クエスト1・ゲーマー達の日常
Player-ミッド
「おい!危ないって!一旦引け!!」
「・・・俺、このクエストを完了したらケッコンするんだ」
「死亡フラグ!?なんでこのタイミングで!?」
目の前には全長五メートルはあろうかと言う巨人。
それが手に持ったトゲトゲのメイスをぶん回す。
それだけで風が巻き起こり俺達はたたらを踏む。その攻撃は、一撃受けただけで致命的なダメージになることがわかる。
そして、そんな無茶苦茶な敵を相手に俺達は後一歩のところまで来た。
既に相手のHPゲージはレッド。だが、俺の仲間の一人も既にHPゲージが数ミリほどしかない。
「・・・後は、頼んだぞ!」
「待て、ダメだ!行っちゃダメだ!!」
「うぉぉぉぉおおおおおお!!」
そして、特攻。
相手の巨人へと渾身の一撃を放つ。
だが、特攻をかけた俺の仲間も巨人の一撃を貰う。
―――相打ち。
そして、俺の仲間の体が輝きだし、ドットへと変換される。
その現象はすぐに治まりそこには誰もいない。
そう、死んでしまった。
「・・・嘘だろ、カァーイ!!」
あ、そういえば言ってなかったけど、俺の仲間の名前は『カイ』です。
そして、俺がそう叫んだ途端、後頭部にゴンという音が響く。
「何バカなことやってんの、さっさとカイを迎えに行くわよ」
「・・・へ~い。わかりました」
この暴力女様と心の中で付け加えておく。
コイツは『ロゼ』。種族は人間。見た目は美少女だが、外見に騙されちゃいけない。いや、アバターだからって意味じゃないよ?普通にそこらへんの男性のヤンキーさんなんか片手でひね・・・。
「ねぇ、ミッド、何か失礼なこと考えてない?」
「イエイエまったく!!だからその剣を振り下ろさないで!!」
・・・ま、そういうわけです。
ちなみに、俺のネームは『ミッド』。種族は猫妖精。
「はぁ・・・。じゃ、さっさと町に戻って合流するわよ」
「わかってるって」
そういうと、俺とロゼは近くの拠点登録をした町へと歩いていった。
もう、お気づきの方も多いかもしれないがココで少しだけ説明をしておこう。
まぁ、ぶっちゃけると、ココは現実の世界じゃない。
まぁ、普通に歩いてて魔物だ!巨人だ!なんていってたら命がいくつあっても足りない。
・・・そういえば、俺の場合はロゼがいるだけでいくつあっても命が足りない気が・・・。いや、気のせいだ。
・・・・・・ちょっと話がそれた。というわけで戻そう。
簡単に言うと、これはゲームだ。
ヴァーチャル・リアリティ・・・ナントカRPGってヤツ。所詮はVRMMORPGって小説とかでよくある仮想世界であたかも現実のように世界を体感できるってモノ。
まぁ、要するに電気信号とプログラムで構成されたもう一つの世界だとでも思ってくれればいいと思う。
この、VR技術が開発されて数年。
つい最近、やっとのことで日本で初のVRMMORPGができた。
その名も『GOD’S WORLD ONLINE』。通称『GWO』なんて呼ばれている。
古来からある有名な神話、つまりはギリシャ神話に北欧神話、エジプト神話、封神演技、アーサー王伝説、もちろん日本神話も。そして、それらを日本のある地域に当てはめて各神話領で領地の奪い合いをするって言うのがこのゲームの特徴。
ちなみに、割り当ては大体こんな感じ。
北海道・・・北欧神話(オーディンとかグングニルとか)
東北 ・・・ケルト神話(約束された勝利のつる・・・何でもありません・・・)
関東 ・・・ギリシャ神話(ゼウスとかポセイドンとかハデスとか)
近畿 ・・・日本神話領(伊邪那美や伊邪那岐とか)
中部 ・・・無所属領(ココにはどの神話領にも属さない、簡単に言うとソロの方中心の領地)
中国・四国・・・エジプト神話(ラーとかオシリスとかオベリスクとか有名かな?)
九州・・・封神演技(宝貝とか仙人)
まぁ、こんな感じかな?
・・・え?神話じゃないのも混じってる?
