クエスト16・猫妖精と樹に住まう栗鼠たち
Player-ミッド
「師匠、大丈夫か!」
「今んところはねー!」
「がんばれ~」
今、俺達の目の前には数々のモンスターたちが押し寄せてくる。
俺と師匠はそのモンスターたちのわずかな隙間を縫うようにして駆け抜け、ボス部屋まであと少しといったところだ。
「つか、お前も気を抜くなよ」
「何て~?」
どうも聞き取れなかったようだ。
「気を抜くなって言ったの」
「わかってるわよ」
俺のスピードがあまりに速くて、たまに聞き取れない時があるらしい。
俺はそのためにわざわざスローで話している。
いや、別にどうでもいいんだけどさ。
「ミッド君、前!」
師匠の言葉に反応して前を見ると、突然モンスターが視界に入ってきた。大剣を持った『エインヘリアル』か。
どうも、アスカに話すことに集中して前ガおろそかになっていたらしい。俺は首にまわされているアスカの腕をつかみ、思い切り地面を蹴る。
体が浮き上がり、俺の目の前ギリギリを相手の剣が通過。俺はそれに片足を乗せ、そこを駆け上がる。
『エインヘリアル』をジャンプ台にし、更に体をひねる。体が地面とさかさまになるのを感じ、足に来た感触を頼りに、上にあった太い世界樹の枝を更に蹴る。
そしてすぐさま元の道に舞い戻る。
「・・・さすが、『猫足』ね」
「すげぇだろ!カイ達とダンジョンもぐってたら気付いた」
どうも、この長靴についてるPスキル『猫足』は、とにかく地面のように蹴られれば問題なく発動するらしい。
それなら『壁走り』もできるかと挑戦してみたがそれはダメだった。
「まぁ、それも今だからできる技だと思うけどな」
たぶんあの頃じゃ無理だと、なんとなくそう思う。
「二人とも、もうすぐ到着だよ」
「おっけ」
「わかったわ」
師匠の言葉通り、既に目の前にはボス部屋の大きな門が迫っていた。
あの門をくぐればボスが出現し、バトルとなる。
「・・・じゃ、最後の行っとく?」
「お願い」
アスカがそう言うと、俺の背中でもぞもぞと動き出す。
俺はできるだけ背中を地面と平行になるようにして走る。
そして、アスカは頃合いを見計らって・・・。
「たぁ!」
俺の背中を思い切り蹴る。
そして俺達の誰よりも早く門の中へと入って行く。
一瞬の静寂、すると門の扉が閉まり始め、中の部屋からボスモンスターの雄たけびが聞こえる。
「じゃ、さくっと殺っとくわ」
「怖ぇよ」
その言葉を最後に門が閉じた。
まぁ、後は・・・。
「ボス、逃げてくれるといいなぁ・・・」
「俺もそう思う」
そう、切に願う。
師匠は今度はモンスターに気づかれにくくなるアイテムでさっきのアイテム効果を打ち消す。
すると、俺達に向かって突撃してきたモンスターたちは、さっきのことが嘘のように静まる。
「・・・師匠、いつ終わりますかね?」
「・・・三分くらい?」
「・・・カップ麺が欲しい」
「そだねー」
俺と師匠はボス部屋の前でどうでもいい会話をしつつ、ぽけーと枝の隙間から見える空を眺める。
・・・今日も、いい天気だ。
そうして、しばらくすると、門が重々しい音を立てて開き始める。
どうも、アスカがボスを倒し終わったらしい。
俺と師匠はさっさと中に入って行く。
まぁ、案の定というか、部屋の中心にアスカがいた。
「終わったみたいだな」
「うん。はぁーっ、スッキリしたぁ!」
もう、アスカは悩み事なんか吹っ飛ばしたぜ!って感じのいい笑顔を俺達に向ける。
俺と師匠はそんなアスカの表情に曖昧な笑みを浮かべつつ転移陣のところに行く。
転移陣は、ボス部屋にある帰還用のオブジェクトだ。
これの上に乗って『転移』と言えば、このダンジョンの一番最初のところに戻れる。
後は帰るだけ。俺はそのためにその上に乗ろうとしたら・・・。
「・・・・・・見つけた」
「ッ!?」
地獄の使者から、『地獄への優待券』を頂いてしまった。
俺はすぐに転移陣の上に乗って、転移と叫ぶように言う。だが、どういうわけか転移されない。どういうことかと周りを見ると、アスカが俺のマントのすそを握っていた。
「まぁまぁ、ハジケてるイースが見てみたいからここにいなさい」
「バッ!?死ぬ!?」
転移陣には、転移ができない状況がいくつかある。その一つが今の状況。転移陣の上に自分がいるが、第二者が自分の体、装備の一部に接触していて転移陣の外にいるとき。その時は転移されない。そのせいで俺は生命の危機に陥った。
「・・・・・・さすが、オーディン。・・・・・・ありがとう」
「・・・イースが、デレたっ!?」
「違うわバカ!」
「・・・そう違う。・・・デレるのはタマ二ご」
「うっさいわ!?」
「・・・・・・いやよ、いやよも、好きのうち」
「俺は本っ当に嫌だ!」
そんなバカ話をしながらもイースはじりじりと俺に迫ってくる。
対する俺は、バカ笑いしてるアスカにマントの端を握られ、どうしても抜け出せない。いっそ殺るかとも考えたが、そんなことすれば俺の命がマジで散る。
「詰んだ!?」
「・・・・・・っふ」
もう、なんかマジでヤバい。
だって、相手は鼻で笑ってるんですよ?
