クエスト48・ラタトスク
大変お待たせしました。
今回、少しだけ長めです。
また、アンケートを明日か明後日にリンクを削除しますので、お気軽にお願いします。
Player-ミッド
「悲しい事件だった」
「そうだねー」
「いやぁ、久々にスッキリしたわ!」
「不用意にスキルを使うなと何回言えばわかるんだ・・・」
「「「「・・・」」」」
なんだか、へな子達がアスカに畏怖の念を送っているような気がしないでもないが、よくあることなので無視しておく。それよりも、俺はこっちにいる、見知らぬプレイヤー達の方が気になる。
「で、こいつらは?」
「あぁ、その子達はギルド入れてってさ」
師匠の簡潔にしてわかりやすい説明。
なるほど。だが、こいつらはへな子達と違ってアスカにビビッている気がする。どうするんだと雑用担当のトムに丸投げするためのアイコンタクトを行使。そしてトムはそんな俺の視線を感じ取って、ため息を一つつく。
「・・・アレと一緒に突っ込んでいく仕事だが、それでもいいのか?」
「あ、急用思い出しました。すみません、失礼します」
そう簡単に言うと、無意味にキビキビとした動きでここから離れる、もとい逃走を行った。
「結局、こうなるのねー」
この現状を生み出した張本人が何を言うか。
・・・まぁ、いつものことだ。気にしないでおこう。
それよりも、だ。俺はこっちの方に言いたいことがある。
へな子達に向き直ると、四人はびくりとその体を一瞬だけふるわせる。
「俺が、何を言いたいのかわかるな?」
自然と声が低くなる。そのせいか、へな子達は俺と目を合わせようとせず、全員が思い思いの方向へと視線を泳がせている。
俺はため息をつくと、今回のことの反省の意味も込めて振り返る。
「今回のバグモンスターは、特に痛覚のバグがなかったみたいだからよかったものの、何かの拍子にわけのわからない攻撃されたらどうするんだよ。それに、バグモンスターに個体差があるなんて今回初めてわかったんだぞ」
これはあくまで予想だが、おそらくあっている。フェンリルやシヴァ、イダテンには痛覚のっバグがあったが、ヴィゾーヴニルにはなかった。しかし、こいつにはマップを無視して移動するというバグがあった。どうやら、バグモンスターだからと言って全てに痛みを感じるということがあるわけではないようだ。なら、これ以外にも凶悪なバグがあるかもしれない。注意しておかなければ。
「・・・それでもまぁ、お前らが無事でよかったよ」
俺は言いたいことだけ言うと、こいつらに背を向けて歩き出す。そしてそんな俺に続くようにして師匠達がついてくる。だが、後ろの四人はどうしたものかといった表情で俺たちの後姿を見つめるばかりだ。
「・・・さっさと戻るぞ。もうすぐモンスターもリポップするだろ。遭遇する前に帰ろう、俺達の『世界樹』に」
「でも、俺達は・・・」
ハンゾーが何かを言いかけるが、俺はその言葉を遮るようにして脅す。
「さっさと行かないと、今度はこっちが逝かされるぞ?・・・この『戦争と死の神』に」
「ちょっとミッド、それは心外よ!?」
「もうお前、トムの指示がない限り絶対にスキル使うなよ!」
「また俺か!?俺はお前達の保護者じゃないんだぞ!?」
「まぁまぁ、いいじゃん。トム君は俺の一個上だし、十分保護者だよ」
「なぜ俺はこいつらに出会ったんだ・・・」
トムが人生を嘆き始めたが、いつものことなのでスルーしておく。
そして、そんな平常運転の俺達を見たへな子達は、互いの顔を見やると、なぜか嬉しそうな表情で俺達の後ろを追いかけてきた。まぁ、何はともあれ一件落着か。
・・・・・・・・・だが、本当に何もなくてよかった。
Player-へな子
『世界樹』に戻ってきたへな子達は、ここ最近いろいろあったせいでか夜を待たずに借りている部屋で死んだように眠り込んだ。
今だ赤く彩られている部屋の中で眠ったはずだけど、次に目が覚めた時は月明かりが照らす、仄暗い部屋にいた。へな子以外は全員ぐっすり寝ているのか、周囲の音が全くしない。
・・・まるで、へな子だけが別の世界にいるようだった。
何の気はなしに、へな子は自分を抱き枕にして眠るツンちゃんから抜け出して、部屋の外に出る。そこで、誰かにぶつかった思った瞬間、光る眼玉がへな子を見つめた。
「―――!?」
(幽霊!?)
