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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
音速の剣士とスレイプニル
6/52

クエスト5・踊り子襲来

Player-ミッド

 俺達に向かって咆哮ブレスの構えを取る不死龍アンデッド・ドラゴン。ダメだ。間に合わない。思考が体に追いついてない。

 できれば、こんな思い他のヤツにはさせたくなかったのにな・・・。






 「いつも言ってるじゃん。不死龍アンデッド・ドラゴンはオーバーキルしたほうがいいって」






 そんな言葉が聞こえたと同時に、いきなり不死龍アンデッド・ドラゴンのHPバー残量が消失。すると、今度こそ倒れ、ドットへと変換されてそこから消えた。

 代わりに別の人影があった。

 その人はマントを被り、フードを目深に被っていた。そして、頭にとがったところがあり、おそらく猫妖精ケットシーであることがうかがい知れる。


 「あ、貴方は・・・!」


 「ん?・・・何?」


 「・・・まさか、ミサが言ってたのって!」


 「・・・マジかよ」


 「はい!あの時、助けてくれた人です!」


 そういうと、マントの人物は何かを考える仕草をすると、ぽんと手を打つ。


 「あぁ、つい最近助けたPK集団に襲われかけてた子だ。・・・わざわざ探してくれてたの?悪いね~」


 「・・・以外にフレンドリーですね」


 「まぁ、そんなことはさておき・・・」


 そういうと、マントの人は俺のほうを見る。

 ・・・やっぱりか。なら、することは決まっている。


 「ダメだよ。逃げたら」


 「いやぁぁぁぁああああああ!?俺はまだ死にたくない!」


 「大丈夫大丈夫。死んでもどうせ『ナゴヤ』で生き返るでしょ」


 「許して!今回はロゼに無理矢理連れ出されたんだ!!」


 「でも、今回はちゃんと連絡入れたよね?しかも三日前ぐらいに」


 「アイツを怒らせるとものすごく怖いんだよ!?ホントに!だって、ボコボコにされても回復魔法で俺のHPバー回復してもっかいボコるんだよ!?もうイヤだ!!」


 あっけにとられている女子の方々には申し訳ないが俺は今、生命の危機に瀕している!


 「・・・ミッドさん、知り合いだったんですか?」


 「やっぱ、ミッド、その人・・・」


 「そうだよ!だから助けて!!」


 俺が肯定した瞬間に、ロゼはダッシュで逃げ出した。

 この野郎!?俺をおいてくか!?


 「イースちゃん!逃がさないで!!」


 「!?・・・わかった」


 「イースさん!?お願い!見逃して!ミッドあげるから!!」


 あの、クソ野郎!俺をドンだけ売れば気がすむんだ!?


 「・・・今回、それは難しい、かも?」


 「あのぉ・・・どうなっているんですか?」


 ただ一人、蚊帳の外状態なミサがつぶやくが誰も答えてくれなかった。






 突然だけど、このゲームにある特殊なシステムについて説明しよう。

 このゲームには、ごく普通のスキルと、Pスキルがある。

 Pスキルは確かに上げにくいうえに、スキルの習得条件がめんどくさいが、これを簡単にする方法が一つだけある。

 すなわち、『弟子入り』と呼ばれるもの。例えば、自分が覚えたいスキルを知り合いが知っていて、かつ熟練度が70パーセント以上たまっていれば、そのスキルを一時的に『弟子』となることによって覚えることができる。だが、もちろんそれだけだと師弟を解除すれば元通りになる。

 そこで、スキルを教える側、つまり『師匠』と『弟子』で何回かクエストをこなすと覚えることができる。熟練度も師匠の熟練度の十数パーセント分を貰える。それに、『師匠』になった側もスキル熟練度の上昇率が上がるため、結構いいシステムだと思っている。

