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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
ポセイドンと毛糸玉
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クエスト25・ポセイドンと毛糸玉

Player-カイ

 まぁ、あぁは行ったものの、実際には俺一人じゃ無理だ。しかも、聞くところによれば迷宮が更にえげつないことになっているらしい。

 まず、EXダンジョンの名前は『ダイダロスの裏迷宮』。・・・変わり映えしないな。

 『ダイダロスの迷宮』と同じでダンジョンは迷路を攻略するところから始まる。入る度にパターンが変化するのも一緒。ただ、迷路の変化の時間が変わっているらしい。『ダイダロスの迷宮』の変化時間間隔はおよそ三時間。今回挑もうとする『裏迷宮』は時間がランダムらしい。運が悪ければ数十分置きなんてのはザラにあるようだ。

 モンスターが出ないのは幸いだと言いたいが、あまりに何もなさ過ぎて嫌気がさしてくるらしい。

 ・・・精神的なものを徹底的に潰す気満々の極悪極まりないダンジョンらしかった。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・他にも問題がある」


 どうも、モブ達がEXダンジョンの方に流れて行ってるらしい。原因がわからないが、バグモンスターのせいじゃないかというのが結論。

 ・・・もう、何でもありだな。


 「とにかく、カイ君だけでは難しいかもしれませんね。・・・私も行った方がいいかい?」


 案山子さんがそう言ってくれるが、貴方は非戦闘要員だ。

 いや、戦闘は一応できるけどあんまり好きじゃないとか言っていつも逃げる。でも、今回に限ってはついてきてくれるらしい。


 「・・・でも、案山子さんってどんな戦い方でしたっけ?」


 「あぁ・・・。私のGスキルは生産系だし、あんまり知らないかもね」


 ・・・生産系のGスキルとかあるんだ。初めて知った。

 俺と同じことを思ったのか、全員が少しだけ驚いた表情だ。


 「・・・あれ?みんな知らなかった?」


 「でも、確かにカイさんだけじゃ辛そうなんで、僕で良ければついていきます」


 「レグルスならむしろ歓迎するぞ?お前ほどの戦力なら十分だ」


 案山子さんがあのーとか言ってるけど、今回は無視しよう。


 「「お兄さまレグルスが行くなら!」」


 すると、もはや当たり前とでも言いたげに双子が立候補する。

 それにレグルスはほんの少しだけ疲れたような表情を作る。


 「・・・喧嘩しないならいいよ?」


 「何を言ってるんですか、お兄さま?」


 「そうです。私とヒナは大の仲良しです」


 二人して手をつなぎ、そのつないだ手をぶんぶん振りまわして仲がイイですよとアピールをする。

 ・・・・・・まぁ、確かにレグルスが関らなきゃこの二人は仲がいい。たぶん大丈夫だろう。


 「あぁ・・・そう・・・わかった」


 「兄貴はどうする?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・行かせてもらう」


 参加メンバーはこれで決定だ。

 俺とレグルス、双子に兄貴。だが、このゲームで組めるPTの上限人数は七人。つまり、あと二人だけ余裕がある。しかも、今回はEXダンジョンに挑もうとしている。俺の前回の経験から、人数はギリギリまで必要だとは思う。あの初心者ダンジョンであの強さだ。『ダイダロスの迷宮』のような高レベルダンジョンでは鬼畜としか言いようのなくなる難易度になることが目に見えている。

 ・・・ロゼがいりゃぁな。あいつレベルの回復なら安心してダンジョンを突き進める。


 「・・・あと二人、欲しいな」


 「・・・そう言えば、私の知り合いに面白い子がいますよ?」


 俺の言葉に案山子さんが答えてくれる。

 ・・・でも、大丈夫なのか?俺達についてこられるようなヤツらなんてそうそういないぞ?


 「だいぶ前に組んだんですけど、本当に面白かったですよ?」


 「どんなふうに、面白かったんですか?」


 俺は気になって聞いてみる。

 まぁ、周りも興味があると言った風だけどな。


 「いえ、それは会ってからの方が早いと思います」


 そう言うと、案山子さんはショートメールで誰にメールを送る。

 そしてしばらくすると、案山子さんが動く。


 「では、その子の所に会いに行きましょう」


 「・・・俺達から、行くんですか?」


 ・・・・・・マジかよ。

 俺達は一応神名持ちと呼ばれる、最強のプレイヤーの名前を冠する者達と言っても過言ではない。普通なら、こっちから来いと言えばそれだけで大抵の人は何も言わずにやってくる。だが、わざわざこっちから訪ねる。それほどの相手なのか?


