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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
クローズド・サーガ
44/52

クエスト42・四人だけの世界樹

Player-ライト

 「所で先輩、あの『ラタトスク』って何なんですか?」


 「・・・今さらだな?」


 確かにそうかもしれないけども・・・。

 前回の領地争奪戦エリア・ウォー、俺は本当の『スレイプニル』に出会った。

 黒をベースにした猫妖精ケットシーの、なんかむかつくやつだ。しかも、アスカさんやスピカさんに超馴れ馴れしい。

 だけど、それが幼馴染だって言うんだから、驚きを禁じ得ない。

 ・・・いや、今はこっちだ。


 「何で、俺にも内緒であんな組織を?それに、『スレイプニル』にやたらと懐いてましたし・・・」


 あの、スピード狂にほれ込む要素がどこにあるのかわからない。


 「(呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!)」


 「「・・・」」


 いきなり、小柄な少女が目の前に。しかもメモ帳機能で筆談している、暗殺者アサシンのロールプレイ中だ。

 確か、こいつが『ラタトスク』の副隊長、へな子とかふざけた名前のやつだ。先輩の話じゃこいつとは二度と戦いたくないとか言ってたんだけど・・・そんなに強いのか?

 つか、タイピング速っ!?

 そんなことを考えているうちに、向こうはどこかに消え去った。


 「・・・忍者か?」


 「まぁ、ハンゾーはそんな感じだな」


 「・・・」


 まさか肯定されるとは思わなかった。

 本当に『ラタトスク』ってなんだよ・・・。


 「・・・まぁ、いいだろう。お前、このゲームの正式版で最初にバグモンスターと戦ったのは誰だか知っているか?」


 「・・・さぁ?」


 「ミッドだ」


 その言葉に俺はげんなりとした表情になるのが自分でもわかった。

 またあいつかよ。


 「・・・と、言いたいところだけどな、違う」


 「・・・え?」


 やたらとバグモンスターに詳しいやつだから、それもあり得るだと思った。だから、先輩からその名前を聞いた時は半ば予想していたために特にリアクションもなかった。

 だが・・・。


 「あいつは、間に合わなかった」


 「間に合わなかった?」


 「あぁ。・・・話しは誰が最初か、だったな?」


 「あ、はい」


 「ハンゾー、へな子、ツン、チャラだ」


 「・・・最後は、誰ですか?と言うか、ラタトスクの幹部じゃないですか!?」


 最後は知らないけど。

 先輩はその言葉にうなずくと、言葉をつづけた。


 「だが、やつらは最後まで戦ったが勝てなかった」


 勝てなかった。

 その言葉で最後のピースがはまった気がした。


 「・・・まさか、あの猫が倒す前に彼等が?そして、あいつはやつらを助けられなかったということですか?」


 「あぁ。ベータテストでの最大の被害者がミッドと初代『グレイプニル』だとすれば、あいつらが正式オープン版での一番の被害者だな」


 ・・・まさか、あいつらにそんなことが。


 「普段から、遊んでばっかのお気楽集団かと思っていました・・・」


 「いや、それは間違ってないぞ」


 「・・・」


 「・・・いい機会だ、お前にも教えておいてやろう。へな子からはむしろ積極的に話すように言われているしな」


 「へな子?・・・さっきの暗殺者アサシンのロールプレイ女ですか?」


 「・・・お前、何故へな子がしゃべらないかわかるか?」


 「だから、ロールプレイなんじゃ?」


 ゲームでは、何かしらのキャラを自分で作って、ロールプレイをする人だっている。ネカマとかがその極端な例だ。


 「違うんだよ。あいつは、しゃべれないんだ」


 「しゃべれ、ない?」


 「バグモンスターにやられた時、その痛みと恐怖から、しゃべれなくなったというのが俺の見解だ。・・・精神的な面からの、失語症だ」


 「まさか、間に合わなかったって・・・」


 「あぁ。あいつは、本当の意味で・・・・・・助けられなかったんだ。あいつが辿りついた時には、既にあいつらは絶望と恐怖のどん底にいた」


 「・・・」


 まさか、こんなヘビーな話を聞かされるとは思わなかった。


 「じゃぁ、何故あいつらが『ラタトスク』にいるのか、そしてどうやってできたのか、お前に教えてやろう」


 そう言うと、先輩はまるで懐かしむかのように語りだす。


