クエスト34・魚人VSミノス王
Player―カイ
目の前で例の化け物が雄叫びをあげる。
俺の神器を奪ったミノス王だ。
「ヒナとカナリアは支援を頼む!サヨはいつものように遊撃、残りはヤツの攻撃に気をつけつつ前衛だ!」
「「はい!」」
「わ、分かりました!」
「今度は、足を引っ張りません!」
「舎弟の分際で、ウチを残りにまとめんな!」
各々が返事をしたところでそれぞれの仕事に取り掛かる。だが、正直な話、俺は華をどう扱っていいのかわからないため、勘で前に置いた。
「あらァ!!」
「「「・・・」」」
女子らしからぬ雄叫びと共に、ミノス王を殴り飛ばす。俺達はそれを半ばあきれたように見る。しかも、ミノス王が攻撃しようとすると、得意の防御系スキルで相手の攻撃を防ぐために、相手からしてみれば最悪の手合いだとしか言いようがない。
「んだよ、てめェらやる気あんのかァ?あァん!?」
華が一喝し、そこで思い出したかのように俺達はミノス王に攻撃を仕掛ける。
俺は華がコーダに頼み、そのコーダから受け取った『魚人の肉匙』を構える。
そして、攻撃を仕掛ける。
前に飛び出し、槍系のスキルでコンボをつなげ、スキルの詠唱を同時に行う。
「≪ネロー・ピエスィ≫!」
スキル名と共に、ミノス王の上空に膨大な量の水が発生。それがミノス王を押しつぶさんとばかりに降りかかる。
大質量の水の圧撃を頭部にまともに食らい、ミノス王がたたらを踏む。だが、俺は攻撃の手を緩めない。槍のスキルを使いつつ、更に詠唱。魔法スキルの使用。
「≪サーラサ・ドーリィ≫!」
空中に水が集まり、そこから幾筋もの水が槍のようにして放たれる。
そしてミノタウロスのHPが徐々に削られていく。
「え?ちょ、先輩、それ、何してんですか!?まさか、武器と魔法スキル使う人の基本技能!?」
「え?あんなの、できませんよ!?」
「・・・とりあえず、一回やってみる」
「やめとけ、ヘタレハーレム軍団。アレは慣れてねェと確実に失敗する。まぁ、ワカメに聞きゃァ教えてくれるだろォな」
俺がレグルスと双子に注意をしようとしたら、華が説明してくれた。
良かった。正直、これは絶対に成功するっていう自信がないと足元を簡単にすくわれる技術だからな。
まぁ、教えることに関してはロゼに教えたからな・・・。うん、こいつらに教えないのは色々とダメだろうな。
「え、えと、わ、私は何をすれば!?」
「てめェは強化をかけ続けろ!特に、敏捷の強化系だ!」
華がそれだけを言うと、再び俺の隣に立つ。そして槍と魔法スキルを放ち続ける俺と共にミノス王を殴る。
「いいか、お前の背中はウチが守ってやる。・・・だから、心おきなくブッ飛ばせ!」
「―――≪ヒポカンポス・パティスタセ≫!」
俺は返事の代わりに魔法スキルをもって返答とした。
ギリシャ神話の水系魔法の上位スキル。水で構成された馬が出現し、それがミノス王へと何回も突撃していく。
「HPが二割をきりました!」
カナリアの言葉で俺達もHPを見てみると、確かに二割ほどHPを失った表示がある。前回よりも幸先はいい。このまま押し込むかと考えたとき、ミノス王の体が光る。これは、スキル発動の時に見られるエフェクト・・・!
「全員しゃがんで!後、上から・・・!」
ヒナの言葉に全員が従う。するとその瞬間、ミノス王が巨大な三叉矛を思い切りフルスイング。続けて振りかぶる。
「≪アポリトス・アーミナ≫!ウチを、なめんじゃねェ!」
花が吼えると、俺達の周囲を白い半透明な結界のようなもので包まれる。これが華のGスキル≪アポリトス・アーミナ≫。効果はいたって簡単で、物理も魔法も通さない結界を生み出す。しかも華はもちろん、PTメンバーならばスキルの停止を待たずに壁を通り抜けて外に出れるうえ、この中にいれば徐々にHPが回復、状態異常も治る。
ただし、この結界のダメージが蓄積すると破壊されるし、このスキルには使用回数制限と、Gスキルには珍しいクールタイムがある。
「てめェら、角だ!」
「やっとですか!」
レグルスがそう言いながらミノス王の角を狙う。俺も華に言われたとおりの部位を狙う。レグルスの格闘スキルと俺の水魔法スキルが炸裂し、HPが大きく削れる。
突然どうしてHPが大きく削れたのか、これが華のもう一つのGスキルのおかげだ。『アテナ』は知っての通り『知恵の女神』。華は対象となるモンスターを見続けていると、そのステータスや弱点、使用スキルを見ることができる。まぁ、全部丸裸にしようとすると、かなりの時間ヤツを睨みつけていないとダメらしい。
「華、一応スキルをチェックしてくれ!」
「なら、後三分は持たせろ!」
長い・・・!