 「まぁ、そうしないと面倒ですからね。・・・・・・では、ついてきて下さい」


 「と言うか、本当にその人は何者なんですか?」


 レグルスが気になったのか、案山子さんに聞く。

 まぁ、かく言う俺達も気になる。わざわざこっちが出向くほどの相手。まさかのミッドレベルか?


 「では、これだけ言っておきましょうか?・・・システム外スキル、『毛糸の道標アリアドネ』の使い手とでも」


 俺達は、その言葉に絶句するしかなかった。






 システム外スキル。

 それはこのゲームのシステムには実装されていないスキルを、あたかも実際にあるスキルのように使う人のことだ。

 ・・・・・・地味にミッドはシステム外スキルっぽいことをしているが、あいつの技は全てが『スレイプニルの指輪』と『長靴ケットシー・ブーツ』に集約されている。

 しかも、今回のそのシステム外スキル『毛糸の道標アリアドネ』はどんなダンジョンでも最短距離で攻略できる異常なスキルらしい。


 「いえ、私も最初に会った時は驚きました。あんなこともあるんだなぁと」


 「・・・だから、そのあんなことの部分を教えて下さいよ」


 「気になるじゃないですか!」


 双子が交互に尋ね続けているが、案山子さんは楽しそうな表情を見せるだけだ。

 すると、案山子さんが足を止める。


 「この辺にいるはずなんですけど・・・」


 「・・・何で、こんなところを待ち合わせ場所にしたんですか?」


 「・・・そうですね、僕からしてみれば懐かしい場所ですけど」


 ここはダンジョン・・・かどうかも怪しいが、俺達が『家畜小屋』と呼んでいる場所だ。関東の隅っこにある場所で、ひどくわかりずらい。

 レグルスが懐かしいと言ったのには理由がある。まず、英雄の名前を持つには、特殊クエスト『英雄の条件ライセンス』と呼ばれるモノを受ける必要がある。 あいつの装備で重要なのは武器じゃない、防具の方だ。

 レグルスは本来ならPTで受けるべきクエスト、『ネメアーの獅子討伐』をソロでこなし、『硬獅子の外套ネメアー・コート』なる防具を手に入れた。当時のレグルスは、お?ラッキーと思いながら装備したが、そこでいきなりクエストが受注された。

 『十二の功業』、それがクエストの名前。内容を見てみると、どうも『英雄の条件ライセンス』。『神の試練トライアル』と同様に、神級ゴッド・クラスとまではいかないが、それなりに強力な装備やスキルが手に入ることが多い。そこでレグルスはやったーと思ったものの、次の瞬間には顔が青くなったらしい。理由はこのクエストのクリア条件だった。


1・このクエストが終了するまでPTが組めません。また、貴方はPK扱いになります。

2・この装備は外せません。

3・また、武器は装備不可となります(正確には籠手のみとなります)

4・今までの覚えたスキルは使用できません、格闘系スキルのみ使用可能。


 次々に明らかになっていくふざけた条件。完全に呪われた防具だった。

 急いでクエストウィンドウを開き、一体どれだけのクエストがあるのかチェックすると、その数はなんと十二個。しかも全部討伐系。当時のレグルスがメインウェポンとして使っていたのは戦斧。しかも、結構地味にグレードの高い『キュクロプスの大戦斧』と言うものらしく、もう泣くしかなかったみたいだ。

 幸いにも格闘スキルはそれなりに覚えているから良かったものの。・・・いや、よくないけど。その代わり、この呪われたコートのステータスは地味にすごかったらしいけどな。

 全身防具の類でライオンの毛皮っぽい色合いの、現代風なものだ。所々にライオンの意匠が施されている。

 まぁ、そんなこんなでレグルスはどうにか十二の討伐クエストを攻略。途中、マジもんのPKと間違われて守護神ガーディアンの人達に追われたのは、今じゃいい思い出だと本人談。ちなみに、何回かPK・・・いや、PKKなのか?まぁ、とにかく『地獄逝き』にさせられたこともあるらしい。

