終幕日
「 It is this and an end.」
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〜後日談、と言う名の蛇足に過ぎない告解〜
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終わりは始まりだと誰かが言う。
ならば、私は何が始まったのだろうか。
地獄、と言えばそうか。この《世界》は地上に煉獄が在ると言っても過言じゃない。
神聖な愛は歪んだ精神に穢されているし。
まさに、“地獄絵図”?
兄さんは、あれから山へ登った。知らなくて良い、そう言ったのに、まるで導かれるように。そして彼は摩由璃を喪う。
摩由璃は自業自得に、自らが傷付けたロボットの逆襲を受けたのだ。や、正確にはロボットが暴走した訳じゃない。ロボットの部品が、摩由璃が付けた傷の隙間から跳んで、運悪く目を負傷した。
視覚を失った摩由璃は、母の罵詈雑言が更に耳に染みて、脳にこびり着いたんだろう。簡単に、いや、すでに耗弱していたココロでは追い討ちに過ぎなかったんだろうか、……狂って。
兄さん。
あなたも壊れたね。摩由璃と同調しているかのように。
あなたを溺愛した母は弱ってあなたに何も言えなくなり異父弟は敬愛したあなたの狂気に恐怖し、義父は使えなくなった長子のあなたを見切ってさっさと逃げた。
あなたは、家族の『神』になった。
そんなあなたを連れ出したのは私で。あなたはなぜか私の言うことだけは聞いてくれたから。
私が連れて来たのは『最果ての屋敷』だった。今度はここに君臨したあなたは軽い記憶障害を起こしていて、正気に戻るときさえ在ったけど。決まって、戻るのは“あの日”なのだ。
あなたが倒れ、私が口を滑らせ、あなたが感付いてしまったあの日。
混濁した意識で、あなたは気付いていますか?
何度も繰り返すその《世界》の歪みを。
少しは、理解しているのでしょうか。私は、演じるより外無いのだけど、もう。
『道化師』以外には。
……ああそう言えば、兄さんに『泡沫兎』と名付けられたあの憐れな男は、兄さんに願いを聴いてもらえたのだろうか? そもそも、記憶されていないかもしれないが。
先程も反応が薄かったようだし。……ねぇ。
「兄さん」
“誠実さん”。
「あなたの逝ってしまった《世界》は。
あなたの、今“いる”《世界》は
どう、なっていますか?」
愛しい摩由璃はそこで元気にしていますか? 私を、《現実》を、たまには認識してくれているのでしょうか?
もっとも。たとえそうであっても、それを私が知る術は何も無いけれど。
ただこうして寄り添うだけで。
ねぇ。
「兄さん─────
いや、
“誠実さん”」
ねぇ。
「あなたの歪んだ主観が紡ぐ《世界》で、あなたは、
今、しあわせ、ですか?」
ああ……、こんな問いを、届かないと自覚して尚─────口にせずいられないなんて、ましてや唇が震えるなんて。
「……っ……」
気に掛けてさえもらえない私の主観が捉える《世界》は、何て、何て
惨めなんだろうか。
噛んだ唇から砂に似た感触と血の味がした。
×→ This is the last episode. ……thank you.
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