クエスト20・アーサー王とトール
Player-ミッド
「イース、さんきゅ」
「・・・・・・あれぐらい、造作もない」
いや、何の打ち合わせもなく、あぁもできるのはマジですごいと思う。
まぁ、こいつは俺のストーキングをしているから、俺の戦い方をいくつか知ってると俺は踏んだ。
でも、あの状況で愛美が驚いてくれなかったら絶対に負けてたけどな。もう、あの戦法そのものが一か八かのでっかい賭けだったからな。
「タマもありがとなー。後で高級そうな獣肉奢ってやる」
だが、タマは『んなもんいらねーよ、ッケ!』とでも言いたそうな表情で俺を睨みつけてきた。
・・・俺の被害妄想かもしれない。
「『グリーン・ユグドラシル』、作戦開始!!」
戦場にトムの大きな声が響き渡る。
その言葉で止まっていた時間が再び動き出す。俺達はいち早く体制を立て直し、防衛網を築く。そして俺とイースはいったんアスカ達の元へと戻った。
「すまん、時間がかかった」
「さすがにあの子相手じゃ無理があるわ。ロゼちゃん、ミッドとイースに回復してあげて」
「分かってます」
そう言うと、ロゼはすぐに回復魔法スキルを使い、俺とイース、そしてタマのHPを回復してくれた。
「ありがとう。アスカ、準備は?」
「それがねぇ、ミサちゃんがいないのよ」
何してんだよ。でも、ミサが遅れるとか珍しい。普段は約束の三十分前から集合場所で待ち合わせるような健気さだぞ、あいつ。
「すみません!遅れました!」
そんなことを思っていると、当のミサが現れた。
「いーよ、いーよ。さっき、ちょうどミッド君達も来たところだったからね」
師匠がそう言うと、イースに目配せをする。
イースは一つうなずくとミサの手をとる。
「・・・タマに乗る」
「お、お願いします」
イースはタマに伏せをさせるとその背中にまたがり、ミサもそれを真似してまたがる。
そしてイースがタマの頭をなでると、タマは音もなくすっと立ち上がる。
「じゃ、あたしもお願い。『スレイプニル』」
「へいへい。『オーディン』様のためとあらば・・・」
俺はしゃがみ、背中をアスカに見せる。
アスカは俺の背中に体を預けるようにしておんぶされ、俺の首にその腕を回す。
「よし、ライト君!今から俺達は行くよ!」
「分かりました、気をつけて!」
「新米神様のお前こそ頑張れよ!」
「・・・言ってろ」
俺達は周りにいるプレイヤー達から様々な激励を受け取るとともに、敵陣へと躍り出た。
Player-『アーサー王』
『クーフーリン』が負けた。
まさか、そんな光景が見られるとは思わなかった。
あの戦闘狂はケルト神話領、最強の切り札だ。ただし、自分が強いと認める相手にしか戦闘を行わず、強いヤツがいなかったら適当に途中で抜けるようなヤツだ。『暇だから神級狩ってくる』とか言いながら。
そんなあいつが始まった瞬間に≪ゲイ・ボルグ≫を放ち、しかも俺達でさえ知らなかった『魔槍・ゲイボルグ』に、格闘スキルを使ってまで戦うほどのヤツがいたようだ。
遠目からでよくわからなかったが、猫妖精が三銃士のような格好をしたやつと、噂の『グレイプニル』と戦っていたように思える。
しかも驚くことに、『グレイプニル』はその猫妖精の援護をしていただけだった。途中、Gスキルを使ったようではあったが、あれは囮で、むしろ猫妖精の放った何らかのスキルが本命だったようだ。
あれほどの強さなら、名前が知れ渡っていてもおかしくない。と言うか、ここまで追い詰められてやっと使う気になったという点が腑に落ちない。
一体、ヤツは何者だ?・・・・・・いや、見た気がするが、思い出せない。
「・・・なぁ、ローラン」
俺は自分の副官の『ランスロット』を呼ぶ。
「なんすっか?」
「あの、異様に強い猫妖精を知らないか?」
「・・・タケルの知らないヤツを、俺が知ってるわけないじゃない」
タケルとは俺の名前。
まぁ、俺はそれなりに古参のプレイヤーだが、『円卓騎士団』自体は割と新しいギルドだ。
こいつとは古い付き合いだけど、それで知らないとなるとなぁ・・・。
「でも、俺もなんか見た気がするんっすよねー」
「やっぱりか」
どうもローランもおんなじことを考えていたみたいだった。
その時、前がにわかに騒がしくなる。
俺はどうしたと声を出そうとしたその時、三つの影がすぐ近くを駆け抜けた。一瞬で誰かわからなかったが、後ろを振り返るとどうにかわかった。
一人は、オーディンお気に入りの戦乙女。二つ目が『グレイプニル』と見知らぬ少女。最後の影が・・・。
「さっきの猫妖精と、オーディン!?」
「敵はあれだけだ!迎撃しろ!」
遠くから仲間の怒声が聞こえる。
だが、敵の攻撃部隊があれだけ?
