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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
音速の剣士とスレイプニル
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クエスト6・破壊僧の迷宮攻略

 「はぁ!」


 無所属領のとある森。そこには数人のプレイヤーがいた。

 目の前にはモンスター。見た目は人間のようだが、高度なAIが組まれており、まるでプレイヤーと戦っているのかと錯覚してしまう。

 ただ、問題があるとすれば・・・。


 「何で、こんなトコにこんなやつがいるんだよ!」


 「知るか!むしろこっちが教えて欲しいわ!」


 「け、喧嘩はよくない・・・」


 「そうですよ!今は目の前のヤツに!」


 モンスターを睨むようにしてみる。すると、そのモンスターのうえに名前が出てくる。

 『夜叉』。俗に言う悪鬼のことだ。このモンスターは無所属領にしか出てこないモンスターだ。というかボス級のモンスター。普通はこんな森の隅っこではなく、ダンジョンの最奥にてふんぞり返っているモンスターである。


 「誰かが連れてきたのか?」


 「いや、そもそも、この森に出るって聞いたことが無い」


 「って、ほ、本当にまずいよ!?HPがもうない!」


 「マジかよ。さっきゲットしたアイテムとかどうなるの・・・?」


 「・・・やり直しだろうな」


 「死ぬ気で倒す!!」


 その言葉で一部がやる気を取り戻す。

 ただ、相手は高レベルダンジョンのボス。こっちはいいところ、中堅のプレイヤー。勝てるわけが無い。


 「ちっ!とにかく!スキを見て逃げるぞ!」


 そして、それは以外にも早くやってきた。

 相手が何かの構えを取る。つまり、スキルの発動。

 すぐに戦士系のプレイヤー二人が『夜叉』に攻撃を行う。すると、スキルのモーションがキャンセルされ、スキルは不発に終わる。

 そうして、ほんの少しだけ硬直する。


 「いまだ!逃げるぞ!」


 その言葉に、全員が従った。

 ・・・・・・ただ、一人を除いて。


 「おい!何してんだよ!」


 「いや、むしろ一気に倒そうぜ!そうすればコイツのドロップアイテムでがっぽり稼げるかもよ!」


 そういうと、そのプレイヤーはいまだ硬直状態から抜け出ていない『夜叉』に突撃していく。


 「無理だ!バカ!」


 「もういいじゃん、あんなやつ。・・・ほっとこうぜ」


 その言葉にそうだそうだと声が上がり、結局全員がそのプレイヤーを見捨てて行った。


 「・・・ハッ!俺が、コイツをぶっ飛ばしてあいつらを見返してやる!」


 そのプレイヤーは一人、『夜叉』に攻撃していく。

 だが既に硬直は解けていたのか、『夜叉』はプレイヤーに怒涛の攻撃を仕掛ける。

 そして、プレイヤーのHPバーはどんどん減っていった。


 「っく!」


 こんなはずじゃなかった。自分は、現実ではただの冴えないごく普通の少年。だが、ゲームでなら誰にも負けないと言う自信があった。それゆえに、VRゲームも自分ならすぐに頂点に立てると確信していた。

 だが、現実はそんなに甘くなかった。

 この世界ではコントローラはない。自分そのものがコントローラーと言い換えてもいい。それゆえに、そんなに運動の得意ではなかったそのプレイヤーではただの一プレイヤーでしかなかった。

 周りの人間が自分を見下しているように見えてしょうがない。・・・だから、コイツをぶっ飛ばして見返す。

 だが、現実は厳しい。硬直が解けたモンスターはすぐにプレイヤーを倒さんと怒涛の攻撃を始め、HPバーが見る見るうちに削られていく。

 既に、逃げる逃げないと言う状況は過ぎてしまった。逃げられない。

 そして、それは偶然だった。相手の攻撃に焦りを覚え、がむしゃらに剣を振るう。すると、相手の動きも止まった。

 状況が理解できず、自分の剣を見てみると、そこには相手の胸の辺りを貫く自分の剣があった。これが示すことはただ一つ。


 「や、やった。勝った・・・勝ったぞ!」


 致命的な一撃クリティカル・ヒット。今回はそれが発生し、偶然勝てたらしい。

 だが、モンスターのHPがゼロにも関わらず、何故かモンスターがドットとなって消えない。どういうことかと疑問に思いつつモンスターをよく見ようとする。すると、いきなりモンスターの原型が崩れ液状化する。そして、その液体がまるで生きているかのようにプレイヤーに襲い掛かった。