 「アレは俺とアスカ達が出会った・・・ゲーム開始から半年の出来事だ。ちょうど、ココができて数か月と言ったころか・・・」




Player-ミッド

 「(ミッドさん、暇だから中二的な二つ名を考えましょう)」


 「あぁ、暇つぶしに来て何故そんなことをしたがるのか、お前の脳内構造について語れば十年ぐらいあっという間に経ちそうだ」


 「(そんなに褒めないで~)」


 今、俺は世界樹の中でこいつ等の相手を何故かしていた。

 ・・・正直、俺はこいつらにどう接していいのか全く分からないんだけどな。


 「(ちなみに、へな子自信の中二的な二つ名は『サイレント・ボマー』か、『へな・ぼまー』のどっちかがいいと思っている!)」


 「物騒だな、オイ!?」


 何、自分に爆弾魔の称号付けてんだよ!?

 つか、『へな・ぼまー』に関しては元ネタと一文字しか違わないぞ!?

 とんでもなくデンジャラス思考なメモ帳娘に俺はツッコミの嵐を仕掛ける。超高速で。


 「・・・まぁ、ミッドさんは俺が思うに、『鼠殺しラット・スレイヤー』でいいんじゃないかと」


 「別に興味はないけど言っておくと、『導く猫ブーツ・キャット』がいいと思う」


 「いや、ココはカッコよく『神殺し』とかにしようぜ!」


 「「チャラないわー」」


 「(ないわー)」


 「だぁー!?何で!?何でだよ!?」


 ・・・あぁ、本当に何でこんな所にいるんだろう。




 こいつ等との出会いは、ある意味では幸運な出来事だったが、俺にとっては後悔の残る出来事だった。

 まず、俺とアスカ、師匠、そしてアスカがどっかから引っかけてきた『悪戯の魔神ロキ』ことファントム、改めトムと共にこの世界樹の最上階に挑み、オーディンさんをぶっ飛ばしてからわりとすぐの出来事だった。

 俺達は四人しかいないながらも、『守護神ガーディアン』のギルドである『グリーン・ユグドラシル』を名乗り、絶賛メンバーを募集していた時のことだった。


 「・・・ヤバいモンスターがいる?」


 俺はトムと一緒にこのだだっ広い世界樹の把握にいそしんでいた時、トムはふと思い出した最近の出来事を話した。


 「あぁ。噂なんだが、死ぬほど強いらしい」


 「そんなの、どっかの誰かが神級ゴッド・クラスを倒せなかっただけだろ?まぁ、今のところ『神殺し』なんて、そんなに数はいないからな。つか、俺達はかなり早い方だ。北欧神話の三柱の神、『オーディン』と『ロキ』が既にいるんだぞ?」


 「それと、『スレイプニル』もな」


 「・・・けど、これは運営からのお詫びだしな」


 俺はそう言いながらトムに指輪を見せる。

 『スレイプニルの指輪』。・・・『ヒムロアヤカ』の窮地を救ってくれた、俺の最強の武器だ。


 「だが、お前の話しが本当なら『フェンリル』を倒したんだろう?しかもバグったヤツを。お前だって十二分には『神殺し』だ。それに、お前が愛用している『ウィンド・ブロッサム』もその証拠なんだろう?」


 俺は運営に適当にしておいてくださいと言ったら、この二つの装備を侘びとしてくれた。

 一つが『スレイプニルの指輪』、SPDを二倍にし、Pスキル『思考加速』を付与するレア装備。

 もう一つが『風の花ウィンド・ブロッサム』。これは『ウィンドローズ』の片割れだ。翡翠色の柄に、バラの花のような模様が描かれている短剣ダガー。ただし、もう一つの片割れである『風の茨ウィンド・ソーン』がどこにも見当たらない。

 ・・・俺の十六連撃≪スレイプニル≫が使えない状況だ。

 俺が半ば愚痴のようにトムに話していると、トムは真剣な表情で俺に言う。


 「そして、実はその話に関係あるかもしれない」


 「・・・まさか、茨の方が見つかったのか?」


 「違う。もっと前に話しを戻せ」


 「・・・ヤバいモンスター?」


 とりあえず、テンプレなボケをかましておく。


 「そうだ」


 「・・・え?」


 まさかそれだったとは・・・。


 「とりあえず、話しはループさせた方がいいか?」


 「そのヤバいモンスター、痛みを感じるらしい」


 トムの言葉に、俺の思考が停止した。

 それと同時によみがえってくるのは、右腕のあの痛み。新しくキャラを作り直し、そこには既にある右腕を強くつかむ。痛みがないはずなのに、ずきずきと痛む。


 「・・・それは、本当か?」


 「・・・分からん。そんな眉唾な話、どう信じろという?それに、開発チームが過去の過ちを繰り返すとは思わない。だから、これはプライドの高いプレイヤーがアホな噂を流しただけだと俺は思っている。・・・思っているんだがな」


