男系女
モテコーチ発言を馬鹿にしてやることも出来ず、悔しい思いで佐々木を睨みつけながら、自分の思いを伝えることにした。
「確かに、モテてみたいなーとは言ったけど、自分とは無縁のものに対する憧れってだけだよ。本気で、今さらモテたいとか思うわけないじゃん」
言っていて自分で自分が哀れになってきた…しかし、事実なのでどうしようもない。
私がキラキラした世界を見て僻むのは、癖のようなものだ。実際にいる自分の世界がいかに泥臭いかは分かっている。
だが、それが嫌だなんて思ったことはない。
ただ、純粋に自分とは、違うものに対して、憧れであったり、一回体験してみたいなーっと思ったり、そっちの世界のが楽なんじゃないか、などといった様々な気持ちが入り混じって僻んでしまうのだ。
だが、そんななんだかんだとは思つつ、自分の世界がやはり好きなので遠目から見ているだけなのだ。
「お前ってさ、男系女だよ」
「男系女ってなによ?」
奈央は、佐々木の急な言葉に、なんのこっちゃ分からずに、頭をひねった。
とりあえず、とんでもなく失礼なことを言われていることだけはわかったので、とりあえず睨んでおいた。
「良く言えばさばさばしてるかもしれないが、実は、ただのめんどくさがり」
グサッと胸に突き刺さった。
皆が恋人探しをしているのを横目に、一人でビールを飲んでポテトフライを摘まんでいるこの状況や、先ほど結婚式での衣装すら買いに行くのをめんどくさがって、スーツで行こうと決めてしまっていたこと等が頭をよぎった。
「お前は、付き合ったら楽そうとは思わせるが、付き合ったら楽しそうとは思われない」
またまた、グサッと胸に突き刺さった。
確かによく、男の人にお前といるのは、楽だわーと言われる。それに、男の人に、お前は面白くて本当に良い友人だよ、なんてことをよく言われる。
それはそれで嬉しいと思っていたが、人としては認めてもらっているが、誰にも女として、付き合いたいとは思われていないのだと思い知った。
「男の気持ちを分かっていて、仕事優先して良いよというかもしれないが、自分が仕事優先なだけ。むしろ男に自分が忙しい時にこられたくない。だから、忙しい時は、そもそも付き合う意思がない」
突き刺さった物で、グリグリと胸をえぐられている気分になった。
思い出したのは、大学入学の際に別れた彼のことだった。
まさに、その通り、ということしか出来ない。彼が勉強で忙しい時に、遊んでや、メール返して等と言った無理を言ったことは一度もない。
ただ、逆に、自分が忙しい時に彼に会いたいと言われると、嫌とまではいかないが、断る理由を考えるのに必死だった。
なんとか都合を合わせて会ったとしても、今日ずっとうわの空だよ、なんて言われてしまうことが多かった。
それに確かに、自分には付き合おうという意思すらないと気づかされた。
大学でも、勉強の邪魔になるし、面倒だからと思って、皆みたいに恋人探しをしたりすることもなかったのだ。
会社に入ってからもそうである、目の前の仕事に必死で、合コンなどに誘われることも何回かはあったにも関わらず、それらを全て面倒だからの一言で断ってしまっていた。
「そんな行動を続けてきたことで、男のような女、お前の出来上がりだ。なんとか女子って流行ってるけど、お前は、子って年じゃないから、男系女ってわけ」
その通りで言葉すら出なかった。ただ、ぼーっと佐々木の顔を見ている私は、なんとも間抜けな姿なのであろう。
「お前、恋人さがすのに必死な人間見て、どっか冷めた目で見てるだろ。まあ、お前の環境考えれば、がっつく男や女を見すぎてきたからそうなるのもしかたないかもしんねーけど…自分から恋人探すことすらも、恥ずかしく思ってるだろ。がっついてるって思われないかな?ぶりっこって思われたら痛いなーって」
それは、考えたことがなかった。
でも確かに自分から男の人に媚を売る姿を考えたら、いたたまれない気持ちになった。
だって、自分が、思わせぶりな態度をしたり、酒に酔ったふりに、ボディタッチをするのだ。想像しただけでうすら寒くなってきた。
「ほら、自分が、がっついたり、媚売る姿を想像して、イヤになったろ」
「なっなんでわかるの!?」
確かに、イヤになっていたが、さすがにそんなことは口に出したりはしていなかったはずだ。
もしかして、勝手に呟いてしまっていたのか不安になる。最近は、独り言が増えてきてしまっているので、本当に口に出してしまっていたのかもしれない。
年を取ると、独り言が増えると言うが、もうそういうことなのだろうか。
「いや、顔見てればわかるから。てか、お前感情が顔に出過ぎ」
そんなに顔に出ているのか…と少し恥ずかしくなった。
「てか、そりゃやり過ぎはひかれるに決まってるだろ。でも、お前はやらな過ぎ。女としての最低ラインを越えていない!」
「それは、さすがに言い過ぎではないでしょうか…」
なんとか、絞り出せた発言も、いつものように気の強いものではなく、蚊の鳴くような声になってしまった。
最低ラインを越えていないって相当ヤバいだろ。つまり、女として終わってると言われてしまったようなものだ。
でも、考えてみればみるほど言い返す要素がみつからない。
「全く言い過ぎなんかじゃないね。ただ、フォローしてやるなら、お前は女として終わっているというわけじゃなくて、女を放棄してるだけだよ」
奈央には、終わっているというのと、放棄しているというのの違いがよくわからなかったため、フォローされている気分にはならなかった。
「なにが違うの?」
「終わってるって言ったら本当に、もうどうしようもないってことだろ。でも、お前は気持ちさえ入れ替えればなんとかなる可能性が少しくらいはあるかもしれないかなーって感じ」
そんな大事なこと、言いきってよ!!と思ったが、可能性はあるという言葉に救われた。
私の女としての全てが否定されているわけではないのだと、少し安堵感が生まれた。
「だから、俺が、モテコーチになって指導してやるよ!」