「・・・おい、あいつら以外の敵はどうしてる?」
俺は近くにいたプレイヤーに戦況の報告を尋ねる。
「あ、はい。えっと・・・どうも、敵本陣は全く動いてないです。と言うか、攻撃するつもりがないみたいです」
「・・・ちょっと、それっておかしくないっすか?」
おかしい。敵には後がない。それにも関らず籠城まがいな作戦を選んだ。
ただ、攻撃メンバーが厳選され、その中にオーディンがいると言うことは・・・!?
「ヤバい、ローラン!」
「俺も思いだしったっすよ。あれ、『スレイプニル』っすね」
ローランはニコニコとしているが、残念なことにその膨大な量の冷や汗が隠せていない。いや、俺も似たような状況な気がしないでもないけどな。
「あの、二人とも大丈夫ですか?顔色が悪いですけど・・・」
「そんなことより、全軍に通達だ!全員、敵本陣に総攻撃を仕掛けろ!」
「は、はぁ!?作戦はそんなものじゃ・・・」
「タケルの言うとおりっす。あの『スレイプニル』をやっつけられる可能性のある『クーフーリン』は、ヤツの手でやられたからっすね」
「いいか、やつ等は昔、領地争奪戦では最強を歌っていたんだ。そんな奴等が追い詰められてガチで来やがったんだよ!?一年前にやめたくせにな!?」
「す、すみません、え、HPが・・・!?」
「タケル、ここは俺達が速攻でロキを潰した方が早いっす!ヤツは、戦闘能力は俺達と比べればザコっす」
確かにそうだ。
あの真面目ロキは他の神と比べればはるかに弱い。
「そうだな・・・では、『円卓騎士団』出陣だ!」
Player-ライト
「『円卓騎士団』が来ました!」
「・・・思ったより早いけど、まぁいい。防衛ラインを下げて」
「わかりました!」
ここまでは先輩の言うとおりだ。
時折先輩からショートメールで指示が来るけど、今回の指揮全般は俺に任されている。
なら、次に打つ手は・・・。
「俺が前であいつらをできるだけ喰いとめる。魔法使い、弓兵も援護をお願い」
俺はそれだけ言うと、本陣の前に行く。
すると、ちょうど向こうも出てきた。
「・・・『アーサー王』」
「『トール』か。どけ、と言っても無意味だろうな」
そう言うとアーサー王、タケルはカードを取り出し握りつぶす。
そしてその手に現われるものは、十字架のような形の騎士剣。あまりに有名すぎる伝説の剣・・・。
「『聖剣・エクスカリバー』、か」
「今は、『木剣・エクスカリ棒』だがな」
・・・まぁ、確かに。
本来、『神器』はその名前を言うとGスキルが行使できるようになる。名前を言う前にGスキルを発動させてみようとしても発動しないのは確認済みだ。
そしてさらに重要なことが、『英雄級』は『神器』がない。その、唯一の例外が『アーサー王』の持つ『聖剣・エクスカリバー』。今でこそ見た目はただの木刀だが、Gスキルを使えるようになると、その力はすさまじい。
「だが、今回は余裕がない。『エクスカリバー』!」
タケルがそう叫ぶと木刀が光を帯び、一振りの真剣に変わる。
「≪ソード・シース≫!」
続けて叫ぶのはGスキルだ。
やつのGスキルは『聖剣の鞘』の召喚。アーサー王がエクスカリバーを鞘に納めていると、アーサー王は死ぬことがない。そして、このゲームでもその力が反映された。
タケルはエクスカリバーを鞘におさめ、戦闘の邪魔にならないように背中に装備する。そして、更にもう一枚のカードを握りつぶす。
もうひとつも剣の形をとる。エクスカリバーとよく似ているけど、微妙に色合いが違う。
あれが、ヤツのもう一つの神器、『王剣・カリバーン』。
