クエスト27・ミノス王とトライデント
今回短め、バトルオンリーです。
さて、チートな人達に立ちはだかるバグモンスター。ギリシャ神話領の神様達はどうなる!?
Player-カイ
意味が分からない。
ボスモンスターのはずの『ミノス王』が何でここにいる?
まさか、ここのモブなのか?
いや、そもそもの話がここにはモンスターが一匹も出てこないはず。
だとすると、関係するのは・・・・・・『バグモンスター』?
「とりあえず、前に行きます!」
「・・・っ、バカ!ダメだ!」
レグルスが飛び出し、ミノス王に肉薄。その拳の一撃をミノス王に見舞う。こいつのステ振りは完全なパワーファイター系で、モブだろうがボスだろうが、かなりのダメージをあたえられる。
だが、正面にいるモンスターのHPバーはほんの少し削れただけ。
やたらと耐久値やパワーに定評のあるミノス王でも、これはあり得ない。俺達はその光景に驚くが、レグルスは構わずにスキルによる攻撃を発動させる。
≪ピーリス・ピグミィス≫
貫通力に優れた拳撃系スキル。威力は低めだが、防御力を無視して攻撃できるスキルだ。
だが、レグルスはそれでも攻撃の手を止めない。
≪エピドロミ・エナルクスィ≫、上段回し蹴りを放つ。≪アフクスィ・ティパーメ≫、アッパーカットを決める。≪ティエリ・スパスィ≫、手刀を叩き込む。レグルスのスキルのコンボが続き、最後に掌底を放ってミノス王を吹き飛ばす。
「どうだ!」
「流石お兄さま!」
「レグルス、かっこいいです!」
双子がヒナ、サヨの順番に話す。
だが、俺には嫌な予感しかしない。そしてそれを証明してくれたかのようにミノス王は立ち上がった。
「・・・マジかよ」
レグルスがそう呟くのも無理はない。
あれだけのスキルの数々によるコンボを決められて、減ったのは一割にも満たない程度のダメージを与えられただけだ。
「攻撃、斧!二回です!」
ヒナがレグルスにすかさず声をかける。
ヒナは『太陽の神』の名を持つにふさわしく、竪琴による支援が得意で、一応は弓も扱える。
だが、ヒナの真骨頂は『予知』。相手の攻撃を予測するGスキルを習得しており、これによってどんな攻撃か、あるいはスキルか、そしてどんな効果を及ぼすのかということまでわかる優れものだ。ヒナと一対一で戦えば、勝つことはかなり厳しい。俺もでもヒナに攻撃を充てることは十回中一回か二回程度しかない。
「兄貴はもしものために待機!カナリアはヒナの指示を聞け!後はいつも通りに!」
そして俺も前に飛び出した。
こんなふざけたやつに出し惜しみなんかしてもいいことは一つもない。そう判断してすぐさまGスキルを使う。
「≪アポファシ・トゥ・ポシドゥーナ≫」
掲げた三叉鉾の先に巨大な水塊が生成され、俺が三叉鉾を振ると、それに合わせて水塊がミノス王に放たれる。
ミノス王は物理への耐性はかなり高いが、魔法系の耐性はいうほどない。まぁ、それでも他のモンスターと比べればかなり耐性は高い。だが、俺の攻撃は効いた。
水塊がミノス王に激突し、ミノス王は派手に吹き飛ばされた。そしてミノス王が押し流される。HPバーは一割を削りきることに成功し、残りおよそ八割。
「固すぎる、やっぱ、こいつもバグモンスターかよ!?」
「はい!?先輩、それって本当ですか!?」
そうとしか考えられない。
ミッドやスピカさんの話によれば、『バグモンスターに常識は通用しない』。たぶん、カナリアの『気配察知』には引っ掛からず、ヒナの『予知』には引っ掛かった。よくわからない現象だが、それ以外に説明がつかない。
いや、もしかしたらGスキルでは誤魔化すことが不可能なだけかもしれない。
「とにかく、こいつの攻撃を喰らうことだけはマズい。絶対に当たるな!」
「何で、先輩そんな詳しいんですか!?」
「スピカさんと、知り合いだからな!!」
レグルスは武器を弓に変えた。
確か、『ヘラクレス』は十二の功業で雌鹿を生け捕りにしなくてはいけないモノがあった。それは逃げ足が速かったが、隙をついてヒュドラの毒矢で見事に生け捕りにすることができたらしい。
そして、弓の装備解禁のクエストが『レルネーのヒュドラ』。そのクエストをクリアしてレグルスは篭手以外に弓も装備できるようになった。まぁ、本人に言わせれば使えないらしいけどな。
「それで、毒つけれるのか!?」
「わかりません!正直、ボス相手には弓よりも殴った方が強いんで!」
まぁ、それが『ヘラクレス』だしな。しょうがない。
レグルスが弓を射続け、近づいてきたら俺がGスキルと水系の魔法を駆使してやつを退ける。
