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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
クローズド・サーガ
42/52

クエスト40・鎖に囚われたモノ

Player-アイ

 私は何の前触れもなく目が覚めた。それも真夜中に。

 今日の私は、柄にもなく目の前にあった料理に飛びついたり、知りあって間もない男の子に全てを預けて眠ってしまったりした。

 今、そのことを理解して激しく身もだえしたくなった。でも、すぐそこにはミッドと言う変な名前のプレイヤーが・・・。


 「・・・?」


 ・・・いなかった。

 メニューを開けると、眠っていたのはほんの三時間程度だった。周りを見てみるけど、どう考えても人の気配がしない。

 ・・・まさか、置いて行かれた?けど、あんな風に、全く知らない人に料理を作るようなお人好しがこんなことするようには考えづらい。

 嫌な、予感がする。

 確信はない。彼が、どういう人なのかも全く分からない。赤の他人にそこまでする義理もないし、義理でアレは大きすぎる。

 でも、私の中ではそれが答えだという考えしか浮かんでこなかった。そしてそれを裏付けるかのように、この数日で・・・・・聞きなれて・・・・・しまった・・・・雄叫びを耳に捕えた。


 「ダメ・・・!」


 私は跳び起きると、そのまま雄叫びの聞こえた方へと猛スピードで走りだした。この森はそこまで大きくない。だから、すぐに見えた。大きな灰色の狼の前に立つ、ほんの少し変な少年の姿が。

 私はそれを確認した瞬間、すぐに足に巻いたピック用のポーチに手を伸ばし、取り出した瞬間に投げる。

 このポーチは『投擲武具小鞄スナイパー・ポーチ』。これにアイテムカード化した投擲武器をセットしておくと、いちいち取り出してカードを潰してから投げるという動作をしなくても、鞄に手を突っ込むだけでアイテム化した投擲武器を取り出せる、『投擲スキル』持ちなら必須のアイテム。

 投げた太い針のような武器、ピックがフェンリルのでかい図体に全弾命中。そして攻撃した私の方を見る。

 すると私の攻撃が気に入らなかったのか、怒りに満ちた咆哮を氷の伊吹と言う形で私に放つ。

 回避行動をとろうとした瞬間、私の腕に温かな感触が生まれた。そして視界がぶれて、元に戻った時には、何故かフェンリルから大きく距離をとっていた。


 「何で来た!?」


 最初にいわれたのは、厳しい叱責の声だった。


 「貴方こそ、何を考えているの!?」


 自分でもあまり感情が出にくいことを自覚している私でも、この時ばかりは感情的になって怒鳴った。


 「今の状況、本当に分かってるの!?」


 「わかってるって。たぶん、アレが原因だろうな」


 そう言いながら視線で示すのは、最強の魔獣フェンリル。

 そんなことは分かりきっている。だけど、私が言いたいのそこじゃない。


 「今の状況で、死んだらどうなるか分からないのよ!?」


 確かに、死に戻りデスルーラと言われる方法がある。あえて死ぬことで拠点に戻る方法だ。今回のように、森から出られないという状況には一番確実かもしれない。

 だけど、今の私達は現実と同じような感覚を持っている。もしもHPバーがゼロになってしまえば・・・。


 「私達、死ぬかもしれないのよ!?」


 「ひとまず、離脱する。小言はそのあとで頼む」


 そう言うと、私の返事も待たずに腕を掴むと、周りの景色を置き去りにして走った。

 ・・・正直、とてもスピード酔いしそうだった。




Player-ミッド

 俺はひとまずさっきまでキャンプしていたところに戻ってくると、スピードを緩めた。だが、アイは既にグロッキーな感じでかなりやばそうだった。

 しまったなぁと思いつつも、俺はいった。


 「で、何で来た?」


 「それは、こっちのセリフ・・・!」


 俺の言葉で元気を取り戻した。と言うか食ってかかってきた。

 内容はさっきとほぼ同じで、もしも死んだらどうするんだというやつだ。


 「大丈夫だって。俺にはさっきのスピードだってあるし、大抵の攻撃は当たらないからな」


 「そう言うことじゃなくて・・・!」


 「それこそ、そっちはどうなんだよ?」


 俺の指摘に、アイがぐっと言葉を詰まらせた。


 「・・・どういうこと?」


 「お前、帰れなくなってどれくらいだ?」


 「気づいてた、の?」


 「そりゃな。で、相当長いのか?」


 「・・・三日」


 ・・・人間は、大体三日ぐらいなら水もなしで生きることができると聞いたことがある。つまり、今こいつは非常に危険な状況にある。生と死の間をさまよっていると言っても過言ではないと俺は思う。


