クエスト24・ポセイドンと迷宮
どうも、お待たせしました!
・・・待ってねぇよという方、調子に乗ってすみません。
というわけで、今回はタイトル通り、カイ君のターン!
Player-カイ
「ったく、何で急にこんなところに・・・」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。きっとアニキさんも嬉しんですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ」
俺にそう言うのは『狂乱の英雄』の二つ名を持つ少年、『レグルス』。そして異常にテンションが低いこの男が『冥界の神』の二つ名を持つ『エルダー』。何故か兄貴の愛称で親しまれている。
まぁ、そんなことはどうでもいい。俺は『喫茶ひだまり』に行ったんだけど、何故か臨時休業でミッド達がいない。後でわかったことだけど、どうもミッド達はわざわざ北欧神話領に助っ人として行ってたらしい。そんなわけでやることもなくボケーっとしていた俺に兄貴が一言。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ついてこい」
黒一色の装備に身を固めたこの人が言うと何故かものすごくかっこよく見える。そして更に偶然通りかかったレグルスもついてきた。でも、まさか来るのがここだとは思わなかった。
遅くなったが、ここはギリシャ神話領の地下鉄ダンジョン『ダイダロスの迷宮』。『ミノス王』や『ミノタウロス』が闊歩することで有名な神話にも実際に出てくる迷宮だ。
このダンジョンにもそれが反映され、ボスモンスターにミノス王、モブにミノタウロスと言う布陣だ。ちなみに、ここに数人のPTで挑むのはただのバカだ。ここのミノタウロスは普通にボスクラスのモンスター。ミノス王はここにしか出てこないが、それは神級のモンスター達に匹敵する。 更に、入るたびにパターンの変わる迷宮。しかも、入ってから一定時間で勝手に迷宮が組み換わり、噂ではゴール直前で通路が変化してしまって泣く泣く別のルートを探し、結局当初の予定の三倍の時間がかかったと言う話もあるぐらいだ。
しかも他のダンジョンと違い、帰りは自分でお帰り下さいと言わんばかりに転移陣がない。
要するに、例え神級のプレイヤー達がいたとしても、ここに三人だけで乗り込む酔狂なヤツはそうそういない。
・・・・・・ただ、今回の俺達のようなPTだったら安心だけどな。
「おい、来たぞ」
「へいへい。・・・≪パリランキ・アンデクセン≫」
とりあえず、狭い通路に俺が得意な範囲魔法スキルをミノタウロスに向けて放つ。それにより、ミノタウロスがのけぞる。そこへレグルスが風のような早さで肉薄。ミノタウロスは二メート ルの巨体に似合わず俊敏で、更にはパワーもある。だから、近接戦闘はとても難しい―――。
「はぁ!」
―――んだけど、レグルスには当てはまらない。ヤツは格闘スキルの使い手。しかも攻撃に防御、スピードとどれをとっても申し分のない、ある意味では完成されていると言ってもいいレベルのプレイヤーだ。レグルスのヤツが一撃殴ると、それでミノタウロスのHPががりがりと削れていく。
さすがだな。俺は感心してレグルスを見守る。
「カイさん!トドメお願いしまーす」
「おう、≪アポファシ・トゥ・ポシドゥーナ≫」
俺がGスキルを使い、ミノタウロスは撃沈。
まぁ、こんなもんだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さすがだな」
「・・・いい加減さ、テンション上げようぜ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これでも、上げているはずなんだがな」
そうか、これが最大だったのか・・・。
いちいち変化する迷宮を何とかクリアし、ボス部屋の直前にまでたどり着いた。
すると、そこには先客のPTがいた。とりあえず挨拶をしておく。
だが、相手は頭を寄せ合って何か考えている。
・・・どうしたんだ?
「あの、どうかしましたか?」
一番人当たりの良さそうなレグルスがそのPTへ声をかける。
「あ、はい。・・・実は、仲間が一人だけどこかに消えてしまって・・・」
「・・・迷子か」
まぁ、この迷宮じゃしょうがない。
そこで更にレグルスは質問。
「でも、何を悩んでるんですか?」
「彼女を探すべきか、否かを・・・」
「いやこの迷宮じゃ迷子になったらまず会えないし、それに一人だけなら確実にミノタウロスにやられるぞ?」
一瞬、脳裏をケタケタ笑いながら『強いヤツはどこだぁ?』と言う、見た目は可愛い女子が槍を担いで通り過ぎていった。
・・・・・・ヤツはしょうがない。
「それがですね、迷子になったのがボス部屋なんですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・意味がわからんな」
俺もそう思ったよ。
ボス部屋で迷子って、どんなんだよ?