だが、俺達のチマチマした攻撃は相手にあんまり効かない。それに、俺の聞いた話じゃバグモンスターの沸点が著しく低いってことも聞いてる。まぁ、何が言いたいのかと言うとだ。やつらはHP何割以下で攻撃と言ったセオリーを無視しだす。
俺がそんなことを考えると、『ミノス王』は突然怒りの雄叫びをあげた。
「マズい!やつのスキルだ!」
「はぁ!?何でですか!?HP全然削れてませんけど!?」
レグルスが悲鳴のよな声を上げるが、それどころじゃない。俺は一旦攻撃を中止し、やつがどう動くのかを見極めようとする。・・・そしてやつは動く。
『ミノス王』からはオーラのようなエフェクトが弾け、その大きな戦斧を地面に叩きつける。そこから衝撃波が放たれ、地面をえぐりつつこちらに向かってくる。しかも、その範囲が通路いっぱいに広がってしまい、左右に避けると言うことができない。
「面倒な攻撃を・・・!」
レグルスがその場で跳躍、衝撃波を避けきる。だが、『ミノス王』はその決定的な隙を見逃さなかった。『ミノス王』はその巨体からは想像できないほどの俊敏さでレグルスに肉薄。丸太のように太い腕を思い切り引いて、岩のような拳をレグルスに放とうとする。
「バカ!」
俺はレグルスを追うように跳躍。レグルスと同じ高さにまで来ると、そのままレグルスを後ろに蹴飛ばす。レグルスが驚いた表情を浮かべるが、それどころじゃない。
岩のような拳が俺に迫ってくる。とっさに三叉矛でガードの姿勢をとるが、拳が俺を直撃。盛大に吹き飛ばされ、壁に激突する。そしてそれと同時にHPバーが急速になくなって行く。
「っかはぁ!?」
肺から息が出て行く。呼吸がままならない。
ゲームなはずなのに、ものすごく痛い。気絶しそうなほどの痛みだが、気絶もできない。
・・・これが、あの二人が率先して倒してきた、化け物。
「カイ!?どうしたの!?」
「これ以上は、させません!」
双子達がそれぞれの役割を果たそうとする。
ヒナは俺の所に来ると、楽器をかき鳴らし、常時回復系のスキルを発動させる。
「何で!?HPが回復しない・・・!?」
「マジかよ。・・・っ痛・・・」
痛む体に鞭打って起き上がる。今、目の前でサヨが『ミノス王』に攻撃している。だが、サヨは弓で攻撃するが、『ミノス王』には決定的なダメージを与えられていない。
「やっぱ、ここは一番ダメージのでかい俺がキーだな・・・」
「先輩。まさか、それが例の痛覚の話ですか?」
俺に吹き飛ばされたレグルスがこちらに駆け寄ってくる。
俺はレグルスの言葉に首を縦に振る。
「あぁ。やっぱ、あいつはバグモンスターだ。ここで倒さないと・・・」
「でも、スキルを使ってる間でさえ相手に隙にならなどころか、強すぎますって!?やっぱ、ここは専門家に任せましょうよ!?」
「ダメだって。今、スピカさんは北欧神話領にいる。そこで、『オーディンの行軍』の最終調整してるだろうからな・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜ、お前がそれを?」
兄貴の突っ込みに俺は仕舞ったと口を閉じた。
・・・・・・うっかり口を滑らせた。
「そうでもしなきゃ、あの不利な状況は覆せないって話だ。とにかく、頼れるのは自分達だけだ」
「わわわ、私は、ななななな、なな、何をすれば!?」
「とりあえず、私の後ろにでもいてください。兄貴君でも無理なら私達は潔く散るしかありませんからね」
「遠まわしな死亡フラグですか!?」
「でも、このままぶつかれば負けますよ、俺達」
確かにレグルスの言う通りだ。俺のHPが既に虫の息で、火力も足りない。
確かに旗色が悪いのは事実だしな・・・。
「・・・しゃぁない。一旦退くぞ!」
その言葉に俺達は敵に背を向けて全力で逃げようとした。
だが、またもあり得ない事態が発生した。
『ミノス王』が再び雄叫びをあげる。またスキルかと俺は三叉矛を『ミノス王』に向け、いつでもGスキルを放てるようにしておく。だが、それは結果的に無意味な行為に終わった。周囲の石壁が鳴動し始め、ガタガタと動きだす。
「マジかよ、これってもしかしなくても・・・!」
俺がそれ言いかけた時、突然進行方向の通路が石の壁で封鎖された。正確には地面からせりあがってきた石壁に通路を閉ざされた。そして、ご丁寧なことに俺達と『ミノス王』の間は一本道になり、横道も何もない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか、この迷宮を操作したのか?」
「考えたくないけど、それしかないようだね」
兄貴と案山子さんが冷静にそう判断する。
だが、双子は『はぁ!?』と素っ頓狂な悲鳴を上げ、食ってかかった。