 そして、ここがその討伐モンスターの一体が出てくる場所。モンスターの名前は『アウゲイアースの牛』。このモンスターを三千匹も狩ったらしい。しかも、レグルスによればこのモンスターも地味に強い、と言うか数の暴力で何回死んだことかと言っていた。死んでも討伐数がリセットされることはないのが救いだったらしい。


 「でも、何でここに?・・・・・・まさかとは思いますけど、ヘラクレスの『英雄の条件ライセンス』でも取っちゃったんですか?」


 すると、レグルスはものすごく同情した表情を作る。

 ・・・・・・昔の自分と重ね合わせているのがよくわかる表情だった。


 「・・・無きにしも非ずですが、たぶん違います」


 「いやぁぁぁぁああああああ!?」


 すると、家畜小屋から悲鳴が上がる。

 それと同時に小屋の扉がバンと音を立てて開き、中から一人の少女が飛び出してくる。


 「か、案山子さん!助けてください!?も、モンスターが大量発生してます!?」


 その少女は案山子さんに飛びつき、そう言う。

 すると、ものすごい音がこちらに近づいてくる。その方向をみれば、そこには黒い牛が雪崩のようにこちらに突進してくる。


 「・・・レグルス、まさかと思うけど?」


 「いやぁ、別に『英雄の条件ライセンス』をしてなくても出てくるんですね」


 「マジかよ!?」


 どうも、こいつ等が件の『牛』らしい。

 ・・・ヤバい、死ぬしかないかも?


 「まぁまぁ、ここはカイ君の出番だね。・・・兄貴君でもいいんじゃないかい?」


 まぁ、それもそうだ。

 スキルを使おうとした兄貴に俺は大丈夫だといい、前に立つ。魔法使い系のプレイヤーが前衛に出るとかバカ以外の何物でもないが、俺にはそれが当てはまらない。

 魔法スキルを発動するために詠唱を行う。

 魔法スキルはショートカットキーに登録したアイコンをタッチすると、自分の眼の前に文が現れる。それを読み上げ、最後にスキルの名前を言えばスキルが発動する仕組みだ。もちろん既に暗記してしまったのであれば、わざわざ呪文を表示する必要はない。覚えた呪文を口に出して言い、最後にスキル名を言えば発動する。ちなみに、熟練度が上がれば文が短くなったり、あるいはそういうPスキルもあるようだ。

 だが、Gスキルはたとえ魔法スキルであったとしてもそれが必要ないからチートって言われる原因なんだけどな。


 「≪アポファシ・トゥ・ポシドゥーナ≫!」


 掲げた三叉矛トライデントの先に巨大な水塊が生成される。俺は三叉矛を振るって水塊を牛の大群へとぶつける。すると、牛たちは正面から俺の攻撃を喰らい、大半がやられる。だが、まだまだいる。俺は続けて魔法スキルを発動させる。

 たしか、『大津波』の意味を持つ広範囲の魔法スキル。


 「≪パリランキ・アンデクセン≫!」


 三叉矛の石突部分をドンと地面に突き立てる。すると、そこを中心に水が生まれ、うねり、一つの波へと変わり、最終的に大きな波となって牛たちにぶつかる。

 それによって、後続の牛たちも俺の魔法スキルでやっつけることができた。


 「残りは僕達でやるぞ!」


 「「は~い!」」


 レグルスと双子が牛の残党を狩る。

 そして、俺達は三千もの牛を撃退することに成功した。


 「・・・すごい」


 そんな声が聞こえた。

 と言うか、案山子さんにしがみついている少女からだ。


 「・・・案山子さん、その子が?」


 「あぁ、この子がそうだ。・・・久しぶりだね」


 「あ、はい。『カナリア』と言います、初めま・・・して?」


 そう言うと、『カナリア』と言う少女は俺と兄貴、そしてレグルスを見て何故か首を傾げる。

 ・・・・・・まぁ神名持ちだし、それなりに有名だからな。


 「・・・あぁ!?貴方達は、前に『ダイダロスの迷宮』で出会った!?」


 「「「・・・」」」


 名指しされた俺達は互いに顔を見合わせる。

 ・・・確かに最近『ダイダロスの迷宮』には行った。けど、この子に会ったっけ?俺達のお互いの顔にはそう書いてあった。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ボス部屋か?」


 「「なるほど、さすが兄貴」」


 その言葉で思い出した。

 たぶん、この子はボス部屋で迷子になったと言う猛者だ。

 ・・・・・・おい今思ったんだけど、まさか?


