クエスト18・波乱の領地争奪戦
来たぜ、来たぜー!
ついに、あの英雄がっ!
一話で済ませるつもりが、なんか二話にわけてしまいました。
・・・ネタ、扱いに定評のあるランサーのくせに。
Player-ミッド
ついに、この日が来た。
俺達は世界樹の前に立ち、『ブラウン・フォレスト』の連中が来るのを待っている。
暇だし、領地争奪戦の内容でも確認しておくか。領地争奪戦は、ふだんのPTプレイとは少し違う。普通、PTを組んだ者同士で互いを攻撃してもダメージはない。けど、この領地争奪戦においてはそれが適用されない。
うまくしないと誤爆はもちろん、下手すればロゼの使う広範囲回復魔法も相手に適用される。まぁ、これが理由でアスカも本気を出せていなかったんだ。下手すりゃアスカは『誤爆の女王』的な称号をゲットできる。
後、勝利条件はいたって簡単。それは敵の大将のHPバーをゼロにすればいい。だから、今回こっちの大将をしているトムは、世界樹の奥で引きこもっていれば安全だ。
「ミッド、来たわよ」
アスカの声でその視線の先を見る。
そこには、大勢のプレイヤー達がいる。
今回の領地争奪戦はここ、『サッポロ』の世界樹の前で行われる。
遠くにあるのでよく見えないかもしれないが、目を凝らせば敵の天幕のようなものが彼方に見える。今回の俺達はそこへ突貫すればいい。
まぁ、そのためにはこの五千人ほどの敵をかわして進む必要があるけどな・・・。
「ヤバい。帰りたくなってきた」
「今更何言ってるの」
「それに、もう遅いよ」
師匠が遅いと言ったその瞬間、突然ファンファーレのようなものが響き、電子音声が領地争奪戦の開始を宣言し始める。
そして互いの大将同士が発表され、カウントダウンが始まる。敵側は予想通り『モリガン』、まぁ、別にわからなくても問題がなさそうな気がしないでもないけどな・・・。
俺はアスカを背負えるように姿勢を低くし、いつでも走りだせるようにする。
そして、カウントがゼロになった瞬間―――。
「ヤバい、『時よ、止まれ』!」
「え?ちょぉ!?」
俺はアスカの腕を引く。
急なスピードの変化に耐えられず、アスカは引きずられるようにしてその場から離脱。次の瞬間、アスカのいたところに銀色の棒が突き刺さる。
「え?何これ!?」
「・・・位置的に心臓。それに、銀の槍か?」
驚くアスカを無視し、俺は現状の分析。でもなんだか、ものすごく嫌な予感がする。
そんな俺の予感を裏付けるかのように、敵側の人垣の一部がモーゼの滝のごとく二つに分かれ、そこからヤツが出てきた。
「やっぱりかぁ。その、コマ送りでもしたみたいなスピード。つか、この私の必殺の技を避けれるのはお前ぐらいだからなぁ、『スレイプニル』!!」
「・・・・・・マズいのが来た」
「最悪ね。つい最近までは出てなかったのに・・・」
「そりゃぁ、そうだろ?だってそこにいるやつ等、全員ザコばっかだからなぁ!」
「・・・・・・ミッド、あの頭が心配になってくる人は誰よ?」
ロゼが俺に聞いてくる。
目の前にいるこの戦闘狂はケタケタと狂ったように笑っている。
「ヤツは、『戦闘狂』だ」
「・・・あの、ミッドさん、少しおかしい気が?」
「・・・・・・あれが、噂の?」
「『モリガン』が、好きな人?」
「「「そう」」」
俺達守護神メンバーが一斉に頷く。
それを見たロゼとミサは困惑するだけだ。
