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指導-2-




 奈央は、昨日佐々木に言われたように、事務の女の人たちの話を注意して聞いてみた。

 仕事中でも、事務の人とはわりと席が近いので、少し仕事でゆとりがあるときなんかは耳を澄ましてみた。


 最近は、昼休みでも、デスクの前にいて、パンをかじるという生活をしていた。

 それでは、昼休み女性が話をしているのを聞くことが出来ない。そこで、女の人たちがよく食事している食堂に行ってみようと、同期で仲の良い高橋有紀を誘ってみることにした。

 さっそく、連絡してみるとすぐにOKがもらえ食堂で待ち合わせすることになった。


「奈央ーここだよー」

 有紀が、手を振って場所を知らせてくれたので、奈央はそこに向かって歩いていった。

「久しぶりだね、有紀!」

「本当に久しぶり!」

 ちゃんと話すのは、3か月ぶりくらいだろうか?近況なんかをはなしていたら、急に、

「でも、奈央が一緒にご飯食べようなんて、本当に珍しい。何かあったんじゃないの?」

と、言われてしまった。

 そんなに、珍しいかなーなんて勘の良い友人に驚かされつつ、素直に女らしくなるために、女の人の話し方の勉強をしたくて食堂にきたかったのだと言ってみた。すると、

「なにそれ!?なんだかおもしろいことやってるねー!!」

と思いっきり笑われた。


 有紀は、家電部門の営業に所属している。営業もなかなかの男所帯なので、境遇も似ていて、いろんな意味で気の合う友人である。

 最初に仲良くなったのは、マナー研修のときに隣の席であったのがきっかけで、少し話をしただけで意気投合してしまい、すぐに友人になった。


「全然おもしろくないよー私は必死なのにー」

 そう少し口を膨らませながら、有紀に文句を言うと、すぐにごめんごめんと謝ってくれた。

 こんな軽いノリが許されるあたりが一緒にいて心地が良いのだ。

「指導してくれているのが、佐々木ってやつなんだけど…めっちゃ厳しいんだよね!」

「でも、優しいね、そんな指導してくれるなんて」

「優しい…まあそうだね」

 ---そう言えば、なんでわざわざ指導なんてしてくれているのだろうか?優しさ?いやそれよりも暇つぶしの可能性を強く感じる…

 そんなことを考えていると、有紀が、

「私も、女らしくなる指導受けたいなー」

なんて言い出した。

「有紀は、そんなの受ける必要ないじゃん!!めっちゃ女らしくって素敵で!!なんで同じ男所帯にいるのにこうも違うんだろう…」


 そうなのだ、有紀は、私と違って女らしいのである。仕事はバリバリやっているにもかかわらず、ゆとりがあるとでも言えばいいのか、凛とした美しさがある。

 まさに、私が理想とする女性像のまんまである。

「そんな褒めてもらうと恥ずかしいんだけど」

 そう言って照れる顔も可愛さがあり、完璧だなと感じた。

「てかね、んーと、私と奈央そんなに違いないでしょう」

「全く違う!!」

 私が、そういうと有紀はまた笑った。

「奈央がそー思うならしょうがないけど、無理はしないでね」

 そんな、優しい言葉をかけてくれる有紀に、嬉しくなったが、やはり女としての差を見せつけられたような気になって悲しみもわいてきた。


 そんな感じで女性の話し方を学びに、食堂に行ったのはずだったのだが、普通に有紀と楽しくお話してお昼休みは終わった。

 楽しすぎて、周りの女性の話とかは一切耳には入らなかったので、勉強にはならなかった。

 けれど、最近は忙しくてバタバタしてしまっていたが、友人と食事するゆとりくらい持つべきだったなと感じた。






 今日も、終了のチャイムが鳴ってから何時間かたって、区切り良いところまできた。

 後ろを振り返ってみると、佐々木が伸びをしていたので、同じように区切りがついたのだろう。


 すると、伸びをしていた佐々木と目が合い、佐々木は伸びをやめて、そのまま椅子をスライドさせながら私の方にやってきた。

「今日の成果はどうだった」

「んーとりあえず、女の人皆、声が高かったのが印象的だったかなー」

「じゃあ、一回高くして話してみろよ」


 奈央は、喉をんっんっと調整してみて高い声を出すように頑張ってみた。そしてなんとか絞り出し、

「こうかな」

と言った。それを聞いた瞬間の佐々木の表情は酷かった。

「気持ち悪!!」

「失礼な!」

 表情だけでなく、はっきりと酷い言葉まで言いやがって!と少し恨めしい気持ちになった。

 こっちだって冗談でやったわけでもないのに、気持ち悪いとまでなぜ言われなきゃいけないんだ!そう怒りを覚えつつも、なにが悪いんだろう…と声を何回も出してみるが正解が分からない。


「お前の高い声は、なんつーかわざとらしいんだよ。ちょっと鼻からぬけるようにしてみろ」

「えーっと、こうかな」

 ---なんか、良い感じじゃない!?少し、何かがつかめた気がする!!

「うん、まあ、それなら良いんじゃね。明日からは毎日それでしゃべってみろよ」

「えーきついよー」

「また、親父声になってる!」

 いつもの声に戻すとすぐに、佐々木に怒られる。てか、親父声ってすごく失礼なこと言われてない!?と、怒りが込み上げてきた。


「親父声って何よ!?」

「お前がよく出す、脱力感と倦怠感にみちあふれた声のこと」

「そんなに酷くないわよ…」

 言い返してはみるが、心の底では正直思い当たる節があるので、悲しくなってきて語尾が弱くなってしまった。


「親父声とか最低だから。今後一切だすなよ」

 佐々木が念を押してくるものだから、苛立ちもピークに達して、もういいわよ!どうせいつも親父声でしたよ!と開き直って高い声を思いっきりだし、

「はーい!明日からは頑張りまっす♪」

と、言ってみた。


 すると、佐々木はまたまた酷い表情になった。

「きもい」

「なによ。今のはちゃんと高い声で言えてたでしょ!!」

 ---確かに、多少ふざけはしたが、きもいってのは言い過ぎでしょ!!それに、声自体は問題なかったはずだし!!

「お前、年も年なんだから、ぶりっ子だけはやめろよ」

「こないだから、年年って私たち年はおんなじでしょ」

 何度も年のことを言われているが、私とこいつは同い年のはずだ!なんでそんなやつにここまで、年より扱いをされなきゃいけないのかと、また腹がたってきた。


「女の27才と男の27才は、全然全くといっていいほど違う。」

 こんにゃろー!と普段だったら手が出ているところである。

 しかし、今は指導してもらっている立場にあるため、あまり、言い返したり、抵抗したり出来ないことがなんともはがゆい。

「とりあえず、明日からは、声のトーンあげて話し続けてみろよ」

 佐々木のその言葉を聞き、心の中で、はーいとだけ返事した。




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