そんなの、運営に文句をお願いします。『封神演技』は違うぞ!とかね。
まぁ、それはおいといて・・・。ちなみに、このゲームは完全スキル制で、スキル熟練度がモノを言うオンラインゲームだ。
そして、スキルの熟練度の最高値は一〇〇〇。そして、熟練度がある程度たまるとステータスポイントが与えられ、STRやDEF、INTなどに振って自分の好きなようにカスタマイズできる。でも、振ったらその時点でステータスポイントの変更は不可能だ。
ただ、一つだけ問題があるとすれば、それは『ログアウト』・・・つまりはこのゲームをやめることができないってことだ。
俺は、町のほうへとロゼと歩きつつ『あの日』、俺達がこの『箱庭』に囚われてしまった日のことを思い浮かべた。
~二年前~
「たぁ!」
俺は剣を振るう。
・・・って、言っても初期装備のショートソードに皮の鎧だけど。
このゲームを始めて数日。
とりあえずはソロでプレイしている。場所は初心者用ダンジョンの森。名前は・・・忘れた。
そして、目の前には初期モンスターの象徴である水色のスライム。
それを狩ってスキルをあげてみる。
・・・でも、ホントにすごいな。
目の前にあるものは水色でぷよぷよした物体。なんていうか、ザ・スライムって感じだ。実際にスライムがいればこんな感じなんだろうなと思える。
そこでふと熟練度がどの程度たまったのか気になってシステムウィンドウを立ち上げてみる。
「コマンド・メニュー」
このゲームは、大抵のことが音声入力方式でできる。
チャットやアイテムの呼び出し、スキルも然り。
そして、俺の音声で開かれたメニューを見て、スキルのタブを人差し指でクリックしてスキルの詳細情報なるものをチェックしてみる。
「・・・全然たまってない」
初期スキルなのに・・・。
ちなみに、俺が使っていたのは初期スキル≪リスタ・ソニック≫。
簡単に言うと、これは高速の二連続斬撃。威力の補正はなしでさすが初期スキルって感じだった。・・・でも、この技を使うとなんか気持ちいい。
まぁ、それはいいとして・・・。
このゲームはスキル制だ。そして、更にはスキルの熟練度をあげると派生するらしい。
例えば、俺の聞いた話では魔法≪ファイア≫の熟練度をあげる上位スキル、≪ファイア・ボール≫が使用可能になるだとか。他にも、ある一定条件をクリアすれば覚えるEXスキルと言う特殊なものまであるらしい。
でも、これでわかった。スキルは相当使い込まなきゃダメなんだ。
最高値一〇〇〇のうち、三日間スキルを使い続けてたまったのはなんと三。
・・・なるほど、千日かけてカンストしろと。
「やってやろうじゃないか!俺はRPGでもとことんやりこむ派だ!!」
なんていうか、自分がいろいろとダメだなと思った。
一言で言うなら、廃人乙。
なんかテンションが駄々下がりになったから俺は町に戻って今日は落ちるかと考えた。
まぁ、そんなに森の深いところまで行ったわけじゃないからすぐに最初の町に着いた。
ちなみに、初心者用の町は無所属領に――現実で言うなら名古屋のあたりに――ある町、その名も『ナゴヤ』がそうだ。
運営は絶対に考えるのが面倒になってそのままの地名を使いやがったなって俺は思ってる。・・・まぁ、そんなわけでナゴヤに行くと、やたらと中央の広場が騒がしい。
なんだろうと思い、喧騒の方向へと向かう。
そこには、多くのプレイヤー達がいた。
俺は気になって近くのプレイヤーに尋ねようと思ったけど・・・いかんせん、対人スキルが皆無だからどうしたものか・・・。
・・・インドア派だからしょうがないよね!
すると、いきなり何かのノイズが入る。そして小さいけど他の音も聞こえる。
「こんにちは、諸君。私はこのゲームのGMだ」
GM?つまりはゲームマスター?
・・・何かのイベントかな?・・・まぁ、日本初公開のオンラインゲームだから何かしらのイベントがあったっておかしくない。
「まず、諸君はお気づきだろうが、三十分ほど前からこのゲームからログアウトできない。そしてアバターが解除されて自分本来の姿になっている」
・・・な、何ですと?
