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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
クローズド・サーガ
41/52

クエスト39・氷の少女

―――sideスピカ

 「・・・ちょっと待ってください」


 「うん。何かな、ロゼちゃん?今、いい感じに話が盛り上がってきたのに」


 「そこですよ、ロゼさんが言いたいのは!」


 何故かロゼちゃんから待ったがかかったかと思えば、今度はミサちゃんから突っ込まれてしまった。


 「何で、盛り上がってきたところでお二方はリタイアしてしまったんですか!?」


 「続きが気になるのに、全然わからないじゃない!?」


 ミサちゃんとロゼちゃんが食ってかかるようにして言い返してくる。

 ラタトスクの面々も心なしか非難の視線を俺に送ってきている気がする。


 「実は、一応ミッド君から話を聞いたけど、ほとんど答えてくれなかったんだよね」


 「(それは、ここで終了ということかー Σ(゜口゜; )」


 「俺、少しスピカさんを見損ないました」


 「元隊長の過去に興味はなかったけど・・・最低」


 「まぁまぁ。・・・スピカさん、泣きたければこの俺の胸を貸しますよ!」


 「大丈夫だよ。ベータテストでは運営の人が全プレイヤーの記録をとってたらしくて、後で教えてもらえたんだよ」


 一瞬、キモい発言が聞こえた気がしたけど、気のせいだよね。

 みんなはどこか安心したような表情で俺に話の続きを促す。


 「じゃぁ、ここからはミッド君達の視点で話そうか」


 ひとまず、一息入れて・・・。


 「これから話すのは、最初に『箱庭』に囚われた二人の少年少女の話、とでも言えばいいのかな・・・」




Player-ミッド

 意味が分からなかった。

 ログアウトボタンを押しても、ログアウト特有の光エフェクトが散らない。そうしている間にも目の前には今にもログアウトしてしまいそうな二人の幼馴染がいて、二人は同時に何かを叫び・・・消えた。


 「どう、なってんだ?」


 「貴方も、ダメだったのね」


 その言葉に、俺は突然現れて俺達を助けてくれた少女の方を向く。

 目の前の少女は、青を中心としたキャラメイクになっている。どのアバターにも漏れないように普通に可愛いんだけど、声に抑揚が見られないため、なんか非常に違和感がある。まぁ、実際の顔じゃないのにこんなこと言ってもしょうがないけどな。


 「貴方もって、どういうことだよ?」


 「・・・私も、ログアウトできない」


 あまりにも簡潔に、そして最悪の事態を一言で説明された。


 「お前も、ログアウトできないのか?」


 「えぇ。この森でスキルの熟練度を上げていたら、フェンリルに出くわしたの。そこで攻撃を受けて・・・」


 「痛みを、受けたのか?それで、ログアウトもできなくなった?」


 俺の疑問には、一つうなずくだけで答えた。


 「マジかよ・・・」


 俺は呻くようにしてつぶやく。


 「後、フェンリルは所構わずに現れる。すぐにここを離れた方がいいわ」


 「はぁ!?何でだよ!?フェンリルは名前からして沼周辺にしか現れないはずだぞ!?」


 「そんなの、私は知らない」


 ・・・まぁ、そうだよな。


 「悪い。お前に当たってさ・・・」


 「・・・別に」


 目の前の少女は無愛想にそう言うと、どこかへと歩いて行こうとする。


 「待てよ。フェンリルの行動範囲がお前の言う通りなら、ここは危険だ。今すぐにこの森を出るぞ」


 「貴方は知らないけど、私には無意味よ」


 「・・・よくわからないけど、とにかく行くぞ」


 俺は少女の手を掴もうとする。しかし、それより早く少女は俺の手を振り払い、自分から歩いて行く。


 「・・・そういや、俺はミッド。お前は?」


 「ミッド?・・・変な名前」


 「うるさい」


 俺の安直なネーミングセンスでこうなっただけだ。

 流石に、後半の言葉を繋げる勇気はなかった。中二的なやつだからなぁ・・・。


 「後、どうせ会わなくなるんだから、名前なんか意味ない」


 「・・・まるで、氷みたいに冷たいやつだな」


 「あっそ」


 「・・・とりあえず、アイスだから、『アイ』とでも呼んでおこうか?これなら、女の子っぽい名前だしな」


 「・・・好きにすれば」


 こうして、俺と『アイ』の臨時PTが完成した。正直なところ、不安な要素しかない。




~数分後~

 「やっと、着いたぞ・・・」


 「・・・」


 こっちから積極的に話そうとも、アイは一言も返してくれなかった。

 普段、あの幼馴染二人がとんでもなくうるさいため、こういう空間はどうも慣れない。まぁ、今となってはそれも関係なくなってしまうんだけど。


 「よし、ここから出たらログアウトできるかもしれない。あるいはGMコールで何とかなるかもしれない」


 「・・・だといいけど」


 本当に、必要最低限の言葉以外にはしゃべらない。このせいで何回心が折れそうになったことか・・・。


 「お前、もうちょっと愛想よくできねぇの?」


 そう言いながら、俺は自分のSPDにモノを言わせて高速でアイの頬を指で掴み、無理やりに口角を上げてみる。

 そこにできたのはいびつな笑顔だった。と言うか、この感触は・・・!?