「無理ですよ!?弓が効かないんですよ!?出れないんですか!?」
「ど、どういうこと!?逃げれないの!?詰んでるの!?」
「・・・あぁ、ツンデレって、『詰んでる、出れない』の略だったんだ」
「「今は黙ってて!」」
レグルスがしょうもないことを呟き、双子は珍しくそれにブチギレた。
けど、これはマジでマズい。一応はバグモンスターってことで、『ミノス王』を倒すための準備を基準にその二倍はやってきた。だが、ここまで強いとは予想外だ。これじゃ、自殺しに行くのと変わりがない。北欧神話領のプレイヤーの多くが再起不能寸前まで追い詰められていると言ってたが、それも簡単に納得できる。
「しょうがない、俺がGスキルで、双子と兄貴は自分の最強魔法スキルで奴の隙を作る!」
「じゃぁ、僕が奴の注意を引きます!」
そう言うと、俺達はそれぞれの仕事に取り掛かった。
俺ののGスキルは詠唱を必要としないのでそのまま攻撃が来ないように警戒をしておく。そして双子は詠唱を、兄貴は魔法陣を次々に展開していく。
魔法陣は威力が落ちる分、数にモノを言わせて発動することが可能だ。今、兄貴がしているのは逐次展開と呼ばれるもの。用意された逐次展開用のウィンドウに好きな魔法を好きな順番にセットし、これを発動させることで魔法陣による魔法スキルが発動していく。簡単に言えば全弾射出。まぁ、使ったらもちろんクールタイムは発生するから、使ったものはそれが終わるまで全部使えない。
兄貴の周囲に、膨大な数の黒い魔法陣が現れ、双子の詠唱も終わりに近づいてきた。そして、双子は目で俺に準備ができたと合図を送る。
「よし、行くぞ!≪アポファシ・トゥ・ポシドゥーナ≫!」
「≪ミナス・フォス≫!」
「≪アイオス・フォス≫!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≪全弾射出≫」
俺の合図で一斉に動く。
レグルスが俺達の所まで戻り、入れ替わりに魔法スキルの雨を降らせる。
サヨが発動させたのは≪ミナス・フォス≫。白銀の光を相手にぶつける光系の魔法スキル。ヒナが発動させたのは≪アイオス・フォス≫。こちらは炎の塊をぶつける魔法スキルだ。やはりというか、魔法スキルにあまり重点を置いていない二人の攻撃は威力が低い。だが、それを俺と兄貴で覆す。
俺は言わずもがな、水塊はかなりのダメージを与えた。だが、兄貴は得意の戦闘方法ではないにしても、INTにかなりのステータスを振っているため、その威力は俺に勝るとも劣らない。闇属性の黒い槍や、腕、大鎌など様々な魔法スキルが『ミノス王』を襲う。
俺達の攻撃に『ミノス王』はたたらを踏み、その隙を逃さずに横を駆け抜ける。
・・・だが、相手も簡単には見逃す気がないらしい。『ミノス王』は自分の大戦斧をがむしゃらに振り回し、俺達に攻撃してきた。俺はとっさに早口で詠唱する。
「≪ネロー・ティホース≫!」
水の壁が出現し、俺達を守る。だが正直な話、俺にはロゼと言う補助系魔法スキルのプロがいるため、補助系魔法スキルはほとんど使わない。つまり、熟練度はそれほど高くない。そしてその懸念が当たってしまい、水の壁に当たっている斧の部分が変に歪む。
「急げ!」
「言われなくても急いでます!!」
レグルスがそう言いつつ、遅れているカナリアをひょいと担いで走り出した。
カナリアはレグルスのその行動にパニックを起こしかけているが、今はそれどころじゃない。双子はカナリアをものすごくうらやましそうに見ているが、本当にそれどころじゃない。
そして俺は念には念を重ね、Gスキルを放とうと三叉矛の切っ先を『ミノス王』に向けた。
「≪アポファシ―――≫」
スキルを発動しようとしたその瞬間、『ミノス王』がその戦斧を一振り。俺の腕にすさまじい衝撃が走り、手に握った三叉矛が宙を舞う。
「っく!」
追撃をかけられないのは痛いが、武器は例外を除き一定の範囲を外れると勝手にカードになって自分のインベントリに戻ってくる。拾いに行く暇がない今、ここは逃げるしかない。
敵からの攻撃に戦々恐々としたが、何故か攻撃が来ない。不思議に思って後ろを振り返ると、そこには何故か俺の三叉矛へと歩いて行く『ミノス王』の姿。俺は怪訝な表情になりつつも、その光景を見続ける。
「先輩!早く逃げないと!!」
レグルスがせかしてくる。どうも、自分は『ミノス王』に注意を持って行かれすぎたらしい。レグルスに言われたとおり前を見て走り出すと、そこでポーンと言うシステム音がなった。そして目の前にウィンドウが現れ、そこには信じられないことが書かれていた。
『Drop weapon!
