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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
ポセイドンと毛糸玉
37/52

クエスト35・アリアドネ

Player-カイ

 今、俺の目の前には重厚な石の扉がある。

 まぁ、『ダイダロスの裏迷宮』のボス部屋の前なんだけどな・・・。

 何故こんな状況に陥ったのか、それはほんの数十分前までさかのぼる必要がある。




~数十分前~

 とりあえず、ミノス王を倒した俺はみんなを何とかすべく水面に向かって泳いで行った。


 「大丈夫だったか?」


 「カイさんこそ、大丈夫ですか!?」


 レグルスが心配して聞いてきたが、ホームグラウンドで負けるわけがねぇだろと言うと安心したのか、いつもの笑みを浮かべた。


 「じゃぁ、三叉矛も・・・」


 「あぁ」


 そう言って全員に見せる。

 安堵した表情のみんなに、俺は疑問をぶつける。


 「んで、何で上げらないんだ?」


 「それが、その・・・」


 何故か口ごもるサヨが言うには、どうも入り口と出口の通路が高く、今の水位では届かなかったらしい。

 それならと俺が水面ジャンプして先に通路に入り、三叉矛、『魚人の肉匙サハギン・フォーク』でこいつ等を引き上げる。


 「で、今どこだ?」


 「「「さぁ?」」」


 ミノス王にかかりきりで、現在地が分からなくなった。

 とりあえずここはカナリアの出番だ。


 「でだ、出口はどっちだと思う?」


 「は、はい・・・!」


 カナリアがうーんと考え込む。数秒後、まるで何かの電波を受信したかのようにバッと顔を上げ、ビシッと指さす。


 「あっちだと思います!」


 「「「・・・アウトだ」」」


 「え?な、何でですか!?わ、わたし、ちゃんと考えましたよ!?」


 だって、なぁ・・・。

 運の悪いことに、カナリアがさしたのはこの先の通路。そしてカナリアの指さす方向と逆が正解のルート。つまり、いまだに水浸しの大部屋の向こうの通路が正解なわけで・・・。


 「ウチは嫌だぞ、泳ぐのは。このゲームでは死ぬほど疲れんだよ」


 華がみんなを代表して応える。

 レグルス達もコクコクと高速で首を縦に振ってるしな・・・。


 「・・・けど、どうすんだよ?」


 俺は泳がねぇと帰れないぞと言外に伝える。


 「カナリアさん、誰かここをクリアした人っていますか?」


 唐突にレグルスがそんなことを聞きだした。

 カナリア以外もその言葉に考え込むような仕草を見せるが、誰も心当たりがないらしい。


 「なら、もしかするとココのボス倒したら転移陣ポーターがあるかも?」


 ここは通常ダンジョンではミノス王を倒しても転移陣ポーターが現れない特殊なダンジョンだ。だが、それがこの『裏迷宮』のダンジョンにも適用されているとは確かに言いきれない。


 「確かに、レグルスの言う通りです」


 「それに、奥にいってる間に変わるだろうし」


 双子の指摘ももっともだ。


 「・・・つか、お前等は別ルートを行くって発想がねェのか?」


 華がそう言いながらカナリアを見る。

 それだけで内容を察したカナリアは再び電波を受信しようとする。


 「・・・やっぱり、あっちです!」


 カナリアはビシッと先ほどと同じ方向を指す。

 どうやら、別ルートを選択と言うことは無理らしい。


 「なら、ついでにクリアしてっか」


 こうして、俺達は再びカナリアの先導で迷宮を突き進んでいった。




~現在~

 「で、ココのボスってなんだ?」


 「え?先輩知らないんですか?」


 「むしろ、何で俺が知ってると思った?」


 俺はもっともな疑問を返したはずなのに、何故かみんなから肩透かしを食らったぜという感じの視線をいただいた。


 「使えねェ野郎だな。んなだからワカメ野郎なんだよ」


 「お前はいい加減にわけのわからん言い回しを使うなよ」


 それに、ミッドは北欧神話系が好きで北欧神話領に入った。だから、俺はあいつから聞いたのは北欧神話系がほとんどだ。

 あ、たまに日本神話系の話も聞いたな。


 「あの馬鹿は北欧しか話してくれなかったんだよ」


 「クソ、ダメ猫だな。マジで」


 華がトップシークレットを思わずつぶやいていた。幸い、誰も華の話を聞いてないのか、俺でも知らないならどうすると言った感じで話し合っている。

 まぁ、ミッドの秘密がバレなくてよかったのか?

