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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
領地争奪戦
20/52

クエスト19・猫妖精と魔氷狼と戦闘狂

Player-ロゼ

 「手放した・・・!?」


 私は目の前で起きた光景に驚くしかなかった。

 敵の目の前で自分の武器を手放す、それは自殺行為以外の何物でもない。

 まして、相手はあのイースだ。まぁ、ミッドはヘタレだからいいとして、とにかくそんな相手に自分の武器を手放す意味が全く理解できない。


 「違うのよ。あれが、このゲームでスキル『ゲイボルグ』を発動させるのに必要なモーションよ」


 アスカさんの言う言葉の意味がわからずに、私はただその光景をじっと見る。

 次の瞬間、愛美さんが動く。


 「喰らいな、≪ゲイ・ボルグ≫!!」


 愛美さんは、槍術スキルにも関らずスキル名の宣言を行う。

 物理攻撃系スキルは最初の動きだけを実行すれば、後は勝手にアシストが働いてくれる。

 そして唯一の例外があるとすれば、それはミッドの持つEXスキル≪スレイプニル≫。ミッドから聞いた話では、あのスキルは風と光の属性を持った、魔法スキルと物理スキルを混ぜ合わせたようなものらしい。だからスキルを言わないと発動しないんじゃないかと言っていた。


 「・・・まさか!」


 「そう、あれはEXスキルらしいわ」


 「しかも、ミッド君とおんなじタイプ。だから、愛美ちゃんもミッド君が気に入ってるんだろうね」


 システムのアシストが働いて、愛美さんの体が一陣の風みたいな速さで動く。

 そして愛美さんの体が回転し、足が槍の石突あたりをとらえて・・・・・・そのまま蹴った。


 「えぇぇぇぇええええええ!?」


 槍は光のような速さで飛んでいき、イースさんをとらえる。

 イースは避けようとするけど、槍はイースさんを追尾。たぶん、これが≪ゲイ・ボルグ≫。相手に必ず当たる必中の槍。

 イースに当たる・・・そう思った時だった。突然イースの姿が消え、槍は空を貫き、地面に突き刺さる。


 「やっぱ、お前相手は相性が悪ぃなぁ!」


 「とか言って、何で嬉しそうな顔なんだよ・・・」


 ミッドが持ち前の速さでイースを助けたみたいだった。

 どうも、あのスキルを回避するには直前で距離を稼いで避ける以外に方法がないみたい。


 「って、何ですか、あれ!?」


 私は驚きの方法で『ゲイボルグ』を投げた、と言うか蹴った愛美さんに驚きつつ、アスカさんに聞いた。


 「『ゲイボルグ』が実は技の名前かもしれないって言うのは言ったでしょ?ミッドが言うには、≪ゲイ・ボルグ≫って足を使った投擲方法のことを言うんだって」


 『クーフーリン』、何てヤツだ。


 「ゲーム的な能力値で判明してるのは『必中』、『クリティカル+50%以上』、『闇属性攻撃』ね」


 「ちょっと、待って下さいよ。なんですか、『クリティカル+50%以上』って!?」


 攻撃すればほぼクリティカルでしかないってこと!?


 「だって、投げれば心臓の部分に直撃だもん。強制クリティカルが発動するの」


 「それに、初めての頃ミッド君がスキルの≪ゲイ・ボルグ≫をつかむと普通にダメージが来たから、貫通とか防御も効かないのかな?」


 ただの反則チートだ。

 もう、それ以上の何物でもない。


 「でも、それが愛美ちゃんの弱点」


 「・・・弱点、ですか?」


 スピカさんの言葉を図りかねて尋ねる。


 「あのスキル、≪ゲイ・ボルグ≫は一撃必殺のスキル。もしも外せば武器が手元になくなる。まぁ、普通は当たるけどね。でも、ミッド君は例外中の例外。このゲーム内で唯一≪ゲイ・ボルグ≫を避けられる偉い子なんだよ」


