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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
ポセイドンと毛糸玉
34/52

クエスト32・オリンポスの神々

Player-カイ

・・・だが、俺にはその前にやらなきゃいけないことがあった。


「・・・」


「・・・何してんだよ?さっさと行け」


簡単に言うなよ・・・。俺、昨日はあいつらに酷いこと言って、逃げたんだぞ?

もう、穴があったら墓を掘って自分で自分を埋葬したい気分だ。


「さっさと行け、ワカメ野郎」


「うわぁ!?」


背中を蹴られ、会議室の扉を半ばブチ壊しつつログイン。ついでに、盛大に顔面からダイブ。びたんと言う音が聞こえてきそうな勢いで会議室の床に叩きつけられた。


「「カイさん!」」


「先輩!」


そこには既に案山子さん以外のメンバーが揃っていた。

引き籠りのコーダまでもが、自分の席で眠そうに座っている。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、大丈夫か?」


兄貴がそう声をかけてくる。

俺は立ち上がり、まずは全員の前で頭を下げた。


「・・・すみません」


「そんな、先輩は何も・・・」


「俺、どうかしてたんだよ。三叉矛トライデント盗られて・・・。自分が、弱くなったのを、『ポセイドン』じゃなくなったのを、認めるのが嫌だったんだよ」


「けど、そんなの、私達でも同じです!」


「そうだよ!カイさんがそう思うのも、無理はない!」


双子やレグルスがそう言ってくれた。

けどな・・・。


「みんなに迷惑かけたのは本当だ。昨日だって、みんなに八つ当たりして・・・あんなことがあったあとなのに・・・」


「「「・・・」」」


その言葉でみんなが押し黙る。

そして俺は言葉を続ける。


「俺は今、確かに『ポセイドン』じゃないかもしれない。けど、俺はもう一回『ポセイドン』として『ミノス王』をぶちのめしに行く。・・・で、全部取り返す」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・また、誰か犠牲になるかも知れんぞ?」


「誰も、犠牲にしない。確かに、あの人達に頼めば楽かもしれない。けど、自分達のことぐらい、自分でやろう。あいつらも、こんなふざけた怪物モンスターとやってるんだよ。それに・・・あいつらは、神名持ちゴッド・ネームじゃない」


「先輩、それってどういう・・・?」


レグルスが疑問の声を挟むが、俺はそれをあえて無視した。

そうだよ、ただの猫妖精ケットシーにできるんだ。だから・・・。


「俺達、神様にできないわけがない」


「「「・・・」」」


全員、押し黙ったままだ。

やっぱり、アレとはもう戦いたくないのか?


「オイ、いい加減に正直に話したらどうだ?」


後ろにいた華がいきなりそんなことを言いだす。

そしてそのまま自分の席に行き、ドカリと席に座る。


「そこのワカメに『ポセイドン』じゃねェから、って思わせるような行動した思えらも悪い。さっさと吐け。それとも、ウチが言ってやろうか?」


「おい、華。お前は一体何を・・・」


「「「ごめんなさい!」」」


いきなり、レグルスと双子がでかい声で謝り始めた。

しかも、俺に向かって。


「・・・は?」


「実は、『グリーン・ユグドラシル』に応援を頼んだんです!」


「カイさん、辛そうだったので・・・」


「スピカさんに、助けてもらおうと・・・」


レグルス、サヨ、ヒナが口々にそう言う。

・・・おい、それっておかしくね?


「何、その見え透いた嘘?あの、二人、超がつくぐらいお人好しだから、絶対にココ来るぞ?そしたら、あんな牛瞬殺だし・・・」


「嘘じゃねェよ。スピカが連絡寄こしてきたんだからな」


「・・・まぁたまた。華、いつからそんなジョークを言うようになったんだよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・話には続きがある」


兄貴がそう言う。

とりあえず、俺はその続きとやらを聞くことに。


「けど、断られたんです」


「嘘乙」


「嘘じゃないです!『必要ない』って、言ったんです!」


「ファントムさんが、『スレイプニル』がそう言ったって!」


「・・・はぁ!?あの、バカが?ありえねぇ!?」


ミッドがそんなことを?それはミッドを騙る偽物だ。


「っち!今すぐに『スレイプニル』の偽物が『グリーン・ユグドラシル』にいることを伝えないと・・・!」


「ワカメ頭、事実だ。スピカからも確認をとってる。それと、もう一つの言葉もな」


華が俺の言葉を真正面から否定。そして気になる言葉を残す。


「・・・もう一つの言葉?」


「あのスピード狂、『ポセイドンがいるから問題ない』って言ってたらしい。で、一方的に連絡切った奴らにブチギレた双子とレグルスが暴走して、『ダイダロスの迷宮』に突撃。モヤシとエルダーは暴走したこいつらの為について行った。そんで結果としてはあァなったてェわけだ。ちなみに、これは昨日の昼間に起こったことだ」