三分あれば大抵のモンスターはやっつけられる!心の底ではそう思いつつ、俺は万が一の可能性も考えて華に頼む。さっきのスキルが気になるしな。
「レグルス!引きつけられるか!?」
「大丈夫、です!」
レグルスが駆け抜ける。
レグルスはこのメンバーの中で一番速い。そしてミッドと違って攻撃力もかなりある。
「双子もレグルスがヤバそうなら、援護してくれ!」
「「わかってます!」」
そう言いながら、サヨが矢を放ち、ヒナが手に持った竪琴をかき鳴らす。吟遊詩人系の支援スキルの特徴は、演奏し続けていればその効果を永続的に続けることが可能だと言うこと。
ただし、当たり前のことだが一曲につき一つの効果。つまりは敏捷を上げる演奏をしていればそれ以外の支援ができない。それに、動きながら演奏することはできなくはないが、酷く難しい。だから、基本はこいつ等を守りながらの戦闘になる。
その分、ロゼの使う魔法スキルの延長線上の奴とは違って効果も高めだし、演奏さえできれば半永久的に効果も続く。
それに、今回は吟遊詩人系のスキル持ちが二人、つまりは・・・。
「カナリア、魔法攻撃の方を上げてくれ!」
「は、はい!」
カナリアの持つ楽器は何故かギターだ。
・・・うん、アレはまごうことなく、ギターだ。しかもエレキで、ピック持ってジャーンって感じで演奏してる。
いや、たぶんアレはリュートだとは思う。たぶん、運営の遊び心だ。・・・たぶん。
まぁ、んなことはどうでもいい。カナリアが攻撃的な演奏を開始する。すると、俺のHPゲージの下あたりに魔法攻撃力が上昇したと言うアイコンが表示されている。
「おし、もう一丁!」
バカみたいに高い耐久値を誇っているバグモンスターのミノス王。だが、俺達の地道な攻撃が徐々に、徐々にHPを削っていく。
すると、そこでミノス王が雄叫びをあげた。またスキルかと思ったが、それにしてはヒナの指示が来ない。
どういうことかと、ミノス王を見ると、そこには槍を掲げるヤツの姿があった。
「神器を使う気よ・・・!」
ヒナが言い終わるか終わらないかというタイミングで、槍が真の姿を現す。それは俺にとって見慣れた、ただしサイズが明らかに巨大すぎる波打つ刃を持つ三叉矛を構えるミノス王がいた。
「さっさと、その武器を返しやがれェ・・・!」
華がそう吼える。そして自分から結界を飛び出し、ミノス王に飛びかかる。
「バカ、がっつくな!」
俺がそう言って華の援護に回ろうとしたとき、ヒナの息をのむ声が聞こえた。
何事かとヒナを見るが、そこには演奏の腕を止めてしまい、顔面蒼白となったヒナがいる。
そして呆然とした表情で、叫ぶように言った。
「全面に攻撃、避けられない!?」
一瞬、意味が分からなかった。
だが、答えはミノス王が示してくれた。ミノス王が三叉矛を掲げ、野太い雄叫びを上げる。すると、その上空に水塊が現れ、その大きさと質量をどんどん上げていく。
俺の使っていたGスキル≪アポファシ・トゥ・ポシドゥーナ≫は、兄貴同様に最初にどれだけのMPを使用するのか設定できる不思議なスキルだ。
MPを多く設定すればするほどに、それに見合った堆積と質量を持つ水塊を生み出してくれる。
だが、それだけだ。
どんなにMPを多く振ろうとも、魔法攻撃力を底上げしようとも、決まった威力以上は出ない。
威力的に言えば、≪ヒポカンポス・パティスタセ≫の方が強い。威力的には≪パリランキ・アンデクセン≫と同等で確かに強い。だが、他のGスキルと比べてしまうとかなり見劣りする。詠唱の必要がない≪パリランキ・アンデクセン≫思えばそれでいいかもしれないが・・・。
だが、ここであの大質量を生み出す必要性が正直よくわからない。
「大丈夫だ、あのスキルの威力は決まっている!全員、こいつの結界の中に避難しろ!!」
俺の言葉に素直に従い、全員が華の生み出した結界の中に入る。
