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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
ポセイドンと毛糸玉
38/52

クエスト36・知られざる英雄の物語

Player-ロゼ

 『さぁ、やってまいりました!最弱VS最強、どっちが最速・・・レース!!』


 『『『イェー!』』』


 うん、個人的にはそのネーミングはどうならなかったのか聞きたいわ。

 まぁ、予想はつくと思うけど、これは例のミッドVSイースのレースだ。もはや無所属領では恒例の行事となっていて、いつの間にやらこんなことになっていた。


 「というか、いつの間にこんなことに?とそれ以前にどうやってみんなに中継しているんですか?」


 疑問の声を上げるのはミサ。

 ちなみに、私はいつものようにミサのお店でお茶飲んでくつろいでいる。


 「それは簡単よ。PVPにバトルロイヤルモードってのがあるでしょ?」


 「あ、はい。使ったことはありませんけど」


 「それ、設定をいじくると、周りに公開するってことができるのよ。で、みたい奴はPVPのバトロワのとこにある『Open Battle』ってボタンを押すと、公開中のバトルを選んで、見られるようになるの」


 「・・・あ、本当ですね。じゃぁ、この『Closed Battle』は非公開ってことですか?」


 「そうそう」


 私がミサに説明していると、いつの間にかレースが始まっていたみたいだ。

 ミッドがいつものように、バカみたいな速さでイースをぐんぐん引き離す。・・・にもかかわらず、何故いつもみんなはイースに賭けているんだろう?ヤジもミッド負けろーとかそんな感じになっているし。

 そんなことを考えていたら、『喫茶ひだまり』のドアに取り付けてある鈴がチリンチリンと軽い音を立てた。


 「いらっしゃいませー」


 ミサが条件反射で対応。でも、何故か次の瞬間には驚きの表情に変わった。はて、VIPなお客でも来たのかとドアの方を見れば、そこにはどこか見覚えのある四人の男女がいた。


 「どうも、お久しぶりです」


 「(お久ー)」


 「べ、別にアンタの為に来たんじゃないんだからね!・・・どうよ」


 「あぁ、うん。そんなツンちゃんも可愛いよ。・・・と言うわけで、ミサさん、お茶しよう!」


 ラタトスクの幹部クラスが来た!?しかもごく普通に私の横に座ったし!?


 「皆さん、何にしますか?」


 しかもミサまでも普通の対応。どうやら、ここにはわたし意外にまともな人はいないらしい。


 「アンタら、ラタトスクは北欧神話領なのに、こんなとこにいていいわけ?」


 「そいつらは別に無所属領だろうが、日本神話領だろうが、どこにいても問題ない」


 答えたのはラタトスクのバカじゃなかった。

 いつの間にレースを終わらせたのか、そこにはミッドとイースがいた。


 「・・・おなか減った」


 「わかりましたー」


 ミサがラタトスクの面々に飲み物やお菓子を配って、厨房で素早く調理スキルを使う。イースは何故かここでいつもカレーを頼む。しかも、タバスコ特盛りで。この人の味覚は大丈夫なんだろうかと心配になってくる。

 まぁ、そんなことよりも・・・。


 「ミッド、どういうことよ?」


 「まぁ、暗黙の了解ってやつか?こっちがバグモンスターの情報集めるためにこいつ等は色々な所に潜入している。まぁ、そのおかげでどこの神話領にも似たような組織が実はあったりするんだよな。お前、『お庭番衆』とか聞いたことね?」


 「えぇ、噂みたいなものだけど」


 日本神話領には、昔江戸幕府に合った特殊隠密部隊、『お庭番衆』と呼ばれるものがあったらしい。実際に合ったのかどうかわしらないけど。で、日本神話領ではこの名前のギルドが守護神ガーディアンの中にあって、暗躍しているとか何とか。


 「それ、マジだぞ」


 「うっそぉ!?」


 「だって、ハンゾーがラタトスクのノウハウを教えたんだからな。それに、ハンゾーと言えば、服部半蔵だろ?」


 「全く関係ないわよ!?」


 今、私の横で食っちゃべってる、この優男が?