 「・・・なら、もう一回行ってくる。今度は絶対に来るな」


 「だから、やめて!」


 「やめるか!お前、死にそうなんだぞ!?俺の今からやる『死ぬかもしれない』って事実よりもよっぽど確実で、重要すぎるだろ!?」


 「本人が、やめろって言ってるの!貴方に助けてもらう筋合いなんか、ないって言ってるの!!」


 「そうかもな。けど、俺はやりたいからやる。このゲームだってやりたいからやってるんだよ。あのうるさい幼馴染二人に振り回されてはいるけど、楽しかったからここにいる」


 「でも、死ぬかもしれないのよ!?」


 「俺は死なない。つか、そんなありきたりなデスゲーム小説の被害者になってたまるか!」


 「何で、なの・・・」


 激しい舌戦を繰り広げていると、ついには向こうは泣いてしまった。ボロボロと涙をこぼし、地面に座り込みながらも、俺に叫ぶようにして言う。


 「何で、私なんか・・・」


 「理由なんかない。例え、ここにいたのがお前じゃなくても俺はやったと確信できる」


 「でも、私は無愛想で、嫌な奴にしか見えないじゃない・・・」


 「そうだな。お前は表情が出にくい。けど、今は俺の為に泣いてるんじゃねぇの?」


 「私は、そこまで冷血漢なんかじゃない・・・!」


 「そうか」


 俺は座り込んだアイの視線に眼を合わせる。


 「いいか、俺は何の考えもなしにあの犬に挑みに行くわけじゃない。あいつには、致命的な弱点が一つだけある」


 「弱、点・・・?」


 「あぁ。『グレイプニル』っていう妖精の作ったリボンだ。神話ではフェンリルは騙されてこのリボンをつけたから拘束された。たぶん、このゲームでも・・・」


 「でも、なかったら・・・。それに、効かないかも・・・」


 「ある。絶対にだ。このゲームは神話を元にされている。そして、フェンリルはHPがちゃんと減る。たぶんゲームの法則にはある程度のっとっているんだ。だから、俺は死にに行くんじゃない。生きるために、そしてお前を助けるために行くんだ。それに、俺は『スレイプニル』だ。アスカに言わせると俺は名前だけなら最強らしい」


 『スレイプニル』って、滑走する者って意味なんだけどな・・・。これで名前だけなら最強ってどういうことだ?

 そんなことはおくびにも出さずにアイを安心させるように言う。


 「でも、何で・・・」


 「・・・今は、まだ神殺しに成功したやつはいない」


 「それが・・・」


 「俺の幼馴染に言わせると、このゲームで最強の称号が欲しいんだとさ。一番最初に倒したのは俺たちだって称号がな。まぁ、そのついでだ。あいつらに眼にモノみせてやる、な」


 そう言うと、アイは泣いた顔を少しでも引き締めようと眼をこすって、表情を元に戻す。そして表情の出にくい顔で俺にいう。


 「・・・やっぱり、納得できない」


 「ここまで来て・・・」


 「だから、私も行く」


 そう言うと、アイは武器を装備。アイも俺と同じでナイフを使うらしい。

 そして無表情ながらも、この極限的状況で分かってきた相手を見やり、これは無理だと判断した。

 これは、アスカと師匠が意固地になった時の表情、雰囲気に似ている。


 「・・・わかった。ただし、条件がある。これは、絶対にしてくれ」


 「・・・エロいこと?」


 「誰がするか!?つか、ゲームでできるか!?」


 いや、今の状況ならと一瞬変な考えがよぎったが、俺はそれを遥か無限の彼方に追いやると、PTメニューを操作した。

 やることは、『師弟システム』だ。


 「これ・・・」


 「いいか、これを使うとお互いのスキルを一時的に使用することができる。EXスキルも。お前は、念のために俺のEXスキル≪スレイプニル≫を使えるようにしておいてくれ」


 俺はアイに≪スレイプニル≫の特徴を教えた。

 アイはそのスキルの異常な性能に驚いて、『師弟システム』の影響で見られるようになった俺のスキルを見て呆れた。


 「Pスキルばっかり・・・」


 「けど、ココにあるのは超強いヤツばっかだ。いざというときに使ってくれ。特に、お前は『隠密スニーク』を頼む」


 「・・・いいけど、何で?」


 「お前には、頼みたいことがある。実は、フェンリルの行動を見てたんだけどな、あいつはある場所を中心にしてこの森を徘徊してることが分かったんだよな」


 「ある、場所?」


 「あぁ、マッピングしたやつがここにある・・・」


 そう言いながら俺は地図をとりだした。

 正直な話、『気配察知』と『追跡』は『地図作成マッピング』がないと使えないスキルだ。『地図作成』は生産系のスキルで、俺が歩いた一定範囲を地図化してくれる。ただし、本当に範囲が狭い上に、地図の保存ができないので使えるかどうかは賛否両論の声が上がっている。俺は熟練度を最大まで上げたが、それでも数メートルしか記録できない。

