クエスト17・ロキの作戦発表会
Player-ミッド
まぁ、後なって考えてみればわかることだった。
イースは無駄にスポーツマンシップに則った、一方的なバトルを挑んでくる。
そんなイースがなりふり構わずに追いかけてくることの方が異常だってことに気づけばよかったんだ。うん。
「・・・・・・今の、タマ二号に追いつけても・・・意味がない」
「はいはい。お前はそう言う奴だったな」
まぁ、そう言うわけで俺とイースの賭けレース的なものは一時休戦。
タマが俺に向かって『ふっ、命拾いしたな』とでも言いたそうに眼を向けてくる。
・・・こいつ、AIだよな?
「つか、何でわざわざお前が言いに来るんだよ」
「・・・・・・リーダーに言われたから」
「実況のへな子さん、どう思いますか?」
「(挑戦者は、素直になれないお年頃ですね ( ̄ー ̄)キラーン)」
「ありがとうございます、女性経験の多そうな解説のチャラさんは?」
「うーん。・・・もう、まさにへな子さんの言うとおりだと」
「では、モテそうだけどモテない解説のツンさんは?」
「とりあえず、司会進行のハンゾーを殺ります」
後ろのバカ四人がものすごくうるさいが無視しよう。
しかも実況がへな子とか、実況になっていない。つか、普通に話せ。
「てかアンタ達も、ミッドに久しぶりに会えてうれしいのはわかるけど、ちゃんと仕事しないよ?」
「そうだね。もうすぐ領地争奪戦だし、トム君からいろいろと指示が来てるんじゃない?」
「いや、それが今回は特になんもなしなんですよね~」
ハンゾーがそう言いながらツンの攻撃を適当にあしらう。
「・・・あいつ、俺の力だけで事を収めようとしてるのか?」
「あの、性悪な真面目ロキに限ってそれはないわ」
「うん、俺もそこは賛成かな?」
俺とアスカ、そして師匠の中でのトムの評価は負の方向で最高だった。
その時、へな子はぴくっと体を一瞬だけ動かす。どうも、突然のショートメールに驚いたみたいだった。
「(・・・ロキから連絡 (・ω・)つ□ホレ)」
顔文字とともに、メモ帳に連絡の内容がずらっと書かれる。
どうも、作戦を考えたから来てほしいらしい。
まぁ、ちょうど俺達もアスカの部屋に向かうところだったから問題ないだろう。
俺達がアスカの部屋、世界樹の執務室に着くと、そこにはミサにロゼ、ライトもいた。
ライトは俺達の後ろにいる四バカを見て驚きの表情を見せるが、ロキが四バカにアイコンタクトをして散らせる。
教育が行きとどいているなと感心した。
「・・・先輩、さっきのは?」
「あれか?『ラタトスク』の連中だが?」
「・・・あれが?」
「無意味に優秀だな」
幹部クラスにバレないように行動するって難しくない?
つか、『トール』にぐらい教えておけよ。
俺がそんなことを思っていると、人が集まったのかトムが話を始める。
「今日集まってもらったのは今回の領地争奪戦の最終的な作戦内容と、人員の配置だ」
そう言うと、トムはホワイトボードを持ちだしてきて、そこに何かを書いていく。
左右の端に砦のような記号があり、右が緑色だ。たぶん、こっちが俺達なんだろう。
「多くのやつ等はうすうす気づいているかもしれないが、今回は勝たないといろいろな意味でヤバい。そこで、最終手段を使うことにした」
トムの言ってることがかなり真実めいてきているのか、この場では誰もジョークの一つも言う余裕がないみたいだ。
「作戦は『オーディンの行軍』。攻撃メンバーは・・・」
そう言うと、トムはホワイトボードの真ん中あたりに丸を書き、そこに俺とアスカ、師匠、イースの名前、更にはミサまでも書く。
「以上だ」
「ちょっと待てよ。俺と師匠、アスカは当然としてイースが来るのまではわかる」
「お前が言いたいことはわかる。イースは今後この作戦で使えるかどうかの試験だ。ぶっちゃけた話は戦力に数えていない。だが、もしもうまくいけばお前がいなくてもできることが判明するからな。できるだけ条件を考えているものと同じにしておきたい」
たぶん、トムはいちいちピンチのたびに俺を呼びだすのをそれなりに申し訳なく思っているんだろう。だから、代替案としてイースの魔氷狼にアスカを乗っけたバージョンも試してみたいが、うまくいくかどうかわからない。まぁ、今回は嫌でも勝てる自信があるから、実戦で試すんだろう。
「もちろん、彼女には話をつけてある」
そう言うと、トムはそばに控えさせたミサに話を振る。
ミサは若干おどおどとしながらもしっかりと受けこたえる。
「あの、私は初めて領地争奪戦に参加しますが、よろしくお願いします!」