 突然のことに反応ができない。思わず、目をぎゅっと閉じる。・・・・・・だが、何も起きない。代わりに、聞きなれたシステム音が響く。

 恐る恐る目を開けると、さっきの場所だ。ただ、目の前に『Got a new skill』と言う文字が表示されていた。

 つまり、新スキルの習得。すぐにメニューを開き、スキルのタブをクリックすると、そこには横に『new』とかかれたスキルがある。

 Pスキル『阿修羅』。効果はどうもステータスにいくらか補正がつくらし。

 とりあえず、ジャンプしてみる。すると、軽くジャンプしただけで森の木々より上に出た。一瞬、何が起きたかわからず、困惑する。

 そして、重力にしたがって落ちる。無様に地面にしりから落ちるが、今のこのプレイヤーにそんな些細なことはどうでもよかった。


 「・・・は、ははっ、ははははは!」


 力が手に入った。

 これで、誰にも見下させない。

 俺が最強になる。俺が・・・。


 静かな森に、一人の哄笑が響いた。




Player-ミッド

 「・・・で、何か用?」


 「決まってるでしょ。さっさと行くわよ」


 「行ってらっしゃい」


 「アンタも来るのよ!」


 いつもの如く俺はロゼにどっかに引っ張られていかれそうになってる。

 いや、だがココでまけたらダメだ。人生諦めなければなんとでもなる!


 「いやだ!俺は今日は裁縫スキルを磨くって決めてたんだ!」


 「そんな女々しいことしてないでさっさと来る!」


 「・・・いつも、こんなのなんですか?」


 「まぁ、大体?・・・ミッド、そろそろ諦めろ最終的にはお前が折れるんだし」


 癪だけど、その可能性がかなり高い。

 最終的にはSTRに物を言わせて俺を引っ張ってくに決まってる。

 俺はため息をつくと今日は面倒なことじゃなかったらいいなと思いつつロゼの頼み・・を断る。


 「しょうがないわね。イースさんに突き出すわよ?」


 「さぁ!今日も元気に行こう!」


 「最初からそうしてろよ」


 「イースさんって・・・・・・」


 あぁ。今日も空が青いですね・・・。






 「で、今回はどこにいくんだ?」


 「しょうがないから、倒せるボスモンスターにしとくわ」


 「いや、それが普通だから」


 「・・・い、一体、何を狩ろうとしていたんですか?」


 「ん~・・・『イザナミ』とか『クロノス』とか『ファフニール』にしようかなって?」


 「全部、神級ゴッド・クラスじゃねぇか!?」


 モンスターにはいろいろと等級がある。

 その中でも、最上級に位置するモンスター達をこのゲームでは『神級ゴッド・クラス』と呼んでいる。

 というか、『イザナミ』、『クロノス』については実際に神様だ。

 『イザナミ』は日本神話に出てくる『イザナギ』の嫁さんで、『クロノス』はギリシャ神話の『ゼウス』達の親父的な存在だ。

 もちろん、コレは『守護神ガーディアン』の神の名前を二つ名に持っているやつ等が複数人でパーティを組んで行くレベルのものだ。

 まぁ、今までに出会った『守護神ガーディアン』がふざけすぎてて、実感があまりないかもしれないけど。


 「だって、今回は頼りになるカイがいるから大丈夫かなぁ・・・って」


 「俺でも無理だよ!?」


 「えぇ~・・・」


 何故かジト目でカイを見るロゼ。

 ・・・いや、お前も一人で不死龍アンデッド・ドラゴンを倒すとか無理だろ?それと同じだよ。


 「ミッドもスキルを使わせたらそれなりに強いから大丈夫かなって思ったんだけど・・・」


 「無理。俺は基本的にスキル使いたくねぇ」


 「・・・何で?」


 「別にいいじゃん。気分の問題だし、それにカンストさせたって言っても、≪リスタ・ソニック≫はそんなに強いスキルじゃないし」


 「それで強くないって・・・。ミッドさん、実はそれなりに強いのに・・・」


 なんだろう?