声にならない、というか声に出せない悲鳴を上げた時、幽霊の方から話してきた。
「へな子か?どうしたんだこんな時間に?」
自分を呼ぶ声で冷静さを取り戻し、メモ帳機能で話しかける。
「(ミッドさん?)」
「決まってるだろ。・・・あぁ、この目のせいか。ちょっと待ってろ」
そういうと、ミッドさんの光る眼が突然光をなくした。
・・・なんで?
「これはな、Pスキル『猫眼』って言うんだ。『暗視』と『望遠』のスキルを兼ね備えたEXスキルだ。まぁ、『梟眼』と比べると能力値も合わさったスキルも劣るんだけどな」
・・・だいたい察しがついた。
「(猫という理由だけで入れたんですね)」
「まぁな!」
胸を張って答えられても困る。
でも、それだと疑問が出てくる。
「(こんな暗い中、なんでスキルを使ってまで?)」
そう聞くと、ミッドさんがピシリと固まる。そして、どこか照れくさそうに一言。
「・・・まぁ、練習だ。うん」
「(練習?あんなに強いのに?)」
へな子は、あの数のPKを相手に守ってくれたミッドさんが弱いとは思えなかった。それに、覚えているスキルもかなりチート臭いのが多いし、周りでフォローしてくれる人も凄腕。・・・スピード狂だけど。
「まぁ、言っても俺はスピードしかないからな。対策されれば一瞬で積む。だから、スピードに慣れるための訓練をここの上でやってたんだけどな。・・・それに今回は、コイツの性能を確かめたかったからな」
そう言って示すのは、『長靴』。バランス感覚強化のスキルを持つレア防具。ただし、あまりこの人以外にとっては無用の長物と化している。
・・・へな子も持ってるけど。
なんとなく、そのことをミッドさんに伝えると案の定、ミッドさんはへな子の言葉にお驚いて逆に訪ねてきた。
「マジかよ。あのNPC、かなり早かっただろ?それこそ俺の全力には及ばないまでも、ちょっと本気出さないとダメだったぞ?」
なぜか、ミッドさんが同類を見つけたような期待の眼差しでへな子を見つめる。
・・・目が、すごくキラキラしている気がする。
「(へな子は爆殺しました)」
「・・・そっか」
ミッドさんはものすごく切なそうな表情でへな子に一言だけ言った。ひどくへこんでいるので、へな子は空気を読んで脱線した話を元に戻してみる。
「(結局、なんでこんな時間に?)」
「・・・まぁ、昼間じゃあのアホな幼馴染がうるさいからな。というかいろんなところに引きずり回されてそれどころじゃないんだよなー」
その言葉に妙な説得力があり、へな子はうなずいた。確かに、あのお二方とミッドさんの力関係ならそうなることは簡単に予想がつく。そんな風にへな子の中で納得していると、ミッドさんはへな子に向き直ってこう言う。
「お前も、来るか?」
「・・・」
その言葉に、迷った。
けど、脳裏に浮かんだのはあの狂ったモンスターたちに向かっていく、ミッドさんの後姿だった。そして指が勝手に言葉を綴った。
「(行く)」
やってきたのは、世界樹の最上層にあるダンジョン区画。元々が神級のダンジョンだったせいか、かなりの上級者向けの難易度だ。けど、ミッドさんはそんなダンジョンにもかかわらず、軽やかに足を進め、モンスターの攻撃を回避する。
そしてヘへな子はそんなミッドさんを、ただただ眺めていた。
「まぁ、こんなもんかな」
知りたい性能がわかったのか、『エインヘリアル』という名前のモンスターを≪スレイプニル≫で倒す。
「これ、結構ふざけた装備だな。たぶん、足の裏で蹴れば発動するんだろうな。モンスターだろうが、壁だろうがどこでも走れるぞ。・・・もしかしたら、水の上もか・・・?」
「(それはたぶんあなただけです)」
少なくとも、へな子もいろいろと実験はしたけどモンスターは走れなかった。
・・・壁は少しなら走れたけど。
ミッドさんはそんなへな子の言葉に苦笑して、言葉を続けた。
「まぁ、コイツがあれば今度バグモンスターが出ても何とかなるだろ」
「・・・」
なんでこの人は・・・。そんなへな子の心の声が聞こえたのか、ミッドさんは話題を自分から振ってきた。
「俺さ、狂ったフェンリルに右腕を食いちぎられた事がある。痛覚はあった。というか、奴の攻撃を食らった瞬間に、虚構が現実とほぼ同じになった」