 いや、正直バレてもいいような気がしないでもない。


 「とにかく、中に入るぞ」


 俺はそう言って全員の前に立つ。そして扉に手を当てると、重い音を立てて石でできた巨大な扉が俺達を受け入れるかのように内側へと開く。

 そして、目の前に広がったのは・・・。


 「・・・子供?」


 そこには何かの作業をしている、十代前半程度の子供がいた。

 俺達が扉を開けたことにも気付かないほど集中しているのか、こちらに背を向けたままだ。

 と言うか、こんな所に小学生ぐらいの人間がいるわけがない。それ以前にこのゲームは・・・。


 「このゲーム、R15だよな?」


 そう、レグルスの言う通り、このゲームは人と戦闘をするというゲームのせいか、十五歳未満はプレイが禁止されている。だから、あれから二年たっているため、このゲームでの最年少は十七歳だ。

 つまり、何が言いたいのかと言えば、こんな所に小学生がいるのはあり得ない。

 だとすれば・・・。


 「NPC、か」


 NPC。ノンプレイヤーキャラの略称。このゲームで自律行動するAIのキャラ。RPGとかで『ここは○○の村です!』とか言うのがそれに当たる。


 「いや、案外ボスかもしんねェぞ?」


 「じゃぁ、こんな小学生みたいなキャラに負けたらヘコむな」


 俺は華に軽口を叩きつつNPCへと声をかけることにする。


 「おい、こんな所で何をしている?」


 すると、NPCは酷く人間臭い動作で驚き、驚愕の表情を張りつけたまま俺達に向き直る。


 『え?こんな所に人が?』


 人工的に作られたことが信じられないくらいに精巧な動作にしゃべり方。いつもながらこのクオリティには驚かされる。

 それに、ミッドが借りているNPCの宿屋の主はなんかヤバいらしい、色々と。

 目の前のNPCらしき少年は自分で疑問の声を上げながらも言葉をつづけた。


 『まぁ、そんなことはいいです。お願いです、助けてください』


 ・・・いきなり、助けてと来たか。

 明らかに何かのクエストのフラグだ。だが、クエストを受諾するためのメッセージウィンドウが現れない。嫌な予感しかしない。


 『お願いです、急がないとあいつが・・・!』


 NPCがそう言った瞬間、迷宮が震えた。

 まるで地震のような揺れに俺達は思わずたたらを踏んでしまう。そして、それが致命的な結果を生んだ。


 「入り口が・・・!?」


 カナリアの声に入り口を見た俺達は驚愕の表情を浮かべる以外になかった。さっきまで何の変化もなかった。扉が閉まり始めた。これが意味することは・・・!