 ミサの呟きが俺の心にグサグサ刺さる気がする。


 「・・・でも、気になることがあるのよね」


 「気になること?・・・ミッドのことでか?」


 「うん。・・・アンタ、それで本当に全部?」


 ・・・いきなり、コイツは何を言い出すんだ?


 「ロゼさん、それってどういうことですか?」


 「だって・・・う~ん・・・」


 「何だ、はっきりしないなぁ?」


 「どう言葉にすればいいのかわからないのよ。あえて言うなら・・・女の勘?」


 ・・・そんな、女子しか持ち得ない特殊スキルを持ち出してきても・・・。


 「まぁ、なんにしてもあれが今の俺に出せる全力だって」


 「今の、なぁ・・・」


 何故かカイがニヤニヤと俺に気色の悪い笑みを向けてくる。

 ・・・ダガーで三枚におろしてやろうか?


 「っと、着いたわよ」


 着いたところは前回とは違い、薄暗い洞窟の前。

 ココは、ナゴヤのすぐ近くにあるダンジョンだ。

 確か、『暗闇の洞窟』とかそんな感じの名前のところ。

 でも、何でここに?ココは初心者用ダンジョンだぞ?


 「・・・一気にグレードがダウンしたな」


 「お前等、前はどこに行ってたんだ?」


 「『地下鉄ダンジョン』だけど?」


 「・・・おい、初心者連れてどこに行ってんだよ」


 「はい?」


 「いや、うっかりしてたんだって」


 実は、あの『地下鉄ダンジョン』は中級でも結構苦戦するダンジョンだったりする。理由としてはあそこは幽霊ゴースト邪精霊カース・エレメントと言った物理攻撃の効きにくいモンスター。そして、複雑な迷路。よくあるのがMPが尽きて帰ろうと思ったら道に迷って死ぬっていうパターン。

 こっちから何もしなきゃあっちは攻撃してこないんだけど、攻撃した瞬間に周囲のモンスターはこっちに一斉攻撃を仕掛けてくる。

 まぁ、前回はイースがタマを使って蹴散らしていてくれたのかまったく来なかったけどな。


 「で、何でロゼはココに?ココって初心者用ダンジョンだろ?ミサのためか?・・・でも、それだとお前の剣の素材でいいのが手に入らないんじゃないのか?」


 「え?違うわよ。つい最近、ココで奥に続く道が見つかったんだって。ひょっとしたら、レアなモンスターがまだいるかもしれないでしょ?」


 ・・・なんというか、不吉だ。

 要するに、隠しダンジョンかなんかだろ?そういう所の敵って、かなり強くね?


 「・・・なぁ、カイ。隠しダンジョンってどのくらい強い?」


 「・・・いや、俺も初めてだからわからない」


 「じゃさ、ここ以外に聞いたことは?」


 「微塵も」


 なるほど、未知の空間に突撃するわけか。

 しかも、おそらくはココがつい最近になってやっと見つかった隠しダンジョン。

 ・・・・・・初心者ダンジョンの隠しだから大丈夫だよな?