その言葉に、思わず絶句した。この人はへな子と同じような、あるいはそれ以上の痛みを感じたのかもしれない。そんなへな子の表情をどのように解釈したのか、ミッドさんは顔をへな子からそらし、話をやめてしまった。
そんなミッドさんの目の前に行き、メモ帳を突きつける。
「(なぜ、そんな思いしてまでこのゲームを?なぜ、あんな化け物の前に立てるんですか?なぜ―――)」
「ちょ、ちょっと待て。落ち着け、ひとまず落ち着こう」
ミッドさんが止めるを無視して、へな子はなぜ、なぜと言葉を紡ぎ続けた。文字を変換するのも忘れて打ち続ける。
そして、気づけば・・・。
「・・・お前、泣いてるのか?」
泣きながら、文字を打ち続けていた。
でも、それにもかかわらずへな子は文字を打つ。
―――なぜ、貴方はそんなに強いの―――
それが、一番知りたかったことだ。
「(へな子は、どうしようもなく弱い)」
だからあの時、逃げることしかできなかった。
「(あのとき―――)」
もしも、へな子に強さがあれば―――。
「(へなこがちゃんとうごけていれば)」
みんなは―――。
「(あんなおもいしなくてもよかった)」
文字を打ち切ると、へな子の目からはとめどなく涙があふれてきた。でも、そんな時でも泣き声の一つすら出すことできなかった。そんな自分に嫌気がさしてきた。
「・・・俺は強くなんかない」
ミッドさんは、そんなことを言う。
けど、そんなことが言えるのだって、自分が弱いということを認めることができる強い心を持つ、『強者』の言い分だ。
出せない声で、ミッドさんに食って掛かろうとしたとき、へな子の頭にミッドさんの右手がのせられた。そして、どこか困ったような半笑いの顔で言葉を続ける。
「本当ならそう言いたいんだけど、今回だけは『俺は強い』ということにしておこう。一応、完全な不意打ちかつ、『神殺し』のコンボでバカップル倒したしな・・・」
最後の部分で、どこか遠い目をして言う。
けど、その言葉でへな子とミッドさんにはどうしようもない壁があるように感じて、頭をなでられているにもかかわらず、彼がどうしようもなく遠い存在のように思えてしまった。
やっぱり、へな子は・・・。
「だから、この強さでよければ、お前に全部やるよ」
そんな言葉とともに、へな子の目の前に見慣れない表示枠が現れる。そこに書かれているのは、ミッドさんがへな子と師弟を組みたがっているというもの。
一瞬、この人は何を言っているんだろうと、思った。
「さっき、俺は強いって言ってくれたけど、悪いな。やっぱり俺はどうしようもなく弱いよ。現に、助けようとしたお前たちを守ることができなかった。だから、俺はこう言おう」
ミッドさんはへな子の目の前にどかりと座り、頭を撫でていた右手を差し出す。
「一緒に、強くなろう。あの、不条理に負けないような、な」
へな子は突然の話に、ミッドさんの差し出す右手と、その顔を交互に見ることしかできなかった。
ミッドさんの言葉を自分の中で反芻し、やっと理解しても、どこかそれは現実味がなかった。
「(でも―――)」
「お前は、今のままでいいのか?」
「(へな子は―――)」
「―――お前、来ないか?」
ミッドさんはこっちのことなんか無視して、まるで来るのが当たり前とでも言いたそうな調子で言う。
それができれば、どんなにいいことだろう・・・。
でも、へな子にはそんな強さも、資格もない。
「(でも、へな子達は本当に弱いです)」
「知ってる。けど、俺はお前らにならこのギルドに入ってもらいたいと思う。まぁ、あの三人は何とか説得してみる」
でもめんどくさそうだなーと言うあたり、本当にこの人はお人好しだと思った。ミッドさんは説得の方法でも考えているのか、何かを考えている。
ここで自分の弱さに甘え、ミッドさんの手を掴んで強くしてもらうのは簡単だ。けど、どうしてもそれが自分の中で許容できない。
「(こんな、寄生みたいな真似をして手に入れた強さに意味はあるの?)」
思わず、そんな言葉を打っていた。
ミッドさんは目を見開いて驚くと、どこかばつの悪そうな、苦い笑みを口の端に浮かべていた。そして何か言葉を続けようとしたとき、へな子の足に何かがまとわりついてきた。
それに思わず飛び上がり、ミッドさんに隠れるようにしてくっつく。
ミッドさんは何事かと、さっきまでへな子がいた場所に素早く目を走らせる。