俺なんか、ぐぅの音も出ない。
「・・・・・・今日こそ、お持ち帰り」
もう、ここまでか・・・。俺は本当に諦めかけた。
「隊長を守れー!」
「いや、元隊長だって」
「とか言って、自分が真っ先に言ってるし」
「(笑)」
俺の目の前に四つの人影が現れる。無駄にポーズをキメて。装備はまちまちだが、全員に共通して軽装備なことがわかる。おそらく、機動性を重視している。
つか、こいつら・・・。
「はぁ~・・・『ラタトスク』のみんなじゃない」
笑いの発作から戻ってきたアスカがそう言う。
そう、こいつ等が『ラタトスク』のメンバー。
本来はこんな風に颯爽と表れて戦隊ヒーローよろしくポーズをとらない。
イースは初めて見たのか、呆気にとられた表情だ。まぁ、そうだろうな。『ラタトスク』はあることは知られているが、誰がメンバーなのかは全く知られていない。というか、見たことさえない・・・。
「・・・・・・貴方達、『ラタトスク』だったの?」
ハズナンダケドナァ~・・・。
「おい、何で顔がバレている」
「だって、イースさんを張ってたら隊長の動向がまるわかりでしたから」
「だから、元隊長だ」
「とか言って、自分が真っ先に潜入したくせにね~」
「(爆笑)」
まぁこんな風にダラけたやつらにしか見えないが、こいつ等はプロだ・・・。
「そんなわけでオーディン、隊長のマントの裾離して」
「(たいちょーを離せー)」
「えー。もっとイースがハジケるの見たいんだけどー?」
「全力でやりますよ~?」
『対人戦闘』のな。
こいつ等の主な仕事は、裏切り者の粛清、領地内のPKへのPKK等々だ。
領地争奪戦ではロキの指示のもと、裏工作に励む。
まぁ、そんな奴等なわけで、いくらアスカでも五人も相手じゃ不利だ。まぁ、三人ぐらいまでならどうにかなったかもしれないけどな。
アスカはそれについて文句も言わず、すぐに俺を解放した。
「・・・・・・そんな、貴方達は・・・・・・味方じゃ、ないの?」
イースは、そんな俺達を見て絶望した表情を見せる。
普段ポーカーフェイスのこいつがこんな表情を見せるのはかなり珍しい。
「もちろん、元隊長の味方だ」
「というわけで・・・」
すると、四人は何故か俺の背中を思い切り押し、俺をイースの目の前につきだす。
「「「ダメな隊長ですがお願いします!!」」」
「(頼む (>ω<)bビシッ)」
「おかしいだろぉー!?」
「・・・・・・捕獲」
俺は状況が理解できないまま、ついにイースにつかまった。
俺の人生、オワタ・・・。
「この、裏切り者ー!?」
「違います。私達は元隊長のために、ツンデレな隊長を・・・」
「お前がツンデレとか言うな!?」
さっきから俺のことを元隊長と言う、勝気な顔したポニーテールな女子は『ツン』。いや、ニックネームなんだけどさ。なんか、本人はどうしても自分のキャラネームを教えたがらず、そして誰が言い出したのか『ツン』で名前が通ってしまった。
そして、実際にこいつはある種のツンデレ的な要素があるような気がしないでもないことがない。
「まぁまぁ、いいじゃないっすか」
で、さっきからこいつ等のリーダー的な態度をとっているイケメン男子が『ハンゾー』。俺の副官だったヤツで、今は隊長だろうと思う。まぁ、ロキが管理してるから実際には今だ副官かもしれないけど。
「そーそ。愛する我らが隊長のためにやったんだ!」
「本当は?」
「面白そうだったから!!」
「死ね!」
