クエスト7・猫妖精達の迷宮脱出?
Player―ミッド
「っ!・・・さすがに、強いぞ!」
「HPは大丈夫!?やばかったらすぐに言って!」
「ロゼ!俺のHPが結構やばい!」
「ミッドは野垂れ死ね」
「何で!?」
「いやぁー!?来ないでー!?」
・・・・・・まぁ、こんな感じで俺達はダンジョンの攻略に明け暮れていた。
『暗闇の洞窟』のEXダンジョン『常闇の聖殿』。
俺達が石像のところから歩いてすぐのところにそんな看板があった。
なんか、名前からしてやばそうなダンジョンだ。
このゲームで『神聖』や『常闇』なんて、確実にやばいと言う俺の経験談。少なくとも、俺やロゼの中堅が数人で来るような所じゃない。絶対に十人はいないとダメだ。
たぶん、カイみたいなレベルのヤツじゃないと十人以下なんて無理だろう思う。今も四方八方から動く石像が俺達に襲い掛かる。
そして、件のカイさんの方はというと、一人で二人以上の働きを見せている。
「さすがはカイだな」
「まぁ、なっと!」
カイは俺に軽く返しながらも、四方から迫ってくる敵を俺達に寄せ付けない。
「カ、カイさん、すごいですね。それに、装備も、ものすごくレアそうです」
「まぁ、確かにアレはかなりのヤツだからな」
カイの武器を一目でレアだと看破したミサに感心しながらもカイを見る。
ちなみに、当のカイさんはというと、戦線の一番前で身の丈ほどもある三叉矛を操っている。
カイの持つそれは、海を思わせるような波打つ装飾が施されており、一目で希少以上の装備であることが伺える。
まぁ、それだけカイが高レベルのプレイヤーだってコトだけどな。
「でも、ロゼの装備もかなりいいやつだぞ?」
「・・・じゃぁ、何で急に剣を?」
「・・・さぁ?」
実はロゼのヤツは、元々どこかのギルドに所属していたらしい。
アイツ自身が日本神話領の出身プレイヤーらしい。
日本神話領の特徴としては、神様がかなり多いこと。
つまり、紙級の武器がわんさかあるらしく、『守護神』も日本神話領が最大を誇っているらしい。
ただ、種族が人間しかないらしく、能力値が平均化してしまって器用貧乏感が否めないらしい。ただ、レア武器は相当に強い。簡単に言うと、日本神話領は武器に頼ったプレイをしている。
まぁ、それをごく普通の何の効果も無い武器でやるってどうだと俺は思う。
・・・・・・普通に、ドンだけ強いんだよと思う。
まぁ、それだけ多くのスキルを持っているんだろう。・・・少なくとも俺以上には。
「つか、どこまで続くんだろうな、これは」
「・・・確かに、長い」
既に、攻略を開始してからどれくらいの時間がたったんだろう・・・。
いや、実際にはメニューを開けば時間はすぐにわかる。
ただ、周りが暗く、いつまでも同じような石壁の遺跡風な景色が続き、自分の中の時間がどんどん狂わされていくような感じがする。
「おし、一旦休憩しよう」
一番こうゆうダンジョンにベテランであろうカイが休憩を申し出る。
このゲームでは、座っていたり、攻撃行動等を何もしていないとき、HPとMPが自然回復する仕様になっている。
だから、休憩は重要な要素の一つでもある。つまり魔法スキルを多用するカイにロゼは俺とミサよりも重要になってくるはず。
「え~。私はまだまだいけるわよ?」
ただ、根っからのゲーム脳なロゼは強行を提案。
・・・お前のMP、大丈夫か?結構な頻度で回復に攻撃系魔法使ってたぞ?
ちなみに、剣技スキルはMPを使用しない代わりに、必中じゃないし、スキルによっては硬直時間もある。それに、魔法と比べれば威力ははるかに低い。
「カイが言うんだぞ?ココは休憩にしといた方がいいんじゃない?それに、俺も少し疲れてきた」
「死に物狂いで働け。一日三十時間ぐらい」
ロゼに労働基準法を無視した労働を命ぜられた。
しかも、どうやっても一日じゃ足りない。と言うか、俺に過労死しろと?
「あ、あの、すみません。でも、私も自分のレベルに似合わないダンジョンに来てしまって、HPやMPが大変なことになっていて・・・」
「え?本当に?それなら早く言ってよ。じゃ、休憩しましょ」
ミサの鶴の一声で休憩になった。
・・・俺、納得できないんですけど?
「おい、何で俺は遠まわしの死刑宣告なんだよ」
「だって、ミッドはいなくても一緒だし」
なら、呼ぶなよ!?