「しかも、PT情報じゃ迷子になって二時間はたっているのにまだ生きているって」
「・・・それは、すごいな」
ここでは嫌になるぐらいミノタウロスと遭遇する。それで二時間も生き残るのは正直すごいの一言に尽きる。
「神隠しにでもあったのか?」
神様が出てくるゲームだからありそうで怖い。
レグルスの冗談を笑える猛者はここにはいなかった。
俺達の間には何とも言えない沈黙が舞い降りた。だが、それは次の瞬間にブチ壊された。
「あ~!?みなさん、どこに行ってたんですかー!?」
やたらと元気な少女がこっちに向かって走ってきた。
・・・・・・ボス部屋の中から。
「おい、まさかとは思うけど・・・」
「おま!?何でそこから出てくるんだよ!?」
どうも、彼女が探し人らしい。
種族は鳥人族。ショートカットの髪に、カチューシャのアクセサリーを付けている。武器は、珍しいことに楽器。たぶん、吟遊詩人のような補助系スキルに特化しているんだろう。
「もう、皆さんがどっか行っちゃってびっくりしましたよー」
「こっちはお前が消えてどうしようか悩んでいたんだけど!?」
間延びしたしゃべり方をする彼女に仲間のプレイヤー達は呆れた声で言う。もう、怒る気も何も起こらないみたいだ。
「はぁ、すみません。お騒がせしてしまって・・・」
「いや、まぁ無事に見つかって何よりだったな」
俺達はそう言うと、互いに別れた。
「・・・・・・なんだか、疲れました」
「そうだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まぁ、とにかくボスだな。
俺達は微妙な疲れとともにボスと対峙した。
~数日後~
俺は今だ北欧神話領に出張中ミッド達と会えず、暇な日々を過ごしていた。
まぁ、あいつが帰ったということは何をしようとしているのかぐらいは簡単に想像がつく。おそらくは一年前、まだミッドこと『八足の駿馬』がいた時に使われていた最強、あるいは最凶と名高い作戦、『オーディンの行進』をしようとしているんだろう。あれはミッドがアスカさんを背負って敵陣に特攻し、そこでアスカさんが『スキル・ハッピー』を使うと言う凶悪極まりない作戦。こうなってしまったアスカさんは誰にも止められず、あの『伊邪那岐』と『伊邪那美』ですら敗北するという始末。そしてアスカさんは俺達の間ではひそかにこう言われている・・・・・・・・・・・・・・・『死神』と。
もう、オーディンの『戦争』の部分はいらないと言う結論に達してしまったらしい。
まぁ、それ以外はまともな人だから大丈夫だ。ミッドに言わせれば奇人変人の巣窟の守護神と言われているが、ギリシャ神話領はまだまと―――。
「お兄さま~!・・・貴女は離れなさい、アバズレ」
「あんたこそ、離れなさいよ!」
「これもお兄さまヘの愛がなせる業・・・!」
「何が愛がなせる業よ!?レグルスが困っています!」
「あの、二人とも、仲良く・・・」
「「お兄さまは黙ってて!」」
「・・・すみません」
・・・・・・俺は何も見ていない!