そしてミノス王が槍を振り回し、それを結界に叩きつけた。結界がたわむかのような音が聞こえたが、それだけだ。他の奴等にとっては、このスキルの余波で地面が水浸しになって、若干歩きにくくなった程度だ。
流石はアテナの防御特化のGスキル、ロゼの防御魔法スキルよりも頑丈だ。
「あの攻撃でMPを半分も使ったぞ!?つか、そんなにいんのかよ!?」
ミノス王は魔法スキルを使わないのに何でMPがそんなにあると俺は疑問に思った。
そして華が疑問の声を上げた。
「おい、またMPが減ったぞ!?うるさい方、どういうことだ!?」
「え?え!?これ、どういう、こと・・・!?」
ヒナが驚きの声を上げる以外に、何もできていない。
「ヒナ、落ち着いて!」
レグルスの言葉で落ち着いたのか、戸惑いつつもそれを口にする。
「地面全体に、攻撃しようとしてる・・・!」
ミノス王が再び三叉矛を構え、今度はその切っ先を地面に突き刺した。
そして、俺の視界が、急激に地面に沈んだ。
Player-華
それは、一瞬の出来事だった。
いきなり足元の支えがなくなった。そしてドプンという音と共に体が宙に浮いたような錯覚に陥る。
ただし、息をしようとしてもできない。吐き出した呼気が気泡になって頭上に上っていくのを見つめ、何がどうなっているのか、やっとわかった。
今、水中にいる。
現実同様に息が苦しくなり、酸素を求めて水面へと向かう。
水面に出た瞬間にウチは大きく息を吸い、状況を確かめる。全員、いまだに水の中にいるのかどこにも見当たらない。そしてミノス王も一緒に水の中なのか、その姿も見えない。
「全員、どこだ・・・!?」
「こ、ここです!」
すると、双子の静かな方の声が聞こえた。
双子はレグルスに支えてもらいながら顔を水面に出している。レグルスが周りを見渡してからウチに疑問の声を投げかけた。
「華さん、カナリアさんは・・・!?」
「ッチ、まさかあいつ、泳げねェのか!?」
潜って助けに行こうとした時、ちょうどウチの隣にカナリアが現れた。
「どどど、どういうことですかこれは!?」
「ウチが知るか!?」
思わずそんな突っ込みをすると、今度はうるさい方が叫ぶように言う。
「華さん、危ない・・・!」
何がと言おうとした時、水中から牛の咆哮が聞こえた。
見てみれば、何かのスキルをウチに向かって放とうとしている牛野郎の姿があった。
たぶん、アレは≪咆哮≫だ。満足に動くことのできない水中では確実に当たる。
「・・・あいつ、水中でも何ともねェとかずりィ!」
「そういう場合じゃないですよ!?」
そして、ミノス王の≪咆哮≫が放たれた。
水の中では、それが空気の塊として視覚でき、やっべぇなーとか思っていた。つか、隣がピーチクパーチクうるせェ・・・!
「ちょっと、黙れ」
「華さん、防御スキルお願いします・・・!」
「緊急回避系のは使っちまって、クールタイムのせいで使えねェ」
「詰んだ!詰みましたよ!?」
「てめェうるせェ!!双子のうるせェ方よりもうるせェ!!」
「ちょ、それどういう意味・・・!?」
マジでこいつ等、うぜェ・・・!!
つーかよ、何してんだよオメェは・・・。
「さっさと助けろ、ワカメ野郎!!」
「だから、ワカメワカメうるさいんだよ、お前は!」
その言葉聞こえた瞬間、ウチの景色がブレた。
そしてさっきまでウチのいたところでは、空気の塊と化した≪咆哮≫が爆ぜ、周辺に大きな波を作る。
「遅ェだろォが」
ウチは、助けてくれた影に一応礼を言う。
そして影、カイの野郎は口答えをした。
「お前の結界を見てきたんだよ。ちなみに、壊れてた。だから、ここでちょっと待ってろ」
「え?ちょ?ど、どういうことですか、コレ!?」
一緒に助けられたが、パニックになっているカナリアは無視してカイは水の底にいるミノス王へと高速で泳ぐ。
・・・そういや、こいつは鳥人族、つまりは元々はエジプト神話領だから知らねェのか?