「にしても、本当に長いな」
カイはこの先も続く、暗い遺跡風のダンジョンの奥を見ていう。
俺もカイに釣られてこの先のダンジョンを見てみる。
そこには、薄暗く、先が見通せない通路があった。
そして、俺は何気なく『気配察知』のレーダーみたいなウィンドウを見ると・・・。
「・・・おい、何でここにいる?」
「ん?どうした、ミッド?」
「・・・いきなり何?私達の目的を忘れたの?」
「違う!何で、あの、ストーカーが、ここに、いるんだよ!?」
俺は怒りのあまり、振り向きざまに投擲ナイフをこの先の通路に投げる。
すると、キンと言う軽い金属質な音が響く。
カイはすぐに立ち上がっていつでも戦えるように三叉矛を構える。
ロゼとミサはさっきから困惑した表情を浮かべるだけだ。
「誰だ。そこにいるのは・・・!」
「カイ、お前の必殺技であの変態女を葬れ」
「・・・変態じゃ、ない」
通路の先から出てきたのは『神の鎖』こと、北欧神話領『守護神』所属のイースと、そのペットの『魔氷狼』のタマ。
「・・・なんだ、イースさんか」
そういうと、カイは構えた三叉矛を仕舞ってしまう。
「カイ、今すぐヤツを屠ろう。そうすれば、世界がものすごく平和になる。特に俺の」
切実にそう思う。
「・・・何で、そんなに私のことを嫌うの?」
「・・・・・・ファーストコンタクトが最悪だったから?」
俺は正直な気持ちをとりあえず伝えておく。
いったい、轢かれてどういう風に好感情を持てと?残念なことに俺はそんなに特殊な性癖は持っていない。
「・・・そんな・・・。・・・たくさんの人は、『イース様に踏んでもらえるのならば・・・!』って言って私の隊に入ってくれるのに・・・」
「おい、何変な宗教団体作ろうとしてるんだ!?」
どうも、『守護神』は変態が多いらしい。
と言うか、このゲームの治安をそんなやつ等に任せてもいいのだろうか?
「・・・こんなに、想っているのに・・・」
「話に脈絡が無い。それに、変態は、い・や・だ!」
「・・・そんな・・・」
何故か、イースが酷く傷ついた顔をする。
・・・おい、お前等、何その、『お前、女の子いじめるとかサイテー』みたいな目で。
コイツの本性はな・・・。
「・・・ただ、調教したいだけなのに・・・」
「だからイヤなんだよ!?」
こんなにも、残念なんだぞ!?
ものすごく切なそうな声で言われても困る。
しかも、完全に空気がメロドラマな感じだ。たぶん、セリフさえ違っていたらいろいろと違ったと思う。
俺の価値観とか、世界観とか、人生観が。
「でも、何でイースさんがここにいるんですか?何かあっ・・・」
若干目上の人(?)と言うわけでか、ロゼの口調がかしこまったものになる。
そこをイースはロゼの言葉を手で制すると、ロゼの前に行き、向かい合う。
「・・・イースでいい。・・・別に、『守護神』だからって、敬語じゃなくてもいい」
「あ、はい・・・じゃなくて、わかったわ」
そこで、今度は視線をミサに向ける。
「・・・アナタも」
「え?私、ですか?・・・でも、私はコレが普通なので・・・」
「・・・わかった」
そういうと、イースは俺達に背を向け、ダンジョンの奥に進もうとする。
「まぁ、ちょっと待てよ」
俺はさりげなく逃げようとしたイースの肩をがしっと掴む。
「・・・いやん。・・・初体験は、ベッドで・・・」
「いきなり下ネタいれるな!で、何でお前がここにいるんだよ!?俺のストーキングでもしてんのか!?」
本当に、コイツは何がしたいのかわからない。
無表情で危険な単語を連発しやがって・・・!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・残念だけど、今回は違う」
「何で間が長い!?それに残念じゃない!?」
「じゃ、イースは何しに来た?まさか、ここのレアアイテムか、ユニークモンスターを捕獲でもしに来たのか?」
「ダメよ!?いくらイースでも、それはダメ!ココのレアアイテムは私がゲットして、剣造るんだから!」
カイの推測を真に受けたロゼがまくし立てるように言うが、イースはいつものように無表情で答える。
「・・・違う。今回は別の目的」
「別の目的、ですか?」
イースはうなずくと状況を説明する。
「・・・今、このダンジョンにはとある集団がいる」
「とある集団?PK達か?」
「でも、何でPKがこんなところに?それに、ここってもうクリアされてたの・・・!?」
ロゼが何故か地面に両手両膝をついて、ものすごく落胆している。
『オー、アール、ゼット・・・』とか言ってるのは無視しよう。
「・・・それも違う」
「それも、違う?・・・どういうことだ?」
「PKじゃない、集団?何で、そんなのに『守護神』が出張ってくる必要があるんだ?しかも、お前は北欧神話領の人間なのに?」
「・・・それが・・・」
何故か言いにくそうにするイース。
・・・どうしたんだ?