「・・・彼女は元々は『生産組』だ。そのため、DEXが非常に高く、使っている武器も弓なので狙撃に関しては問題ない」
「でも、ロキさんが連れてくるほど強いんじゃないですか?」
「俺達は、後がないんですよ?」
「それに、『オーディンの行軍』ってどんな作戦ですか?一応、無茶苦茶すごい作戦だって言うのは聞いたことがあるんですけど?」
どうも、『オーディンの行軍』は俺が抜けてから全く使われたないらしい。
ここにいる半数のプレイヤー達がその内容もよくわからない。わかっているのは『すごい』ということだけ。
ただ、知ってるやつはものすごく微妙な表情を浮かべていた。
「簡単だ。まぁ、ほとんどの者は知っているだろうが、そこにいる猫妖精は、俺がこの作戦のためにわざわざ引っ張ってきた」
すると好奇の視線が一斉に俺へ集中する。
なんか、こういう状況はものすごく怖い。視線恐怖症になりそうだ。
「一見ヘタレにしか見えないが、そのこのネコは俺とアスカ、そしてスピカの同期の元守護神。『八足の駿馬』だ」
「・・・あれ?それは元々スピカさんのじゃ?」
「違う。スピカとこのネコ、二人で『スレイプニル』だったんだ。とりあえず、時間が惜しい、今はその部分は省略する」
そしてトムは再びホワイトボードに向き、攻撃メンバーを大きな丸で囲む。そこから敵陣の砦へ矢印を一つ。
「要するにこういうことだ。そこのお飾りオーディンを使う」
「・・・ねぇ、さっきからものすごく罵倒されてるんだけど?」
「・・・いや、だって本当のことだろ?少なくとも、俺がいた時はこの作戦じゃないとお前は何もできなかった。つか、させなかったな」
「「「いやいやいや!?」」」
すると、俺が見たことのない幹部プレイヤーの一団が突っ込み始めた。
「何その破綻した作戦!?」
「破綻などしていない。むしろ、最良の策だ」
「だって、ロキさんが言ってるのは、そこのメンバーだけで砦を制圧しろってことしょ!?」
「正確にはアスカがだけどな」
「なお悪いですよ!?」
「安心しろ、今回の大将は俺が務める」
「いや、そういう問題じゃなくて・・・!」
なおも反論し続けるプレイヤーに、トムはドンと机を叩いてその言葉を止める。
「・・・いいか、俺達には後が残されていないうえ、先日の件で戦力が激減している。今も、多くのプレイヤー達でカウンセリングもどきをしているところだ」
トムの気迫に押され、誰も言葉が発せられなくなる。
まぁ、こいつのことだから意図的にそうしたんだろうが。
「領地争奪戦は大将のHPをゼロにすれば勝ちだ。俺達の目的は、敵軍を潰すことじゃない、勝つことだ。・・・意味はわかるな?」
要するに、敵の大将を瞬殺する。ただそれだけ。まさに、これこそ本物の電撃作戦だ。
「そして残りの者達は、こいつ等がケリをつけるまで俺を守る」
そう言うと、トムは俺達の砦の前あたりに『防衛』と書く。
「だから、今回はその防衛作戦の方がメインだ。こっちに何か問題があれば言ってくれ。普段攻撃に回っているやつも今回は防衛に来てもらうからな、わからんことがあれば遠慮なく聞いてくれ」
そう言うとトムは更にいくつかの線を書き、ここにはどの部隊でそこにはこの部隊と指示を出し始める。
「・・・思ったよりも反発がなかったな」
「トムはそれなりに人望があるから。まぁ、やけになってこんな作戦を考える人じゃないってのは全員わかってるはずよ」
なんともまぁ、うらやましい限りの団結力だ。
トムがここにあの部隊と言って、プレイヤーの一人がそれは無理があると言えば理由を聞き、それを参考に更に防衛網を構築していく。
見た限りじゃ、結構新参の幹部でも普通に意見したりしている。新参古参問わずにすごいもんだ。こういう時はどうしてもベテランが仕切ってしまって、新参は意見すらできないことが多いと俺は聞いたんだけどな。
「さすがは真面目ロキだな」
「・・・・・・リーダーはすごい」
まぁ、そうでもなけりゃこんな変態を自分の部隊として入れるようなことはできないしな。つか、マジで何とかしてくれないかぁ・・・。
「っていうか、ミサ大丈夫?」
「は、はい!頑張ります!」
ロゼとミサも気合は十分なようだ。
「ていうか、ミサもよく実験台を引き受ける気になったな」
「は、はい。ファントムさんがどうせならやっぱり参加して行けと言ってくれたので。私は邪魔にならない程度のことを頼んだんですけど・・・?」
ミサはほんの少しだけ困ったような微笑みを見せる。
まぁ、まさかの最前線投入だからな。
