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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
音速の剣士とスレイプニル
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クエスト3・商い少女の調査報告

Player-ミッド

 聞き込み少女――ちなみにあの子は『ミサ』というらしい――との遭遇から数日がたった。

 俺とカイとロゼはいつものように適当なダンジョンにもぐったり、そして俺はイースとそのペットのワンコのバカ達に追っかけまわされたりと、日々、平和に暮らしていた。

 まぁ、いつもと違うのはミサがいるってコトぐらいだろう。でも、そんなのは些細な問題だ。別に、低レベルの戦闘プレイヤーだからと俺達は放っていったりしないしな。

 そして、俺はふと気になったことがあってミサに聞いてみた。


 「・・・そういやさ、何でPK集団に襲われたか心当たりは無いの?」


 「はい?・・・いえ、そんなものは・・・強いて言うなら、私が初心者ってコトでしょうか?」


 そうか・・・。

 相手はただの愉快犯か。


 「あら?でも、アレから二年よ?それで今、初心者ってどういうこと?」


 ロゼが気になったのか俺とミサの会話に口を挟む。

 ・・・そういわれるとそうだ。

 確かに、二年経って初心者とか・・・ね?


 「たぶん彼女は生産組なんじゃないのか?」


 すると、カイが俺達の疑問に答えてくれた。

 ・・・でも、『生産組』と初心者がどういう関係があるんだ?

 『生産組』って言うのは簡単に言えば生産系スキルを極めている人たちの総称。料理スキルや鍛冶スキルに相当するものだ。

 逆に、俺達みたいな戦闘系スキルを極めているのが『攻略組』って言われている。


 「でも、それなら余計にわからないわ。だって、『生産組』の子がいきなり『攻略組』にシフトチェンジするって意味がわからないじゃない」


 「いや、大有りだ。つい最近、問題になってきたんだけどな・・・、まぁ、簡単に言うと、今になると極めたいスキルをカンストさせたヤツが大勢いるんだ」


 「・・・なんとまぁ」


 正直、生産スキルを極めるのは相当メンドイ。

 遅々として熟練度がたまらないうえ、物を作るためには元になる素材がいるからだ。

 でも確かに、二年もここにいたらイヤでもカンストするよな・・・。


 「はい。私も料理のスキルを一通りカンストさせてしまったので・・・」


 ミサは地味にハイレベルプレイヤーだった。

 下手したら俺よりもステータスが高いんじゃね?

 でも、ミサはそこで表情を暗くして深刻そうに言った。


 「でも、お金が無いんです」


 「・・・どういうこと?」


 というわけでカイ先生に聞いてみよう!


 「いや、な。・・・このゲーム内で、建物が購入できるのは知ってるだろ?」


 「あぁ。だって、個人でも家かってそこで店をやってるとかあるもんな」


 「うん。私の知り合いの鍛冶師にも自分の工房を持っている人がいるわ」


 「そう。・・・で、実は今のこのゲーム内には個人で購入できるような物件が無いんだよ」


 「え?何で?」


 「簡単だ。売り切れ。・・・そういうわけで、個人で店を開きたいやつは露天商するか、でっかい大手ギルド用のホームを買うしか方法が無いんだよ」


 ・・・うそぉ!?

 だって、家だよ!?

 建築スキルの持ち主とか・・・。

 そうだった。このゲームには建築スキルなんてものも土木スキルなんなんて物も無い。

 もちろん、閉じ込められているからかアップデートなんてシャレたものもない。


 「で、今あるのは大手ギルド用の豪邸みたいな家しか空いてない」


 「そうなんです。・・・私、どうしても自分のお店を作りたくて・・・。それでも、今はそういうところしかなくて・・・」


 「だから、多くの生産職のヤツ等は路頭に迷ってる。それに、このゲームは元々が領地の奪い合いだからな生産職向けの待遇がまだ微妙だって言うのは始めの段階で言われてた」


 「・・・ちなみに、大手ギルド用ホームはおいくらで?」


 ちなみに、ココでのお金の単位は『ネル』。もし、俺が前に飲んだジュースを買おうとすれば五〇ネルだったか?


 「あぁ。確か・・・数千万ネルだっけ?」


 「あ、はい。たぶんそれぐらいかと」


 「「数千万!?」」


 天文学的数字だった。

 ・・・なぁ、数千ってゼロが何個?