 「EXダンジョン見つけたのって・・・?」


 「はい?あ、私らしいですね」


 自分のことなのにらしいと言うのはどうかと思うが、タイミング的にもたぶんそうだろう。


 「と言うか、君達は会ったことがあるのかい?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すれ違っただけだがな」


 言葉少ない兄貴に変わり、俺とレグルスがその時の状況を案山子さんに教える。


 「なるほどね、そういうことがあったのか」


 案山子さんはそう言いながらカナリアを見る。

 カナリアはと言うと、急に何かを思い出したのか、案山子さんに尋ねる。


 「そう言えば、私に頼みたいことってなんですか?・・・私、案山子さんのようにすごくないですよ?」


 「いえ、これは君にしかできないことです。『ダイダロスの裏迷宮』に我々と一緒に来てください」


 単刀直入に言った案山子さんの言葉にニーマはぽかんとした表情になる。

 それには構わず案山子さんは俺達の紹介を始める。


 「彼が『ヘラクレス』のレグルス君、そしてあの双子の『アポロン』がヒナ君で、『アルテミス』がサヨ君。そしてさっきの水魔法スキルの彼が『ポセイドン』のカイ君。最後にあの低血圧気味な彼が『ハデス』の兄貴君だ」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エルダーだ」


 初対面では必ず自分の名前を言う兄貴。だが、みんなは何故かアニキとそのうち呼びだす。


 「無理ですよ!?みなさん、神名持ちだったんですか!?そ、そんなところにわ、私が入ろうなんておこがましいことっ!?」


 ・・・・・・最初の頃のミサがこんな感じだったなぁと思いつつ、俺は今回のことをどう説明したのものかと考える。

 正直な話、バグモンスターのことを話すのはあんまり気が乗らない。

 でも、知らないといろいろと困るからな・・・。俺は兄貴に代わって簡単に状況を説明した。


 「で、そこで案山子さんにお前を紹介されたんだ」


 「そ、そうなんですか?でも、バグモンスターなんて、聞いたことがないです」


 「そりゃぁな。一部の守護神ガーディアンがプレイヤー達の安心と安全のために狩っている。そして、誰が言い出したのかはわからないけど、このことは俺達の間で極秘扱いになってる」


 まぁ、誰が言い出したのかは正直なところわかる。 どうも『ラタトスク』とか言う組織はそう言う情報操作がやけに得意らしい。

 だが、カナリアはそう言う俺の言葉に首をかしげる。


 「なら、わたしじゃなくてその人に頼めば・・・?」


 「あぁ、言いたいことはわかる。けど、今回はヤバいんだ」


 「・・・いろいろな意味で、ですよね」


 レグルスの言葉はスルー。

 カナリアは更に首をかしげて、周りの人間を見るが、そこにはすっと視線をそらす神名持ち達。


 「とにかく、第一人者は神話領で領地争奪戦エリア・ウォー


 「もう一人は一年前に行方不明。・・・そう言えば、カイさんが無所属領に顔出すようになったのってこのころですよね?」


 俺は地味に勘のいいレグルスに曖昧な笑みを向けてスルー。

 一応ミッドにはあんまり言うなって言われてるしな。たぶんいろいろと面倒だからだと思う。


 「とにかく、だ。いろいろとワケあって、できればお前の力を借りたい。もちろんお前のことは俺達が全力を持って守る。だから、俺達を助けてくれ」


 オレがそう言うと、カナリアは不安げな表情で案山子さんを見る。

 だが、案山子さんはそれに気づかないフリをしてあさっての方向を見ている。

 少しだけ考えるしぐさをした後、彼女はこちらを見て意を決した表情で言う。


 「わかりました。私でよければ頑張ります」


 「助かる。じゃぁ、今回はできるだけ急ぐ必要がある。報酬やなんかは後で頼めるか?」


 「あ、はい」


 そして、俺、兄貴、レグルス、双子、案山子さん、そしてカナリアを含めた七人のPTで『ダイダロスの裏迷宮』へとその足を向けた。


用語集

ヘラクレス・ゼウスの加護を持つ英雄。十二の功業(難行)でよく知られている。悩み過ぎがたまに傷な感じのお方。このゲームではどM仕様な感じになっている。


アウゲイアースの牛・十二の功業の一つ。二千もの牛を延々と狩り続ける作業ゲー。

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