「準備は整った。これで、俺はお前に負けない」
「・・・」
俺は何も言わずに『雷槌・ミョルニル』を取り出し、いつでもGスキルを使えるようにしておく。
そしてひどく柄の短い、金色の大槌を構え、俺はヤツの一挙手一投足に注意を払う。
タケルはマジでヤバい。ヤツの特殊性はその回復量。剣を鞘に納めていれば常時回復し、更に状態異常にかからない。バフ等のステータスを下げる補助スキルも効かない。しかも、常時回復量が数秒ごとに10%と言うえげつなさだ。『スレイプニル』のあの攻撃でもしないと削りきれない。
・・・つか、よく考えると、あいつの攻撃喰らわなくて済んだ俺ってある意味ラッキーかも。
「来ないのなら、こっちから行く!」
相手が俺に向かって突っ込んでくる。
俺はタイミングを見計らって詠唱していたスキルを発動する。
「≪スンダ・ウースラ≫!」
『トール』の十八番、雷の魔法スキルだ。
天から轟音とともに閃光が走り、タケルに直撃する。
だが、攻撃の手は休めない。
今度はミョルニルをタケルがいるであろうところに思い切り叩きつける。
だが、手ごたえがない。たぶんヤツはこの大槌を避けた。
俺はとりあえず、バックステップを踏んで距離をとる。そして早口で詠唱して、魔法スキルを発動。
「≪エアル・アフリル≫!」
地面が鳴動し、石や岩が地面から浮く。
そしてそれらは四方からタケルを押しつぶす。
普通ならこれで大抵のプレイヤーをやれるが・・・。
「少し、驚いたな。『トール』は雷の神じゃなかったのか?」
「・・・あんまり知られてないけど、『トール』は農耕を司る神でもある」
そのおかげで俺は雷属性の魔法スキルの他に大地属性の魔法スキルを使える。
タケルのHPは半分ぐらいがなくなっている。ただし、既に常時回復が働いて回復している。見る見るうちにHPバーが全快になった。
「・・・どうやって倒す?」
「無理だな。俺を倒すことは、例えあのバカップルどもでもな!」
「・・・それ、本気か?」
「・・・いや、さすがに調子乗ったかも」
あれに打ち勝てるヤツがいたら拝みたい。むしろ崇める。崇拝する。
まぁ、確かにあの二人相手に一番持ちこたえることができそうなのはこいつだけだ。
だが、マジでどうする?
・・・・・・いや、俺の役目はこいつ等の足止め。こいつに勝つことが目的じゃない。それに、こいつの戦い方は回復力任せのごり押しみたいなものだ。俺はHPとSTR、たまにINT系にステータスを振り分けている。だから、早々に負けることはない。
「だから、ここは通さない!」
「・・・俺は回復力任せに戦うだけのプレイヤーじゃ、ないぞ!」
そう言うと、タケルは俺に猛攻を仕掛ける。
いくつものエフェクトが走り、剣技スキルを発動させる。俺はそれをバランスの悪い大槌で何とか防ぐ。
でも全部を防ぐことはできず、俺のHPが徐々に減って行く。
ヤバい・・・!
「負けるか!」
俺も槌技スキルを発動させる。
破壊力のある一撃がタケルを狙う。だが、それをタケルはいとも簡単に避ける。
そしてカウンターとばかりにヤツはスキルを発動させる。
「喰らえ、≪キングス・ブレイド≫!」
ヤツがそう吼えると、剣が光り始める。
そして俺を十字に切りつけると、とどめとばかりに突きがクリーンヒット。そして剣の光がレーザーのように俺に放たれる。
「何っ!?」
俺は思い切り吹き飛ばされ、大ダメージを負う。
なんだよ、あのスキル・・・!?
「これが、カリバーンのGスキルだ」
カリバーンにまでついてるのか!?
