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第八夜

「 Beloved person who doesn't know 」




×+++++++++×




〜他人のあなた。〜




×+++++++++×

 



 余り知られてはいないだろう。

 私の兄は半分すらも血が繋がらない。私が母の、三番目の彼の母の連れ子だからだ。

 彼の家は複雑で、一番始めの母君は流行病を拗らせ亡くなり。二番目の、義妹を産んだ母君は自殺をなさった。


 私の母は三番目で。美しく、その美貌は妖しく、だからこそだろう。


 母の腹はすでに結婚前に弟を身籠もっていた。義兄がそれに眉を顰めていたのを私は知っている。

 そして。


 義妹を愛していることも。


 私と違い二人は半分も血が繋がっている。しかし愛し合っているのだろう。それが滲んでいる。




 空気に。空間に。日常に。




 兄は私を憶えているだろうか。


 私は兄と昔の知己であったと言うことを。“であった”。過去形だ。幼馴染みだったのだ。昔は。忘れてしまったかもしれない。……それでも良い。

 私は眺めていた。叱られる妹。最早罵倒に近しい過ぎた言葉をぶつける実母。


「その辺で勘弁してやってください、お義母さん」


 庇うあなた。

 私には関係ない。ゆえに庇わない。構わない。


 だって憔悴する妹には、兄が付いてる。品行方正の、伯母の息子でも有る義兄は母のお気に入り。……そう。


 一番最初の母君は、兄の母は、私の母の姉だった。


 兄は私の従兄弟なのだ。




「いい加減に、お離れよ」

 私はウンザリしながら、ドーリィを見た。たまに苛々する。それよりも憐れだが。

 ドーリィは妹によく似ている。だから兄は拾ったのか。人形廃棄場で棄てられ蹲っていた少女。


 本当は人間の。


 ひらひらふわふわ。可愛らしい、造り。顔も体も手も足も服も髪の毛の一本一本さえ。

 男みたいな私とは違う体。


 今現在でさえ。こんなスーツがピッタリしているくらい凸凹が無い身体。昔から可愛いモノが羨ましかった。

 やさしかった兄は私を“スマートでスラッとした、滑らかなフォルムだね”と笑った。笑いながら触れた。


 兄が妹にゆるされない愛を抱いていたことを知っていた。妹が狂気に犯され、自殺していたことも。


 ────まるで伯母が死んだのを良いことに、付け込んで入り込んだ二番目の母君────伯母の親友だったお手伝いさんみたいに。




 気狂いは遺伝するのか。いや違う。母が歪ませたのだ。

 よくやるものだと思う。伯母に並々ならぬ愛を抱いていた母は、伯母の後釜に入り込んだお手伝いさんを嬲り殺したのだから。

 その場にいたくなかった私も家を離れたのは同罪か。


 兄は妹を想い壊れ実験に没頭した。

 それまで仕事だったロボット造りに。兄はのめり込んで行った。


 その結果がこれだとして。




 兄さん。あなたは満足でしたか?




「ご主人様……?」




 兄さん。


 私はあなたを憎んでいるよ。

 逃げたし、何より彼女を冒し縛り付けるあなたを。


 私は、憎んでいるよ。私自身が、道化でありながら。


 あなたたち兄妹がまだ笑い合って生きていたころ、家族の猿芝居に付き合わされていた時代。


 私はあのときから道化だったけど。今も相変わらず同じように。




 あなたを憎んでる。







   ×Go to next story.→『黎明───零、“やがて廻り”。』×

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ゲンシツウ─あざろぐ。
aza/あざのブログ。

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