 でも、『師弟を組む』ということはお互いの手の内を明かしあうのと同じなため、実際問題としてこのシステムを使う人はあまりいないというのが現状。


 「この人が、ミッドさんの『師匠』!?」


 「・・・はい。本当に、不本意ですが」


 「さて、次はどこに行こうか?・・・うん、不死龍アンデッド・ドラゴンがたくさん出てくるところにしよう」


 「すみません!本当に勘弁してください!」


 そういうこと。何の因果か、俺はこの人の『弟子』だ。


 「で、いい加減にマント外したほうがいいのでは?」


 「あぁ、そうだね」


 そういうと、マントを何のためらいもなくひょいと外す。

 そこには、猫の耳をつけた人間。


 「・・・やっぱり、貴女」


 「・・・あれ?猫妖精ケットシーじゃない?」


 「違う違う。これは変装用のネコミミの装飾品アクセサリー。一応『守護神ガーディアン』なもんだし、PKの方々に目をつけられると面倒だなーって思って」


 「『守護神ガーディアン』、ですか?」


 「あぁ。この人は『スピカ』。・・・可愛い名前に反してやることなすこと極悪だ」


 「さて、せっかく愛しのミッド君に会いに来たのにな~」


 「黙れ、変態女」


 「・・・女?」


 「ん?そうだけど?」


 「・・・すみません、一人称は?」


 「『俺』」


 「・・・」


 「・・・そういうこと。俺もまさかと思って今日聞こうと思ってたんだけどな」


 「・・・えぇ~」


 ですよね~。

 いくらなんでもって思いますよね~。

 それに、これじゃどんなに探しても見つからないわけだよ。

 コイツは俺の『師匠』の『スピカ』。

 なんと、コイツも『守護神ガーディアン』の一人。

 二つ名は『八足の駿馬スレイプニル』。あまりにも速過ぎるためについた。

 まぁ、名前からわかるとおり北欧神話領の『守護神ガーディアン』だ。

 だから、『神の鎖グレイプニル』のイースとは顔見知りのはずだ。しかも、こっちの方が一応は先輩だし。


 「というわけでイースちゃんもお久さ~」


 「・・・久しぶりです。・・・タマ二号は、先輩の『弟子』だったんですね。・・・どおりで」


 「ん?タマ二号?」


 俺は師匠にコイツからストーカー被害を受けていることをすぐに報告。


 「というわけで何とかしてください」


 「わかったよ。・・・イースちゃん、ミッド君が欲しければこの俺の屍を越えて行け!!愛する弟子をどこの馬の骨とも知れない泥棒猫、じゃなくて犬にやれるか!」


 「違う!?そういうつもりで言ったわけじゃない!?しかも知り合いだし!?」


 「・・・っふ。わかった。・・・いつか、先輩とは、決着をつけたいと思っていましたから。・・・でも、勝ったら・・・タマ二号は貰う・・・!」


 「ふん!それは勝ってから言うがよい!!」


 そういうと、何故かワケのわからないバトルが発生した。

 師匠が素早くメニューを開いてイースに決闘(PVP)の申し込みをすると、イースは迷わずOKする。そして、なんかやり始めた。いや、端から見てても普通にハイレベルな戦いなんだけど、理由がねぇ・・・。


 「・・・ねぇ、何でこうなったわけ?」


 「・・・さぁ?」


 「あ、あのぉ・・・。私、スピカさんにお礼を言いたいんですけど?」


 「遅い!そんなのじゃ、ミッド君をお嫁にあげれないね!」


 「・・・でも、一撃はこっちが強い」


 いや、嫁じゃないし。

 しかも、本人の了承無しに景品にするな。


 「・・・帰るか」


 「・・・そうね」


 「え?でも、お二人だけ・・・」


 「大丈夫、殺しても死なない人達だから」


 そういうと、決闘を始めた二人を残して俺達は『ナゴヤ』に帰った。

 何だかものすごく疲れた気がする。






~翌日~

 「それは・・・、災難だったな」


 「ホントに。もう、カオスとしか言いようがなかった」


 いつもの広場のベンチで俺とカイが話してた。

 ロゼは魔宝魂ソウル・オーブ忘れた!?とか言ってまたもモンスターの情報を探しに行ってるらしい。・・・次回は連れて行かされないようにしよう。ものすごく面倒だ。


 「でも、俺もひょっとしたらって思ったけどさ・・・まさか、な」


 「俺もビックリだよ。・・まぁ、師匠は普段バグモンスターを狩ってるからな」


 俺の師匠であるスピカは北欧神話領における遊撃兵みたいなものだと聞いた気がする。

 そして、師匠は自由気ままにいろいろな神話領に行っては適当にダンジョンをソロで制覇し、困っている人がいれば助けるという完璧な『正義の味方』だ。

 まぁ、周りから偽善者だとか言われていたりもするけど、俺は別に師匠がそうだとは思わない。だって、人を助けて見返りとか一回も求めないし、困ってそうだと思えばすぐに走って現場に急行。

 下手な『守護神ガーディアン』の人よりも守護神・・・らしいと思う。


 「そっか~。ミッド君は俺に惚れちゃったか~」


 「何でこうも簡単に空気をぶっ壊しますかね、師匠?」


 しかも、惚れたとか一言も言ってない。


 「もう!二人のときは『スピカたん』って呼んでって言ってるでしょ~」


 俺は一度もそんな特殊なルールを聞いたことは無い。

 つか、聞いても無視する。


 「・・・スピカさん、俺もいますが?」


 「ん?おぉ?・・・・・・そうだ!カイ君じゃぁないか!」


 「・・・師匠、忘れてましたね?」


 「大きくなったね~」


 「いやいや、ゲームなんですから、大きくなるわけないでしょ?」


 「前まではこんなだったのにね~」


 そういうと師匠は自分の腰あたりで手を持っていく。

 いや、アンタ、それほど昔からカイと知り合いだったの?


 「いや、普通にゲームで初めてですよね?」


 「ノリが悪いなぁ・・・」


 アンタについていける人は絶対にいない。


 「で、何で師匠が?」


 「もちろん、なんか変なモンスターがいるって噂聞いたからだけど?」


 やっぱりか、と俺は思った。

 突然だけど説明ターイム!