俺は急いでメニューを開きログアウトのボタンを押してみる。が、うんともすんとも言わない。まぁ、アバターのほうはキャラメイキングでなるたけ自分に近い容姿にしたから別にいいとして・・・。て、猫耳ついたままじゃん。
それに・・・なんだろう、すごく嫌な予感がする。
これはアレだろうか?
昔の小説にあった、ゲームの中に囚われてデスゲームをするって言う・・・。
「無論、ココに閉じ込めたのにはわけがある。それは、デぬぉぉぉおおおおお!!??」
いきなりGMが素っ頓狂な声を出したかと思うと、その後に続いて金属同士がぶつかるような音が響く。
そして、小さく大丈夫か!とか救急車を呼べ!聞こえる。
いや、これってまさか・・・?
「「「交通事故!?」」」
・・・まぁ、そんなわけで俺達は何でココに囚われた。
それからが大変だった。
だって、最後に『デ』とか言ってなんか事故った。
全員の反応はもちろんこの一言。
「デスゲームに巻き込まれた!?」
・・・そういうこと。
そのあともいろいろな意見が出た。
実はデスゲームとか言うのは嘘で死んだらログアウトできるとか。そういうとある人は小説だとそう言ったヤツが真っ先に死んだけどな!!とか言って結局は膠着状態が続いたまんま。すると、あるヤツが考え付いた。
「クリアすれば出れんじゃね?」
「「「それだ!!」」」
そういうわけで、このゲームの目的は簡単に言うと領地の奪い合い。
それだと、犠牲者が出る可能性があったが話し合いで『日本神話』領が一旦日本を統一。戦線布告をし、相手側が降参することによって平和的に日本を舞台にしたゲームの領地は日本神話領で統一された。だが、何も起こらない。・・・そういうわけで、本当に八方塞な状況に。ちなみに日本神話領の方々は自分達のホーム以外をちゃんと返却してくれた。どうも、やたらと武士道とかにこだわる人がいたらしい。閑話休題。
ならば今度はダンジョンの制覇はどうだと、ハイレベルプレイヤー達が率先して攻略を開始。そして、ついにそれは起きた。
すなわち、仲間の死。
でも、その人は拠点にしていた町で普通に生き返った。
いや、まさかデスゲームなのに生き返るとか・・・。
そして、俺達はついにマジでどうするってなった。
死ねない。出れない。どうしようもない。
まぁ、こうなると外、つまりは現実世界からの助けを待つしかなくなったわけで・・・。俺達はこの世界を楽しむことにした。
良くも悪くもネトゲをやる皆さんは廃人が多く、リアル現実逃避を満喫していたりするって言うのが今の現状。
まぁ、かく言う俺もこの世界を楽しんでいたりする一人だ。
・・・一応、ちゃんと元に戻る方法も探しているよ?
~現在~
ココは無所属領・ナゴヤ。
俺達が拠点登録している広場に行くと、そこには見知った影があった。
「あ、いたいた。お~い!カイ!!」
「お?どうだった?やっつけれたか?」
「えぇ。アンタのバカな特攻でね」
「・・・ロゼさん、えらくトゲのあるお言葉ではないですか?」
カイ、種族は魚人族。ギリシャ神話系に登場する種族だ。特徴としては、耳のある辺りに綺麗な魚のヒレの飾りみたいなものがついてる。
主に槍を主体にコイツは戦っている。
・・・てか、魚の癖に槍とか。アンタが槍に貫かれていそう。
まぁ、そんなことはいいとして。
「で、どうなった?」
「あぁ!お前等のおかげで新しいスキルを覚えたぜ!」
今回、どうもカイはもうすぐスキルの熟練度でカンストしそうなのがあったらしく、俺とロゼにダンジョンの同行を求めてきた。
・・・って、言ってもただ単にコイツの後方支援をしろって話だけどな。
それに、ロゼは口より先に手が出るが、戦闘スキルに重点を置かれたこのゲームにおいて、回復スキルを極めている数少ないプレイヤーだ。自称『神官騎士』と言うだけのことはある。ちなみに、このゲームでは職業と言う概念は無く、自分で適当に名乗っているというのが現状。
