クエスト29・知恵の女神と魚人の昼食
ショートメールの嵐!
そして今回考えた、あのショートメールの文を作るのが難しかった!
そして新キャラも登場!
なぜ、こうなった・・・!?
Player-カイ
朝になって、俺は自然に目が覚めた。
いつの間に戻ったのか、俺は『ホワイト・オリュンポス』のビルにある、自分の私室のベッドで寝ていた。
海を思わせる、蒼い壁に波模様が描かれている。家具が海に関するものでいるが、俺は特に何もいじっていない。基本設定そのままの、ある意味で殺風景な部屋だ。
本来なら、俺の三叉矛を飾る槍を立てかけるところには、今は何もない。それを見て、俺はひどく寂しく感じた。
「・・・寝ててもしょうがない」
今はミッドから聞き出した様々な情報を生かし、ミノス王をぶっ飛ばさなくちゃいけない。
そう思ってベッドから降り、俺は会議室に向かう。
すぐ近くにある会議室の前に着くが、そこで尻込みしてしまう。俺、『ポセイドン』じゃないのにここにいていいのかとか、昨日の今日でどの面下げてあいつらに会えばいいのかとか、そんな考えが頭の中をぐるぐると回る。
「・・・考えるな、あのダメネコなら迷わず進む」
脳内でミッドが抗議の声を上げるがそれを無視して会議室の扉を開けると・・・。
「おぉ、目ェ覚めたか」
「・・・・・・何で、ここに?」
俺は、一瞬我が目を疑った。
目の前にはここにいるはずのない人がいた。ものすごく仕草とかいろいろな雰囲気がヤンキーっぽい、俺と同じくらいの年齢の女。しかも百七十超える俺と同じくらいの身長、目つきは女性にしてはややキツく、鋭い。髪の毛は短い金色、そしてモデル体型。
「・・・何で、『知恵の女神』の華がここにいるんだよ?」
「あぁ?だって、ここがウチの拠点だし?」
この人が『知恵の女神』の名前を持つプレイヤー、華だ。後一人、『ヘパイトス』の名前を持つやつがいるが、残りの神様はいまだに『神の試練』をオーダーできない状況だ。
「あっちこっち遊び回ってるお前が何でここにいるんだよ?」
「いや、たまたま近く通っただけだ。それに、あんまりここにいねェカイがいるって聞いたからな、暇つぶしだよ」
言葉遣いが完全に女子のそれじゃない華。『盾は防具じゃない、鈍器だ!』と言う迷言は記憶に新しすぎる。
こんなのでも神器の一つ、『蛇眼の聖盾』を持つ。俺はこの神器の名前に首をかしげ、ミッドに聞いたことがあるが、どうも『アイギス』自体は『アテナ』の持つ盾の名前ではなく、山羊の皮を使った防具全般のことを指す名称らしい。そして『アテナ』の対応する天体、『ミネルヴァ』の名前をつけてこんな名前になったと言うわけだと俺は思っている。
そんなことを記憶の片隅から発掘させていると、華は言葉を続けた。
「それに、バグモンスターが出たって聞いたからな」
「・・・」
もう、既に情報を掴んだらしい。
いや、ココの誰かがショートメールで教えたんだろう。
「・・・それ、スピカさんには?」
「言ってねェ。もちろん、あの『ネコ』にもな」
この人、スピカさんと仲がいいせいか、ミッドが『スレイプニル』だと知る数少ないプレイヤーの一人だ。
「まぁ、察しの通り、根暗野郎から話は大体聞いた」
「・・・やっぱ、兄貴か」
どうでもいいことだが、華は兄貴のことをエルダーと呼ぶ数少ないプレイヤーだ。後、案山子さんをモヤシと呼び、俺のことは何故かワカメとよく呼ばれる。
・・・・・・俺、魚ですけど?
「まぁ、んなことはどうでもいい。話聞いてやっから、なんかオゴれ。つか、街行くぞ」
「え?ちょ!?」
華は俺の話を全くか聞かず、それどころか強請ってきたうえに、拉致までしようと、俺の腕を掴んで街に繰り出した。
・・・俺、兄貴達に話したいことがあったんだけど?