だが、タケルの言葉はまだ続いた。ヤツは背中の剣をしゅっと抜き、構える。
「そして、これがエクスカリバーのもう一つのGスキルだ。≪カイザー・スラッシュ≫!」
今度はただ剣を横に大きく薙ぐだけのもの。
ただし、薙いだところから三日月の形の斬撃が放たれ、俺どころか、後ろのプレイヤー達にまで届く。
そして、カリバーンのスキルで既に大ダメージを受けていた俺はHPがゼロになった。周りにも、何人かHPがゼロになってしまったプレイヤーがいるみたいだ。
「マジ、かよ」
俺はドットに変換されつつ、そう呟くことしかできなかった。
そして、タケルは俺の横を堂々と通り過ぎていく。
「なっさけないわね」
「ん?」
俺が声のした方向を見ると、そこには後方支援をしているはずのロゼさんがいた。
肩に剣を担ぎ、タケルと対峙する。
「アンタが噂の『アーサー王』?」
「そうだけど?」
「なら、ここから先は通行止めよ」
そう言うと、ロゼは猛ダッシュでタケルに駆け寄り、不意を突く。
タケルはとっさにロゼの剣をはじき、再び自分の背中に剣を収める。そして、カリバーンを装備する。
ロゼさんは流れるような動きで剣を動かし、スキルを発動。そして発動したスキルに続けて更にスキルを発動と、相手に隙を与えない。
「・・・お前、面白いな。名前は何て言うんだ?」
「・・・」
「・・・なんだよ、スキルの発動に精一杯で名前も言えないのか?」
そう言うと、さっきまで防御に専念していたタケルが動く。
ロゼのスキルに合わせてヤツもスキルを発動する。
剣と剣が激しくぶつかり合い、スキルのエフェクトが互いの間ではじける。
「だが、甘い!」
そう言うと、タケルは一瞬のすきをついてロゼさんに突きを放つ。
ロゼさんはその攻撃をもろに受けて吹っ飛ぶ。
「・・・まぁ、なかなか強かった。名前ぐらい聞いてやる。言え」
タケルは余裕の笑みでロゼさんにそう言う。
そして、ロゼさんは何故かここで不敵な笑みを浮かべる。
「・・・なんだ、その顔?」
「・・・≪黄泉帰りの呪言≫!!」
すると、ロゼさんを中心に金色の光のエフェクトが発生する。
それは俺達を巻き込み、効果が発動した。
俺の体からドットの光が消え、ゼロになったはずのHPが突然全快した。
信じられない光景に俺とタケル、さっきHPがなくなったプレイヤー達はただただ驚くだけだ。
「ったく、何が名前を言えよ。無理だっつの。こっちは、蘇生魔法スキルの熟練度足んなくて、長ったらしい詠唱をしなくちゃいけないのよ。・・・≪祈祷の祝詞≫」
そう言うと、ロゼさんの削られたHPが回復して全快になる。
「それに、こっちはごく普通のソロプレイヤーなんだから、あんたみたいなバケモノに勝てるわけがないでしょ」
「ソロ、プレイヤーだと?てか、お前、そんなハイレベルな回復魔法スキル・・・!」
「そうね。でも、無茶苦茶なダメネコとバカ魚のせいで回復スキルは既にほぼカンスト」
「回復魔法スキルを、カンスト!?お前、どんな廃人だよ!?」
「アンタ達みたいなやつらに言われたくないわよ」
そう言うと、ロゼさんは剣を構え、俺の横に来る。
「さぁ、そのこの新米神様、こいつをぶっ飛ばして!」
「お前がやるんじゃないのかよ!?」
思わず突っ込んでしまった。
「ッチ、そこの回復を潰すか!」
そう言うと、タケルはさっきと同じ構えをとる。
「ヤバい、避けろ!」
「≪キングス・ブレイド≫!」
「Gスキルね。≪堅忍不抜の陣≫!」
タケルの声に続いてロゼさんの声が響く。
すると、俺達を中心に半透明のドームが形成される。
≪キングス・ブレイド≫が結界に阻まれ、無残にも散っていった。
「甘いわね。日本神話領の回復とかのスキルは、補助系も山のようにあるのよ。それに、このスキルはあの『ポセイドン』のGスキルも止めれることは確認済みよ」
「日本神話、だと?それに、『ポセイドン』?だが、日本神話でそんなヤツ!・・・お前、何者だ?」
「まぁ、いい加減に教えてあげるわ。私はロゼ、『神官騎士』よ!」
「・・・破壊僧の間違いじゃ?」
「うっさい黙れ!」
用語集
アーサー王・かの有名なブリテンの王様。説明しなくてもわかるよね!
エクスカリバー・アーサー王の持つとされている剣。この剣は二振りあるとされている。一つは王選定のための剣、もう一つは精霊の女王より賜ったもの。このゲームでは、王選定の剣をカリバーン、精霊の女王からもらった剣をエクスカリバーとしている。
エクスカリバーの鞘・そのままの意味。アーサー王は剣を鞘に納めていれば不死身であったとされている。『重要なのは剣ではなく、その鞘だ』はこのこと。