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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
領地争奪戦
16/52

クエスト15・猫妖精たちの準備

Player-ミッド

 久しぶりにアスカ達と再開したその翌日、俺達はアスカにライト、そして師匠というとてつもなく強力なカミサマと一緒に近くのダンジョンに向かった。

 トムはどうせ戦闘力はないからということで世界樹ユグドラシルで待機だ。


 「・・・で、初っ端からここかよ」


 「そうよ、懐かしいでしょ?」


 「いや、近くに行くとは聞いてけどな・・・」


 「あの、ここのどこがダンジョンなんですか?」


 「・・・ここ、世界樹・・・よね?」


 そう、俺達が来たのは世界樹だ。

 正確にはその一番上の階層。もっと言えば、世界樹のとてつもなく太い枝の上だ。


 「ここは、元々はダンジョンだったのよ」


 そう、ここは元々、九つの階層を持つダンジョンだった。

 昔、俺とアスカに師匠、そしてトムは四人でここに挑戦した。

 そして一番上の階層で見つけたのが干からびたミイラ。ただし、首をつり、見るからに神々しい槍に心臓のあたりをぐっさりと刺されていた。

 明らかにフラグな感じがしないでもなかったが、アスカがさりげなく抜いたことで見事にフラグを回収してくれた。

 突然ミイラが動きだし、モンスターの名前が『堕ちた戦の神ハングマン』と表示された。そして、唐突にクエストウィンドウが開いて勝手にクエストが受注され、見てみると内容からして明らかに『神の試練トライアル』だった。


 「『神の試練』?」


 「あぁ、簡単に言うと大体が『神器』をゲットするためのクエストだ」


 「そうそう。で、アスカちゃんはもうすっごい喜んじゃって、備えもないのに全員で突撃になっちゃったんだよね」


 そうなる前に俺は気付くべきだった。

 オーディンはルーン文字の秘密を知るために、首をつって自分を槍で貫き、自分自身に捧げたという話がある。その時は、紐が切れたために助かったらしいから、たぶんあれは助からなかったというシチュエーションだと思う。そしてこの光景が大アルカナの『刑死者ハングマン』のモデルらしい。


 「さすが、オーディン・・・」


 「そんな、ノリだけで・・・」


 ミサとロゼ、そしてライトもこのことは聞いたことがなかったのか、あきれた表情だ。


 「まぁ、そう言うわけで当時すでに『ロキ』からGスキルを貰ってたトムと、一対一マンツーマンだけは≪スレイプニル≫で何とかなる俺が死ぬ気で戦った」


 「失礼な、俺はかわいい弟子のために一緒に頑張ったはず!」


 過剰なスキンシップで抱きつこうとした師匠の顔を手でつかみ、止める。

 師匠がもごもごと『これが反抗期・・・!』と何やら戦慄しているが無視する。


 「そして、特に何もしていないアスカが見事オーディンに就職。よかったね、これで将来も安心」


 「わかったから、さっさと行くわよ。とりあえず、あたし達は手を出さないからアンタ達でがんばりなさい」


 「「むしろ手伝うな」」


 俺と師匠がハモったところでダンジョンに突入した。






 「む、無理ですー!?」


 「し、死ぬー!?」


 「・・・なさけないな、お前ら」


 目の前にはザコモンスター、『死せる英雄の魂エインヘリアル』。これは、主に剣を使って攻撃してくる亡霊系のモンスター。

 見た目は、透明人間が全身甲冑の鎧を着ている感じだが、その攻撃力はすさまじい。下手をすれば、上級でも致命的なダメージを受けかねない。


 「・・・まぁ、戦闘に関してはわかったわ」


 「だから言ったろ。こいつ等はいいところ、中堅のプレイヤー。ミサに関しては『出稼ぎ』で少しは攻撃スキルを持ってるけど、そこまでじゃない」


 ロゼは攻撃よりも、補助系のスキルが多い。

 だから二人だけで戦わせるのには無理があるって言ったのに・・・。

 ・・・いや、回復職が少ないから扱いがあまり分かってないのか?