 「いやぁぁぁぁああああああ!?」


 「死ぬ!死ぬ!無理!」


 「た、助けてください~!」


 今、オレ達の目の前を涙目になりながらプレイヤーが爆走していった。


 「・・・なぁ、ロゼ。考え直さない?」


 「アンタ、バカ?敵が強い=まだレアアイテムが!・・・と言うわけで行くわよ!」


 そういうと、ロゼはずんずん前に進んでいく。

 さっきのロゼの話だと、ダンジョンの奥にあるっぽいからここら辺の敵は大丈夫だろうけど・・・。


 「ココよ」


 「近っ!入り口に近っ!」


 入って三秒。入り口近くのいかにもな彫像の前。

 いや、たしかにこんなところに不自然に一個しかないから何かあるんじゃないかといわれていたけど・・・。


 「でも、コレ何しても意味がなかったんだよな?」


 それこそ、殴る蹴るの暴行紛いのことから。お供え物的な感じにモンスター素材を置いていったり、回復アイテムを置いていったり、変化が無いかココで張り込んだり。

 で、結局何もなかったって話だったはずなんだけど・・・?


 「えぇ。でも、今は関係ないわ・・・ミッド、こっちに来なさい」


 ちょいちょいとロゼが俺を手招きする。

 なんだろうと思いつつも俺はロゼの近くに。

 すると、ロゼは俺の右手を両手で包み込むようにして握る。

 何故か、ミサがきゃっと可愛らしい悲鳴をあげ、そしてロゼは・・・。


 「どぅおりゃぁぁぁぁああああああ!!」


 「ごはぁ!?」


 あまりに女子らしくない雄叫びを上げ、ハンマー投げよろしく、俺を思い切り彫像に向かってぶん投げる。

 ものすごい音がしたかと思うと、俺が何かを突き抜ける感覚。

 あぁ、なるほど。コレが、自分の魂の抜ける感覚か。短い人生・・・今や猫生となってしまったが、悔いは・・・・・・あるけど、まぁいいか。


 「み、ミッドさーん!?」


 「・・・」


 「コレでおっけー。・・・さっさと起きろ、ダメネコ」


 「誰がダメネコだ!つか、何、人でハンマー投げしちゃってくれてんの!?マジで、ガチで死んだと思ったよ!?」


 つか、ミサとカイがドン引きしてるぞ!?


 「大丈夫よ。コレはゲームだから死なないから」


 「うわぁ、お前、ココから出たらまず最初にお前相手に裁判起こしてやる!」


 「面白いわね。逆○裁判のネトゲがあるの?」


 「違ぇ!暴行罪で訴えるんだよ!?」


 「だから、ゲームでしょ?」


 「よし、まずはゲームから離れような、そのゲーム脳じゃ難しいかもしれないけどな!」


 「・・・つか、マジでこんなところに隠しダンジョンがあったんだな」


 そう言われて俺は周りを見る。

 そこは、ついさっきまでとは違い、石造りの壁に床、天井。まるで、古代遺跡の中にいるみたいだ。

 ついさっきまでのただの洞窟とは大違い。


 「・・・あれ?俺達、何でいつの間にこんなダンジョンに?」


 「ん」


 カイが指をさす。

 その方向を見ると、そこには土の壁。つか、ものすごく見覚えがある。


 「・・・まさか、あれが洞窟のダンジョン?」


 「あぁ。で、ロゼがお前をハンマー代わりに彫像をぶち壊してココへの道を造ったんだ」


 なるほど。あの彫像は一定以上の攻撃力があれば破壊できる、破壊可能オブジェクトだったわけか。で、俺はあの彫像を壊すためのハンマー代わりにされたと。

 ・・・納得できるか!

 俺はあたりをキョロキョロと見渡すロゼに詰め寄る。


 「何で俺がハンマー代わりにされなきゃダメなんだよ!」


 「・・・あぁ、だって、あそこは打撃系攻撃じゃないとダメみたいなのよ」


 「じゃ、殴ればいいじゃん!?」


 「だって、拳が痛くなるじゃない」


 「だからって、俺にダメージを与えるな!」


 鬼だった。

 いや、なんか極悪非道な生物的な何かだな、コイツは。


 「まぁ、さっさと行って、アイテム採るわよー!」


 やたらと元気なロゼが先頭を歩き出し、俺達のダンジョン攻略の幕が開けた。


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