 「・・・じゃぁ!」


 「そう、今がミッド君達の攻撃するチャンス・・・」


 ミッドがいつものように消える・・・

 次の瞬間には、ミッドは愛美さんの真後ろにいた。


 「だから、俺には効かないんだよ!」


 ミッドの両手に装備したカタールが愛美さんを襲う。


 「私も、そんなこと考えないとでも思っていたのかぁ!」


 ただ、相手も黙っていなかった。

 愛美さんは武器を装備していないにもかかわらず、スキル発動の光のエフェクトが発生。

 すると次の瞬間には、愛美さんの両手の指の間にミッドのカタールの刃が挟まれている。


 「って、『白刃取り』!?」


 「・・・何、あれ?スピカ、あのスキル見たことある?」


 「俺はないかなぁ・・・。でも、ロゼちゃんは知ってそうだけど?」


 知ってるも何もあれは日本神話領で習得できるスキル、Pスキル『白刃取り』。

 とりあえず、二人にそのことを教える。


 「へぇ。・・・でも俺達、何で知らないんだろう?」


 「そうよね。これでも、日本神話領ともやったことあるのよ?」


 「だって、あれはネタスキルですから」


 「「・・・」」


 『ネタスキル』。これは要するにネタでしかないスキル。それ以上でもそれ以下でもない。むしろ以下かも知れない。

 この『白刃取り』は誰も使わない、と言うか使えない。理由は簡単でものすごく難しいからだ。日本神話領で格闘スキルを専門に使いこなす上級プレイヤーでも成功させることは難しい。


 「あのスキルは、発動条件が二つあります」


 一つ目が、自分の掌が相手の刃に対して水平で、片手で行使するつもりなら垂直であること。

 二つ目がタイミング。どうも、このスキルを発生させるために一定の指定された空間内で手を握るか、挟むモーションを行えばいいらしい。でも、その範囲が何かしらの方法で教えてくれるわけでもない。


 「でも、この二つを戦闘中に両方ともクリアするのはハッキリ言って不可能です。それに、これを使うなら盾使った方が楽です」


 「・・・そりゃそうだ。一から十まで『白刃取り』を考えでもしてない限り無理だね」


 「それに、あのミッドは超高速戦闘を専門にしてる。・・・クーフーリン、もうあの子が最強、というか最狂でいいんじゃない?」


 そんなことを話していると、ミッドが愛美さんに思い切り蹴られ、宙を舞う。

 しかもスキルのエフェクトが散ったから、たぶん格闘スキルだ。


 「お前、格闘スキル何ていつの間に・・・!」


 「お前のためにだよぉ!いつかお前を殺るためになぁ、一生懸命鍛えたんだよ!」


 「明らかに上級者すぎるレベルだろうが!?イース!ヤツにとらせるな!」


 「・・・・・・わかってる・・・!」


 イースは愛美さんにタマをけしかける。


 「だからぁ、ザコは消えろ!」


 そう言うと、愛美さんは素早くスキルを発動。

 掌底がタマの顎に放たれ、続けて回し蹴りが側頭部に入る。

 タマは成す術もなく横に吹き飛ばされてしまった。


 「封神演義系のスキル・・・!」


 「なるほど、打倒ミッド君を目標にいろいろな所に行ったんだね」


 「いやいやいや、基本的に他の領地は行かないんですよね!?」


 「・・・まぁ、バレなきゃいいんだよ。実際、結構な人はいろいろ行ってるよ?」


 大人って汚いなぁと思う瞬間だった。・・・子供だけど。

 そして、イースまでも軽くかわして槍を掴む。


 「避けれるもんなら、空中でも走ってみな!」


 マズい、ミッドは『長靴ケットシー・ブーツ』のおかげで、大抵のところは走れる。けど、さすがに本物の『スレイプニル』のように空だけは走れない。

 こんな時に≪ゲイ・ボルグ≫何て使われたら・・・!