まぁ、そりゃそうだろうな。だって、ヤツは・・・・・・。
「・・・・・・女の子、ですよね?」
「アァ?私ぃ?女だけど?」
そう、『クーフーリン』は女の子だ。
しかも普通に可愛い。目はぱっちり二重で、長い髪を後ろでくくってポニーテールにし、機動性を重視した装備に身を包んでいる。
「・・・ミッド、『モリガン』が男って可能性は―――」
「あの変態は紛れもなく女だ」
「・・・」
ロゼが言葉を失ってしまっている。
無理もないだろうけどな・・・。
「まぁ、まさか裏ボスの『モリガン』が百合とか、誰も思わないからだろうな・・・」
「そう言えばアンタ、『あの変態はクーフーリンといちゃついてればいい』って言ってたわね」
「あぁ」
「・・・もしかして、アスカさんを要求した理由って」
「たぶん、他の女といちゃついてるところをあの戦闘狂に見せつけて嫉妬させようとか思ってるんだろうな」
「無理でしょ!?」
でも十中八九、俺の予想は正しい。というか、あの変態に常識を求めること自体が間違っている。でもまぁ、一応は愛しの『クーフーリン』さえよければそれでいいと言うヤツだ。
でも肝心の相手があんなんじゃなぁ・・・。
「さぁ、『スレイプニル』!死合いと行こうかぁ!!」
「バカが!お前愛用の槍はここだぞ!」
とりあえず、地面に突き刺さった銀の槍を見せつける。
こいつはレア武器『銀槍ロンギヌス』。槍使いのプレイヤー達が愛用して使う武器だ。威力が高く、神級相手にも通用するものだ。
「つか、いい加減に学習しろよ。お前がそのスキル使って一方的にボコられるくせに」
少なくとも、初めて俺と『クーフーリン』が戦ったときはそうだった。
最初にこいつはスキルを使って、俺が槍を取り戻させないように戦ったら、一方的に勝てた。
だがヤツはその可愛い顔に激しく似合わない、獰猛な笑みを浮かべる。
「最速にして、北欧神話領の隠し玉。私はなぁ、お前のためにこいつを手に入れたんだよぉ!」
そう言うと『クーフーリン』は一枚のカードを取り出して、握り潰す。
すると、俺の近くに突き刺さっていた槍が光の粒子となってヤツのもとに戻って行く。代わりにヤツの手元に光が集まって、棒のような形状をとる。
そして光がはじけたそこには、白い槍が現れた。
・・・・・・いや、あれは槍と言うよりも・・・銛?
「・・・まさか、『ゲイボルグ』?」
「あぁ、こいつのお披露目にゃぁ強ぇヤツとやんなきゃなぁと思っててなぁ。ありがたく思いなぁ!!」
ありがた迷惑だ。・・・果てしなく。
つか、もしもこの武器が神話にそっているとしたら・・・!
「前衛の戦士部隊は、『オーディン』達を守れ!『クーフーリン』に攻撃しろ!」
ライトがとっさに指示を飛ばす。
だがそれは・・・死亡フラグだ!
「バカ!逆だ!」
「ザコが、私の邪魔をしてんじゃねぇよ!!」
そうヤツが吠えると、その手に持った魔槍を俊敏に振るう。
襲いかかるプレイヤー達を一人で難なくさばき、逆にダメージを与えていく。
よかった。どうも、最初の槍の実験台は俺にすると決めているらしい。
「アスカ!命令の変更だ。ヤツには誰も近づくな。攻撃は長距離攻撃だ」
「わかったわ。全軍に通達!あの戦闘狂は『スレイプニル』一人で十分よ!」
「ちょっと待てやぁぁぁぁああああああ!?」
俺が指示した内容と全く違う!?