 しかも、いつもツンさんにいらんちょっかいかけて追いかけまわされている、現ラタトスクの隊長が?

 そんなことを考えていると、またドアの鈴が涼しい音を立てた。


 「お、今日は珍しい子達がいるねー」


 そう言いながら入ってきたのは、ボロボロのマントを身に纏ったスピカさんだった。色々な所を飛び回っていて、よくここにも足を運んでくれる。

 ・・・そう言えば、聞きたいことがあった。


 「ミッド、アンタはアスカさんとも昔からの知り合いよね?」


 「あぁ、それがどうした?」


 「何で、アンタみたいなやつがこの人達と知り合いなのよ?」


 「だって、幼馴染だし?」


 ・・・今、ものすごい単語を聞いた気がした。


 「アレ?俺、ロゼちゃんに言ってなかったっけ?」


 「さぁ?」


 目の前の師弟が首をかしげながら話している。


 「ハァアー!?」


 「いや、そこまで驚くことか?俺とアスカが同い年で、師匠が一個上なんだよ」


 「そうなんだよね~。二人と同じ教室で勉強できないから、何回留年を画策したことか・・・」


 「頼むからやめてくれ。まぁ、これを始めたのはアスカがきっかけなんだけどな。あいつ、かなりのゲーマーだからな」


 「そうそう。俺達の名前はもちろん、家族の名前とか使いまくってベータテスターに応募したからね。・・・で、当たったのが三つ。驚異的でしょ?」


 「・・・何という強運」


 確か、当選人数は千人だけ。その中から三つもあてたんだからあり得ない。


 「・・・ん?三人って、ベータテスターだったの?」


 「じゃなきゃ、≪スレイプニル≫を発見できなかったな」


 「そうそう」


 「(噂では、隊長はそこで何人もの女の子を泣かせてきたとか・・・)」


 「おい、なんだその根も葉もないうわさは!?」


 ミッドがへな子さんに飛びかかり、ほっぺをむぎゅうと引っ張る。

 すると、へな子さんのほっぺが伸びる伸びる。しかも、イースさんの方向から殺気のようなものが飛んできている。


 「(いやー、たいちょー。へな子が可愛くてお持ち帰りしたいからってこんなことやめてー。いくらへな子が好きだからってやりすぎー)」


 「そんな!?ミッド君、俺をお嫁さんにしてくれるって、幼稚園ぐらいに言ってくれたじゃないか!」


 「お前ら二人ともテンションあがりすぎだ!?つか、へな子のは出まかせだし、師匠のは幼いころの妄言だ!つか、俺には好きなやつが・・・」


 そこまで言うと、ミッドがはっとした表情になって冷静さを取り戻し、口を閉じた。

 こいつ、何かをカミングアウトしようとした!?