 「・・・・・・タマ二号!」


 すると、イースが自分の鎖をミッドの横すれすれに放つ。


 「≪ゲイ・ボルグ≫!」


 それと同時に一撃必殺の魔槍が放たれる。

 ・・・・・・当たる。私がそう思った時、ミッドの姿が掻き消えた。


 「・・・あれ?」


 「どこ見てんだ、よっ!」


 今度はさっきまで空中にいたはずのミッドが愛美さんの目の前にいた。

 不意を打たれた愛美さんはその攻撃を受けてしまい、HPバーが少しだけ削れる。

 そして攻撃を受けた愛美さんの頭には『防御』と言う言葉がないのか、ミッドに格闘スキルを仕掛ける。ミッドはその攻撃を受けまいと、いったんイースさんのもとに合流する。


 「マジかよぉ、空を走りやがった!!」


 「まぁ、イースのおかげだけどな」


 「・・・・・・これこそ、嫁の力」


 「全然違うからな。つか、何で知ってた?」


 ミッドはそう言いながらイースさんの頬をつねり、左右に引っ張る。

 そうすると、イースの頬がむにょーんと伸びる。


 「・・・・・・ひたひ」


 「さぁ、吐け。そしたらやめる」


 「・・・・・・もっひょ」


 「・・・」


 ミッドは無言でやめた。

 イースは冗談なのにと言いながらも、その表情は何故か残念そうだ。


 「ふーん。そこの犬っコロの飼い主のおかげ、ねぇ」


 「あぁ。俺はあの時こいつが飛ばした鎖を蹴って、地面に帰った」


 「・・・・・・これも、嫁の力」


 「要するに、ストーキングして知ったんだな」


 「・・・いやぁ、ここまで面白いのは久しぶりだなぁ!」


 愛美さんはそう言いながら右手を上に向ける。

 すると、狙い澄ましたかのように『ゲイボルグ』が空から降ってきた。

 ・・・何あれ、かっこいい。


 「でも、お前邪魔」


 そして、獣は牙をむいた。




Player-ミッド

 ヤバい。ここでイースがいなくなると、俺の勝率が著しく低下する。それだけは死んでも回避しなくちゃいけない。


 「イース、絶対にあいつには近づくな。俺を援護してくれ!」


 「・・・・・・でも」


 「いいか、今の俺にはお前が必要だ」


 そうじゃないと、いろいろと死ぬ。


 「・・・・・・わかった」


 ・・・やけにものわかりがいいな。

 まぁ、そっちのが楽だけど。

 いつもよりひどく平坦な口調になったイースが気にならないでもないが、今は目の前のヤツが先決。


 「なら、そろそろこいつの性能テストと行こうかぁ!」


 「させるか、バカ!」


 俺は迷わず愛美の真ん前に突撃する。

 愛美がそれを見越して、槍をまっすぐ俺に突き出してくる。俺はその槍をほんの少しだけ動き、ギリギリの回避を行う。そしてそのまま右手のカタールを突き出した。

 だが、よく知らない『白刃取り』のようなスキルでまた掴まれた。


 「その勘で戦うのやめてくれない!?」


 「お前相手には、これが最も有効なんだよなぁ!」


 いや、それができるのはお前だけだから!?

 俺がそう突っ込もうとした時、愛美は武器を掴まれて逃げることが難しい状況の俺に槍の突きを放つ。

 俺は体をひねって何とか避けようとするが、ほんの少しだけかすってしまった。

 ヤバい。俺はひねった力で左手のカタールを一閃。ヤツのカタールを掴んだ左手を狙う。

 だが、ヤツはそれにはお構いなしで俺に攻撃を加えてきた。しょうがない・・・!

 俺は右手のカタールを放棄してバックステップで回避した。

 そしてHPバーを確認する。


 「・・・やっぱりか」


 「どうだ?すごいだろ?」


 俺はかすっただけにもかかわらず、HPバーの10%と少し程度削られていた。

 たぶん、神話にそっているとしたら・・・。


 「追加攻撃の効果があるんだな」


 「なんだよ、面白くねぇな。お前はいつもそうやってすぐに当てちまう」


 『クーフーリン』の持つ槍、『ゲイボルグ』は骨でできた銛のようなものだったらしい。

 そして、投げれば三十ものやじりとなって降り注ぎ、一突きすれば三十のとげになって破裂すると言う、ひどく惨殺に向いているとしか言いようのない能力を持つ。

 俺がいた時、こいつはまだ『ゲイボルグ』を持っていなかった。あの時点でも俺はこいつが槍を持っていない時以外に攻撃しようとは思ったことはなかった。

 だって、こいつ無意味に死ぬほど強いんだぞ!?直感のみで俺の攻撃を感じ取り、槍で受け止めて逆に攻撃を仕掛けて俺を窮地に立たせる光景は、マジでこいつが人間かどうか疑った。

 俺、一応は『ラタトスク』の元隊長で、対人戦闘(PKK)のプロですよ?