 「・・・お前の目の間に、同じ経験をしたプレイヤーがいるからな。モンスターは、分かっているのか?」


 「・・・すまない、まだ分からん」


 「そうか。・・・もし分かったら、頼む」


 「・・・二人には?」


 「頼む、教えないでくれ。あの二人には、あんな目に遭わせたくな―――」


 「どっせぇい!」


 「ぐほぉ!?」


 いきなり吹き飛ばされた。

 痛くないのに、何故か愉快なリアクションまで取ってしまって・・・。


 「自分で言え」


 それを見たトムは俺に一言だけそう言った。


 「お前、嵌めたな!?」


 「ミッド、アンタ何をバカなこと言ってんの!?スーピカー!このアホで愚弟でバカな猫がまた一人で突っ走ろうとしてる~!!」


 「ミッドく~ん!?」


 「どはぁ!?」


 今度は、師匠にベアハグをかまされた。

 痛みはないが、体が変な方向へとねじれていき、俺のSAN値が削られている。つかアスカ、誰が愚弟だ。俺はお前等の弟じゃない。


 「ミッド君、私達姉妹弟きょうだいにまた心配かける気なの・・・?」


 師匠は自分でよよよと言いながら泣く振りをする。

 つか、俺達全員血がつながってないぞ。それに、俺はアスカより誕生日が速い。俺は師匠の顔を掴んで引き離す。


 「けどな、二人ともアレを見ただろ?俺がフェンリルに右腕かじられたときの」


 「・・・けど、ミッド君がそんなことする必要は」


 「かもな。けど、やらなきゃあんな思いする奴がまた出る・・・。トム、頼んだぞ」


 そう言うと、俺も情報を集めるために出かける。

 

 「・・・待ちなさい、あたし達も手伝うわ。一人よりも効率はいいでしょ?」


 「・・・まぁ、どうせ止めたって二人は止まらないだろうしな」


 「おっしゃぁー!ミッド君からのゴーサインが出たからお姉ちゃん頑張っちゃうよ~!」


 「だから、いちいち抱きつくな!」




Player-へな子

 「ハンゾー、その噂のモンスターってここにいるの?」


 「あぁ、らしいぞ。けどなぁ・・・」


 「へな子達なら大丈夫」


 「そーそー。ハンゾーは心配性すぎるんだよ。もっと軽く行こうぜ」


 「チャラ、うるさい」


 「へな子ちゃん!?」


 とりあえず、うるさいチャラを適当に黙らせる。

 今、この無所属領ではとある噂が飛び交っている。無所属領はほかの神話領と比べると、様々な神級ゴッド・クラスのモンスターが多数いる。そしてその中の一体である、『韋駄天』が死ぬほど強いらしい。

 『韋駄天』は足が速い神様で有名なアレ。


 「だから、速いだけで大丈夫。こういうのは紙装甲と相場が決まっている」


 「それは確かにそう思うな。いくらなんでも、そんなチート仕様になってるわけがないだろ?」


 「・・・まぁ、そりゃそうかもしれないけどな。でも、ヤツには色々と変な噂があるだろ?」


 「・・・ハンゾー、ビビり」


 「よしツン、今すぐに決闘だ。表に出ろ」


 既に表にいるのにハンゾーはバカなことを言う。

 へな子たちはそんな概ねいつも通りの空気で『韋駄天』の元へと歩いていた。


 「所で、アスカはちゃんと置いてきたのか?」


 「大丈夫だ。紅茶に睡眠の効果持つ薬草入れといた。匂いでバレそうだったけど、ハーブだって誤魔化しといたし大丈夫だ」


 「・・・まぁ、アレ手に入れちゃってからアスカちゃん色々と大変だからね~。所で、せっかくだからNPCショップとか色々行こう!」


 「何でそうなる!?トム、このアホ師匠を止めてくれ!」


 「・・・三十分だけだ」


 「止めろよ!?」


 ・・・なんだか、ひどくキャラの濃い人たちがいたけど、関係ないよね。

 と言うか、この無所属領では全く見かけたことがない。


 「へな子?どうかしたの?」


 「・・・何でもない」


 ツンちゃんに言われ、へな子たちは韋駄天の元に向かった。


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