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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
クローズド・サーガ
39/52

クエスト37・凍てつく森

Player-スピカ

 初めてこの世界ゲームに降り立った時、これが仮想だとは信じられなかった。それほどまでに、このゲームはどうしようもなく現実リアルだった。

 モンスターたちと戦い続ければ疲れるし、お腹もすいてくる。

 ・・・そう、だから。


 「うん。これはしょうがないんだよ、ミッド君!」


 「だからって、俺に料理スキルを極めさせてどうする!?」


 「いいじゃない、どうせ家でも似たようなことしてるんだし」


 「お前等が!家事が!全く、できないからだろ!?」


 とりあえず、俺達はいつものようにミッド君に料理を頼んでいた。

 やっぱり、ミッド君はいいお嫁さんになれる。


 「よし、ミッド君。将来家にお嫁に来て!」


 「誰が嫁に行くか!?こんな過酷労働嫌だよ!?それ以前に男だぞ!?」


 「貰ってもらえるんだから、感謝しなさいよ」


 そう言いながら、当時は眼帯をつけていなかったアスカちゃんがそう言う。今考えてみれば、このせいでミッド君が幼馴染に拒絶反応的なものを発症しちゃったのかもしれなかった。

 具体的に言えば、俺達を幼馴染とは絶対に言わなくなった。・・・悲しい。


 「んで、今日はどうするわけ?」


 ミッド君が俺達三人で購入した家のキッチンで料理スキルを使いながら聞いてくる。もう夏休みもテスターも、終了間近だ。アスカちゃんに連れられて、勢い込んで入ったはいいけど、正直何もすることがない。

 すると、アスカちゃんが勢い込んで言う。


 「それに、ミッドがPスキルと生産系スキルの具合を調べて、あたしが戦闘系スキルを極める。スピカは適当に好きなようにする。まぁ、これが最初の目標だったわけよ」


 「あぁ、おかげで俺は廃人プレイをする羽目になった」


 生産系スキルとPスキルを極めるのは超面倒だからねー。でも、ミッド君はどっちかと言えばパッシブスキルの方が好きなタイプのRPGプレイヤーだし。

 アレね、アクティブとパッシブの二つがあると、まずパッシブを極める人。でも、残念なことにこのゲームではPスキルの熟練度上げるのが大変なんだよね。


 「ミッドの≪スレイプニル≫に関しては、もう驚きしかないわ。てか、いまだに条件が分からないの?」


 「あぁ、全然」


 そう、ミッド君の使うEXスキルの出現条件がいまだにわからない。

 一応、俺達も≪リスタ・ソニック≫を死ぬほど極めてみたものの、≪スレイプニル≫は覚えることができなかった。


 「流石に、ミッド君と同じビルドってのはねぇ・・・」


 「そうそう。てか、ミッドは何を目指してるの?速過ぎ」


 「何言ってんだよ。速いってことは、攻撃にも防御にも使えるんだぞ!?」


 そうやってミッド君はいつものように速いことはいかに素晴らしいのかを延々と説いてきた。うん、それはもうわかったから。


 「けど、そのスピードをコントロールするのも大変になってくるのに、指輪の効果が二倍でしょ?」


 「まぁ、『思考加速』使えるから、そこまで大変じゃないぞ?」


 ミッド君の言葉にアスカちゃんはただただ呆れた。


 「それで、スキルをあらかた試してみた俺達はどうするの?」


 「そう、その話よ!」


 アスカちゃんが尋ねた俺にビシッと指をさす。

 そしてもったいぶった口調で言う。


 「やっぱ、ここは神狩りでしょ!」


 「「・・・」」


 まぁ、ミッド君と俺はそれを半ば予想していたよ。




 今現在、このゲームではいまだに神級ゴッド・クラスのモンスターを討伐することができていない。

 まぁ、このゲームで最強と言ってもいいモンスターの総称だし、しょうがない。けど、アスカちゃんはそうはいかないらしい。そこで俺達は準備のためにNPCショップへと買い物に来た。


 「買い物したいんだけど?」


 『いらっしゃいませ。これが商品です』


 NPCがそう言うと、目の前に商品の名前が書かれた表示枠ウィンドウが現れ、アスカちゃんはそこから目当ての物を買っていく。

 NPCと言っても、まるで本物の人間が話しているようだった。つくづく、このゲームってすごいなぁと思う。

 そう言えばミッド君はどこだろうと周りを見ると、ミッド君は別のNPCに話しかけていた。

 アレは・・・。


 「ミッド君、スキル買うの?」


 「いや、何となく見てただけ」


 そう言うと、ミッド君はウィンドウを消してこちらに向き直る。

 このゲームでのスキル習得方法はいくつかある。その一つがNPCショップで買う。NPCショップのスキル販売店には『基本スキルセット』と、各神話領特有のスキルがバラ売りされていて、このカード化されたものを握りつぶすとスキルを覚えられる。ただ、ここに売っているのほとんどが下級の弱いもので、より強い上級スキルを求めるなら熟練度を上げるか、莫大な『ネル』を費やして上級のスキルを買うかのどちらかだ。