「あぁ~!ここんとこ金欠でよォ、腹減ってしょうがねェんだわ」
そう言いながら華は俺を最初に目が入ったオープンテラスのレストラン、俺と華の行きつけの『雛鳥亭』に連れ込む。そしてテラスのテーブルの一つにドカッと腰かけた。
ここは生産系ギルドの経営している飲食店。NPCではなく、プレイヤー達が給仕をしている。王道ファンタジー全開なこんな名前の店の料理は地味に美味い。
「・・・あ、おいお前、注文だ」
近くにいた男性プレイヤーを捕まえて華は注文する。
「メニューの、こっからここまで」
そう言って、一度はレストランで言ってみたいセリフを放つ。
・・・・・・こいつ、さっき金欠だって言ってなかったか?
「いやぁ、ワカメ君のオゴリだからな。遠慮なく食える」
「全部俺にたかる気かよ!?」
傍若無人すぎた。
まぁ、自分のネームに喧嘩から華って字をとったんだとか豪語しているような人だからなぁ・・・。俺は一応所持金を確認するが、余裕はある。
・・・・・・まぁ、『ヘパイトス』に三叉矛と防具の手入れを頼むときに金払う程度だからな。後は食費。
「けど、今回は結構ヤバいらしいなァ?」
「・・・まぁ、それなりにな」
とりあえず俺は、兄貴から詳細を聞いてるかもしれない華に、今回のバグモンスターのことを話す。
いつになく真剣な表情で俺の言葉に耳を傾ける華。俺が話しかけた後もじっくりと熟考し、考えがまとまったのか、眼を開けた。
「・・・メシ、遅ェな」
「お前の中にはメシのことしかないのか!?」
「黙れよ。色気、眠気で腹膨れるんなら苦労はしねェ」
どうも、このアバズレの三大欲求はすべて食欲で占められているらしい。
「つか、それ一人で食う気か?太るぞ」
「あァ!?てめェ、花も恥じらう乙女になんてこと言いやがる!」
「謝れ、全世界の女の人に謝れ!」
「この、ウチのような大和撫子の鑑みたいなやつになんてことを言いやがる」
「謝っただけじゃ足りない!土下座しろ、この男女!」
「誰が男みたいに胸がないだと!?好きで『絶壁のアテナ』なんて言われてるわけじゃねェ!!」
「誰もそこまで言ってねぇし、意味が違ぇよ!?『絶対的な防禦壁』で『絶壁』なだけだろうが!?」
「この、ワカメ野郎が・・・言う事欠いて、気にしてることを・・・!」
「つか意外に乙女だよな、お前!?」
「だだ、誰が乙女だ、あァ!?シメっぞ!?」
もう、意味がわからない。
給仕の人が『他のお客様の邪魔に・・・』とか言う言葉をかけられるが、ヒートアップした俺達にはその声が届かない。
「大体、そんな食って何で胸にいってない!?」
「知らねェよ!?縦に伸びんだよ!!」
「案外、お前男じゃねぇの!?」
「バカか貴様!?なんなら触るか!?」
もう、いろいろと不毛すぎた。
魔法スキルを使ってやろうと思った矢先、俺の視界がぶれた。無様に床へ叩きつけられ、轢かれたカエルのように潰されていた。
ちらりと華の方に視線を向けると、そこには似たような状況の華がいた。
「まぁた、お前らかよ!?営業妨害だ!喧嘩するなら、この俺が相手になってやる!!」
現れたのは巨漢のごついおっさん。
胸にヒヨコのプリントされたエプロンを着ていて、ひどくミスマッチな感じだ。ちなみにこの人がここのマスター、通称おやっさん。噂によれば、案山子さんに調理スキルを叩きこんだすごい人だとか。
「神名持ちだからって粋がってんじゃねぇぞ!小僧ども!つか、最後はただのセクハラ発言のオンパレードじゃねぇか!?」
最後に『次やったらゲンコな』と、そうやって言いたいことだけ言うと、奥の厨房に戻って行った。
その後ろ姿に多くのプレイヤーが畏怖の念を込めた視線を送っていた。・・・俺達、神名持ちより強いってどうなんだよ?
