第八夜
「 Beloved person who doesn't know 」
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〜他人のあなた。〜
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余り知られてはいないだろう。
私の兄は半分すらも血が繋がらない。私が母の、三番目の彼の母の連れ子だからだ。
彼の家は複雑で、一番始めの母君は流行病を拗らせ亡くなり。二番目の、義妹を産んだ母君は自殺をなさった。
私の母は三番目で。美しく、その美貌は妖しく、だからこそだろう。
母の腹はすでに結婚前に弟を身籠もっていた。義兄がそれに眉を顰めていたのを私は知っている。
そして。
義妹を愛していることも。
私と違い二人は半分も血が繋がっている。しかし愛し合っているのだろう。それが滲んでいる。
空気に。空間に。日常に。
兄は私を憶えているだろうか。
私は兄と昔の知己であったと言うことを。“であった”。過去形だ。幼馴染みだったのだ。昔は。忘れてしまったかもしれない。……それでも良い。
私は眺めていた。叱られる妹。最早罵倒に近しい過ぎた言葉をぶつける実母。
「その辺で勘弁してやってください、お義母さん」
庇うあなた。
私には関係ない。ゆえに庇わない。構わない。
だって憔悴する妹には、兄が付いてる。品行方正の、伯母の息子でも有る義兄は母のお気に入り。……そう。
一番最初の母君は、兄の母は、私の母の姉だった。
兄は私の従兄弟なのだ。
「いい加減に、お離れよ」
私はウンザリしながら、ドーリィを見た。たまに苛々する。それよりも憐れだが。
ドーリィは妹によく似ている。だから兄は拾ったのか。人形廃棄場で棄てられ蹲っていた少女。
本当は人間の。
ひらひらふわふわ。可愛らしい、造り。顔も体も手も足も服も髪の毛の一本一本さえ。
男みたいな私とは違う体。
今現在でさえ。こんなスーツがピッタリしているくらい凸凹が無い身体。昔から可愛いモノが羨ましかった。
やさしかった兄は私を“スマートでスラッとした、滑らかなフォルムだね”と笑った。笑いながら触れた。
兄が妹にゆるされない愛を抱いていたことを知っていた。妹が狂気に犯され、自殺していたことも。
────まるで伯母が死んだのを良いことに、付け込んで入り込んだ二番目の母君────伯母の親友だったお手伝いさんみたいに。
気狂いは遺伝するのか。いや違う。母が歪ませたのだ。
よくやるものだと思う。伯母に並々ならぬ愛を抱いていた母は、伯母の後釜に入り込んだお手伝いさんを嬲り殺したのだから。
その場にいたくなかった私も家を離れたのは同罪か。
兄は妹を想い壊れ実験に没頭した。
それまで仕事だったロボット造りに。兄はのめり込んで行った。
その結果がこれだとして。
兄さん。あなたは満足でしたか?
「ご主人様……?」
兄さん。
私はあなたを憎んでいるよ。
逃げたし、何より彼女を冒し縛り付けるあなたを。
私は、憎んでいるよ。私自身が、道化でありながら。
あなたたち兄妹がまだ笑い合って生きていたころ、家族の猿芝居に付き合わされていた時代。
私はあのときから道化だったけど。今も相変わらず同じように。
あなたを憎んでる。
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