「ウチらギリシャ神話領は、人気的には下から二番目。言っちまえば、特徴らしい特徴がねェからな」
「そ、それがどうしたんですか?」
「ただし、全キャラがそれぞれ特殊なPスキルを持つ」
「P、スキルを・・・?」
「あぁ。実を言うと、魚人族はこのギリシャ神話領では不人気キャラの代表格だ」
「え?そうなんですか?」
「あぁ。魔法スキルが水に限定されるうえ、うまみが特に何もねェからな。ただ、魚人族は他のどの神話領も持たねぇ、Pスキルがある」
「魚人族だけが、持つPスキルですか?」
「あぁ。そして、そのスキルがねェと『海と馬の神』にもなれねェ、重要なスキルだ」
「そ、そんなスキルを持つのに、不人気なんですか!?」
あぁ、その通りだ。
そんだけ重要なスキルなのに、魚人族は超不人気だ。
「そのスキルはPスキル『水中移動』。簡単に言うと水中を速く移動するスキル。極端なこと言えばただの水泳スキルだ」
「・・・え?」
あぁ、そうだよな。
普通は、そんな反応だよな。
「カイの野郎、速く泳げるって理由だけで魚人族選んだバカだからな。そんで、『ポセイドン』になっちまうぐれェに廃人だからな」
「えぇ~・・・」
カナリアがものすごく情けない声を出す。
そんなこと言うがな・・・。
「あいつは、陸でも強い。だが、水中ならだれにも負けねェ。・・・つまり、あんな牛のバグは既に負けてんだよ」
Player-カイ
俺の視界が下に沈んだ瞬間、目の前に水中用の特殊な表示枠が出てきた。そして俺は理解した。今、俺は水の中にいると。
それを理解した瞬間、俺は目の前に現れたウィンドウを確認し、自分がどのくらいの深さにいるのか知る。
思っていたよりも深く、深度は百メートルぐらいありそうだ。それがさっきのドーム状の部屋いっぱい。
さっき、ピンチぽかった華を助けたし、後は俺が目の前の水中にもかかわらず普通に動く、わけのわからん牛をザクザクやっとけば終了だ。
「じゃ、行くか・・・!」
俺が前に走ろうと思う。
すると、体が当たり前のように前へと高速で泳ぎ始める。どうも、この『水中移動』ってスキルは陸での行動を水中用に最適化するスキルらしい。
要するに、俺は水中でも自由自在に動ける。それどころか、陸では不可能な動きを水中ならできる。
ミノス王が俺をターゲット。水中にもかかわらず、陸地同様のスピードで三叉矛の突きを放ってきた。
だが、今の俺にそんな遅い攻撃は当たらない。
俺は三叉矛をギリギリで避けると、そのままミノス王の懐に潜り込む。
そしてスキルを使う。水中用に最適化された≪アエラス・クゥロス≫を使う。ミノス王の足元をすくうようにして槍をスイング。
≪カタギーダ≫、泳いで移動しながら、四方八方からの突きをミノス王が受ける。
だが、まだだ。これは全力の半分も出していない。魚人族は水中にいる時限定で、一部の魔法スキルの詠唱破棄が可能になる。更に、魔法スキルも水中用に最適化され、中には強化されるものがある。
つまりはこういうことだ。
「≪ネロー・ピエスィ≫!」
本来なら、頭上から水の大槌が相手を叩く。
だが、水中内ではそれが全方位からの水圧の圧殺攻撃に変更される。たださえ動くことが難しい水中でこんなことをされてしまうと、何もできないままHPがゼロになるのを待つしかない。
ミノス王が苦悶の叫びを上げるが、構いはしない。
「これは、致命的なお前のミスだ」
俺はミノス王ががむしゃらに振るう三叉矛を最低限の動きで避け、スキルを使う。
≪プロズヴォリ・エピセシ≫、槍を正面に構えて突撃。水中に気泡の尾を引いて、ミノス王の三叉矛を持つ右腕を貫く。
ミノス王がひときわ大きな断末魔の悲鳴を上げると、ついに三叉矛を落とす。俺はその巨大なままの三叉矛を抱きかかえるようにして奪い、ミノス王の頭上に泳いでくる。
そしてその牛頭に向け、思い切り巨大な三叉矛を投げた。
致命的な一撃が発生したエフェクトが散り、HPがみるみる削れていく。そして、削りきった。
ミノス王は水中でドットへと変換され、それと同時に三叉矛もアイテムカード化された。
「牛が、水中で魚に勝てるわけがねぇだろうが」