まぁ、そのまま何もしないわけにもいかなかったので、俺はこのレグルスからこの二人を引き剥がす。
こいつ等は双子の姉妹だ。
お兄さまと言っていたのが『太陽の神』の名前を持つ『ヒナ』。
そして丁寧な物言いの少女が『月の女神』の名前を持つ『サヨ』。
こいつ等の顔は全く同じ。二人が同じ格好をしていればどちらがどちらかわからなくなるだろう。まぁ、幸いにも二人は似たような格好をしてはいるけど色合いが違うものを装備しているのでどうにかわかる。
「またかよ、いい加減にしろよお前ら・・・」
「無理です!ヒナが悪いんです!」
「サヨが悪いの!お兄さまに色目なんて使うから!!」
「先に使ったのはヒナでしょ!?」
・・・不毛だ。こいつ等は一卵性双生児のためか、思考や行動パターン、果ては好きなものも全く同じ。最早同一人物が二人いるとしか言いようがない。そのせいで好きな異性の好みも同じで、レグルスに突撃中。
「・・・たまに、俺はお前がオーディンに爆撃されたらいいのにって思うことがある」
「何でですか!?僕は好きでこうなっているわけじゃないですよ!?」
「リア充とか、マジで爆ぜればいいと思うんだ。ハーレム形成中のヘラクレス君?」
「お願いですから助けてください!?僕にはリアルに彼女が・・・!?」
マジで爆ぜればいいと思った。
くそ、ネトゲしてるやつで彼女がいるとかなんだよ。神様は本当に不公平だな。俺はこのゲームの根本的な何かを否定しつつ、自分の席に座る。
ここは、現実のアキバ辺りの位置にあるギリシャ神話領守護神、通称『ホワイト・オリュンポス』。
ここは山ではなく、普通のビルの中だ。まぁ、いろいろな区画があるけどな。鍛冶専用のエリアだとか、戦闘用のエリアだとか、屋上に至っては畑だしな。ちなみに今俺達がいるのはやたらと広い会議室のような部屋。そこには十二の席が置かれている。ヘラクレスの席がないはずなのに、レグルスがここにいるのはあの双子のせいだ。
そんなことを考えていると、いきなり扉が派手な音を立てて開かれる。
何事かと思ってみてみると、そこには一人の男がいた。
「や、やったぞ。ついに、ついにできた・・・!」
「・・・あの案山子さん、どうしたんですか?」
こいつは案山子。農業スキルを極めている一風変わったプレイヤーだ。しかも、神名持ちの一人で、『葡萄酒の神』の名を持つ。
「・・・できたんだ、ついに、あれが・・・!」
何やら興奮しすぎて言葉遣いがおかしい。
俺はとりあえず落ち着くように案山子さんに言う。
「とりあえず、落ち着きましょう。・・・で、何ができたんですか?」
「あぁ、よくぞ聞いてくれた!」
何故か無駄かっこよくにビシッと俺に向けて指をさす。
・・・あの、さっさと話してくれませんか?
「あぁ、すまない。少し興奮してしまった・・・コホン。私はつい最近、とあるものを開発していた」
要するにスキルを使っての実験か?この人は生産系スキルを多く取得している。
更に、このゲームは自由度が非常に高い。例えば、何か料理を作ったとすれば、味付けなんかを個人で変えられる。もちろん、下手な料理をすればまずくなると、かなり現実に近いことができる。
そしてこの案山子さんの料理はものすごくうまい。何をどうやったらこんなにうまいのだろうと思えるぐらいに。そんなわけで俺達は案山子さんに頭が上がらない。・・・末席なのに何でこんなに権力が強いんだろう・・・?まぁ、今は何を開発したかだな。
「何か、新しい料理の開発に成功したんですか!?」
「はい、はい!私食べてみたい!」
双子が身を乗り出すようにして案山子さんに詰め寄る。
「いや、今回はちょっと違う。いつも『主夫なディアオニソス』って言われているから、たまには男らしいことでもしようと思ってね!」
「「えぇ~・・・」」
双子がステレオ音声で落ち込む声を出す。
と言うか、気にしてたんですね。『主夫なディオニソス』ってヤツ。
「とにかく私はがんばった、葡萄酒の神として・・・!」
「・・・え?それって、まさか!?」
このゲームに酒類の料理や酒造カテゴリのスキルは無い。
まぁ、理由はなんとなくわからない気がしないでもないけどな。でも、『ディオニソス』はギリシャ神話でも有名なお酒の神様。できたのはおそらく葡萄酒なんだろう。まさか、そんなものまで作るなんて・・・!?
「ファ○タっぽいモノを作れた・・・!」
ワインよりすげぇ!?
このゲームは残念なことに現実世界と同じ製品は無い。スポンサーの関係だとは思うけど・・・。
と言うか、結局『主夫なディオニソス』の看板は下ろせてませんよ?・・・もしかして、『料理研究家なディオニソス』の称号でも欲しかったんですか?
