友達?
奈央は、今日も一人デスクの前でパンをかじっていた。
この間、有紀とお昼一緒に食べたのはとっても楽しかった。また誘いたいなと思うが、私も、有紀もなかなか忙しいし、フロアも違うため、やはりそうそう一緒に昼食を食べることは出来なかった。
でも、まあ、予定が合うときには、また誘ってご飯を食べたいな、なんてことを考えながらパンを完食した。
そんな、奈央の元に誰かが近付いてきた。
何年も嗅いでなかったような、良い香りがふわっと香ってきたため、なにごとだ!?と驚いてそっちを向いたら。お人形のような女性が立っていた。
髪の毛は、長めで、ゆるくパーマをあてているのか、ふわふわしている。顔は小さく、細い脚はすらーっと伸びて、8頭身くらいはありそうである。
とても、細身なのに胸は大きいので、余計にウエストの細さが目につく。
顔に目を向ければ、パッチリ二重の目に、長いまつげ、ぷっくりとした唇。
なにもかもがパーフェクトという雰囲気の女性であった。
何度か、合同飲みの際に遠目から綺麗な人がいるなーと思っていた人だと思いだす。近くで見た方が綺麗なんてどうなってるんだ!!
こんな人が私に用があるわけないと、あたりを見渡したが、私以外に誰もいない。
仕事でなにかやらかしたかなーと、頭をめぐらすがなんにも浮かばない…
そんな風に私が、頭を抱えていると、それこそ最近私が出そうと必死になっている声なんかとは比べ物にならないくらい、可憐な声で話しかけられた。
「私は、家電部門で事務をしている、佐藤里奈っていいます。よろしくね。って同期だよね?マナー研修のときとか何度か見かけたよー」
「あっそうだったね!私は、設計部の江田奈央って言います。よろしくね!」
全く、マナー研修のときの記憶なんてないが適当に話しを合わせて、自分もあいさつをした。
「せっかく同期で同じフロアなのに、今まで全然話したことなかったねー」
「そうだね、部が違うと、同じフロアでも関わりうすいもんねー」
なんで、急に話しかけてきてくれたのかはわからないが、同じフロアの同期を探していたのかな?でも、事務にも何人も同期はいると思うんだけどな…いろいろ疑問が頭をめぐりながら話を進めた。
「せっかく、同じフロアの同期なんだから、仲良くしたいなーって思って話しかけちゃったの。迷惑だったかな?」
そう、可愛いを少し悲しそうにするものだから、焦って、
「そんなことないよ!話しかけてくれて嬉しい!同じフロアで話している同期少ないから、私ももっと皆と話してみたかったの」
と、答えた。
女の私でも彼女を悲しませたくない、と思わせるほどなんだから、男からしたらひとたまりもないなと、感心してしまった。
同じフロアの同期が話しかけてきてくれて迷惑なんてことがあるわけがない。
しかも、仲良くしたいと思ってくれるなんて嬉しいとしか言いようがない。
「えーそんなことないでしょー魔法部とか設計部の子たちとはよく話してるじゃない」
「まあ、確かに、仕事上関わることも多いし、設計部や魔法部とは話すねー」
「この間の、飲みでも佐々木君と話してたね?付き合ってるの?」
あっそういうことか。奈央は理解した。
この子は、佐々木狙いで、佐々木とよく話している私を気にして話しかけてきたんだ。
確かに、よく話してはいるが、女としては見られてないのなんてすぐにわかるだろうに、この子もよく心配になるなーとよくわからない感想を持った。
「ううん。仕事上の付き合いだけだよ」
私がそう伝えると、里奈はとても可愛い顔で頬笑むものだからついつい見惚れてしまった。
男系女だが、さすがに、女を好きになるってことはないわよね!?と焦ってしまう。
「よかったー私ね、内緒にして欲しいんだけど、佐々木君のこと好きなの。だからちょっと心配になっちゃって…」
「あーそうなんだ、全く心配する必要はないから安心して!!」
「ありがとう!それでね、私、ずーっと江田さんと話したいと思ってたの、友達になってくれる?」
あっいつもの流れだ、奈央はそう思った。
奈央は昔から男友達が多かった。そこで、奈央に近付くことで、男の人に話しかけるチャンスを増やそうとする子が多かったのだ。
そういうことをされると、もちろん、心のどこかで冷めた気持にもなるが、別に、害があるわけでもないので、今までは気づかないふりをして、表面上仲良くしてきた。
今回もそれだけのことである。
すこし、同期として話しかけて来てくれた!と喜んでしまったから、悲しい気持ちがあるが、いつも通りに友達しなくちゃと笑顔をつくった。
「もちろん、私も佐藤さんと友達になれたら嬉しいよ」
「じゃあ、もう友達ね。友達なんだから、名字呼びはやめよーよ。奈央ちゃんってよんで良い?私のことも、里奈って呼んでねー」
可愛い笑顔でそう言われて、酷い扱いを受けているにも関わらず心がときめいた。顔が良いってズルイ。
「ねー奈央っていつも、お昼、デスクで食べてるよね?私も、こっちに来て一緒に食べていいかな?」
「うん、いいよ」
私がそう答えると、じゃあ、明日からよろしくねーと里奈は、事務の席の方へと戻っていった。
あまりにも分かりやすい牽制と、佐々木への接触用に使われたことに少し笑いがこぼれた。
今日は珍しくいないが、佐々木もデスクでパンをかじる派である。お昼を私のデスクで一緒に食べるということは、必然的に佐々木の近くにこれて、話が出来るチャンスが増えるからであろう。
昼休みになんで、変な気を使わなきゃいけないんだ!とも思ったが、あんな可愛い子が近寄ってくるなら、佐々木も喜んで話すだろうから、私は、今まで通りただパンをかじって二人が話をしているのを見ていれば良いだけだろう。
そして、そのうち佐々木が落ちてしまえば、二人でどこかへ行くだろうから、問題はないな、と冷静に考えていた。
少し悲しいなと、思うこととがあるとするならば、せっかく有紀と昼休憩を過ごしたいなと思っていたところだったのに、当分、有紀とのご飯はおあずけになってしまったということである。