 「ちょっと、ミッドさん。その部分を詳しく・・・!」


 ミサが話に食いつこうとしたとき、店内にカラーンと言う空虚な音が響いた。音の方向を見れば、そこにはカレーを食べていたイースの手からスプーンが落ちていた。

 イースはその場で立ち上がると、お店の出入口に向かう。


 「お、おい、イース。どうした?」


 「・・・え?何が?私はいつも通り平常運転」


 「いや、お前何かショック受けてね?・・・なぁ?」


 いや、こっちに振られても。

 つか、私にはいつも通りの平常運転の無表情の顔にしか見えない。


 「・・・ショック?何が?別にショックなんて受けてない。ただ・・・走り出さなくちゃいけないの・・・!」


 「おい、こいついつもより饒舌だし、変な方向に熱血だぞ!?これでどこが平常運転なんだよ!?って、逃げられた!?」


 イースはミッドの手を払うと、店の外へと飛び出していった。

 そしてミッドもそれを追うようにして飛び出す。


 「って、いねぇ!?あいつ速いぞ!?つか、どこ行った!?」


 その言葉を最後に、ミッドの姿がかき消えた。

 たぶん、イースを探しに行ったんだろう。

 事態に追いつけていない私達は呆然とそれを眺めていることしかできなかった。


 「隊長、好きな人とかいたんだなぁー」


 「え?ハンゾーも知らなかったの?」


 「よく考えなさいバカ、あたし等が知らないことをこいつも知ってるわけないじゃない。まぁ、その逆も言えるけど」


 ポニーテールな男勝りの女性、ツンさんがそう言う。


 「(へな子の恋は、終わった・・・!)」


 「はいはい、へな子ちゃんケーキですよ~」


 「(いらん!)」


 チャラい男子にそう言いつつも、ちゃっかり貰っている。

 そんな面々の反応を見て、スピカさんが苦笑いのような表情を浮かべる。


 「スピカさん、何か知ってるんですか?」


 「うん、たぶんねー。ミサちゃん、紅茶お願い」


 「あ、はい」


 ミサはスピカさんの注文通りに紅茶を淹れ、それを受け取ったスピカさんは私達に話す。


 「たぶん、この話はミッド君が初めてバグモンスターと遭遇した時の話になるね。ベータテストで≪スレイプニル≫を覚えて、『指輪』も手に入れたころの話」


 『バグモンスター』、その言葉を聞いた私達の表情は驚きしかなかった。

 今、このゲームで陰ながら問題になっている、ふざけたモンスターの総称。それは、どうやらベータテストの時に既にいたらしい。


 「まぁ、そんな身がまえなくてもいいよ。なんか、そのモンスターだけ設定のミスだったらしくてね。それに、そのモンスターが何と因果なことか・・・」


 「因果?」


 私の疑問の言葉に、スピカさんはなんてことはない、軽い感じで言う。


 「魔氷狼フェンリル。今はイースちゃんのペットになっているワンちゃんだよ」


 その言葉に、全員が『え?』という困惑と、驚きの入り混じった表情で答えた。

 けど、すぐに気がついた。話が、おかしい。


 「ちょっと、おかしくないですか?」


 「何が?」


 「だって、ベータテストって、夏休みを利用した一ヶ月半でしょ?だから、ミッドの話と合わない」


 確か、ミッドから聞いた話だと、初めて会ったのは『スレイプニル』。そこで指輪を手に入れた。だから、この『初めて』はベータテストじゃないとおかしい。確かにベータテストはカウントしてなかったとかかもしれないけど・・・。


 「ベータテストでは、熟練度が今の半分の五百で、Pスキル『向上心』っていう、熟練度の上昇速度を上げる特殊スキルがあったの。これは、運営ができるだけ色々なスキルの不具合を見つけるためにEXとかの条件にバグがないか調べるためだったみたいだね。それと、テスターにはもれなくこれがついてきたよ」


 なるほど。じゃぁ・・・。


 「まず、異常なスピードでEXスキル≪スレイプニル≫を見つけたミッドがモンスターの『スレイプニル』と遭遇。指輪ゲットしてからの話ってことですか?」


 「そうそう。だから、ベータテストの夏休み、終盤の話だね」


 確か、あの不死龍アンデッド・ドラゴンの所で聞かせてくれたミッドの話によれば、≪リスタ・ソニック≫の熟練度が八百で覚えるらしい。これを基準にして考えるなら、テスト時は四百ぐらいが妥当。それに熟練度を速く上げるスキルもあったんなら、たぶんできる。


 「まぁ、そう言うわけで話をしようか」


 スピカさんはそう言うと、一口だけ紅茶を口につけ、喉をうるおしてから私達に話し始めた。


 「ミッド君の話によると、彼女の名前は『ヒムロアヤカ』ちゃんらしいよ」


 「「「本名リアル・ネーム!?」」」


 「うん。なんか、それしか教えてくれなかったらしいよ?」


 変な人もいたもんね。個人情報を相手に渡すとか。


 「でも、なんかミッド君は『アイちゃん』って呼んでたらしいから、それで通すよ?」


 私達はわかったと言うと、スピカさんは今度こそ話を始めた。





 「これは、ミッド君が初めて、バグモンスターから女の子を守って、傷ついた話だよ」


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