「いやぁ、でも、お前等がいてくれて助かったよ。ロゼのおかげでHP減っても回復できたし、お前がタゲられてたからこっちに攻撃はあんまり来なかったしな」
「・・・なら、何故に最後は突貫したし?」
ロゼは呆れた表情でカイに言う。
まぁ、そこはアレだろ。
「「ノリで」」
「バカ二人に聞いた私がバカだったわ」
周りから見たら俺達はバカ三人だろうな。
「で、どんなスキル覚えたんだ?」
「それは内緒に決まってるだろ?」
「まぁ、それもそうね」
俺も別にそんな強引に聞こうとまでは思わない。
何回も言うが、このゲームはスキル制だ。スキルの数、質がモノを言う。
簡単に言うと、スキルを他人に教えることは自分のステータスそのものだからだ。
好き好んで自分の強さはこれだけだぜ!・・・なんていうのはホントに少数派だと俺は信じたい。
だが、これには例外も存在する。
例えば、あまりに強すぎて周りに知れ渡ってしまったとかだ。
まぁ、そんなハイレベルプレイヤー相手に勝てる人なんてそうはいないけど。
・・・・・・そうだな。例えば、俺の知り合いにでっかいワンコを従えた女の子。二つ名は通称―――。
「おい!『神の鎖』か、あれ!?」
そうそう。かなり大仰な名前の『神の鎖』。
北欧神話にて出てくる、『魔氷狼』を繋ぎとめたっていうヤツ。
ちなみに、ヤツは俗に『魔獣遣い』という職業だな。ただ、テイムしてるのがあまりにヤバすぎてみんなから畏怖の念を・・・。
「・・・おい、ミッド。お前の彼女が来てるぞ?」
「はぁ?俺に彼女なんていないし。・・・ちょっと、急用を思い出したから俺行くわ」
そう言って可及的速やかにその場を離れようとくるっと回れ右をすると、なにやらやわらかいものにぶつかった。
ほんの少しだけ離れると、目の前には青い毛が。
そして徐々に視線を上に上げていくと、でっかくて青い毛並みのワンコにまたがったミステリアスな美少女が。
そして、無表情な顔で俺にこういった。
「・・・見つけた。・・・タマ二号」
「タマって誰?俺はジョン・ぽち・ジローです。人違いですね、じゃ!!」
速攻で逃げ出した。
だって、厄介ごとには関わりたくない!
「・・・待て・・・タマ二号。・・・タマ・・・!」
相手がそういうとでっかいワンコ、『タマ』が猛スピードで俺に近づいてくる。
「俺を、舐めるなぁ!」
俺も猛ダッシュ。
だが、距離は一向に開かない。
・・・チクショウ、自分のペットのステータスを上げやがったな!?
「・・・いや、いつ見てもありえないと思うな」
「・・・確かに、ユニークモンスターの魔氷狼を近づけさせないって、どう?」
「・・・待て。タマ二号」
「誰が待つか!?」
あ、そういやカイの熟練度上げのときの俺の役割を言ってなかったな。
俺は敵に近づき、カイにターゲットをもっていかさないようにするコト。
それができるのも、このスピードがあるからだ。相手に近づいて攻撃されそうになったら離れるという方法でカイを敵のターゲットをできるだけこっちに向けた。
まぁ、そういうわけで俺には実は二つ名があったりする。ただし、これはどっちかって言うと蔑称かもしれない。
「おい、あれって、まさか『音速の剣士』か?」
「・・・あぁ。あの、スキルを一つしか覚えてないSPD極振りの変態か」
周りの人が何か噂してるけど、たぶんそれが俺だ。
俺が使える戦闘スキルは≪リスタ・ソニック≫。北欧神話系のキャラがまず最初にチュートリアルで覚える初期の技。それを愛用してる。
・・・いや、俺は変態じゃないっすよ?
用語集
GWO・オンラインゲーム。自由度が高い、スキル制のゲーム。
主人公たちはこのなんちゃってデスゲームに囚われてしまった。
スキル・ゲーム内で私用できる技。戦闘スキルのほかに生産スキル等がある
二つ名・そのゲーム内で有名なお方につく一種のステータス。
主に神話にあるものを使うことが多い。特に、神様の名前を持つものを神名と言う。