 実は、このゲームではネームカラーによってどこの神話領に所属しているのかがわかる。

 例えば、俺の師匠は北欧神話領に所属していて、ネームカラーは緑だ。これは、領地争奪戦の時に仲間を誤って攻撃しないようにするための措置らしい。ちなみに、色分けはこんな感じ。


北欧神話・・・緑

ケルト神話・・・茶

ギリシャ神話・・・白

エジプト神話・・・黄

日本神話・・・青

封神演技・・・オレンジ

無所属・・・灰


 さらに、犯罪者プレイヤーやモンスターは赤色だ。

 そして、ゲームの目的は領地の争奪戦。それゆえにか領地同士の干渉はあまり好まれない。だから、暗黙の了解であまり他の領地には極力入らないようにしている。無所属領は例外だけど。まぁ、ダンジョンであったら挨拶ぐらいはするよ?マナーだし。 

 でも、師匠は北欧神話領の人間でありながらもいろいろな領地に行ってる。理由は簡単。俺達が出遭ってしまったバグ・モンスター。そいつの駆除を率先してやっているからだ。

 今回も、無所属領にあのバグ・モンスターがいたから俺と一緒に駆除しようとでも思ったんだろう。まぁ、運悪くあぁなったわけだけど。


 「やっぱりですか」


 カイは一応俺と師匠の事情を知っているからか、顔を曇らせる。


 「大丈夫大丈夫。今回はどうも痛みのバグだけみたいだったから」


 そう、あっけらかんとして言う。だけど、この人はもっとやばいのと戦ったことがあるらしいしな・・・。

 俺達が暗い顔をしていると師匠は明るい声を出す。


 「もう!こんな俺みたいな美少女がいるんだからさぁ~。もっと、元気出していこうぜ!」


 「・・・まぁ、やたらと男らしい気もしますけど」


 「何を言うか。・・・・・・それで、本題だけどいい?」


 「「・・・」」


 俺とカイは半ば予想していた。

 つか、そうじゃなかったら普通にどっかで待ち合わせて会おうなんて言わない。

 だって、この人は確かに俺の師匠だけど、それ以前に北欧神話領の『守護神ガーディアン』のメンバーの一人だ。


 「まぁ、予想しているとは思うけど、こっちに来ない?」


 どこに?とは聞かない。いや、わかってるからな。

 こっちとは、北欧神話領のこと。そして、俺の『守護神ガーディアン』のメンバー入り。


 「正直な話、俺はあまり・・・。まぁ、どうしてもと言うのなら・・・」


 「そっか。いいよいいよ。だって、ココにはカイ君もロゼちゃんもいるしね。・・・確かに、『守護神ガーディアン』になっちゃったら北海道に引きこもらないといけなくなるしね~」


 師匠は笑いながら冗談めかして言う。

 確かに、それもある。だが、それ以上に・・・。


 「だって、俺は『音速の剣士』ですよ?たぶん、このゲームで最弱と言われる攻略組のプレイヤー。そんなのが『守護神ガーディアン』入りしたら全プレイヤーから袋にされますって」


 「ミッド、俺達はお前が言うほど弱くないことは知ってるぞ?」


 カイがそういう。

 何を言いますか。自身がかなりのハイレベルプレイヤーの癖に。


 「俺にできるのは走ることと、≪リスタ・ソニック≫それだけ」


 「・・・はぁ、わかったよ。でも、俺は別にお前が行ったからって疎遠になったりしないぞ?」


 「・・・いや、ロゼが怖い」


 「・・・がんばれ」


 励まされた。

 何故か励まされた。


 「ほいほい。男の子のあつーい友情はわかった。でも、こっちも準備はできてるからね」


 そういうと、師匠は一つの指輪を取り出す。

 それは、俺が見たことのある装飾品アクセサリーで・・・。


 「いつでも、この『かそくそーち』は渡せるよ」


 「そうそう、『かそくそーち』・・・って、違うわ!何勝手にリネームしてるの!?」


 「・・・うわぁ。レア装備が見る影もない」


 「そう?カッコイイと思うのに・・・」


 いや、『かそくそーち』とか最早ネタでしかない。

 ネタであるのかどうかも怪しい。というか、どんな悪ふざけだ。


 「ま、気が変わったらメールでも送って」


 「はいはい。俺も変なモンスターの噂聞いたらこっちのは何とか対処しておきますから」


 そういうと、師匠は歩いていった。

 広場に残ったのは俺とカイ。

 しゃべる言葉が見つからず、沈黙が支配する。

 時間の関係上、今はほとんどの人がダンジョンに向かっているからな。


 「なぁ、別に俺達のことなら気にしなくてもいいんだぞ?」


 「いや、俺が『守護神ガーディアン』?ありえないって。ただ、それだけだよ。それに、俺は臆病な剣士様だからな」


 そういうと、俺も自分の棲家にしている宿屋に向かって歩いていった。




用語集

神の鎖グレイプニル・北欧神話に登場する神器の一種。魔氷狼フェンリルを繋ぎとめた。実際には鎖ではなく、妖精が作り出した紐のこと。



八足の駿馬スレイプニル・北欧神話に出てくる架空の獣。八本足の馬のような生物。超速い。


師弟・Pスキルを教えあう、あるいは極めるのを助けるシステム。あまり利用する人はいない。


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