 「つーか、お前もこれでお得意の十六連撃≪スレイプニル≫ができなくなったなぁー」


 「そう、だから返してくんない?」


 「いや~」


 ヤツは嬉しそうな顔で俺のカタールを自分の後ろへと放り投げる。

 そして槍を構える。


 「・・・・・・しょうがない!」


 俺は投擲スキルを起動。

 投擲ナイフのアイテムカードをいくつか握りつぶし、指の間にナイフを挟むようにして持つ。それをすかさず投げつける。


 「イース!スキル使え!」


 「・・・・・・やっと、嫁の力―――」


 「もう、それでいいからさっさとして!?」


 イースはわかったと一言だけ言う。

 そしてイースはじゃらりと鎖を鳴らす。


 「≪ゴゥ・フォミュラ≫!」


 イースの体が動き、鎖が蛇のように鎌首をもたげる。

 そして鎖は生きているかのような動きで愛美に攻撃を仕掛ける。

 時に後ろから、横から、上から、そして前から。一撃を貰えばその場から一歩も動くことのできなくなる凶悪な効果を持つ攻撃を繰り出す。

 だが、愛美の方はそれを紙一重で避ける。

 やまない攻撃に嫌気がさしてきたのか、愛美は必殺のスキルを再度使用する。


 「うっとうしいんだよぉ!≪ゲイ・ボルグ≫!!」


 あの、鎖の雨の中でよくそんな攻撃をする暇を見つけられるもんだと感心する。

 だけど・・・。


 「それを待っていた!」


 狙いはイース。俺はスキルの発動中で動くことのできないイースの前に行く。

 失敗は許されない。 ゆっくりと動く景色の中、その白い槍だけが普通のスピードでイースのHPを刈り取ろうとする。

 だが、俺にとってはまだ遅い・・・!

 左手のカタールの剣腹で穂先を少し滑らせ、『パリィ』のモノマネを実行。そしてタイミングを見計らってカタールの刃で『ゲイボルグ』の切っ先を地面に叩きつけるようにして切る。

 すると、『ゲイボルグ』は地面に突き刺さり止まってしまった。

 俺はその『ゲイボルグ』を駆け上がり、宙へと身を躍らせる。これで、ヤツの後ろにある俺のカタールが見える。


 「・・・・・・タマ!」


 イースがこれまた絶妙なタイミングでタマに指示。

 タマが愛美の後ろにあった俺のカタールの片方を口にくわえ、空中の俺に投げる。

 俺はそれを右手でキャッチし、構える。


 「なっ!?」


 「・・・タマ二号!」


 「だから、二号じゃない!」


 俺はGスキルを中止したイースの声と同時に放たれた鎖を蹴った。

 そして地面に降り立ち、無防備な愛美に俺の最強の一撃を与える。


 「・・・≪スレイプニル≫!」


 俺の十六連撃を喰らい、愛美のHPバーが一気に削れる。

 そして、俺は愛美のHPを削りきった。


 「やっぱり、お前は面白い。しかも強いなぁ」


 徐々に愛美の体がドットへと変換されつつ、愛美は俺にそう言う。


 「イースがいなきゃ無理だったって。つか、お前も異常に強くなったよな」


 「唯一の天敵ライバルのお前に勝ちたかったんだよ」


 「いや、相性が悪すぎるだけだって」


 「でもなぁ、また殺りたいなぁ」


 もう、いいです。

 そう言いたかったが、言ったら言ったでものすごく怖そうなのでやめておいた。俺だってその程度の空気は読める。


 「次会う時まで、首洗っとけよ・・・!」


 「・・・ゴメン、無理」


 やっぱ無理だった。

 そう言うと、何故か愛美は悪役のような高笑いをして消えた。

 なんか無駄にカッコよかった気がする。



用語集

クーフーリン・半神半人ハーフの英雄。投げれば相手の心臓を必ずえぐる『魔槍・ゲイボルグ』を使うことで有名な人。


魔槍ゲイボルグ・クーフーリンの使う槍。骨でできた銛のような形状で、投げれば三十の鏃となって降り注ぎ、突けば三十の棘となって破裂する。また、『ゲイボルグ』とは投擲方法の名前ではないかと言われている。


≪ゲイ・ボルグ≫・EXスキル。詳細は不明。放てば武器を失う代わりに、相手をほぼ一撃で葬ることが可能。

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