 「ッ!?」


 相手も自分が俺に何をされているのか理解した瞬間、俺の手を思い切りはたいて距離をとった。

 ・・・まさか?


 「・・・何の、つもり?」


 目の前の少女の顔は依然としてポーカーフェイスを保っている。

 だが、何故か俺にはそれが悪鬼羅刹の憤怒の形相にしか見えないというのはどういうことなんだろうか?


 「・・・お前の頬、やわらかいな」


 「殺す」


 「待て、誤解だ!?知らなかったんだ!だって、他人への接触もかなり制限されているから!!」


 このゲームでは、他人への接触時の感覚は極端に制限されており、さっきのようなまるでリアルの如き触感はあり得ない。それに、設定次第では触れることすらできないようにできる。

 そして現状としては、どうも俺達は現実と同じような五感を持ってしまっているらしい。つまり・・・。


 「頼む、今ここで攻撃食らうと死ぬほど痛いから・・・!?」


 「そのつもりだから・・・!!」


 ダメだ。

 俺は迫りくる悪鬼から逃げるために全速力で走る。幸い、すぐそこに森の出口が見える。俺はそこへ飛び込むようにして走る。

 そして・・・。


 「ごがっ!?」


 何かにぶつかった。

 顔面からぶつかったせいで、鼻が超痛い。そしてアイはそんな俺を冷たい目で蔑むかのように見つめている。


 「自業自得」


 どうやら、実際にそうらしい。普通に蔑まれた。

 俺は取り繕うようにコホンと咳払いを一つ。そして今度は手を前に出す。すると、もう少しで手が森から出ると言うところで、まるで見えない壁があるかのように俺の手が透明な何かに触れた。


 「・・・何だ、これ?」


 「やっぱり、出られないの?」


 「やっぱり?・・・まさか、お前も?」


 俺の言葉にうなずくアイ。

 ・・・そうか、こりゃまいったな。

 まず、現状できないことは『GMコール』、『ログアウト』、『森から出る』。つまり、この状況から言えることは・・・。


 「詰んでる出れないツンデレじゃねぇか!?」


 「・・・バカ?」


 なんか、アイの中で俺の好感度的なものが急降下している。それも垂直に。

 いや、だが手はまだある!


 「お前、寝たか?」


 「ダメだった」


 「・・・」


 即終了だった。

 このゲームでは、寝ると強制的にログアウトされる。だから、寝れば出られると思ったんだが・・・。


 「本当に、手詰まりだな」


 「わかったでしょ」


 「あぁ」


 もう、どうしようもないくらいにダメだと分かった。


 「まぁ、アスカと師匠が俺達が残されたってのを分かっているはずだから大丈夫だろ。今頃、事務局に行って説明してるだろ」


 今、俺達はベータテスターとして東京都のホテルに泊まっている。そこで専用のゲームハード『ダイブギア』を使って『GWO』をプレイしている。

 もちろんのこと、そこには開発チームも泊っていて、大抵の事態に対応できるようにしている。


 「何はともあれ、後一時間だ。さっきのアナウンスも聞いたろ?」


 「・・・うん」


 どこか不安気な表情でアイがそう言う。

 俺はどうしたもんかと考え、すぐに思いついた。とりあえず、アイテムインベントリから・・・。


 「何してるの?」


 「料理。俺、あのうるさい二人に無理やりやらされたんだよ」


 そう言いながら、俺はアイテムの『携帯調理器具』で料理スキルを使う。まぁ、味も見た目もごく普通の何の変哲もないヤツしか作れないけどな。と言うか、それで充分だと思う。少なくとも、どっかのうるさい幼馴染みたいに変なチャレンジ精神発揮して暗黒物質作るよりはましだ。


 「・・・何で、食材持ってるの?」


 「食材は、ここまでに倒してきたモンスター。後、アスカが廃人なせいで丸一日ゲームに籠って耐久プレイするとかに付き合わされたせいで、条件反射的に調味料の類も持ってきてた」