 とにかく、今は地図マップだ。俺は地図の一点を指す。


 「どうも、フェンリルはここを中心に徘徊しているらしい。もしかすると、ココにあるのかもしれない」


 「・・・『グレイプニル』?」


 俺はその言葉にうなずく。

 正直、これはただの推測で、なんの保証もない。だけど、俺達はこれにかけるしかない。


 「お前は、『グレイプニル』を探せ。んで、フェンリルにトドメをさす。俺は囮だ」


 「でも・・・」


 「大丈夫だ。俺にはこのスピードがある」


 それでも不安なのか、アイの表情はすぐれない。・・・・ここまで同様に無表情だけど。

 アイはおもむろにメニューを操作し始め、俺に俺に何かのトレードを促した。


 「・・・これ、使って」


 「・・・『ピック』?投擲アイテムか?」


 「貴方、遠距離攻撃が全くないでしょ?」


 「・・・」


 耳が痛い話しだった。と言うか、師匠とアスカがしてくれたから必要がなかったともいえる。正直なところ、俺は盗賊シーフ的なポジションだしな・・・。


 「私の『投擲スキル』使えば貴方も遠距離攻撃ができるようになる」


 「・・・わかった」


 俺はそう言うと、アイから投擲アイテム一式を貰って、ポーチを装備。

 これでやるべきことは終わった。


 「いいか、俺達は生きるために戦う。絶対に死ぬなよ?」


 「・・・そっちも」




~数分後~

 「いいか、絶対に『隠密スニーク』をミスるなよ?そうしたら、お前はおろか俺もアウトだ」


 「・・・わかってる」


 俺はPスキル『猫眼キャッツ・アイ』で真っ暗な夜を見通しながらそう言う。このスキルはいたって単純で、『暗視』と『望遠』の効果を持つ。ただし、俺は同じような働きを持つ『梟眼オウル・アイ』というのも持っている。『梟眼オウル・アイ』は遠くを見渡せる『鷹眼ホーク・アイ』と闇を見通す『暗視』、『隠密』の三つのスキルからなるEXスキルだ。むろん、それらすべての性能を備えている。

 だが、俺は『猫眼キャッツ・アイ』を愛用している。それは何故か?このスキルには普通にはないスキルの特徴がある。それは・・・。




 「・・・その眼、何とかならないの?」


 「え?猫っぽくない?」




 なんと、眼が光るのだ!

 現実リアルの猫よろしく・・・!


 「お前こそ、『梟眼オウル・アイ』でいいのかよ」


 「・・・効率重視」


 ちなみに、Pスキルは十個のスキルスロットにセットしたものしか適用されない。だから、こういった複合系のスキルは非常に重要な要素になる。まぁ、例によって例外はもちろん存在しているらしい。

 俺の『スレイプニルの指輪』も実際にその一つで、Pスキル『思考加速』はスキルスロットにセットされなくてもキーワードを唱えることで発動する特殊なスキルだ。


 「まぁいい。行くぞ・・・!」


 俺は一言だけ言うと、目的の場所の近くにあった湖に突撃する。すると、俺が湖に入ったことを感知したのか、遠くにいるはずのフェンリルが大きな雄叫びをあげる。そしてその巨体には見合わないほどの静かな音で俺に忍び寄ってくるのが『気配察知』のスキルでわかる。

 その距離がほとんど零になり、フェンリルの巨体が森の中から現れた。そして怒りを誇示するかのように吼えると俺を強靭な咢で噛み砕こうとした。


 「待ってろよ、お前にぴったりの首輪を探してもらってるんだからな・・・!」


 フェンリルはロキから生まれた最凶の魔獣。最初の頃はごく普通の狼と変わらず特に何の問題もなかったが、次第にその強大すぎる力を持て余すようになる。

 更には神々に対して不吉な予言ばかりが出てくるため、『レージング』、『ドローミ』と言った拘束具で自由を奪おうとしたが、賢く強いフェンリルはそのことごとくを破る。

 そして三度目の正直で考え出されたのが『グレイプニル』と言うリボン。神々が鎖も引きちぎれるならこのリボンくらい大丈夫だろうとフェンリルをそそのかした。

 それに不審を抱いたフェンリルは、保障として誰かの右腕を自分の口に入れるように要求。そこでフェンリルに餌を与えていたテュールが自分の右腕を差し出す。

 結果としては『グレイプニル』の拘束はうまくいった。ただし、テュールの腕はその犠牲になったけどな。そしてフェンリルが口を閉じないように剣をつっかえ棒にし、その口から出たよだれが川になって・・・と言う感じで神話は続いている。

 つまり、こいつの弱点たりうるものは『グレイプニル』を除けば、つっかえ棒にした剣。そしてもっと言うなら『斬属性』の攻撃。そして口腔内が弱点部位である可能性が非常に高い。

 けど、一番警戒すべき攻撃がヤツの咬撃・・だ。つっかえ棒にするようなものがない以上、これは諦めた方がいい。


 「三枚におろして、八つ裂きのフルコースで文句はねぇよな?・・・あ、最後に生け作りも残ってるけどな。リボンで拘束の」


 俺の軽口にイラついたのか、怒りの咆哮と共に前足の爪で切り裂こうと腕を振り上げた。

 ・・・後は頼んだぞ、アイ!


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