「『守護神』の敵対組織。というか、テロ組織みたいなのができちゃってるわけよ」
おい、この声は・・・!
「ミッドく~ん!会いたかったよ~!」
「離せ、熱い、重い、気色、わ・る・いぃぃぃいいい~!!」
俺は突然どこからともなく現れた上に、抱きついてきた師匠を離そうとがんばった。
だが、俺のSTRが足らない・・・!
「何で、こうも、変態が多い、んだよ!?」
「変態!?ミッド君にあんなことや、そんなことをするような羨・・・不届きモノは俺が成敗するっ!」
「・・・先輩のことです」
「お前もな!」
ダメだこいつ等、何とかしないと。
・・・いや、既に末期だから手の施しようが無いか。
「って、スピカさん。その、テロ組織がどうとかって?」
そう、俺が聞きたかったのはそれだ。
だって、この人達ふざけまくって話しになんないし!
いつものように全身を覆うマントに身を包んだ師匠をどうにかして引き離し、話を聞けるようにする。
「せっかく、ミッド君成分的なものを補充しようと思ったのに・・・。まぁ、いいや。俺が『戦争と死の神』から聞いた話だと、どうも『世界樹の守護栗鼠霊』のやつ等が報告しにきたんらしいんだけど、つい最近ココで一人のやたらと強いプレイヤーが出てきて、そいつがある組織を立てようとしているらしい」
『戦争と死の神』。北欧神話領、最強にして最高責任者。神器『神の投槍』を所持するヤツだ。コレがまたえげつないぐらいに強い。
『世界樹の守護栗鼠霊』。そのまんまの意味だ。世界樹に宿るとされているリスで、守護霊的な存在らしい。だが、このゲームにおいてのこいつ等の存在は全然違う。いや、ある一点においてはその通りなんだけど・・・。
諜報活動を主にした、いろいろと後ろ暗い集団だ。だが、ここにはいるヤツは相当な、それこそ神をも殺せるレベルなまでに強い。
「あ、あの、さっきからミッドさんは何の話を?」
「・・・いや、私もついて行けない」
「まぁ、だろうな。俺でさえもほんの少ししかわからないからな。ちなみにわかったのはスピカさんは相変わらずだなってトコ」
後の三人は放っておこう。説明するのが面倒だし。
「それなら、その情報は正しいんだろうけどさ・・・。どっちにしろ、出張る必要はあるの?」
「・・・やつらの目的はこのゲームの頂点に君臨することと、『守護神』の真似事」
いや、それのどこが問題?
むしろ、ゲームしてるんだから、そこを目指そうとしているのは当たり前だと?それに、比較的治安の悪い無所属領に来るんだからいいじゃん。たしか、現状では月毎に神話領が交代で見ている気がしたけど?
「うん。それだけなら、周りに一言話してもらえればそれでいいんだけどね。正直、『守護神』名乗っていても、こっちは勝手にしてるだけだから、やるなとか言えないし」
「・・・問題は、多くのPKを配下にしていること」
「たぶん、力でねじ伏せようとしてるね」
「「「!?」」」
さも、当たり前のように言う師匠。
でも、そんな事ができるわけが無い。
「しかも、中心人物が尋常じゃない強さらしくて・・・」
「・・・『世界樹の守護栗鼠霊』の報告では、PK集団数十人を一人でやったらしい。しかも、プレイヤーはまったく聞いたことが無い、無名のプレイヤー」
その言葉に、俺達はただただ、驚くことしかできない。
「ありえない。二つ名持ちでもないヤツが、そんなこと・・・!」
「う~ん・・・。運よくレアアイテムを手に入れたとか?封神演技領だったら、特殊な武器が多いって聞いたことがあるし」
封神演技領は、キャラの性能がそこまで高くない。
選べる種族も、『半仙』『仙人』の二種類。
しかも、スキルをまったく覚えないって言う特殊な性質。
ただ、宝貝と呼ばれる武器がえらく強い。
普通、武器には神器級の武器以外でスキルがついているものは滅多にない。それに、この手の武器はスキルのレベルが上がらない。たぶん、強力すぎるからだろう。
だが、宝貝には、低レベル武器でもスキルがついている。しかも、武器を装備したときにつくスキルのレベルも上がるからな。
それゆえに、一つの武器を最後まで使い続けるヤツが多く、威力もかなり強い。
要するに、大器晩成型。そういうキャラが異常に多い。
「でも、武器はがんばれば手に入るような下級のレア。防具も、アクセもね。あれぐらいの装備、みんな持ってるって程度」
「じゃぁ、ごく普通の装備で?」
「んな、ふざけた話しが?」
「・・・ココでとんでもないドーピングアイテムを見つけたわね」
お前はもう、黙ってろ。
いい加減に、レアアイテムのことは考えるな。今は、それよりも重要、というか、重大なことが起こっているのかもしれないんだぞ?
