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指導の効果




 佐々木に言われたように、声のトーンを上げてみた。

 もちろん、仕事で聞き取りにくくなるなんていうのは、絶対にアウトである。

 しかし、あいさつであったり、ちょっとした世間話をするときは頑張って、声をあげて話をしてみた。


 すると、上司に

「今日はデートか?」

と聞かれたりなんかした。しかし私はそれに焦ることもなく、

「それってセクハラですよー」

と返すときも高い声が出すことが出来た。


 ただ高い声で、しゃべっているだけにも関わらず皆の反応が少し違うのを肌で感じる。

 なんだか、気持ちはあがるばかりであった。気持ちが高揚するので、わざわざ高い声を出そうとしなくても、声が高くなってきた。

 ---なんだか、自分が女になった気分だ!!って元から女なんだけど…


 ずっと、ルンルンの気分なので、仕事中も怖い顔にもならずに済んでいると思う。

 むしろ、にやけている状態が続いてしまっているので、佐々木に気持ち悪いと言われてしまうかもしれない。しかし、どうしてもにやけがとまらない…。


 そして、仕事もむしろいつもより進みが早い気がする。

 作業がよく進むものだから、終業時間を過ぎても仕事をしてしまっている。って終業時間を過ぎるのはいつものことだけどね…


 後ろの席の佐々木を見ると、まだ仕事をしていた。

 佐々木の指導のおかげで全てが上手く言っているので、お礼にコーヒーくらいいれてやろうと思った。


 給湯室に行くと、コーヒーマシーンの魔石が透明になってきているのが分かった。

 普段は、こういった機材の魔石に魔力を貯めながら周っていくという仕事の人がいるが、もう遅い時間なので魔力がなくなってきているのであろう。

 コーヒーマシーンの魔石は1杯くらい入れられそうな魔力は残っていた。


 しかし、今日の私は、とっても機嫌が良いので、コーヒーマシーンから魔石を取りだして、魔力マックスまでを入れておいた。

 それから、佐々木のためにコーヒーを入れた。せっかくなので、少しお礼をしながら私も飲もうかな、と自分の分もいれておいた。


「今日、褒めてもらったよ。ありがとう。はい、お礼」

 そう言い、奈央は、佐々木のデスクの上にコトッとおいた。

「お前、だからモテないんだよ」

「えっ!?」

 なぜお礼を言って、コーヒーまで出したにも関わらず、急に、失礼なことを言われたのかわったく分からず、奈央は驚いてきょっとーんとしてしまった。


「まず、名前を呼ぶようにしてみろよ」

「名前?なんで急にそんな話になるの?」

 なんで、モテない宣言をされた後に、名前の話になるんだか全く理解が出来なかった。

「名前を呼ぶと、特別感が出るんだよ」

 それを聞いてもいまいち何の話をしているのか分からない。

 名前を呼ぶと特別感が出る…?ってなんの特別感が出るんだ?それがモテることとなんの関係があるんだ?佐々木の話を聞くと疑問は増えていく一方である。


「お前のさっきのコーヒーの渡し方は、すっげー業務的。仕事の礼じゃないんだぞ、もっとそうだな…」

 佐々木は顎に手を当てて、んーっと唸っている。

 奈央は、佐々木の言葉にハッとした。確かに、業務的という言葉が私の渡し方は、ぴったりであった。というより、いつもの仕事のときのお礼の仕方と同じであった。


 佐々木は、ポンッと手を叩いたと思ったら、

「佐々木君。今日は、佐々木君のおかげでいろんな人に褒めてもらえたの!本当にありがと。これ、お礼って程じゃないけどコーヒー入れたから良かったら飲んでね♪」

って急に笑顔で言い出した。


「気持ち悪い!!」

 ぞわっと寒気がしてしまった。思わず、両手をクロスさせ両肩を掴んで震えてしまった。

「俺だってやりたくてやったわけじゃねーよ!お前の、お手本としてやってやったんだろうが!ちゃんと聞きてたのかよ!?」

 私の反応に佐々木は、怒ったが、急に女口調になった佐々木なんて気持ち悪いにきまっている。

 私の反応は間違ってなんていないはずだ。しかし、私のためにやってくれたことなので笑うわけにもいかず、ちゃんとお手本にしなくては。


「聞いてた聞いてたー」

「じゃあ、やってみろよ」

 必死にさっきの佐々木の姿を思い出してみた。すると、笑いが込み上げてきて我慢することが出来なかった。

「お前、マジふざけんなよ!もう、指導なんかしてやんねーからな!!」

「ごめんごめん。ちゃんとやるから、見捨てないでー」

 奈央は慌てて佐々木の袖を掴んで謝った。

 それでも佐々木は機嫌をなおしてくれなかった。


 もう土下座しかないのか?と思い始めた頃に、もういいから、さっさとやれよ!と佐々木に言われた。なので、

「はい!!」

と返事をして、真剣に今度こそ笑わないように、先ほどの佐々木の言葉を思い出して言ってみることにした。

「えーっと、佐々木君。今日は、佐々木君のおかげでいろんな人に褒めてもらえたの。本当にありがと。えっと、これ、お礼って程じゃないけどコーヒー入れたから良かったら飲んでね」

「それじゃただの棒読み。なんの意味もない」

 そりゃ、言葉思いだすのに必死だったんだからしょうがないじゃんと思ったが、言ったら本当にもう指導してもらえなくなりそうなので我慢した。

 そこで、もう一度頑張ってみることにした。


「佐々木君。今日は、佐々木君のおかげでいろんな人に褒めてもらえたの。本当にありがと。これ、お礼って程じゃないけどコーヒー入れたから良かったら飲んでね」

「もっと笑え、抑揚もつけろ。」

 今も、結構声も高くて笑ったつもりだったが、まだまだそれでは足りないらしい。


「佐々木君。今日は、佐々木君のおかげでいろんな人に褒めてもらえたの!本当にありがと。これ、お礼って程じゃないけどコーヒー入れたから良かったら飲んでね♪」

「まあ、良いか」

 なんとか、合格をもらうことが出来た。

 最近使っていなかった、顔の筋肉を使ったせいでまだひきつった表情になってしまっている。

「明日からは、笑顔で抑揚つけて話していけ!!」

 こんな短い間、笑顔をつくっただけで顔の筋肉が悲鳴をあげるほどなのに、明日から毎日するなんて不可能だと絶望した。




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