―――『海王星の三叉矛を落としました』
「はぁ!?」
我が目を疑った。
それぐらいにあり得ない光景だった。今まで、神器がドロップしたなんて報告は聞いたことがない。確かに、PKされたりすると一定確率でドロップが発生する。だが、俺達の神器は普通の方法ではドロップしない。と言うか、それ以前に俺がキルされていないのにもかかわらずドロップするということがあり得ない。
基本的にドロップするのはキルされて、だ。だが、その常識を覆す事態が発生している。俺は嫌な予感がし、『ミノス王』の方を再び振り向く。そこには、右の掌に小さなカードを、人差し指と親指でつまむようにしている『ミノス王』。そして、次第にその指先に力がこもる。
「おいおいおい、嘘だろ?マジかよ・・・あり得ないって・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうした?」
兄貴が俺に声をかけたその瞬間、『ミノス王』のカードが指先で潰される。光が『ミノス王』の周りを駆け巡り、右手に集まる。
そこに現れたのは、『ミノス王』の巨体に合わせた巨大な槍、三叉矛だ。青い柄に、波打つような刃。それは、まさしくさっきまで俺の手元にあったもの・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ、な!?」
そして『ミノス王』はその切っ先を逃げる俺達に向けた。
もしかしなくても、アレでやることは一つしかない。
「全員、すぐに横道に逃げ込め!」
「「はい?何で・・・」」
双子が振り向いて疑問を声を上げるが、後ろの『ミノス王』を見てその怪訝な表情を驚愕なものへと変えた。
だろうな、奴の三叉矛の切っ先には巨大すぎる水の塊が生み出されている。アレは、Gスキル≪アポファシ・トゥ・ポシドゥーナ≫だ。
それを見た俺達は、迷路の道がどうなどということは無視して近くにあった通路に飛び込む。それと同時に俺達が走ってきた通路を水の塊が突き進んでいく。
ほっと一安心したのもつかの間。その瞬間に『ミノス王』がぬっと曲がり角からこちらをうかがってきた。そして、さらには三叉矛まで掲げている。
―――詰んだ・・・。
誰もがそんな考えを脳裏に浮かべた。
「やはり、真打はここぞと言うときにやらないといけませんね!≪エヴロギア・キッソース≫!」
案山子さんが聞いたこともないスキル名を叫び、スキルを発動させる。
すると、『ミノス王』の足元の地面から多種多様な植物が生え出し、攻撃しようとしている『ミノス王』の邪魔をする。
「私のGスキルです!今のうちに!カナリアさん、出口はどっちだと思いますか!?」
「あ、え・・・こっちです!」
そして俺達はカナリアがさした方向とは逆の方向へと爆走する。
後ろから『ミノス王』の憤怒の咆哮が聞こえるが、その鳴き声は次第に小さくなっていった。どうやら、無事に逃げ出すことに成功したらしい。
・・・・・・俺の『海王星の三叉矛』を犠牲に。
用語集
アポロン・太陽の神。医療、音楽、占いに長けている。アルテミスとは双子の兄にあたる。
アルテミス・月の女神。弓矢の扱いに長けており、狩猟の女神でもある。また、アポロンの双子の妹にあたる。
ディオニソス・葡萄酒の神。実はオリンポスの十二神から外され、ここにヘスティアと言う『炉の女神』になる場合がある。ヘパイトスと若干かぶるので彼女を出す予定はない。