「・・・こりゃまた、珍しいヤツだ」
ミッドさんはそういうと、目にもとまらぬスピードで手を一閃。そこには何かが握られていた。ミッドさんはそれをへな子に見えやすいように目の前に持ってくる。
「(リス?)」
目の前には、茶色い毛並みにつぶらな瞳を持つリスがミッドさんに首根っこをつかまれてプラーンと下がっていた。
「こいつはラタトスク。リスの精霊だ」
「(モンスターなの?)」
「いや、HPがないし、どうも違うらしい。極まれに現れては、なんかくれるレアキャラだ。・・・そういや、こいつはこんな姿だけど、世界樹を守る守護霊みたいなやつなんだぞ」
守護霊。
こんな小さいのに、世界樹を守っているんだ・・・。
ラタトスクはへな子を視界に収めると、おもむろに背中にその小さなを腕を回し、両腕で何かを取り出す。
「(花?)」
それは花弁の端っこが薄桃色の、白い花。
・・・いったい、どこから出してきたんだろう?
へな子がけげんな表情を浮かべていると、今度はミッドさんにリンゴを渡していた。
・・・本当に、どこから取り出したんだろう?
「それ、リンゴの花か?これをくれるのは初めて見たな」
ミッドさんがそういうと花が光を放ち、カードになる。カード化したアイテムの名前は『エデンズ・フラワー』。意味は『箱庭の花』。なるほど、エデンの園にある禁断の果実はリンゴのこと。神話を模したこのゲームならではのものだ。
アイテムの詳細を見るため、カードの表面を指先で軽く叩く。すると、半透明の表示枠が出てきて、そこに解説と効果が書かれた説明が出てきた。
『エデンズ・フラワー』・・・リンゴの花。花言葉は『名誉』『選択』『選ばれた恋』など。
アイテム・一度だけ、致死性のダメージを受けてもHPの30%だけ回復して復活。
「かなりのレアアイテムだな。三割はでかい。つか、リンゴの花言葉か・・・」
ミッドさんのつぶやきで、へな子もそちらに目を移す。そして『選択』という言葉に目が引き寄せられる。
・・・へな子は、選ばなくちゃいけない。
「(ミッドさん、へな子は)」
「そうだ、いいこと思いついた」
唐突に、ミッドさんがそういう。
そしてへな子のメモ帳に目もくれず、こちらに詰め寄る。
「やっぱ、『名誉』は自分でつかみ取ってこそだよな。おんぶ抱っこじゃダメだ。・・・うん!」
そしてミッドさんはどこかすがすがしい笑みを浮かべ、へな子に手を差し出す。
「俺、一からギルドを作る。ギルドを強くして、あのアホ共に目を見せてやろう。んで、お前達がそのメンバーになってくれ!そしてついでに、一緒に強くなろう!」
へな子は、選ばなくちゃいけない。ここが、分岐点だ。
「(へな子も、おんぶ抱っこは嫌です。だから―――)」
Player-ミッド
突然だが、このゲームにはギルドと呼ばれる、一種のプレイヤー同士によるコミュニティーが存在している。例外を除いて、ギルドは七人以上の人間が作ることができる。まぁ、俺達はその例外に当たる部類で、四人にも関わらずギルドを作成することができている。オーディンを倒すことができた特典のようなものだと考えてくれればいい。そしてこのギルドのシステム、実は一人三つのまでならギルドを掛け持ちすることができる。
つまり、何が言いたいのかというと・・・。
「ギルドを作る?あんた、『グリーン・ユグドラシル』はどうすんのよ?」
そういうことだ。
一応、納得させることができそうな内容も用意してある。
「いや、お前等の傘下のギルドにしようかなって思ったんだけどな」
とりあえず、昨夜決めたことをアスカに報告した。
「まず、ここに来たいヤツはひとまず俺のギルドに入れる。んで、研修期間っぽいの終えてから、お前らが欲しい人材をスカウト。これじゃダメか?」
「・・・トム、どう思う?」
「・・・たとえ、EXスキルの≪スレイプニル≫を縛っても、こいつについていけるような人材なら寄生プレイするようなやつはいないだろう」
「確かに。・・・というか俺が考えるに、それって意味ないよね?」
目の前のアスカにトム、師匠が一つうなずいて確認をとる。
「それにたとえついてこれなくても、やる気があるならギルドを辞めないだろうし、寄生プレイしようとする軟弱な奴らなら・・・心が折れるわね」
「おい、俺をいったい何だと思っている!?」
俺はそんなに厳しくない!!