 まぁ、例外として『神器』が持っていると言うユニークスキル、通称『Gスキル』とか、モンスターを倒すとごくまれに手に入る『ドロップスキル』なんてものもあるけどね。


 「それにどうせ後数日だし、満足いくスキルが身につかないと思うんだよな」


 「そっか」


 「二人ともー!終わったよー!」


 遠くの方でアスカちゃんが俺達に買い物が終了したことを教えてくれる。その声に従って、俺達はアスカちゃんの元にいった。


 「んで、どこ行くんだ?」


 「『魔の森』、そこにいる有名なモンスター」


 「あぁ~。大体わかった。今から料理スキル磨きに帰るけどいいよな?」


 ミッド君がさりげなく帰ろうとするけど、そのミッド君の襟首をアスカちゃんと一緒に掴んで逃さない。


 「で、そこには何が出るの?」


 俺はアスカちゃんに一応聞いてみた。

 ミッド君から一通りの北欧神話知識を聞いているけど、あやふやなものも多いしね。


 「『魔氷狼フェンリル』。今、所在がはっきりしていて、誰でも討伐に行けるモンスター」


 わぁお。それは強そうだ。




 『魔氷狼フェンリル』、それはごく普通のゲームでもよく出てくる大きな狼のモンスターだ。

 ミッド君によれば、『フェンリル』は魔神ロキの子供の大きな灰色の狼で、『ラグナロク』のときには『オーディン』を噛み殺してしまう、まさに最強最悪の化身とでもいうべき怪物。

 たびたびゲームで『氷』や『水』と言った属性がつけるのは、噛まないようにフェンリルの口に剣をつっかえ棒をしたときに流れ出たよだれが川になったとかいう話があるからじゃないかと言ってた。

 ・・・うん。いつも思うんだけど、神話ってアレだよね?

 まぁ、そんなわけで俺達は意気揚々と・・・。


 「放せ!俺は嫌だぞ!?だって、相手は北欧神話最強と言っても過言ではないバケモノだぞ!?死ぬ、絶対に死ぬ!まずは、『妖精の飾紐グレイプニル』を用意しろ!話はそれからだ!」


 「うっさいわね。男ならつべこべ言わずに付いて来なさい!つか、アンタは一応『スレイプニル』でしょうが!」


 「意味わかんねぇよ!?」


 いいなー。ミッド君はいつもアスカちゃんと仲良くおしゃべりして。

 そんな二人をうらやましく思いながら、俺はアスカちゃんとミッド君を引きずって『魔の森』に向かっていた。


 「マジで、あの見た目リボンなでも凶悪な拘束具のアレを見つけないと絶対に勝てねぇよ!?それに、このゲームは神級ゴッド・クラスに関しては神話を結構忠実に再現してるから、絶対にいる!!」


 「はいはいはい。じゃぁ、EX持ちの『スレイプニル』君は頑張ってね」


 「この野郎!オーディンの如く俺をこき使いやがって・・・!」


 「安心しなさい、アンタが『スレイプニル』ってことは、このあたしは確実に将来的には『オーディン』になれる!」


 「その無意味な自信はなんだ!?」


 「んで、スピカがあたしを守る『バルキリー』ね」


 うん。アスカちゃんがそう言うと、本当にそうなりそうな気がする。なんだかんだでゲームにかける情熱はすごいからね。


 「じゃぁ、頑張らないとね~」


 「だから俺は嫌だぁー!?」


 周りの人が俺達に生温かい視線を向けてくるけど、それを無視して俺達はミッド君を引きずっていった。




 「で、来てしまったわけなんですけど・・・・・・行くの?」


 「「・・・」」


 ミッド君の言葉に、思わず俺達は押し黙ってしまった。

 ダンジョン『魔の森』に来たはいいけど、目の前の森は猛吹雪だった。ついでに氷漬け。どうも、ここのダンジョン属性が『氷』だっただかららしい。ダンジョンには属性があって、自分の得意属性であれば有利に戦えたりする。極端な例を上げれば、ギリシャ神話の魚人族マーマンなら『水』とか『海』だったらその分の補正が上がるとか。と言うか、水を得た魚なのでチートになっているって噂がある。ちなみに、『氷』が得意なキャラは『霜の巨人ヨトゥン』だね。

