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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
クローズド・サーガ
49/52

クエスト47・北欧神と鶏

Player―ミッド

 いや、正直な話、本当に疲れた。

 バカップルを速攻で潰した後、発車数秒前の新幹線に飛び乗って、ココに着いたら着いたで、よりによっての『魔の森』だ。

 駅から遠いうえに、因縁の場所でもある。

 ・・・俺は、フェンリルにでも恨まれているのか?


 「しかも、何こいつ等?PKか?本当に面倒くさい」


 「ざ、ふざけんじゃねぇ!」


 俺の物言いによって煽りを喰らったPKの一人が、仲間の制止も聞かずに俺に立ち向かってくる。

 俺はそれに合わせて一瞬で回り込み、背後から≪リスタ・ソニック≫をお見舞いした。相手は俺とHPが消えたことに驚き、振り向きざまに剣を振るう。

 俺はそれをかがんでやり過ごし、再び≪リスタ・ソニック≫を放つ。それを数回繰り返して相手を葬った。残りは、四人。


 「で、次はどいつだ?」


 「(あ、貴方は、なんなの・・・?)」


 へな子がメモ帳を俺に見せてきた。


 「だから、俺はただの猫妖精ケットシーだって」


 「お、思い出したぞ!こいつ、PKKの『黒猫』だ!!」


 「・・・俺、トラジマの猫なんだけど?」


 「髪の毛黒いだろうが!!」


 何故か、ものすごく怒られた。つか、そんなの初めて聞いたぞ?


 そして俺を無視しての解説が続く。

 「な、なんだと!?俺達の間で遭ったら『地獄逝き』を覚悟しろという、アレか!?」


 「あぁ・・・!しかも、ヤツはおそらく、『グリーン・ユグドラシル』の『八足の駿馬スレイプニル』だとまことしやかにささやかれている!」


 「確かに、あのスピードはヤツ意外にあり得ない・・・!」


 「他にも、ヤツはいくつもの通り名を持っていて、その中の代表的なものが『金魚のフン』、『リア獣爆ぜろ』、『スピード狂』、『死んでしまえ!』、『何故あんな奴がいい思いをしている!?』等と言ったものが・・・」


 「え?それってマジで定着してたの!?つか蔑称じゃねぇかよ!?何で罵りが通り名になってんだよ!?」


 「確かつい最近、『アレ?こいつの脳味噌わいてんじゃねーの?』が・・・」


 「あの腹黒女、仕事速いなオイ!?」


 突っ込む部分しかない。


 「そうか、それならば付け入るすきはある」


 そして俺の情報を聞いてひとまず落ち着いたのか、冷静に俺の分析を始めた。

 まぁ、曲がりなりにもPKだ。プレイヤーを倒すことに特化したプレイヤーとでもいうべき彼等の分析力は侮れない。


 「そうか、なら待ってやる必要はないな!」


 そう言って、俺は目の前のプレイヤー達に肉薄。

 だが、向こうはそれが分かっていたかのように剣で受け止めた。


 「まず、こいつは速いが、それは直線的なものでしかない。おそらく、自分自身のスピードについていけていないんだろう」


 「なら、これならどうだ?」


 俺は縦横無尽に短剣を振るう。

 だが、相手はそれに構わずスキルを強引に発動させる。剣が光るエフェクトを散らしながら、俺を一閃。それだけで、俺のHPが半分以上持っていかれた。

 カウンターを貰った俺は一旦下がる。


 「紙装甲なうえに火力不足。初期スキルでも、その一撃一撃がこいつにとっては致命傷になる」


 「つまり、全員で長期的な波状攻撃や絨毯爆撃をすれば勝てる可能性もあるってことか・・・!」


 俺の感想としては、こいつらってよく見てるなぁ・・・だった。

 おそらく、領地争奪戦の時のライブ映像か何かを見ていたんだろうが、実際にこいつ等の言う通りだ。

 俺のステータスの振り方では、常軌を逸したSPDとなり、自分でもコントロールが利かないほどになってしまう。だから、基本的に俺の全速力は直線の移動だけだ。カーブを全速力でしようものなら、確実に交通事故並みの被害になる。というか、実際にやってみてそうなった。

 そして攻撃方法も理にかなっている。要するに、俺が疲れるのを待ってから攻撃すればいいことだし、俺の攻撃を防ぐことも、弾幕を張って防ぐといったことを他の神話領は実際に行って、俺は敵の大将に近づくことが難しくなっている。