「あんたね、本気出さずに神級を倒す人間がいたら誰だって現実逃避したくなるわよ」
アスカの言葉に一瞬だけ言葉が詰まるも、俺は反論する。
「だって、あれはPスキル『神殺し』のおかげで・・・」
「そもそも、そんなスキルを持っているキチガイがあんた以外にいないわよ」
無理だった。
「本当だよねー。ミッド君、神様探しで案外倒しちゃってるからねー」
「神話オタクここに極まれり、としか言いようがないな」
ほかの二人にも散々な言われようだった。
しかも、三人の口からはどんどん俺の罵詈雑言が飛び出してくる。
・・・いい加減にしろよ?
「もういい!わかった!それなら、俺が作るギルドは最強の神殺し集団にしてやる!んで、お前らに反逆だ!ラグナロクだ!!」
「俺じゃなく、お前が反逆を起こしてどうする?」
トムがあきれた声でそういう。
アスカは女子らしからぬ、不敵な笑みを浮かべて俺に言葉を紡ぐ。
「やれるもんなら、やってみなさい。傘下のギルドが強い分には問題がないわ」
「後で吠え面かかせてやる」
アスカの遠回しの許可を得て、俺はあの四人にギルドの作成が叶ったことを伝えに行くため、アスカたちに背を向けて部屋を出る。
だが、その前にアスカに止められる。
「でも、あの四人が入ってくれるの?」
さすがは幼馴染。ある程度の察しはついていたらしい。
顔だけをアスカに向け、俺は言った。
「へな子が、強くなりたいって言ってんだ。・・・たぶん、大丈夫だろ」
アスカと師匠が一つため息をつくと、二人で俺に小言を言ってきた。
「無茶をするなとは言わないわ。どうせ意味がないから。けど、最後まで責任は持ちなさい」
お前は俺のおかんか、と突っ込みを入れたくなるようなことを、半ばあきれたように言うアスカ。
「ミッド君、大丈夫だよ。君は強いから。それに、いざというときは頼れるお姉ちゃんを頼りなさい」
そういいながら、両手を大きく広げて完全にウェルカム体制な師匠。
「まぁ、なんとかするさ。一応、主神の愛馬だしな」
「あと一つ、教えなさい」
俺が出ていこうとしたところを、アスカはまたも止める。
今度はなんだよ・・・。
「あんたの作るギルド、名前は考えているの?」
あぁ、そのことか。
「まぁ、今の俺達によさげな名前を一つ考えてある」
「ほう、なんだ?」
トムの促す声に対し、俺は一つ息を吸ってはっきりと答える。
「『小さな守護者』。まだまだ、ちっぽけな俺達にはちょうどいいと思わないか?」
Player-イザナミ
「―――あら?」
ふと、私は独自の情報網で集めた情報を整理していると、あることに気づいた。
・・・これは、おかしい。
情報を整理するため、メモ帳を起動し、不審な点を時系列順に並べてみる。
「・・・これは、どういうことかしら?」
「どうかしたのか?」
イザナギ―――私の旦那様―――が疑問を投げかけてくる。
「えぇ、少しばかり面白いことに気づきました」
「面白いこと、か?」
思い浮かべるのは、一年と半年前のあのPVP。
完全に油断していたところを、猫ちゃんのEXスキル≪スレイプニル≫で瞬殺されてしまった黒歴史。あの時点で使えたのは猫ちゃんと乙女ちゃんの二人のはず。
しかし・・・。
「もしかしますと、≪スレイプニル≫を使える三人目がいる可能性があります」
「三人目だと?」
「はい。おそらく、この三人目は・・・」
最初に聞いた、猫ちゃんの赤裸々なベータテスト時代の話と、オープン版で最初に覚えたであろう、猫ちゃんと乙女ちゃん。この二つを結びつけることで一つの答えが出てきます。
もちろん、疑問はいくつか現れますが、私はこれが一番しっくりとくる答えです。
「初代『神の鎖』、アイちゃんね」