 「ボスだ!全員気をつけろ!」


 俺が注意を促すと、揺れる地面に足を踏ん張って構える。

 ひときわ大きな音が聞こえると、地面の揺れが止まる。そしてボスが現れた。そこにいたのは、ミノタウロスよりも一回り大きい、牛頭の人間。


 「「「またか!?」」」


 もう、ミノス王はお腹いっぱいだ。

 ただし、普通のミノス王と違い、赤い色の巨大な大戦斧を持っている。すると、その赤い大戦斧に炎が纏わりつき、火の粉を散らす。


 「熱い・・・!?」


 飛んできた火の粉の一部が俺にあたり、火傷しそうなほどの過剰な熱を感じた。

 だが、このゲームではもちろん、火傷しそうなほどの過剰な熱を感じることなんてあり得ない。あり得るとするならば・・・。


 「まさか、バグモンスターだってのか!?」


 「「え、えぇ!?」」


 「先輩、俺達さっき倒したばっかじゃないですか!?」


 「・・・マジで、やってらんねェ」


 「は、華さん、それどころではないですよ!?」


 そんな俺達をよそに、NPCの少年が妙なリアクションをとり始める。


 『だ、ダメだ!翼が、羽が解ける・・・!!』


 「翼に、羽。しかも、解ける・・・?」


 なんか、聞いたことのあるような話だ。


 「おい、お前の名前はなんだ?」


 俺の言葉にNPCが即座に反応。

 さっきまでの驚きのモーションを引っ込め、俺達に普通に自己紹介を始めた。


 『僕はイカロス。ミノス王の不興を買い、父ダイダロスと共に幽閉された者です。そしてお願いです、僕を外に連れて行ってください!」


 その瞬間、待ち構えていたかのようにメッセージウィンドウが出現。

 クエストが強制的に受注された。


 【籠の鳥の導き手】

 ・NPC『イカロス』を守り、迷宮の外へと連れ出せ。

  クエスト完了、あるいは失敗するまで迷宮は固定されます。

 報酬・・・Pスキル『毛糸玉の導き』


 これらのメッセージが迷宮の地図と共に表示、次の瞬間には周囲の壁が崩れ、いくつもの通路が出現した。


 「逃がすのは、テセウスじゃなくてイカロスかよ・・・!?」


 「しかもこれ、『英雄の条件ライセンス』ですよ!?」


 俺達の視線がカナリアに固定される。

 カナリアは『え?』と言う表情で固まる。


 「カナリアが名無しネームレスのせいだな。ったく、面倒なことになりやがった。それに、またバグモンスターだと?なら、さっきのアレが親玉じゃねェのか?」


 「華、お前何を言ってんだよ?」


 「あァ?知んねェのか?スピカが言うには、バグモンスターが複数現れるとき、それはインフルエンザ見てェに感染してんだとよ。だが、こいつの対処は案外簡単で、感染もとを潰せば終了そのはずなんだが・・・」


 「まさか、新種ですか!?」


 レグルスの悲鳴のような叫びに、華はうるさそうに眉をひそめる。

 そして言葉を続ける。


 「こっから先は走りながらだ。向こうは、しびれ切らしたらしいからな。こい、そこのNPC!」


 華がイカロスの腕を乱暴に掴む。だがその瞬間、俺には華が一瞬動きを止めたように見えた。しかし、時は止まらない。

 ミノス王が炎を纏った大戦斧を振りかぶり、俺達に叩きつけようとする。


 「戦うだけ無駄だ。そこの方向音痴、さっさと道を決めろ」


 華の言葉に、カナリアはいつものように・・・。


 「はい、こっちです・・・!」


 指をささなかった。

 と言うか、走り出した。方向音痴のお前が前にいってどうすると突っ込もうとしたが、カナリアはダッシュで通路の一つに飛び込む。


 「あの人、方向音痴の自覚がないから・・・!」


 「とにかく、カナリアさんを追いましょう!」


 双子の言葉に従い、とにかく追う。

 カナリアを追って通路に進むと、彼女はすぐに見つかった。こっちだと手を振りながら無意味に自信を持って前に突き進む。


 「だから、そっちじゃない!?」


 「え?何でですか?」


 「お前、自分が方向音痴である自覚を持ってくれ!」


 「カイ、カナリアさん、横から来る!」


 ヒナの指示を聞き、俺とカナリアは思い切り後ろに跳ぶ。

 すると、そこを壁を破壊しつつミノス王が現れた。もう、こういった登場にも慣れてきたな・・・。


 「なら、今度はこっちです!」


 カナリアは、今度は来た道を戻り、そしていくつかの通路をやり過ごし、目当てであろう通路に飛び込む。


 「だからそっちじゃ・・・」


 そう言いつつも、俺達はカナリアの後をついて行った。と言うか、それ以外に選択肢がなかった。

 カナリアにすぐに追いつくと、俺は文句を言おうとした。


 「ちょっと、アレ・・・!?」


 「え!?どういうことですか!?」


 突然双子が騒ぎ出した。


 「どうしたんだ?」


 俺が聞くと、双子はステレオで俺にあるものを示した。

 それはこの迷宮には所々点在している地図。普段よりも入り組んでいるように見え、現在地を示すマークの近くの下の方には大きめの部屋があり、更に下は地図の枠になっている。たぶん、アレがボス部屋だろう。


 「アレがどうした?」


 「よく見てください!」


 「あ、ダメです、行っちゃいました・・・」


 「二人とも、一体どうしたんだい?」


 レグルスが双子に尋ねると、簡潔に答えてくれた。


 「道に迷ってないみたいなんです!」


 「・・・はァ?」


 華がわけがわからんとでも言いたげに声を上げる。実際に俺達も同じ気分だ。だが、こうしている間にもどんどん逆方向に・・・。


 「・・・おい、何でまだ進める・・・んだ!?」


 「「あぁ・・・!?」」


 華とレグルスが気づいた。

 そう、カナリアは必ず逆の方向へと突き進む。本人の意思に関係なく。そしてこれまでの攻略スピードから考えれば、既に最奥に来ていなければおかしい。そしてここでの最奥とは、地図の一番下の枠に当たる壁。