 「確かに、お前たちの言う通りだよ」


 俺をストーキングしていたかのような正確さに、正直ドン引きだ。


 「ふん。自分の無力さを語るってことは、諦めたのか?」


 「なら、そこのちっこい嬢ちゃんもろともキルしてやる・・・!」


 まぁ、それも・・・。


 「ちょっと前ならな・・・」


 俺は誰に言うでもなく、言葉を紡ぐ。そして、全力で目の前のPKへと走る。

 周りの景色が俺の後ろへと流れ、俺自身は時間の流れからはずれたかのような錯覚に陥る。・・・いや、これはあながち錯覚でもないのかもしれない。

 そして、向こうはそんな俺に対し、消えたと認識した瞬間に剣を振りぬこうとしていた。たぶん、さっき同様に俺を剣で切り裂こうとしているんだろう。

 まぁ・・・。


 「そこに、俺はいないんだけどな」


 そう言って、俺は相手の真後ろから話しかける。これは、従来の俺ではあり得ない軌道を描いている。

 それに驚いたPK達は、俺から大きく距離をとる。


 「お前、どうやって回り込んだ・・・!?」


 「何って、簡単だよ。ただ単に、回り込んだだけだ。ぐるってな」


 俺はおどけて指を使い、回り込んだというジェスチャーも加えておく。


 「だが、お前は・・・!」


 「俺、つい最近『長靴ケットシー・ブーツ』ってレアな装備をゲットしたんだって。そいつにはスキルがついてんだよ。≪猫足キャット・ポー≫ってスキルがな。まぁ、このスキルはただバランスをとりやすくなるっていう、だけのモノなんだけどな」


 なんか、スピード狂御用達みたいな装備だと思った。

 とにかく何が言いたいのかというと、こいつのおかげで俺は自分のスピードをコントロールできるようになった。


 「その情報は、既に遅すぎるモノなんだよ」


 「全員だ!全員で対応しきれない攻撃を加えろ!!」


 ヤケともとれる、切羽詰まった命令をリーダー格のやつが言う。まぁ、所詮は一人。それが妥当な判断だと俺も思う。

 それに、≪スレイプニル≫も向こうは知らないからな。俺はいまだに腰を抜かしたへな子を見やる。


 「・・・しゃーない。サービスな」


 俺はへな子に向かって一言だけ言って、構える。


 「何が、サービスだ!!」


 そんなのは決まっている。

 俺が、珍しく・・・。


 「―――≪スレイプニル≫」


 必殺技を何回も使うことが、な。

 俺の全力よりもなお速い、まさに神速としか表現のできない速さで、相手に向けて踏み込み、手に持った短剣ダガーを振るう。常軌を逸したSPDがそのまま攻撃力へと変換され・・・。


 「・・・は?」


 「・・・っち。やっぱ硬いな」


 こいつ等がトレインしていた例のモンスターのHPが二割ほど削れていた。

 つか、卑怯にも程がある。会話で時間稼いでこいつを呼び戻すとか鬼畜すぎる。


 「何で、バレたんだ!?」


 「『気配察知』だよ。つか、よりによってメンドイのがバグったのか・・・」


 それは、見た目はでかい鶏みたいなモンスターだった。だが、本来こいつはこんな所にいるモンスターじゃない。

 ならそいつはどこにいるのか、答えは非常に分かりやすく、一言で言い表せることができる。すなわち、『世界樹のてっぺん』。


 「『ヴィゾーヴニル』。こいつにダメージを与え、かつ倒すためにはある有名な、俺でも詳しいことが分からない、特殊な武器が必要になるが、その素材を自信が持つ、矛盾の神鳥」


 「それが、どうした!?結局、お前もこいつは倒せないんだろう!?火力特化の物理、魔法をこいつに試したが、一ドットほども削ることができない、無敵の盾を持つとでもいうべき、モンスターだ!!」


 いや、実はそうでもない。あくまで、これはゲームだ。モンスターを倒すのに特殊な武器が必要となるものは実はほとんど存在していない。ヴィゾーヴニルを倒すのに必要な『あの武器』もただの弱点だって言うだけで、ゴリ押ししても倒せる。そう、たとえばアスカがGスキル≪デア・ローガンツェ≫を使うとかすれば瞬殺だ。

 ちなみに、俺が純粋な火力で神級ゴッド・クラスモンスターに勝とうと思えば、八回限定の≪スレイプニル≫を全てブチ込むしか方法がない。つまり、今の俺では倒せない。こいつが相手だったんなら、トムに無理やりにでも作らせておけばよかったと思いつつ、スキルスロットを操作。普段使うAからBに変更。そこで俺はふっと愚痴ってみた。


 「俺、どっちかというと『レンジャー』よりのスキル構成なんだよな。全員こぞって俺を『アサシン』扱いするけど」


 「「「いや、お前の行動はどう見ても『アサシン』のそれだ!!」」」


 「バカな!?こんなか弱いアサシンがいるか!?」


 『か弱い?登場早々二人も暗殺して?』


 「いや、待つんだへな子。俺、実は対人戦闘は苦手で、本職は・・・」


 「うっせぇ黙れこの変態猫!!」


 PK は ヴィゾーヴニル を けしかけてきた !