「あのなぁ、俺達は一刻も速くあの変態とこに行く必要があるってこと、わかってる!?」
「でも、ミッド君にご執心の彼女じゃねー・・・」
「やっと、その気になったかぁ?お前は攻撃こそザコ以下だが、それを補って余りあるほどのスピードに戦闘能力。私は・・・」
「待て、それ以上は言うな。NGワードだ!!」
「お前みたいな強いヤツは好きだぞぉ!」
「終わったぁ!?」
「・・・そろそろね。全員、このダメネコから離れなさい!」
アスカがそう指示を飛ばした瞬間、敵の天幕の方から何やら炎の塊が飛んで来た。
・・・あぁ、『モリガン』お得意の長距離射撃魔法スキル、≪フレア・スナイプショット≫か。誘導率、威力ともにはなまるな超優秀スキルだ。ただし、MP消費がマジでヤバい。
とりあえず、敵のところへ突撃しておく。そしてタイミングを見計らって離脱。そうするとあら不思議、敵のど真ん中に炎の塊が着弾。これで敵に大打撃を与えられた。
「おい、あのクソ女に伝えろ。私の邪魔をするなと!」
「は、はいぃ!?」
クーフーリンは近くにいたプレイヤーを締め上げると、そのプレイヤーにドスの利いた声とものすごい睨みでモリガンに通達させる。
「さぁて、これで邪魔は来ない。・・・来たら来たで殺すけどなぁ」
そう言うと、ものすごくいい笑顔で俺に微笑む。
あぁ、その笑顔をできればモリガンに向けてやってくれ。
「やー。ミッドったらちょーモテモテー。うらやましいなー」
「黙れこの野郎!お前のせいで逃げられねぇじゃねぇか!!」
あいつはNGワード、『強い○○は好きだぜぇ』を言ってしまった。
この言葉を言った瞬間、『モリガン』の嫉妬メーターは一瞬で振り切れ、○○の部分に該当するやつをさっきみたいにやろうとする。
まぁ、大抵の場合は『クーフーリン』が文句を言うことで黙る。だが、もしも『クーフーリン』が負けてしまった場合。その瞬間に『モリガン』からの熱烈な集中砲火を受け取るハメになる。
簡単に言うと、どっちにしても遠くない死が約束されるというものだ。
「ちくしょう、前哨戦にこいつをやれってか!?」
「・・・・・・私も、やる」
俺が愚痴ると、その隣にすっと一人の影が降り立つ。
「お前は、『神の鎖』だったかぁ?」
『グレイプニル』こと、イースだ。
むしろこいつだけにやってもらいたいが、残念なことに、あの戦闘狂は俺を逃がす気はなさそうだ。
「まぁ、手伝ってくれるんならうれしいけどさ」
そう言いながら、俺はカタールのカードを握りつぶす。
本当なら、今回は運搬だけだったから、最後以外に必要ないものだったんだけどな・・・。
「・・・お前がかぁ?そんな犬っコロの影に隠れて戦うザコに興味はない」
「・・・・・・」
イースは無言で手に持った鎖状態の『神器・グレイプニル』を振るう。
Pスキル『思考加速』で景色がゆっくりと見える俺の目で見ても、イースの攻撃はものすごく速い。
『クーフーリン』も突然自分のHPが削られたのに驚くが、そこでニヤリと悪人のような笑みを浮かべてイースを見る。
「・・・・・・私は一人で魔氷狼を捕獲した。・・・・・・これでも、ザコって言うの?」
イースはひどく感情の感じ取れない声音で『クーフーリン』にそう言う。
それに『クーフーリン』はその顔に、更に獰猛な笑みを張りつかせる。
「なるほどなぁ。いいだろう、まとめて相手になってやるよ。この、『魔槍使いの英雄』の、愛美様がなぁ!」
「いつも思うけど、名前可愛いな!?」
なんか、性格と顔、そして名前が激しくミスマッチな『クーフーリン』が槍を構える。
「・・・・・・私が勝ったら、タマ二号は諦めてもらう!」
「あれ?そういう話だっけ?」
というかデジャヴ?
