行く時間もあるはずもないので、しょうがないが自分の魔力でクッションを制御するしかない。
会社に行くまで体力が持つだろうかと少し不安になった。しかし、行くしかないのである!
なんとか見られて平気なくらいにまで支度をすることが出来て、クッションを片手に外へ出た。魔石をセットし、浮かび上がった。
しかし、浮かび上がる勢いもなんだか頼りなく、少しふらふらとしている。そのため、自分の魔力を使ってなんとか制御して、会社に向かっていった。
昨日の夜のように周り眺めるようなゆとりなんかはなく、必死で会社の方へ急いでいく。
しかし、昨日はベッドに半身だけのっけた状態で眠っていたので、もちろん睡眠の質は最悪で眠いし、体中が痛い。
そのため、途中で集中力が切れて何度か落ちそうになってしまった。
会社が見えてきた。なんとか間に合いそうな時間である。会社の前に降りた。
周りをみるとみんな遅刻組のようでクッション片手に会社に走っていく。
その姿を見て私も、着いただけで安心しているわけにはいかないと、走って会社に入っていった。
急いで更衣室まで向かい作業服に着替える。ザッザッと着替え、自分のフロアまで小走りで向かった。
なんとか、始業時間前に自分の机に着くことが出来た。ほっとしているとすぐに朝礼が始まった。
朝礼も終わり、昨日取りかかっていた、設計図をもう一度自分で確認してから、先輩に見てもらいに持っていった。すると、先輩は、軽く目を通して、
「今回は、問題なさそうだね。お疲れ様」
と言ってくれた。先輩のお疲れ様という言葉にまた、目がうるんできてしまった。
しかし、泣くわけはいかず、頭を下げて目がうるんでいるのをばれないようにした。
「じゃあ、これ、俺が今から確認作業するから」
「よろしくお願い致します」
ともう一度深く頭を下げた。
先輩に設計図を渡し終え、自分の席に戻り座ると、一気に疲れがやってきた。
昨日も遅くまで仕事したし、今日も朝から魔力を使ってしまったのだから当然である。
まだ仕事が始まったばかりだというのに、体中が重く辛い。それになにより、眠気が凄い。
しかし、昨日失敗した人間が今日も役に立たないなんてことはあってはならない!!その思いで、必死に目に力を入れて、コーヒーを一気飲みしてから仕事に取り掛かった。
途中うつらうつらとなってしまうことがあったが、必死で目を見開いていたらお昼休憩のチャイムが鳴った。午前中は、なんとか仕事をやりきることが出来た。
やっとお昼休みになった。んーっと伸びをしたが、とりあえず、眠りたい。
昨日の昼にパンを食べた以来なにも食べていない。そのため、お腹も減っているが、眠気が勝った。机にうつぶせ睡眠に入った。
お昼休憩終了5分前のチャイムが聞こえてきた。目をこすりながら起き上った。眠ったことで頭がすっきりとした。
今度こそ思いっきり、んーっと伸びをした。気分が良い。
しかし、それと同時に食欲が出て来てしまった。
だが、もうお昼休憩も終わるところなので、今さら何かを買いに行ける時間もないしなあ…と少し焦っていると机の上に、奈央がいつも食べているパンとコーヒーが置いてあった。
えっこんなの買った覚えないんだけどと、驚いてパンを手に取ってみた。すると、付箋が付いてあり、「食え」とだけ書いてあった。
この字には見覚えがある。佐々木の字だ。ガバッと後ろを振り返るがまだ戻っていなかった。
この気づかいは本当に嬉しい!奈央は、すぐにパンの袋を開け口にふくんでいった。
一口食べると、本当に、お腹が空いていたことに気づかされた。あまり時間もないので、コーヒーでパンを飲みこんでいく。
後ろからガタッと音がしたので、佐々木が帰ってきたのだと振り返った。しかし、佐々木はこちらを向かない。お礼を言おうと、立ち上がると始業のチャイムが鳴った。
しょうがないから、あとでお礼を言えば良いかと仕事に取りかかった。