 咄嗟にへな子が爆弾投げつけてダメージを与えようとするが、こいつは元々が耐久力に定評ある面倒なモンスターだ。正直な話、へな子の攻撃は無意味。へな子もすぐにそれを察したのか、俺の袖を引っ張って逃げようと催促してくる。

 いや、俺も正直な話逃げたい。けど、あの幼馴染二人を放置すると色々と怖いんだよなー。・・・俺と敵が。

 というわけで、俺は無造作に横へずれ、ダガーでヴィゾーヴニルに斬撃を放つ。


 「バカか!そんな通常攻撃でこいつが・・・!」


 PKの言葉を遮るかのように、ヴィゾーヴニルが断末魔の叫びを上げた。PK達は、自分がダメージを受けたわけでもないのに、ぎょっとした表情でヴィゾーヴニルを見た。


 「俺は可能な限り『神の試練トライアル』が受けられる神級ゴッド・クラスを探している。ついでに、いくつかの検証をそいつら相手にしてたらさぁ、俺はあることに気付いた」


 このゲームの神級ゴッド・クラスは神話に忠実だ。だから、対処方法もそれに準ずる。これだけ聞くと、神級ゴッド・クラスに対抗するための対処方法がたった一つにしか聞こえないが、実はそうじゃない。神級には例外を除き、二つ以上の対処方法が存在している。


 「そして、俺が確認したその例外が『フェンリル狼』と『ヒノカグツチ』。さぁ、ここで問題だ。もしも、俺がこいつを倒す第二の弱点を持っていたとしたら?」


 「で、でたらめだ!そもそも、神級ゴッド・クラス自体、倒せるのは極少数の廃人だけじゃねぇか!」


 「そもそも、奴等の攻撃は一撃食らえばワンパンで死ぬこともある!過剰な回避力が必要だ!」


 「それに、奴等はアホみたいに硬い。それなりの攻撃力が必要だ!」


 「後、神話に忠実とは言え、かなり理不尽な攻撃もしてくる。神話の知識もかなり重要に・・・」


 そこで、PK達は何故か黙った。

 そして、俺を見ると何かをチェックしながら己の言葉を反芻。

 時折「アホみたいなスピード狂」、「チート臭いスキル」、「神話オタク」とかいう言葉が聞こえてきた。


 そして、奴等は一言。


 「「「こいつ、変態だ・・・!!」」」


 「黙れ野郎ども!!お前らなんか、本気ガチのアサシンにでもやられちまえ!!」


 「本物ガチアサシンが何を・・・」


 何回目になるか分からない不毛な言い争いを続けていたPKの一人、そいつのHPが突然消失した。そしてそれと同時にドットへと変換され、そこから消えてしまった。更にその代わりとばかりに、中性的な顔立ちの性悪真っ黒野郎がいた。

 ・・・なぜ、野郎だと分かったか?知り合いだからに決まっている。つか、ギルドのメンバーの一人だ。


 「んで、トム。できたのか?」


 俺は突然しゃしゃり出てきたヤツ、トムに尋ねた。まぁ、聞くまでもないんだけどな。ココにいるってことはつまりアレができたってこと以外にはあり得な・・・。


 「いや、無理だった」


 「アホか!?お前、人の話聞いてた!?バグモンスターはチート過ぎて正攻法以外は通用しないかもって用意してくれってメールで頼んだのに!?まぁ、結果としてはイケたけどな!!」