まぁ、なんかよくわかんないバトルが始まった。
Player-ロゼ
「本当にミッドモテモテー」
「・・・あの、いいんですか?」
私は今この瞬間にもミッドが不意打ち喰らって『オーディンの行軍』ができなくなるんじゃないかと不安になり、アスカさんに尋ねてみる。
「大丈夫大丈夫。敵は、さっきから攻撃してこないでしょ?」
まぁ、確かに。
何故かよくわからないけど、敵は突然始まった『クーフーリン』とミッド、そしてイースの戦いを静かに見守っている。
「でも・・・」
「アスカちゃんの言うとおり、問題はないよ~」
言い淀む私の言葉にかぶせるようにして言ったのはスピカさんだ。
「まず、あの『クーフーリン』、愛美ちゃんって言うんだけどね・・・」
・・・名前と、言動とその他諸々が激しくミスマッチね。
「見てわかるとおり、バトルとかがものすごく大好きなの」
「・・・大好きというより、最早あれは中毒ですね」
「そう。それで、もしも今の状態で誰かが攻撃しようとでもすると、敵でも味方でも誰彼構わず瞬殺しちゃうんだよね」
・・・ただの中毒患者なんじゃなくて、末期なのね。
「それに、あの子は気が済めば勝手にどっか行くしね」
アスカさんはスピカさんの説明に補足を入れる。
まぁ、要するに愛美さんとやらは強い相手と戦うことのみにしか興味がないみたいだ。しかもその戦いを神聖視して、邪魔をするものなら排除。なんとも扱いづらい人だ。
「・・・でも、二対一ですよ?しかも英雄級。それじゃぁ、さすがに不利すぎじゃ?」
普通、神名持ちのような神級を英雄級が倒そうとすれば、一に対して二か三の戦力が必要。
今回は神名持ちレベルの『神の鎖』と、元だけど『八足の駿馬』ハッキリ言って一人でこの二人に勝てるのはあり得ない。しかもミッドは『世界樹の栗鼠精霊』と呼ばれるPKやPKKのプロフェッショナルともいえる存在。強さは、信じられないけど神級達に勝るとも劣らないらしい。
・・・・・・ヘタレのくせに。
「でも、あくまでそれはセオリー。セオリーはセオリーでしかないのよ」
アスカさんは私にそう言う。
意味を図りかねた私はアスカさんに尋ねてみる。
「『クーフーリン』の強さは異常よ。たとえ神級と一対一だとしても、気を緩めば心臓を抉られるわよ」
「・・・あの、もう少しソフトな表現はないんですか?」
「知ってる?『ゲイボルグ』の意味?」
『ゲイボルグ』。
これは投げれば必ず相手に命中するという魔の槍。
「まぁ、ミッドの受け売りなんだけどね。『ゲイボルグ』って、心臓を食らうものって意味らしいわ。それに今のあの子は、もしかするとこのゲームで誰よりも強い存在かもしれない」
「そんなバカな・・・」
あり得ない。
現最強は、あのバカップルの『伊邪那岐』と『伊邪那美』の夫婦だ。あの二人が組めば負けることはないと言うのが現状。
それに、セオリー通りなら英雄級で必要な戦力は最低で四。ただし、このバカップルは規格外なので十ぐらいは必要な気がする。
「なら、こう言えば信じてくれるかしら?あの子が『ゲイボルグ』を持っていない時点での評価は、既にあたしと一対一張れるわ」
・・・正直、アスカさんが戦っているところを見ているので何とも言えない。でも、オーディンと言えば『グングニル』。槍の扱いも相当なものだと思う。
「って、よく考えれば『ゲイボルグ』を持っていないとか、愛美さんが『クーフーリン』じゃないときじゃないですか」
「それは大きな間違いだね、ロゼちゃん」
スピカさんが心底楽しそうに言う。
「実は、愛美ちゃんは『ゲイボルグ』を持っていない時から『クーフーリン』って呼ばれていたんだよ」
それならそれでもっとおかしい。
『ゲイボルグ』を持っているからこそ、『クーフーリン』。それ以上に何も言いようがない。
「これもミッド君の受け売りになっちゃうんだけどね、実は『ゲイボルグ』って槍の名前じゃないのかもしれないんだって」
「・・・何言ってんですか?」
もう、意味がわからない。
と言うか、ミッドは馬鹿なの?このゲームをしていれば、嫌でも神話の知識が少なからずつく。『ゲイボルグ』は槍。他のゲームでも漫画でも、なんか七人の英雄達が殺し合う奴でもそうだった。
「実は『ゲイボルグ』って、投擲方法の名前だったんじゃないかってさ」
「投擲方法?」
槍に、投げ方も何もあるのだろうか?
だって普通に自分の聞き手で持って、思い切り投げるだけじゃない。
「・・・あ、スピカあれ見て」
アスカさんはそう言って指をさす。
私とスピカさんがその指の先を見ると、そこには何かしらの構えをとる愛美さんがいた。
そして愛美さんは手に持った槍を・・・・・・手から離した。