 「・・・って、まさか、狙われた理由って!?」


 「たぶんそうだろうな。金目当てだ。それもかなり問題になってきている」


 このゲームでもしも死んでしまった場合、デスペナルティと言うものが発生する。

 これはプレイヤーが死ぬと所持アイテム、または装備が確立でドロップしてしまうという内容だ。

 でもPKしたときには相手の所持金の半分が必ず・・自分に来る。

 つまり、PK集団がミサをPKすればかなりの額の金を横から掻っ攫うことができる。


 「最ッ低ね!!カイ、何とかできないの!?」


 「いや、そんなこと言われても・・・。今も対策を考えている途中だ」


 「大変だねぇ。・・・ミサ、ちなみに今いくら?」


 「あ、えと・・・八六〇万ネル・・・ぐらいですけど?」


 「なるほど。・・・コマンド・メニュー」


 そういうと、俺はメニューを展開。

 そして、手早く操作してトレードのボタンを押す。

 すると、ミサがいきなり驚いた表情をする。


 「え?でも!?・・・こんな!?」


 「ミッド、アンタ何したの?」


 「投資。・・・喫茶店を作ってくれるとうれしいな」


 「え?・・・で、でも、こんな大金・・・」


 「・・・別に貰ってもいいんじゃね?コイツ、よくわからないけど、装備はやたらとレアだし買い替える気もまったく無いみたいだし」


 「そうそう。でも、大丈夫。三分の一ぐらいは残ってる」


 「・・・これの、三分の一?」


 「・・・アンタ、ドンだけ投資したのよ」


 「まぁまぁまぁ。俺はロゼと違って浪費癖が無いんだよ」


 「・・・そこはかとなくむかつくわね」


 「でも・・・」


 「なら、それは貸しってコトで。無利子無期限。返せるようになったら返して」


 「・・・もう、この数日でわかってますから」


 そういうと、どこと無くやけくそ気味にミサは承諾のボタンを押す。

 すると、俺の金額の欄から所持金の三分の二が消えた。

 でも別に惜しいとは思わない。

 スキルの熟練度上げるついでに適当にモンスターを狩っていればそのうち貯まる。

 そして今日もいい天気だなーと思って空を見上げた瞬間、頭に何かモフモフしたものがぶつかる。

 恐る恐る離れてみると、そこには青い毛並みのでっかいお犬様。

 そしてそれにまたがる怪奇現象・ドS女。


 「・・・タマ二号、見つけた」


 「さらば!!」


 そういうと、俺は目にも留まらぬ速さでそこを駆け出した。



Player-ミサ

 私は最早消えたとしか思えないスピードで走り出したミッドさんとそれを追いかける『神の鎖グレイプニル』と名高い魔獣遣い、イースさんを見て思った。


 「・・・ホントに、このゲームで一番弱いプレイヤーなんですか?」


 「ある意味においてはかなり強いと俺は思う」


 「・・・でも、確かにアレはかなりのステータスポイントをSPDに振ってるわね。それも極振り。そうでもしないと魔氷狼フェンリルと追いかけっこなんてできないわよ」


 ミッドさんの二つ名『音速の剣士』

 これは、ミッドさんが北欧神話系キャラでチュートリアルを受けてすぐに習得するスキルだ。このスキルの詳細は、高速で剣を振って攻撃すること。でも攻撃力の補正が無いうえ、スキルの熟練度を上げても一向に派生スキルを覚えない。攻撃内容もそんなに変化無しという・・・言ってしまえばドMな人の使うスキルだろう。