「まぁ、それでイースちゃんと俺が自分の部隊の精鋭を率いてココに来たんだけどさ・・・」
「・・・偵察と謎の究明」
確かに、そんなわけのわかんないプレイヤー相手だったら、用心しすぎて悪いことなんてない。それに、情報は時に剣となり、身を守る盾になるって言うし。
「で、他のメンバーは?すぐこの先で休んでる」
「・・・じゃぁ、何でスピカさん達は来た道を戻ってきたんですか?」
「・・・タマが、仲間の気配を感じ取った」
「仲間?・・・どういうことだ?」
いや、俺に聞かれても・・・。
『魔氷狼』には相当特殊なスキルとか、性能を持っているらしい。
「・・・簡単、タマ二号を見つけた」
「仲間じゃない!?」
「・・・じゃぁ、予定?」
「予定もない!」
イースは俺をいじりたいが為に来た道を戻ってきたらしい。
「・・・でも、そんなバランスの悪い、少人数PTでよくココまで来れた・・・」
まぁ、こっちにはカイ先生がついてるからな。
カイがいなかったら、絶対にココまで来れてない。
それほどまでに重要な人、じゃなくて魚人だ。
「じゃぁ、そんなに危険なやつ等がいるなら、俺達はどうすればいいですか?」
「う~ん。俺としてはミッド君いたら普段の百倍がんばれるんだけど、正直、PK狩りするのは見てても気持ちいいものじゃないし・・・今日のところは、帰った方がいいと思うよ?」
「おっけー、師匠。だってさ、ロゼ。今日はおとなしく帰っとこうぜ。それに、何か間違いがあってPKペナ喰らったら面倒だし」
俺がそういうと、心なしかミサの顔が若干青くなった気がした。
・・・まぁ、つい最近襲われてたからな。
「・・・そうね。しょうがないか・・・。帰りましょう」
かなり気落ちした様子でロゼは俺の言葉に従ってくれた。
・・・普段から、コレぐらい大人しかったらかわいいの・・・。
「・・・浮気は、許さない」
「何で!?何で俺がタマの前足を喰らいそうで、お前の鞭を喰らいそうなんだ!?」
「モテる男は辛いな、ミッド」
カイに文句を言おうとしたとき、急に洞窟が騒がしくなる。
そして、通路の先にチカチカと光が見える。
アレは・・・。
「戦闘・・・っ!」
「・・・バレた・・・!」
そういうと、『守護神』の二人は何の迷いもなく駆け出す。
「お、お二人とも・・・!」
「私達も行くわよ!」
駆け出そうとする二人をカイが手でとどめる。
「ちょっと、カイ。何するの!?」
「そうですよ!早く加勢しに行かないと!」
「ダメだ。カイならともかく、俺達が行っても足手まといだ」
「あぁ。相手はPKだ。逆に言えば、対人戦闘のプロでもあるそんなところにモンスターしかやったことのない俺達が行っても邪魔になるだけだ」
そういうと、カイはぶつぶつと何かをいい、スキルを発動させる。
光り輝く魔法陣のようなモノが現れたかと思うと、そこから二頭の翼の生えた馬、『ペガサス』が現れる。
その光景にロゼとミサは驚いた表情を見せる。
「お前等はコレに乗って逃げろ。適当にほっといても時間がたつと消えるからな」
そういうと、カイは師匠達の後を追って走り出した。
まぁ、コレなら万が一にでも師匠達が負けることはないだろう。
俺はロゼ達に向き直ると言う。
「じゃ、俺達は避難しようぜ」
「でも、ミッドさん。馬、二頭だけですよ?」
「てか、何でカイはペガサスの召喚スキルを持ってるのよ・・・?」
「ま、それは後でカイにでも聞けば?それに、俺は馬に乗って走るよりも速いからな」
「・・・それは・・・すごいのか・・・悲しいのか・・・」
何故かミサにものすごく微妙な顔を向けられた。
用語集
戦争と死の神・北欧神話の最高神。投げれば必ず敵にあたり、自分の下に戻ってくると言う槍・『グングニル』を所持する。また、『八足の駿馬』は彼の愛馬である。
世界樹の守護栗鼠霊・世界樹に住むとされているリスの精霊。世界樹を守護しているとされている。
宝貝・封神演技で登場する特殊な武器。様々な種類がある。
PKK・プレイヤー・キラー・キルの略。要するに、PKプレイヤーをキルすること。所詮はPK。