 「なら良いな。ココに『レーヴァテイン・レプリカ』なるものがあるが、別にいいよな」


 「ロキ様、この愚かなる私めの為にその武器を振るってください」


 へな子が、何か残念なものを見る目で俺を見てくるが、俺はそれを無視した。いや、それ以上に周りのPK達が俺の『ロキ様』という言葉にビビり始めた。


 「ロキ、だと!?」


 「あの、真面目ロキか!?その実、かなりの腹黒だと噂の・・・!」


 「そーなんだよねー。トム君って結構腹黒なんだよねー」


 「マジかよ。いや、あのロキがいるってことはまさか・・・!?」


 「あぁ、それは大丈夫だよ。アスカちゃんには残りの子達を集めてもらってるから、しばらくは来ないと思うよ」


 「そうか、それを聞いて安心した・・・。って、お前誰だよ!?」


 ナチュラルにPK達と会話していた師匠に、その中の一人がきりかかる。師匠はそれを剣で弾くと、軽く俺達の所にステップして背中を俺に預ける。


 「まぁ、そう言うわけでココには『グリーン・ユグドラシル』の全員が揃っているんだよ」


 「よくよく考えると絶望的な状況だよな、それ」


 俺はPK達の心の声を代弁した。

 神名持ちゴッドネームプレイヤーが勢ぞろいとか俺なら間違いなく持ち前のSPD全開で逃げる。


 「く、くそっ!」


 まぁ、実際にいるんだけどな。

 それに師匠がいち早く反応し、スキルを発動させるために構えをとる。そして、一言。


 「―――≪スレイプニル≫」


 それは、俺の最強のスキル。SPDを攻撃力に変換する八連続攻撃。どうしてもこのスキルの発現方法が分からないが、最初の方だけ、俺と同じビルドで師匠とスキルを鍛え、ステータスを振ったら俺と同じように覚えることができた。

 ただ、覚えてからは俺とは違うビルドに変えたので、俺のような常軌を逸したスピードを持ってはいない。だが、それでもかなり速めのビルドではある。高速の魔法剣士、それが師匠の目指すスタイル。


 「逃がさないよ。こんな極悪、見過ごせないしね」


 「冗談、だろ!?」


 「あり得ねェ、あり得ねェだろ、クソがッ・・・!やるしかねェってのかよォ!!」


 やけくそにでもなったのか、俺達に向かってくる。更には、件のヴィゾーヴニルまでけしかけてきた。


 「トム、その鶏は頼む。俺と師匠で・・・」


 「いや、お前がやれ。対人戦闘は俺達の方が向いている。それに、俺が使う必要はない」


 よく意味がわからない俺に、トムはカードを投げつけてきた。言うまでもなく、アイテムカードだ。俺はそれをつかむと、アイテム名を見る。そこには、『レーヴァテイン・レプリカ』と書かれていた。


 「武器じゃ、ない?」


 「あぁ、おそらく一回こっきりのレーヴァテインだ。」


 非常に面倒くさい。そして、ここにはレプリカが一個しかない。たぶん、それはこれを一個しか用意することができなかったということだろう。ということは、だ。こいつをやっつけるには、一撃で決める必要がある。まだ、HPがほぼ満タン状態のこいつを・・・。


 「無理ゲーすぎる」


 「でも、ミッド君使ったん?でしょ?なら、最後までカッコよく決めればいいんだよ!」


 師匠が非常に無責任なことを言ってきた。いや、でもここまで来たらそうも言ってられない気がしないでもない。こいつと、あれ・・・俺が持つPスキル『神殺し』の相乗効果でやれるはずだ。

 Pスキル『神殺し』。これは、俺がいつの間にか手に入れていたスキルだ。たぶん、神級ゴッド・クラスのモンスターを探しては俺が正しい対処方法で倒し続けていたら、いつの間にか手に入れていた。効果はいたって単純で、神様の名前を持つすべての敵に対して戦闘を行う場合、全ステータスに2倍の補正がかかかり、神系のモンスターに対しては特攻。ただし、このスキルを身に着けた状態で神の名前を持つ敵以外と戦闘を行う場合、全ステータスが半減するという異常にピーキーなスキルだ。

 そして、この『神殺し』が神級ゴッド・クラスに対して有効な二つ目の弱点でもある。こういった神級ゴッド・クラスのバグモンスターに対しては非常に有効な手段だ。


 「けどな、言っても火力がな・・・」


 「そういうと思って、これを買っておいたよ!」


 師匠が待ってましたとばかりに俺にカードを投げつけてきた。受け取ったカードには、『weapon』の文字。しかも、剣が交差した模様から、双剣の類であることがわかる。そして、銘は『猫の爪』。・・・師匠、おそらくあの猫耳ロリババア的なよくわからないNPCのところで買ったな・・・。