「・・・」


あの、バカ・・・。

あの時の俺は、自分に『ポセイドン』としての価値がなかったから置いてかれたと思ったが、少し違ったらしい。ただ単に、心配されていただけらしい。


「俺、恵まれてたんだな・・・」


「気付くのが遅ェよ、ワカメ。こんなイイ女が慰めてやったんだしよォ」


・・・普通、その最後の部分はタコじゃ?いや、同じ海産物だけどさ・・・。そして捏造するな。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・過ぎたことはしょうがない」


「そうっすね。つか、『スレイプニル』はカイさんがヤバかったのを知ってたんすか?」


「・・・えぇと、その部分も全て伝えました」


「・・・」


「カイさーん!?窓から飛び降りようとしないでください!」


「飛び降りても、意味はないわ!てか、無言って怖すぎ!!」


「離せ!俺はあのバカにだけは生き恥をさらしたくない!」


「なら、どうしてそんなことを?それに、三叉矛トライデントをパクられたことも話したんすよね?それでも、ミノス王に勝てる算段があったんすか?」


俺達のことは完全に無視してコーダがそう言う。

そこで兄貴が俺に向かって言葉を発する。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カイ、情報を仕入れたと言ってたな?」


「あ、あぁ・・・」


若干ダメージから回復した俺は、ミッドから聞きだした情報を全て伝えた。

1. ミノス王はオリジナルのモンスター

2. ミノタウロス、ポセイドンのせいで生まれる。

3. ミノタウロス、やんちゃすぎて迷宮に押し込まれる。

4. ミノス王、食料と称しミノタウロスに生贄を貢ぐ。

5. テセウス、生贄に混じってミノタウロスに出会う。

6. テセウス、ミノタウロスをやっつける。

7. テセウス、アリアドネのくれた毛糸玉おかげで脱出成功。


「まぁ、大体はこんな感じか?」


「・・・カイさんの友人さん、超詳しいっすね。ギリシャ神話領の人間っすか?」


「いや、北欧神話領だ」


「「「・・・」」」


何故か全員が黙る。

そして誰かがぼそりと『オタク』と呟いた声が聞こえた。


「とにかく、こっから対処法を見つける必要がある」


このゲーム。有名な神様や怪物に関しては、神話に沿った対処方法で倒すことができる。だから、真正面からぶつからなくても、知っていれば搦め手でも十分にやっていける。


「けど、これのどこが『ポセイドンなら問題ない』になるんですか?むしろ、テセウスじゃないと無理じゃ?」


レグルスがそう言う。そこで俺は思い出す。


「・・・そういや、テセウスはポセイドンの英雄だ」


「・・・ようするに、俺が『ゼウス』の英雄で雷属性系スキル使えるように、『テセウス』がいれば水属性系スキル使えるんですか?」


「・・・おい、レグルス、今なんて言った?」


「いや、だって、このゲームのシステム上、そうでしょ?」


「知らねー!?」


初めて聞いた。

じゃぁ・・・『ミノス王』と『ミノタウロス』の関係は親子。そしてシステム上、属性は継承されているらしい。

まさか、『ミノス王』の弱点って!


「『水』か?まぁ、ウチのGスキルで一発だけどな。けど、こりゃぁでっけェアドバンテージだな。前もって準備できらァ」


華は長い足を机の上に投げ出し、行儀の悪い恰好で言う。

確かに華の言う通りだ。その場で準備するよりも、前もって準備する方がいいに決まっている。そして華は俺に言う。


「カイ、テセウスの情報を聞き出せ」


「わかった」


もう、どうせバレてるんなら関係ないとすぐにショートメールを起動。

だが、そこでもう一つ思い出す。昨日、ミッドからメール来なかったか?途中で読むのをやめたが、アレには『テセウス』の文字があった気が・・・。

まぁいい。見てみればわかることだ。


To ミッド

―――sub・なし

―――本文・そう言えば、今思ったんだけどさテセウスにミノタウロスが倒せるんなら、その親に当たる『ポセイドン』なら楽勝じゃね?このゲームのシステム上、おそらくテセウスは『水属性』を使える戦士キャラ。けど、魔法主体なお前なら余裕だって。それと、メンバーはあと三人ぐらい揃えといてくれ。『ミノタウロス』には七人の若者と七人の乙女を生贄に捧げる必要があったから、たぶん、『ミノス王』も人数揃えたら若干弱くなると俺は踏んでいる。まぁ、十四人も無理だろ?だから、PTいっぱいの人数でいいと思うぞ?そんで、やっぱ必要なのは『毛糸玉』だな。んじゃ、そっちに行くのを楽しみにしてるぞ。