 「でも、さすがに他のスキルも覚えていますよね?」


 「・・・それがね、どうもアレだけみたいなのよね。あ、投擲スキルも持ってたっけ?」


 「お?そうなのか?」


 「・・・」


 カイさんはそれすら知らないらしい。

 ・・・私達の事情にはものすごく明るかったのに。


 「・・・でも、お二人とも、相当強いですよね?」


 「まぁ、それなりに?」


 「俺は確かに結構強いと自負しているぞ」


 「じゃぁ、何でミッドさんと一緒に?」


 「俺は・・・まぁ、流れで?」


 「・・・私は、そうね・・・。一年前、アイツに助けられたから?」


 「・・・はい?」


 おかしい。

 頭の中で再生される映像はミッドさんがロゼさんにボコボコにされる映像だけだ。

 ・・・中には、ダンジョン内にも関わらずかわいそうなことをされているミッドさんの姿が・・・・・・。

 うん。ロゼさんがミッドさんに助けられるってところが想像できない。


 「でも、本当なのよね~。それに、あの時だけなんか≪リスタ・ソニック≫じゃない技を使ってた気がするのよ」


 「気がするって・・・」


 「それがさぁ~、たまたまエジプト神話エリアでさ、ダンジョンの性質のおかげで前が見えなかったのよ。でも、その時に相手してたモンスターが文字通り八つ裂きになってたのよ」


 ・・・いや、ミッドさんのことだからきっと何かえげつないことをしたんだ。

 例えば、モンスターにモンスターをキルさせるとか、実はそれはミッドさんじゃなかったとか。

 私頭の中につい最近のミッドさんの戦闘方法がフラッシュバックされる。

 例えば、ミッドさんが何故か私のほうにモンスターを連れてきてMPKをしようとしたとか、遠くから私達の応援をしていたりとか・・・。

 ・・・あれ?やっぱり、私を助けてくれたのはこの人じゃないのかも?


 「でも、アイツは地味にこのゲームのことを知ってるのよね」


 「はぁ?」


 「いや、ね・・・。別に、神話のことをよく知ってるのはいいとして、アイツが倒せないはずのモンスターの詳細知ってたりとか」


 「・・・あれ?でも、このゲームは基本的に上位のモンスターは神話に出てくるもので、それに限りなく忠実に再現してあるとか聞いたことありますけど?」


 「・・・でも、ね」


 ロゼさんはどこか納得しないような表情でそういった。

 ・・・でも、確かに謎の多い人だとは思う。

 最近この人達と過ごしてみてわかったことは、この人達は個性的だぐらいだし・・・。


 「・・・そういえば、イースさんにいつも追いかけられていますけど、何でですか?」


 「あぁ、それはな・・・。イースのヤツな、獲物を狩っていたらしい。そこで、そいつを追いかけていた進路上にミッドがいて、そのままミッドは轢かれる」


 ・・・なんというか、不憫な人だ。わかってはいたつもりですけど。


 「それで、ミッドはイースにお前のせいで獲物を逃したみたいなことを言って、ミッドは代わりにそいつをひっ捕まえてきたんだと」


 「・・・わかった。それがレアなモンスターとかだったりしたんじゃないの?」


 「そうらしい。でも、俺が知ってるのはそこまで。ミッドはモンスターの名前まで覚えていなかった」


 「・・・なんていうか、いい加減ですね」


 「確かに。・・・まぁ、そんなわけで今のアレにたどり着く」


 カイさんが指をさす方向を見ると、そこにはものすごい展開が・・・。

 ミッドさんは忍者よろしく『ナゴヤ』の建物の屋根を爆走。

 そして、それを追いかけるようにして大きな青い影が。

 しかも、咆哮ブレス系の攻撃をしてミッドさんを足止めしようとしている。

 そこを、ミッドさんは手を動かし、何かをしていた。


 「・・・おっと」


 カイさんは、そういうと何かを取る仕草を行う。

 すると、そこにはついさっきまで無かったはずの投擲ナイフが握られていた。


 「危ない、危ない・・・おい!ミッド!あんまりナイフを投げるな!」


 「無理!」


 「・・・今日こそは、逃がさない」


 そういうと、ミッドさんとイースさんは風のように走り去って言った。

 そして、後に残るのはしんとした広場。

 何だか、それは嵐が通り過ぎていったような感じだった。



用語集


PK・プレイヤーキルの略。『GWO』内にてPKをすると倒した相手の所持金の半分が手に入り、運がよければ装備していたものをドロップする。


MPK・モンスター・プレイヤーキルの略。高レベルモンスターを引き付け、他のプレイヤーへと誘導しそのモンスターにPKさせるという極悪な行為。よい子のみんなはマネしないでね!


ネル・『GWO』内での通貨。お金があれば何でもできる。


エジプト神話領・中部地方を中心に広がる神話領。全体的に砂漠のフィールドが多く、主要都市は水が流れており外観が大変綺麗。『遊○王』で有名なアレである。

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