とりあえず、俺と華は立ち上がり、椅子に座りなおす。
「まぁ、いい感じにウチ等が神名持ちだって面が割れた所で、だ」
「いや、それは関係ねぇよな?」
「お前、何をそんなシケたツラしてる?」
俺の言葉をガン無視してそんなことを言ってきた。
「おやっさんに鉄拳食らったばっかだからな」
「バカ野郎、それをマジで言ってんなら・・・・・・シメるぞ?」
茶化した俺の言葉が気に入らなかったのか、華の鋭い目が剣呑な光を帯びる。
あまりの眼力に、その射線上にいたやつらはわざわざ避難しだす始末だ。そして、厨房からも何やら怒りのオーラ的なものが漏れてきている気がしないでもない。
「お前は、どーせあの『ダメネコ』にできるんだから、自分にでもできるだろうってタカくくって、その結果返り討ちにされたのがムカつくだけだろォ?ワカメみたいな、なよなよのプライド持ってっからそんなことになんだよ」
例えがよくわからない。
と言うか、ワカメってどっちかと言うとヌルヌルしてないか?
「んで・・・・・・黙ってるってことは、肯定と受け取っていいんだよなァ?」
「別に・・・。ただ俺は、今回あの二人がバグモンスターの処理頼むには酷すぎると思っただけだよ」
「あぁん?そりゃ、どういうことだ?なんか、スピカが性悪野郎のショートメールを貰って、飛び出して行ったのと関係あんのか?」
意外と言うか、今の『グリーン・ユグドラシル』と『ブラウン・フォレスト』の情勢を知らないらしい。俺は華の為に簡単にこの状況を教える。
「・・・あぁ、なるほどな。じゃぁ、あの性格悪いファントムのことだからな。どーせ、ミッドを説得して連れ戻したとか送ったんだろうな」
「・・・それで、スピカさんの誘いは片っ端から断ってるミッドにどういうことか問いただしに行ったわけか」
「じゃ、今回のあいつらの目的は『核弾頭』か?」
「たぶん。だから、その作戦を使うには『スレイプニル』の力が必要不可欠だ」
「なるほどねェ・・・。で、心優しいワカメ君はあの『師弟』の為に骨を折るわけってェことだ。いやぁ、泣けるねェ」
口ではそう言ってるが、華は明らかに俺をバカにしている。
「なんだよ、それ?」
「お前、逃げてるだけだろ?」
「いきなり何を言うかと思えば・・・何がだよ?一応、俺はミッドにこっそりと『迷宮』に関係する情報を聞き出したんだぞ?それを、お前が引っ張り出して兄貴達には伝えられないし、当の兄貴達もどっかに行ってる」
「・・・・・・そうか。そりゃ悪ィことしたな。まぁ、お前が起きてきたのが正午近くじゃなきゃ、伝えられたかもな」
「はぁ?何言ってんだよ?俺は、割と朝には強い方・・・」
俺が言おうとした言葉は途中で止まった。時計を確認してみてると、時間は既に十二時の半ばに来ている。全然、気付かなかった・・・。
「それにな、双子が心配してたぞ?昨夜遅くに帰ってきたかと思えば、死んだ魚みたいな眼で帰ってきたとか言いやがってよォ、魚だけに。そんで双子の言葉も無視して自分の部屋に戻ったとか聞いたぞ?」
「俺、そんな、記憶・・・」
俺には、そんな記憶はない。
あのミッドとのショートメールの後の記憶があんまりない。気づけば今日になっていて、そして・・・。
「・・・お前、そんなことも覚えてなかったのかよ?」
「俺は・・・俺は・・・」
そんな俺の様子を見て華はため息をつき、再び言葉を重ねる。
「もう一度聞く、どうしたんだよ。お前らしくない・・・」
「・・・華には、関係ない・・・だろ」
俺の声が震える。
別に隠したって意味がないのに、何故か見栄を張ってしまった。そしてそんな俺を見て、華はあろうことか鼻で嗤った。
「ッハ!どーせ、神器盗られて不抜けただけだろうけどな。神器ねぇとザコなんだな、お前」
「・・・お前、結局何が言いたくてここに来たんだよ?」
華のあんまりな言葉に俺はカチンと来た。
お前に、何がわかる?