もうみんなも唖然とするしかなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・盛り上がっているところ、いいか?」
「あ、こんにちわ。アニキさん」
「「アニキさん、こんにちわ!」」
声のした方を見ると、そこにはいつの間にいたのか兄貴が。
何故かみんなの言い方がアニキ。
いや、俺もそう呼んでるけど。
「あぁ、兄貴君。ちょうどよかった。ついさっきファ○タっぽいモノが・・・」
「・・・・・・・・・・・・・ならば、それを此処にいる全員にふるまってくれ。・・・・・・・・・・・・・・・それと、此処にいるお前達に話すことがある」
そう言うと兄貴は自分の席に座る。
俺達はいつもより口数の多い兄貴にどこか不安を感じつつも言われたとおりに座る・・・。
「レグルスはこっちに座ってください!」
「いいえ、お兄さまは・・・!」
・・・もう、いい加減にしてくれ。
すると、兄貴が一言。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・レグルス、そいつらの真ん中に立ってろ」
「わかりました」
まぁ、元々レグルスの席は無い。立っててもらうのは悪いともうが、どうもこの様子じゃ緊急事態のようだ。さっさと話しを進める必要がある。
そこに双子の痴話げんかはいらないからな。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・話がある」
この人のテンションじゃ話が進まないので俺が代わりに説明すると・・・。
どうもここ最近、無所属領以外のEXダンジョンが見つかったらしい。しかも、驚いたことに場所が『ダイダロスの迷宮』。つい最近俺達が行ったばかりのところだ。更に驚くべき場所がEXダンジョンへの入り口がボス部屋の中にあるという点。
「でも、それがどうしたんですか?」
「私達で攻略しちゃおうとか?」
双子が兄貴にそう尋ねる。
だが、まだ話は終わっていないらしい。
更に聞くと、そのEXダンジョンには何故かモブが一切いないらしい。だが、迷路の難度が跳ね上がっているらしいけどな。そして問題なのが、ボスモンスターの攻撃に痛みを感じるとかいう噂が出てきているらしい。
「・・・バグモンスターですか?」
レグルスが深刻な顔をして言う。
確かに今回はマズい。通常ではありえない現象が起こるモンスター、『バグモンスター』。誰が言い出したのかはよくわかってはいないが、このゲーム内のバグの一種らしい。普通のモンスターに比べて強く、時たま変なスキルを使用したり、痛みを伴ったりとわけのわからない奴等だ。
それがよりによって『ダイダロスの迷宮』のEXダンジョンのボスと言うのは、もう悪夢でしかない。こういう時にこそバグモンスター狩りのプロ的なスピカさんやミッドに頼むべきなんだけど・・・。
「あの二人、今は忙しいからな・・・」
俺の言葉にみんなは何とも言えない表情を浮かべる。
ミッドはいつもの『長靴を履いた猫』の恰好で、顔を隠すようにしているから『スレイプニル』の名前でしか知られていないからともかく、スピカさんはかなり有名だ。
現在の北欧神話領の命は風前の灯。だが、基本的に神話領から神級の貸出とか、応援はできない。そんなことをすれば各神話領の戦力バランスが大きく崩れるからな。だから、俺達は無茶苦茶なことを吹っ掛けられた北欧神話領に加勢したくともできない。まぁ、それがわかった上でのモリガンのあの暴挙なんだけどな。
ただ、今回は運が悪いことにケルト神話領の敗北が既に目に見えてる。・・・御愁傷さまだな。
「カイ君は何で合掌しているのかな?」
案山子さんが思わず合掌してしまった俺にそう尋ねる。
・・・・・・聞かれると、こう答えるしかないんだよな。
「いえ、既に負けが確定しているケルト神話領に・・・」
「「「?」」」
全員、俺のそんな言葉に怪訝な表情を向ける。
そりゃそうだ。『スレイプニル』の正体を知っているのは極少数。他の神話領ともなればおそらくそれは俺だけだろう。たぶん、ミッドが『ラタトスク』とか言うグループの一人だったことが関係しているのかもしれない。
そう言うわけで今のところ、北欧神話領が久々に『死神オーディン』を使うことを知っているのは当人達を抜いて俺だけだし。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・続けていいか?」
そうだった。今はEXダンジョンのボスのバグモンスターをどうしようかという問題だ。
ハッキリ言って、このメンツじゃ心もとない。けど、あれは早急に対処しないと被害が出る。ミッドに言わせれば、これは俺達の現実であると同時にゲーム、そしてゲームは楽しむためにある。だから、こんなことは知らないならそのままの方がいい。
わざわざ、苦しい思いまでしてゲームする必要なんてないしな。なら、俺がすることは決まっている。
「俺が行く。その『ダイダロスの迷宮』のボス討伐にな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいのか?」
「何言ってんだよ」
この人は何を言うのか・・・。
ただの猫妖精にできるんだ。それなら・・・。
「俺は、『海と馬の神』だぞ?」
用語集
ギリシャ神話領・関東地方を中心に広がる神話領。これといった特徴はない。強いて言うなら、装備が近代的なものが多い。
リア充・リアルが充実している人のこと。具体的には彼女、あるいは彼氏がいることをさすことが多い。そして爆発物でもあるので取扱いには注意。
ファ○タ・作者が一番好きな炭酸飲料。