 「カナリア、どういうことだ!?」


 「は、はい?地図の通りに進んでいるだけですよ!?」


 「地図の通りって・・・」


 支離滅裂すぎてわからない。

 そんな俺の表情から察したのか、カナリアは言葉を続ける。


 「わたし、何故か目的地にたどり着けないんです」


 全員が心の中で『方向音痴だからな』とつぶやいた。


 「だから、わたしはどうしても行きたいところがあるときは、地図を見るようにしているんです!」


 当たり前のことを堂々と言われてしまった。そんなこと言われても・・・。


 「おい。てめェ、まさかさっきの地図のルートを全部覚えたなんて言うわけじゃねェだろうな?」


 「え?皆さん、覚えられなかったんですか・・・?」


 「「「・・・」」」


 もう、どこから突っ込めばいいのかわからなかった。

 いや、言われてみれば心当たりがないとも言い切れないのがタチが悪い。こいつ、地図があった所から進もうとすると、普通にその方向へと進んでいた。俺達が『方向音痴の自覚を持て』と言った時もそうだった。あの時は方向音痴ゆえに自分の進みたい方向へも行けないのかと思ったが・・・。


 「地図さえあれば、お前は最短ルートを行けるってわけかよ!?」


 性能が反則チート過ぎる・・・!

 何故この最強すぎる地図案内人マッパーを使わなかった!?いや、おそらくは方向音痴が目に余ったからだと思うんだけどな。

 その後の俺達は、カナリアの完全に超能力な案内で裏迷宮を駆け抜けた。幸いにも、この部屋には何もいない。


 「おっしゃぁ!」


 「やっとあの地獄から・・・」


 オレとレグルスがそんなことを言いながら、みんなは気を抜いて出口に向かおうとすると、後ろからすさまじい轟音が聞こえた。

 恐る恐る振り向けば、そこには振り切ったはずのミノス王だった。しかも、今度はミノタウロスが三体のおまけつきだ。


 「おうちに帰るまでがクエストだッ!!」


 誰がそんなことを叫んだのか、俺達にはわからなかった。と言うか、そんな余裕がなかった。再びカナリアを先頭に爆走し始める俺達。だが、今度は鬼が四体まで増えている。

 奴等は個々で動き始め、俺達の進路を次々と変えていく。


 「ま、マズいです、追い込まれています!」


 「「本当!?」」


 「つか、んなことまでわかんのかよ」


 双子のステレオと華で悲鳴のような叫びを上げる。後ろからはミノス王が俺達を追ってきている。

 そしてすぐにその通りになった。十字路のようになっている通路に差し掛かると、何と左右と前にミノタウロス達が迫ってきた。

 俺達は猛スピードでこの迷宮を踏破しているにもかかわらず、こいつ等の高度なAIの前になすすべもなくやられそうになっている。


 「くそッ!Gスキルと昨日、使っちまってるからな・・・」


 華が言うのは、緊急回避用のスキルのことだ。

 このスキルはどんな攻撃も三十秒間だけ完全にシャットアウトできるが、魔法スキルにしては珍しくクールタイムがあり、そのせいで丸一日使えなくなってしまう。更には、Gスキルも先ほど使ってしまい、いまだに使える状態ではないのだろう。もしも使えたのなら、壁がわりにして足止めに使えたかもしれない。

 こんな時に・・・。


 「兄貴がいてくれたら・・・!」





 「ケルベロス、オルトロス!」


 


 聞き覚えのある声が聞こえたかと思えば、これまた見慣れた黒い三頭の犬と双頭の犬が俺達の前方にいるミノタウロスに踊りかかる。


 「・・・すまん、見つけるのが遅くなった」


 「「「兄貴ぃー!!」」」


 正直、タイミング良すぎた。と言うか、今の俺達にはヒーローにしか見えない。

 心の底からやっぱりアンタは兄貴だよ言いながら犬達に襲われているミノタウロスの横を通り過ぎる。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出口は、すぐそこだ」


 兄貴のいう通り、外の光が徐々に見えてきた。

 そして我先にと言わんばかりに全員がスパートをかけ始め、全く同時に外に出た。すると、さっきまで死に物狂いで俺達を追いかけていたミノス王たちが名残惜しそうに帰っていくのが見えた。