俺の最強の武器が、そして俺の代名詞とでも言うべき武器が、盗られたんだぞ?しかも、わけがわからない、バグモンスターとか言う、不条理の塊みたいなやつらに・・・!
「べっつに~。ただ、不抜けたお前を嗤いに来ただけだけど?いやぁ、少しは面白いかなと思ったが、別にそうでもなかったわ。悪ィな、メシ来たらすぐ出てく」
俺はその言葉に我を忘れ、華に掴みかかる。
「お前、マジで何が言いたい?」
だが華は歯を剥き出しにし、むしろ好戦的な、どこか恐ろしいとさえ感じる笑みを浮かべる。
「殺んのか?」
華は素早く右手を動かす。
すると、システム音が鳴り、PVPの申し込みがされたとメッセージが届く。もちろん、挑戦状を叩きつけてきたのは華だ。
「・・・」
俺は獰猛な、野獣のような笑みを浮かべる華を見て、PVP承諾のウィンドウに視線を移す。
ほんの少しの間、ウィンドウ内の『YES』と『NO』のボタンの間を俺の指がさまよう。そして、俺は最終的に『NO』のボタンに触れた。
「・・・俺は、やることがある。帰る」
「・・・」
華は何も言わない。
俺は給仕係のプレイヤーを呼び、清算。
多めに金を払って、その場を去って行った。
「・・・・・・クソがっ!」
後ろから、そんな悪態が聞こえてきた気がした。
あれから、俺は一旦『ホワイト・オリュンポス』のビルに戻った。
会議室に行くが、何故か誰もいない。普段なら、誰か一人はいるはずなのに・・・。一応ショートメールを兄貴に送ってはみたが、一向に返信が来ない。俺はレグルスに聞きたいことがあったんだが、しょうがないと割り切って町をふらふらすることにした。
・・・・・・本当に俺、何してんだろう?
心の底からそう思った。
華に八つ当たりして、さもお前がいなかったから俺は『海王星の三叉矛』を盗られたんだと言わんばかりの態度で華に掴みかかって・・・。
・・・・・・謝るプレイヤーの数を増やしてしまった。
「本当に、しょうもない・・・」
つか、バカだ。・・・俺。
「・・・ハァ」
さっきから、俺の口からはため息以外の言葉が出てこない。
ため息を吐くたびに幸せが逃げていくと言うが、今の俺から幸せを絞り取ろうにも意味がないぞと、神様あたりに脳内で愚痴っておく。
「・・・・・・ハァ・・・」
・・・。
・・・・・・・・・うつだ。マジで。
と言うか、マジで俺は何してんだよ?みんなに心配かけて・・・。本当に、救いようがねぇ。
『やっぱ、流石カイだな!』
『カイ!アンタの力でプチっとやってちょうだい!』
『カイさーん!?助けてくださ~い!?』
俺の脳内で、あいつらの声が響く。
やめろ。俺は、違うんだ。
だって、神器がないんだ。
『ポセイドン』じゃないんだ。
ただの、一プレイヤーに過ぎないんだ・・・。
「ちくしょう!」
無意味に壁にあたる。
だが、壁を殴っても俺の拳は痛くも痒くもない。これはゲームだからな・・・どうしようもなく。けどそれと同時に、この『箱庭』に囚われた俺達にとっては、どうしようもなく『現実』だ。
その時、システム音が響いた。
この音は、ショートメールだ。誰から来たのかも確かめず、慣れた手つきで俺はウィンドウを操作。送ってきたのは『サヨ』だ。今まで何をしてたんだと思いつつ、メールの中身を見た。
To サヨ
―――sub・なし
―――本文・助けて下しア1っかしdあsんmが未納s王いん・・・
意味のわからない、やたらとタイプミスの多い本文。
だが、キーボードを見て、何となく内容がわかった。俺は何も考えずにそこから走り出した。
たぶん、ヒナが言いたかったことは・・・。
『助けてください!案山子さんがミノス王に・・・』
・・・ここまで見ればわかる。
まさか、昨日の今日で・・・!何で、何でだよ!