 酷く憐れんだ視線を送ってくるアイ。


 「・・・メシ、やらんぞ?」


 「別に、いい」


 「・・・なら、この腕をどけろ。俺の分はおろか、お前の分も作れん」


 言動と言葉、表情が見事に一致していない。

 俺はこういう状況に案外慣れていたのでそのままスルーして料理スキルを使う。料理の基本は変な挑戦をしないことと下準備を怠らないこと、味見をすること。それさえ守ればゲテモノは出てこない。ただ、このゲームでは残念なことに味見が不可能なため、できてからのお楽しみ状態になっている。

 個人的にはそんな楽しみはいらない。まぁ、下準備が必要ないって部分は楽でいいと思うんだけど。それに俺自身そこまで料理がうまいわけじゃない。

 今回は簡単にスープにでもしておこう。それに、この森はフェンリルのせいなのか異常に寒いしな。

 俺はこれまでに培われてきた無意味な勘でどの肉が使えるのか判別し、必要な調理アイテムをカード化する。そして携帯調理器具のカードを握りつぶしてアイテム使用。すると目の前に鍋のようなものが現れる。更に、目の前に調理スキル用の表示枠ウィンドウが現れ、そこに料理の方法から調理時間と言ったことを入力。鍋で焼き物料理もできるんだから色々とシュールだとは思う。まぁ、できないことはないんだけどなぁ・・・。

 設定を完了した俺は、料理素材のアイテムカードを握りつぶす。すると、鍋の中に色々な具材や調味料が入っている状態になり、俺はそれを確認して鍋のふたを閉めた。


 「後、少しでできる」


 「・・・」


 「・・・よだれ、拭けよ?」


 「・・・」


 聞いちゃいなかった。

 ほどなくして電子レンジのチンというような音が聞こえたかと思うと、鍋のふたが独りでに消えた。

 今にもとびかかりそうなアイを押しのけ、俺は鍋の上に表示されているウィンドウを見た。


 『コンソメスープ(肉入り) 出来栄え・3』


 まぁ、コンソメ入れて塩味のスープができるわけないよなと心の中で突っ込みつつ、スープ皿を出してよそう。

 ちなみに、この出来栄えってのは五段階評価で、今回の俺の料理は可もなく不可もなくって感じだな。まぁ、大雑把な男メシだしな。


 「俺は薄味派だから、味が薄かったら言えよ。調味料アイテムで塩とか使えるからな」


 「・・・!」


 俺が色々と話してるってのに、アイはガツガツとメシを喰らっていた。

 まるで、何日もメシを食ってなかったかのように。俺はそれを見て、自分の分がなくならないうちにと食べ始めた。




 「んで、満足したか?」


 「・・・」


 アイはいまだに無表情だが、視線を俺と合わせようとしない。

 ・・・何となく、こいつが分かってきた気がした。


 「お前、恥ずかしがってるのか?」


 「・・・別に」


 「目を見て話せ。目を」


 まぁ、そう言うことだ。

 こいつは、ただ感情の表現が苦手と言うか、表に出にくいと言うだけなんだろう。実際に今も恥ずかしいやら気まずいやらで顔を背けている。


 「まぁ、そんなにうまそうに食ってくれるんなら、料理人冥利に尽きるな」


 「・・・ありがとう」


 「いいって」


 俺はそう言いながらメニューを開けた。

 料理を作ったり、食ったりで結構時間を食ったはずだ。流石にそろそろ何か知らのアプローチがあってもよかったと思うんだけど・・・。


 「アレから、一時間なんて既に過ぎてるぞ?」


 「・・・たぶん、私達がいるから」


 俺達を、強制的にログアウトできないのか?しかも、連絡も寄こせないってどういうことだ?


 「まぁ、考えてもしょうがない」


 時間的にはいつの間にか夜だった。

 どうやら、思った以上にフェンリルとの戦いが長引いていたらしい。どうせ何もできないんじゃな・・・。


 「交代で番をしよう。お前は先に寝てていいぞ」


 「・・・わかった」


 俺が一方的に決めたにもかかわらず、アイは素直に言葉に従ってくれた。と言うか、案内俺って信頼されてるんだなと思った。普通、今のこの異常な状況で知らない男と一緒って不安な要素しかない気がするだけどな。


 「しかも、寝るの速っ!?」


 既に軽い寝息を立てて寝ているアイを見てそう思った。

 それに、どうやら本当に寝てもログアウトされないらしい。その事実に、さっきまで思っていたことが現実だという可能性が濃くなってきた。


 「・・・やっぱ、やるしかないのか」


 俺は自分のメニューを開き、スキルの設定をいじる。

 ・・・まぁ、今の最強はこれだな。


 「んじゃ、次はパーティーでも組もうな」


 俺は寝たままで、返事をするはずもないアイにそう言うと、森の奥へと進んだ。無論、あのフェンリルを倒すために。


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