 「終わっ、た・・・!」


 『ありがとう、これで逃げ出せます』


 華がずっと手をつないで連れてきたイカロスがそう言うと、その白い翼のような物を背負う。どういう原理かは不明だが、翼がはためき始め、イカロスの体を宙へと浮かせた。

 そしてイカロスは俺達に微笑み、一言だけ言う。


 『あなた達のおかげです、どうかこれを』


 そう言った瞬間、イカロスは飛び立ち、更にはクエストのウィンドウが独りでに開く。クエスト名の上に『successed!』と言う表示が追加された。となると・・・。


 「カナリア、あるか?」


 「あ、はい・・・『毛糸玉の導き』、『地図作成マッピング』の上位互換スキルっぽいです。・・・これで、迷子の心配はありません!」


 うん、よかったな。俺は疲れてて何も言えなかったため、心の中でそう言った。

 とりあえず、今日はもう寝たい。





~後日~

 「なぁ、華。俺は恐ろしいことに気づいたんだが?」


 「あァ?いまさら何だよ?」


 俺達はいつものように雛鳥亭で駄弁っていた。

 しかも、今回は何故か『ホワイト・オリュンポス』総出で。元気なった案山子さんはおやっさんと厨房で何か話しているし、双子はレグルスにアタック。この席にいるのは俺に華、コーダと兄貴だ。二人はボケーッと空中を見ている。

 まぁ、それよりも話を戻そう。俺が気になったのは・・・。


 「いや、ミノス王たちってまだバグったままじゃ・・・?」


 そう、ついさっき思いだしたが、結局のところ、俺達はバグモンスターの親玉らしきやつを倒していない。

 だから、依然として・・・。


 「違ェよ。バグってたのは牛野郎じゃねェ。あのNPCの方だ」


 「・・・は?」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。


 「本当にごくまれに、あるらしい。クエストをクリアしなきゃ、バグが元に戻らないってやつが。今回、ウチ等はそれに当たったらしいな。だから、モヤシが起きたのもちょうどウチ等がクエストを完了した時だったろ?」


 確かに、そう言われるとそうだ。

 つくづく、バグモンスターは厄介なやつらしかいねぇ。


 「だから、安心しろ。あの馬鹿達が動く必要はねェ」


 「・・・」


 なんだか、心の底を見透かされたようで面白くない。

 憮然とした表情で、案山子さんがこの雛鳥亭に持ち込んで商品化した炭酸飲料を飲む。


 「あ、こっちだ。カイとか暴力女その二がいた!」


 「あ、本当ね。・・・で、誰がその一か聞いてもいいわよね?」


 「おお、落ち着いてください!皆さんの迷惑になりますよ!?」


 「やっほー。華ちゃんお久ー」


 そこには、珍しい、男性の猫妖精ケットシーとまぁ比較的普通な少女が二人、そして猫妖精ケットシーの師匠がいた。


 「よ、久しぶりだな、ミッド」


 「おう、いやぁ、流石に疲れたわ。・・・一応聞くけど、そっちはどうだった?」


 「死ぬほど大変だったよ。んで、身に染みた」


 「そっか」


 「おいダメ猫、誰が暴力女その二だ?」


 なんか華が気に障ったのか、ミッドに食ってかかり始めた。しかも、何で一じゃねェとかわりとどうでもいい感じの話だ。


 「うぉー!?本物のスピカさんだ!?」


 「おい、アレって無所属領で最近有名になってる『ひだまり』の店主じゃね!?」


 「ならアレは・・・パシリと不良神官」


 「「最後の奴、表出ろ!」」


 「・・・タマ二号、いた」


 「何でここにまで来んだよぉ!?」


 最後、やたらと速い猫が好戦的になったかと思うと、犬にまたがった少女を見た瞬間に逃げ出した。

 これを見ていて思った。

 ミッドやスピカさんが守りたかったのは、こういうものなのかなと。なら、俺はこの一瞬を楽しもう。とりあえずは・・・。


 「おーい。お前ら、後、案山子さんも。俺の友人紹介するから来てくれ!」


 まずは自己紹介と、周辺の案内から始めよう。

 んで、今日と言う何気ない一日を楽しんでいこう。


用語集

イカロス・ダイダロスの息子。ミノス王の怒りを買って迷宮に幽閉されてしまうが、蝋で造った翼での脱走を試みる。しかし、高く飛び過ぎて蝋が太陽の熱によって溶け、墜落してしまった。


アリアドネ・テセウスに毛糸玉を渡した、ミノス王の娘。テセウスはこの毛糸玉のおかげで迷宮を脱出できた。

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