俺は、ただひたすらに『ダイダロスの迷宮』へと走り出した。
俺が『ダイダロスの迷宮』に着くと、そこには人だかりができていた。
俺はその人の垣根をかき分け、中心に向かっていく。
「ワカメ!」
「俺は国民的アニメの妹じゃない!」
どうやら、華も来ていたらしい。
さっき喧嘩したばっかりだが、どうこう言ってる場合じゃない。
「案山子さんは!?」
とりあえず、号泣している双子に聞いても意味がないと判断して、レグルスに聞いてみる。
「・・・ミノス王の攻撃を、双子を庇って・・・」
どうやら、またもミノス王を倒しに来たらしい。
そして対策も練って挑んだにもかかわらず、一瞬の隙を突かれて双子にその魔手が迫った時、案山子さんが代わりに攻撃を受けたらしい。
「か、案山子さん、わ、わだじの、だ、為、に・・・」
ヒナが案山子さんに泣きついている。
「わた、わたし、支援、下手、だった、から・・・」
そしてそれに追随するかのようにサヨが言う。
「・・・何で、案山子さんは目が覚めない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・変な、黒い攻撃を受けた」
兄貴が簡潔に教えてくれるが、それじゃ何をされたのかわからない。
だが、意外な所からその答えが聞こえてきた。
「そりゃ、感染されたな」
華が、そんなことを言い始めた。
「感染?」
「あぁ、ウチもスピカから聞いた話だが・・・バグモンスターには、たまにプレイヤーに何らかの異変を起こさせる個体がいるらしいな」
「何だよ、そのアバウトすぎる話は・・・」
「ッハ!脳みそもワカメでできてんのか?てめェはよォ。簡単に言っちまえば、状態異常を永続的に与え続ける」
そして華はじっと案山子さんを見つめる。その間、せわしなく視線が泳ぐ。
しばらくして視線を外し、俺達に向き直る。
「たぶん、喰らったのは『気絶』だ。パワー系のモンスターはよく使うし、ステータスに『スタン』の状態異常は表示されねェ。ウチにわかんのはこれぐらいだなァ・・・」
「じゃぁ、案山子さんはいまだにスタン喰らったままなんですか!?」
レグルスが華に掴みかからんばかりの勢いで迫る。
華はレグルスをはたいて落ち着かせると、俺達に言う。
「で、お前達も知りたいこの解除方だけどな、普通に治せる」
「ででで、ですが、ヒナさんと、私が回復スキル使っても、治りませんよ!?」
「・・・お前、誰だ?」
華が初対面のカナリアにガンを飛ばし、その威圧感にビビったカナリアは『ヒィ!?』っと言う悲鳴を上げてへたり込んでしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『アリアドネ』だ」
兄貴が簡単に説明する。
それだけで華は事情を察知し、言葉を続ける。
「そりゃぁ、そうだろ?この『GWO』には『スタン』の解除スキルなんてない。アレは自然に治るのを待つしかない状態異常だからな」
そうだ。
『スタン』は数秒間だけ体の動きを止める状態異常。ただ、それだけだ。別にその数秒が過ぎれば普通に動ける。
「じゃぁ、案山子さんは治らないのか!?」
俺は華に詰め寄るが、華はそれを手で制した。
「バカ。スピカと『スレイプニル』もこれと同じ症状に掛ったことがあるらしい。だから、治る」
その言葉で張り詰めていた空気がほんの少しだけ弛緩する。
そして華は言葉を続けた。
「そん変わり、『ミノス王』をぶっ飛ばす必要があるぞ?」
その言葉で俺達の空気が再び凍った。
もう、全員に嫌というほどのトラウマを植え付けた『ミノス王』。結局はそいつを討伐しなけりゃいけない。
その言葉に、俺達は絶望を感じることしかできなかった。
用語集
アテナ・知恵の女神。フクロウが彼女のシンボルであり、『ミネルヴァのフクロウ』とは彼女の使い魔のことをさす。
アイギス・ゴルゴン三姉妹の末っ子、メデューサの首を使って作った盾。どんなものも払うとされている。また、アイギスそのものは羊皮の防具全般を指す。
『メニューの、こっからここまで』・作者が一度は言ってみたいセリフ。