 そして、俺達の場合ならアスカちゃんが『黒エルフドウェルグ』で、『闇』が得意。ミッド君が『猫妖精ケットシー』で『森』、そして俺の『半白エルフハーフエルフ』が『万能』。『万能』はどの属性のダンジョンに対しても特に何の効果も持たない、標準的なものだ。だから、大抵の人は俺と同じキャラを選ぶ傾向にある。

 まぁ、今回は一応森だし、ミッド君に有利ではあると思う。


 「なぁ、帰らない?ここにいるの、師匠ぐらいしか無理だぞ?」


 しかし当人のミッド君は既に帰る気満々だった。

 ちなみに、ミッド君はこのころからすでに俺のことを師匠と呼んでいた。まぁ、実験で『師弟システム』をやってたからだけど。


 「まぁ、得手不得手があるだけで、特にマイナスの効果があるわけでもないし、行くってことで」


 「あぁ、少しでも期待した俺がバカだった」


 結局、アスカちゃんの鶴の一声で決定。大体俺達はいつもこんな感じだ。

 ミッド君もついに諦めたのか、やっと自分の足で立ち上がって歩き始めた。


 「・・・とりあえず、敵はいなさそうだ」


 ミッド君が言うからにはそうなんだろうと思う。

 Pスキル『気配察知』。熟練度が上がれば上がるほどに自分の周囲のことが分かってしまうと言うスキル。ただし、マッピングの機能はないから自分の現在地はわからない。ただ周囲のことが分かると言う程度のものだ。

 似たようなスキルに『追跡』っていうのがあって、これも相手との距離と方向が分かる程度のモノだしね。


 「それなら、サクサク行こうか」


 「待ってなさいよ~、『フェンリル』!」


 完全にラストダンジョンの魔王を倒すノリで、剣士二人と盗賊的な一匹で挑んだ。だけど、まさか本当にこのゲームの魔王バケモノを倒しに行くとは、誰も予想がついてなかった。




 「あ、アスカ、そっちに敵隠れてる」


 「おっけー!」


 「師匠、そこにも」


 「はいはい!」


 俺達は頼りになるミッド君の指示を受けて次々にモンスターたちを屠っていった。ちなみに、俺の装備はNPCショップで売ってる防具一式に、ドロップ品の片手判剣『霊騎士の剣エインヘリアル・ソード』。まぁ、可もなく不可もなくって感じのごくごく普通の装備。

 アスカちゃんが槍と斧の特性を備えた重量武器である戦斧槍ハルバード、NPCショップのやつ。防具も同じ。アクセサリーがかなりレア等級の高い『妖精の首飾り』、要するに『ブリーシンガメン』。DEFにかなりの補正がかかる。

 そして、ミッド君の装備が準神級セミ・ゴッドの『スレイプニルの指輪』。SPDを二倍にしてしまう、ややじゃじゃ馬すぎるピーキーな装備だ。そして、武器がクエストを消化して手に入れた双短剣『ウィンドローズ』。『風の通り道』という意味の武器だけど、シャレのつもりなのか薔薇ローズの模様がある、奇麗な武器だ。しかも地味にかなりの性能を誇る。具体的には回避とSPDに補正がかかる。


 「ミッド、アンタもサボってないで戦いなさい!」


 「働いてるぞ。・・・サポートで」


 「・・・」


 「ちょ!?無言で仲間にMPKしようとするなよ!?」


 「ほらほら、遊んでないで。次来るよ~」


 そんなやり取りをしつつ、俺達はどんどん奥へと向かっていった。

 奥に行けばいくほど、吹雪が激しくなり、視界が悪くなってきた。けど、それ以上に・・・。


 「・・・なんか、寒くないか?」


 「・・・確かに、そんな感じがするわね」


 「これはちょっとやりすぎだね」


 このゲームでは、痛覚なんかはある程度カットされている。そして温度も。要するに、著しく人の動きを制限してしまう要因をかなり減らしてある。けど、どういうわけかここは異常に寒い。まぁ、周りに比べてだけど。我慢できない程じゃないけど、長時間ここにいたら仮想で風邪引くかもしれない。


 「こんなとこ、『フェンリル』倒してさっさと帰る!」


 「あぁ、結局そうなるんだね」


 でも、アスカちゃんは諦める気はないらしい。流石ゲーマーの鑑みたいな子だ。何故かさっきよりも上がったペースで俺達は山を登っていき、次々に現れる狼とか霜の巨人の親せきっぽいモンスターたちを倒していく。ここのモンスターはさほど強くはない。案外、『フェンリル』も弱いんじゃないかなぁなんて、思っていたんだ。

 そして、俺達は目的のモンスターの目の前に立った。


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