さっきから本物のロキまがいなことを言ってる茶髪のチャラ男は『アレクサンドロス』。でも、明らかに名前負けし、更に装備が無意味に派手で目立ちやすく、チャラチャラしかしてないで『チャラ』と呼ばれる。よく言えば『ラタトスク』のムードメーカー。ただし実際にはただのお調子者。
「(結婚オメ)」
さっきからこのゲームに機能としてある『メモ帳』を使って筆談している短髪の少女は『へな子』。一度何でそんな名前にしたのか聞いてみたら、『なんか、萌えない? o(゜∀゜)o』。・・・意味わかんねぇよ。いろいろな部分が残念なヤツだ。
「つか、マジで何で!?」
「彼女のいない隊長にリア充体験を」
余計なお世話だった。
しかも、いろいろと間違っている。
「違うわ!この女は俺をストーキングする変質者だ!」
「隊長ぉ、何その、実はモテるんだぜ発言ー」
「(モテたことないくせにwww)」
「黙れ、書くな!?」
「だ、ダメ、わ、笑い、じぬぅ・・・あはははははははははははは―――!?」
もう、アスカは笑い過ぎて死にそうだ。
師匠までも若干苦笑い。
「俺の味方がいない・・・!」
「・・・・・・私は味方」
「天敵だからな!?」
「・・・・・・とにかく、聞いて」
死刑宣告をか?
できれば、穏便なものがいい。それこそ俺が○○で●●して××されて(以下省略)的な事態だけは死んでも避けたい。
「・・・・・・まず、鞭がいい?」
「いきなりその選択肢!?」
「・・・・・・鎖がいい?」
残念なことに死亡フラグな予感しかない。
「・・・・・・それとも、わ・た・し?」
それを聞いた瞬間、俺はわき目も振らずにダッシュした。
だが、注意深く見ていた『ラタトスク』のバカ達が俺を即座に拘束、というかのしかかってきた。STR値が著しく低い俺は逃げられない。
「助けて!?なんかされた後に殺される!?」
「落ち着いてくださいよ、隊長!?」
「精一杯の素直な想いにむくいることができないとは・・・」
「元隊長、馬に蹴られて死ねばいいのに」
「(ぱこーん (#・ω・)=○)Д`))」
お前、精一杯の素直さが猟奇殺人予告ってどうよ!?
俺は必死にこいつ等の下からはい出そうとするが、どうしても抜け出せない。
「お前ら、重い!!」
「女子に向かって何たることを・・・」
「(イラッ☆ (#^ω^))」
「や、やめ、し、し・・・ぬ・・・・・・」
イースにやられる前に、こいつらにやられそうな気がしてきた。
「・・・・・・冗談」
「冗談じゃねぇよ!?」
「・・・・・・じゃぁ、嘘?」
「いい加減にしてくれ!?」
いったいどっちだよ!?
俺がそう突っ込むと、イースはいつになく真剣な表情になる。
その気迫押され、俺は思わず喉まで出かかったさまざまな罵詈雑言等々を飲み込んだ。
「・・・話、聞いて」
「お、おう」
イースは、バカどもに押しつぶされた俺の前に来て、両手を俺の頬にあてる。
何故か視線が俺達に集中しているのがやけに感じ取れ、ものすごく居心地が悪い。そして、イースはその口から・・・。
「・・・リーダーが、用があるって言ってた。・・・『グリーン・ユグドラシル』に来いって」
「・・・は?」
・・・・・・さて、なんかいろいろとおかしいぞ。
こいつが言うリーダーってのはトムのはず。そのトムが、俺がここにいるにも関らず来いだ?
「・・・なぁ、それっていつの話?」
「・・・・・・三日ぐらい前?」
三日前・・・。
要するに、俺が久しぶりに無所属領でトムと再開した日。つまりそれの意味するところは・・・。
「「「遅いわ!?」」」
全員の突っ込みがイースに火を噴いた。
もう、いろいろとグダグダだった。