「・・・これが、答えか」


こいつ、わざわざこんな回りくどい方法で俺に情報回してきやがって・・・。


「華、『スレイプニル』が推測も含めて教えてくれた」


「・・・ハァ、本当にお人好しだなァ、あのスピード狂は」


苦笑している俺達に他の奴等が怪訝な表情を向けられる。

そして俺は双子に向き直った。


「まぁ、間接的にお前達のおかげだ。ありがとう」


「「え?」」


そこで新たに入った情報を整理。攻略するためには・・・。

1.『ミノス王』の弱点属性は『水』。現地で華のGスキルで確認。

2.おそらく、他のパワー系モンスターの例に漏れず、魔法に弱い。

3.PTはフルで入れた方がいい可能性あり。

4.『毛糸玉』が必須。


「一応聞くけど、六人でやった時はどうだった?」


「確かに、言われてみると若干強かった気も・・・」


「まぁ、わかんないものはしょうがない。それに『バグモンスター』だからな、今までのことも理解に苦しむレベルのことが起こっているからなしょうがない」


 けど、これだけわかった。

 最初に挑んだ時よりかはだいぶマシだ。少なくとも、俺が水魔法スキルの弾幕を張ればいいということが分かる程度には。


 「あ、そう言えば、物理攻撃スキルを使って来ませんでした!」


 「・・・そうか、斧じゃないからか」


 レグルス、ナイスだ。

 あいつは俺の武器を装備したせいで、斧の戦闘スキルが使えなくなっている。だから、あいつの使えるスキルは俺のGスキルただ一つ。

 だが、案山子さんをやった黒い攻撃ってのがよくわからない。それにだけは注意を払わなくちゃいけない。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これぐらい、か?」


 「他に、何か気付いたことは?」


 「「「・・・」」」


 一応全員に聞いてみるが、これ以上は無理らしい。

 なら、やるべきことをしよう。


 「全員、水耐性の装備だ。念のために他の物理防御系もな。前は出なかったが、ミノタウロスが出てくるかもしれない」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おう」


 「了解です!」


 「「わかったりました!」」


 「っへ、暴れる準備といきますかァ!」


 「・・・自分は、留守してるっすよ」


 そう言って、お互いは一旦自分の部屋に戻って準備をし始めた。

 ・・・今度こそ!





 ~ダイダロスの迷宮~

 「カナリア、昨日はすまなかった・・・」


 「い、いえ、そ、そんな!」


 俺はこちらの呼び出しに応えてくれたカナリアに謝った。

 ちなみに方向音痴なのが分かっているので、こちらから出向いた。だって、来る途中で迷子になったら困るし。と言うか、案山子さんの話が100%本当なら、絶対にたどり着けない。


 「わ、私だって、レアアイテムを理不尽な方法で盗られてしまえば、それは泣きますよ」


 「・・・本当にすまない。けど、こんなことにまで付き合わせて」


 「私も、案山子さんが心配ですし・・・」


 「・・・・・・そうか、ありがとう」


 俺は礼を言い、みんなに向き直る。

 いや、その前にこいつを紹介した方がいいか?


 「カナリア、このガラの悪い女は『アテナ』の華だ」


 「あァ?てめェ、どういう了見でンな紹介にしたんだよ?」


 「ヒィ!?」


 華のあまりの眼力にカナリアがビビる。

 それを見た華は、流石に気まずい顔をした。


 「・・・あぁ・・・悪ィ」


 「見た目はヤンキーだが、基本は優しい。だから大丈夫だ」


 「だっ、誰が優しいだ!あァん!?」


 「・・・本当ですね」


 意外に肝の据わっていたカナリアだった。

 今回のメンバーは、兄貴、双子、レグルス、華、カナリア、そして俺の七人。作戦は既に全員に行きわたり、何をするのかも分かっている。

 後は、カナリアの『アリアドネ』による導きで奥に進むだけだ。

 俺は『魚人の肉匙サハギン・フォーク』を肩に担ぎ、先頭を進む。


 「じゃぁ、みんな頼むぞ」


 「「「「はい!」」」」


 レグルスと双子、そしてカナリア。


 「っへ、一丁暴れてやらァ!」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・油断は禁物だ」


 んじゃ、これが三回目の生贄だ。

 テセウスよろしく、お前を倒してやる・・・!


用語集

テセウス・ポセイドンの加護を持つ英雄。ミノタウロスを討伐することで有名。アリアドネは彼の嫁さんである。


ミノタウロスの討伐

 テセウスがミノタウロス討伐のため、その十四人の生贄に混じったこと。アリアドネに貰った毛糸玉を入り口に結び付けておいたことで、無事に脱出できた。

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