 「これで、≪スレイプニル≫の威力は二倍。行ける?」


 「・・・たぶん大丈夫、かな?」


 俺はそういいつつカードを握りつぶした。光が両手に集まり、形を成す。そこに現れたのは、カタールと呼ばれる武器。刺突に特化した武器だ。


 「これ、斬撃武器じゃねぇ!?」


 「・・・え?そうなの?」


 いうまでもなく、ナイフとこいつでは武器の運用方法が根本的に違う。ナイフは『斬る』ことに対して、こいつは元が鎧の隙間を狙って『突く』ような武器だ。

 強制的なクリティカルを狙うにはかなり厳しいかもしれない。仕方ない、アシストに完全に身を任せるしかない。どういった攻撃方法になるのかわからないが、やるしかない。『レーヴァテイン・レプリカ』のカードを握りつぶし、俺は構えをとる。そして、引き金トリガーとなる言葉を発する。


 「≪スレイプニル≫」


 スキルが発動し、俺の体が光のごとき速さでヴィゾ-ヴニルに肉薄。握りしめたカタールを振りかぶって、矢のように引き絞り、放つ。俺の常軌を逸したスピードが攻撃力に変換され、『神殺し』が俺に更なる力を与える。

 一瞬の静寂、そして、ヴィゾーヴニルのHPは突然時を思い出したかのように、急速に減り始める。

 急送に減り始めたHPは徐々に、その速度をも減らしていく。


 「行け・・・!」


 二重の弱点攻撃。こいつがだめなら、それこそ死力を尽くして、周りも巻き込んで倒さなくちゃいけなくなる。

 そして、HPの減少が止まるか止まらないかというところで、ついにゼロになった。すると、ヴィゾーヴニルが断末魔の叫びをあげ、ドットへと変換されていった。


 「あの、化け物を倒しただと・・・!?」


 それは誰が呟いたものか、その言葉は周りに広がり、PK達の戦意を削ぐ。


 「冗談じゃ、ねぇぞ!?あんな化け物を倒す化け物なんか、相手にできるかよ!!」


 「うわぁぁああああ!?」


 「お、俺は『地獄逝き』なんか、ゴメンだ!!」


 次々に、PK達が逃げてゆく。俺はその光景に思わず『あ』と間抜けな声を出すが、逃げ出すPK達は俺から全力で遠ざかっていく。そこで、狙いすましたかのようにPK達の進行方向にツーサイドアップの眼帯少女が現れる。そしてその背後にはへな子の仲間である三人もいる。

 ・・・あぁ、あいつら死んだな。

 眼帯少女ことアスカは、スキルの使用なしで槍を無造作にふるう。それだけでPK達が吹き飛ぶ。


 「やっほー。そこらへんのザコを掃除してたら遅くなっちゃったわー」


 場違いなほど明るい声で、アスカはそういう。


 そして、PK達は絶叫をあげた。


 「こ、こいつ『死神』だ!!」


 「あの、『歩く死亡フラグ』で有名な!?」


 「あぁ、俺の人生オワタ・・・」


 そこで俺の袖がくいくいと引かれる。へな子が俺の袖を引き、メモ帳に書いた文を見せてくる。


 「(死神って『オーディン』のこと!?)」


 「お前、知らなかったのか?さっきも言った通り、ここには『グリーン・ユグドラシル』の全員、つまり四人がそろっている」


 「(本当に、四人しかいなかったの!?)」


 ・・・いや、普通はそう思うよな。


 四人だけで、『領地争奪戦エリア・ウォー』限定だが最強のチームとかあり得ないよなー・・・。


 「あぁ、神様は『オーディン』のアスカと『ロキ』のトム、『スレイプニル』の俺と師匠の四人だけだ」


 「説明ありがとう、ミッド。さて、私たちのことがよく分かったところで、うんざりするぐらいまだいるのね・・・」


 アスカがどこかめんどくさそうに言う。

 ・・・いやぁ、これはまずい傾向だ。


 「アスカ、頼むからスキルだけは・・・」


 「Gスキルで蹴散らすわ」


 「総員退避!ミッド、スピカ、奴らを連れて逃げるぞ!!」


 俺はトムの言葉を聞くか聞かないかというタイミングで行動に移した。近くにいたへな子とトムを乱暴につかみ、その場からできる限り離れる。俺のSTRでは二人が限界だが、師匠が運んでくれるはずだ。


 そして、背後で不吉な言葉が聞こえた。


 「―――≪デア・ローガンツェ≫!!」


 後ろを振り返らなくてもわかる。あいつは、今頃哄笑をあげながら嬉々として敵を蹂躙しているのが。本当に、なんであぁなってっしまったんだろうと、俺と師匠は日夜嘆いている。



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