「どうせなら、ロキがタマに乗っけてもらえばいいのにな」
「・・・そう言えばそうね」
「何でですか?」
俺はロキについてほとんど二人に何も話してないことを思い出した。
「トムはGスキルを三つと、すっげぇ特殊な武器を持ってるんだよ」
「そう。で、狙撃を狙うんならあいつでもできるのよね」
「・・・あれ?ファントムさんて、『霜の巨人』よね?」
「お前、北欧神話領の人間でもないのに、よく知ってるな」
俺は意外なところで博識さを見せたロゼに驚きの表情を向ける。
「アンタが教えたんでしょうが」
「・・・そうだっけ?」
「・・・でも、『霜の巨人』で、弓ですか?」
『霜の巨人』は、北欧神話に出てくる巨人族の一つだ。北欧神話領の特徴は種族の豊富さ。それゆえにステータスポイントを振ったときの補正が種族によって違う。
ある一点に突出した能力が強み。そして『霜の巨人』は、STRに補正のつくパワー系のキャラだ。
簡単に言えば、パワー系キャラでSTRがあんまり作用しない弓を使うのはただのネタキャラでしかない。
・・・・・・普通なら。
「知ってるか、ロキは『トリックスター』なんだぞ?」
「・・・あんた、よくそう言ってたわね」
「後は領地争奪戦でのお楽しみだな」
ロゼがえぇーと言いながら俺に教えろと駄々をこねるが、俺はそれを無視した。
Player-モリガン
「・・・いよいよ、領地争奪戦ね」
私は隣にいる『クーフーリン』様にそう声をかける。
「あぁ、楽しみだな!!」
そう言うと、クーフーリンはものすごく嬉しそうな満面の笑みで私にその笑顔を向けてくれる。
・・・・・・ッポ。
「我が生涯に、一片の悔いなし・・・」
パタン。
「死ぬなよ」
そう突っ込んできたのは『アーサー王』。
もう、この人はバカだ。
「私は、クーフーリン様が付き合うことを前提に婚約してくれないと死ねません。そんなこともわからないの?あぁ、馬鹿だからしょうがないわね。生きる意味もないくらいに馬鹿だから。もう、いっそ死ねばいいんじゃないかしら?」
そう言いながらクーフーリン様を流し眼で見つめる。
ただし、クーフーリン様には効果がないようだ。
「順番、激しく間違ってるからな」
更に突っ込んでくるのが『ランスロット』。
もう、本当にこの脳筋馬鹿間抜阿呆糞男子どもは死ねばいいのに。
「・・・大体考えていることはわかったけどな、もう少し女の子らし―――」
「バカなの?死ぬの?というか呼吸しないで。クーフーリン様の呼気を吸わないでくれる?それは全部私のものだから。そんなこともわからない貴方達は早く死ねばいいのに・・・」
「「・・・」」
そう、バカは大人しく黙っていればいいの。
すると、ランスロットが立ちあがり、今回の領地争奪戦について話し出す。
「えー・・・。次の領地争奪戦は、痛手を受けている『グリーンユグドラシル』にとどめを刺しに行きます」
「・・・ぶっちゃけ、『オーディン』の貞操が危機を迎えるので俺達は今すぐにでも取り下げた―――」
「は?お前、やらないとか馬鹿か?」
「―――いのが、戦闘中毒末期症状のクーフーリンを止めることが不可能だ。つか、助けてくれ」
「クーフーリン様、素敵」
「ついでにモリガンも戦っているクーフーリンを見たいそうなので無理でした」
あぁ、これで『グリーン・ユグドラシル』にとどめを刺し、『オーディン』を手中に収めて『ふっふっふ~』なことをすればクーフーリン様も私に嫉妬して振り向いて下さるはず・・・!
「現在、どうやって『オーディン』に被害が行くことなく平和に済ませられるのか『ロキ』と相談中―――」
「バカなの?死ぬの?凍死するの?消し炭にされるの?感電死するの?それとも全部?」
「―――ですが、やっぱ無理そうです」
ふん、この糞共が。
・・・・・・はぁ、興味なさそうに話を聞いているクーフーリン様も素敵・・・!
「・・・とりあえず、これがモリガンの考えた作戦だ」
「・・・明らかに、オーバーキルですよね?」
「モリガンさんは、クーフーリンさんが絡むと無意味に優秀すぎるからな・・・」
「しかも、あっちの戦力が激減したのも、プレイヤーのためだって聞いてるぞ?」
「・・・『アレ』か」
「おい、モリガン。いい感じにクーフーリンといちゃついてる妄想をしているところ悪いが、なんか一言言え」
「・・・・・・ッチ」
せっかく、クーフーリン様を眺めていたのに、アーサー王に邪魔をされてしまった。
しょうがないわね、この脳筋糞馬鹿腐れゲス共は。
「愚民共、クーフーリン様に勝利を・・・!」
「いや、主にお前のためだよな?」