 「まぁ、二人とも後方支援だな。そういやロゼ、あのすっごい範囲の広い回復は?」


 「・・・あぁ、あれね。意味ないけどするの?」


 「自分のHP見て言え」


 既にロゼとミサのHPバーは半分ほどだ。

 それに気付かないほど戦闘に集中していたのか、ロゼは自分のHP残量を見て驚きの表情を見せる。

 そして、ロゼは両手で祈るようなポーズをとって詠唱を行う。


 「≪神楽舞の陣≫」


 ロゼがスキルの名前を言ったその瞬間、ロゼを中心に光のエフェクトが弾け、周りにぶわっと広がる。

 すると、見る見るうちにロゼとミサのHPが回復していく。


 「あ、ありがとうございます」


 「いいのよ」


 「・・・にしても、そのスキルの範囲が明らかにでかすぎるだろ」


 「って、ホントにデカすぎよ!?」


 いきなり、アスカがキレ出した。

 俺達はその声に驚きつつも聞き返してみる。


 「・・・どういうことだ?」


 「あれ、明らかに『戦略用スキル』じゃない!?」


 「・・・そうなの?」


 「シバキ倒すわよ?」


 とりあえず、さっきのロゼの回復魔法スキルの範囲を思い浮かべる。

 ・・・・・・よく見えなかったけど、五十メートルぐらいの範囲を回復可能エリアにしていたような気がする。


 「でも、カイに比べればなぁ・・・」


 「そうよね、あの殲滅魔法スキルの鬼に比べればね・・・」


 「あの、比べる対象が間違ってる気が・・・」


 カイが魔法スキルを使えば、やっつけられるかどうかは別にして、目に見える範囲の敵すべてにダメージが与えられると言っても過言ではない。

 だから、走れば数十秒の範囲のロゼの魔法に比べたらな・・・。


 「誰だよ、カイって」


 「俺の友人」


 「ついでに『海と馬の神ポセイドン』」


 「・・・あぁ、アンタと仲の良かった『ポセイドン』ね」


 何故か俺とカイは仲が良かった。

 理由とかも、何でそうなったのかもよく覚えていないけど。

 まぁ、今見たいな感じではなかったけどな。


 「つか、何でそんな回復スキルを極められるの?」


 「・・・普通に?」


 「・・・普通ね」


 「あの、お二人の『普通』はアテにならないんですけど・・・?」


 「だってさ、範囲回復スキルのほとんどが平面だけなんだよ」


 簡単に言うと、地面に足をつけていないと回復されないという事実がある。

 いや、地面じゃなくてもどっかの木にぶら下がるでも可能だけど、とにかく、空中では回復されない。


 「よく、カイとロゼの三人で適当なダンジョンの攻略をしてたんだけどさ、時たま弱点部位っぽいのがやたら上にあるとかがあるんだよな」


 たとえば巨人だと弱点部位は人間、つまりはプレイヤーと変わらないが、首を狙おうにも位置が高すぎる。そこで俺達が考え出した作戦が、俺がカイの背中を蹴ってヤツのところに行くっていう無謀な作戦。俺はそのせいでよく死んだ。


 「で、その時は絶対に空中にいる扱いになってるんだって」


 「でも、この回復スキルなら空中でも回復できるから、それでミッドの回復をしてたのよ」


 「無茶苦茶な戦い方だな!?」


 「お前も神名持ちの一人なら、これぐらいのことはできなくちゃいけないんだよ」


 「いや、ミッド君。そんな必要は全くないからね」


 俺はそう言う師匠の言葉をスルーしてミサの方を向く。


 「ミサは・・・・・・どうする?」


 「あの私、やっぱり、無理ですよ~」


 まぁ、だろうな。

 ミサは中堅どころか、戦闘に関してはほぼ初心者と変わりない。


 「・・・メイド服でも着せて、トムの雑用させてた方が役に立つんじゃないのか?」


 「そ、それはそれであんまりですよ!?」


 「・・・そうね、トムの方がうまく使いそうね」


 「そ、そんな~」


 とりあえずミサはここでいったん別れ、トムのところに行くことになった。

 何故か捨て台詞に『メイド服なんて着ませんよ~!!』と言っていた。

 ・・・それは、フリだな!?


 「とりあえず、ミサちゃんがいい感じにメイドフラグを作ったところで次ね」


 「むしろ、メインだね」


 「わかってるって」


 そう言うと、俺はとりあえずしゃがみ、アスカに背中を向ける。

 アスカはそんな俺の行動に対して、さも当たり前のように俺の首に腕をまわして・・・。


 「ヘッドロック!」


 「HPが、減る!?」


 「いや、PT組んでるから」


 「・・・アスカさん、何やってんですか?」


 そんな俺達のやり取りに、ライトはあきれた表情で見てくる。


 「と、まぁ、お約束はこれぐらいにして・・・」


 気を取り直して、アスカが俺にその体を預けるようにしておんぶされる。

 ・・・こいつ・・・・・・。


 「重くなったか?」


 「んなわけないでしょうが」


 「とりあえず、ミッド君。指輪を使わずに走ってみたら?」


 「わかった」


 とりあえず、軽く走ってみるが特に問題はない。

 でも、ひどく懐かしい感覚だな。時間的には一年と少ししかたっていないのに・・・。まるで、十数年前のことみたいだ。


 「じゃぁ、モンスターを呼んでみる?」


 「頼む。アスカはしっかりつかまってろよ?」


 「分かってるわよ」


 そう言うと、アスカが更にぎゅっと俺にしがみつく。

 ・・・だが、こういうことをしても『背中に何かが当たって・・・!』的なことがないから特に面白くもなんともない。たぶん、システムの倫理コード的な何かがそうしているんだろうと思う。


 「ライト、ロゼちゃんをお願い。あたし達はこの先のボスを倒して戻ってくから」


 「・・・は?いやいや、それはいくら何でも無理・・・・・・」


 「とう!」


 ライトが何かを言ってる途中で、師匠がカードを握りつぶす。

 それは『魔香』と呼ばれるアイテムで、これを使えばダンジョンを出るまでの間にモンスターがわんさか寄ってくる。

 そして、何やら獣が歓喜を叫ぶかのような雄たけびが聞こえ・・・。


 「ちょ!?来てますよ!?」


 「・・・だって、呼んだのよ?」


 取り乱すライトにアスカは何言ってんの?って感じで返す。

 目の前にはさっきの『エインヘリアル』を含め、多くのモンスターがやってきていた。その光景は、あの『阿修羅』の事件を彷彿とさせる光景だった。


 「じゃ、行くぞ!・・・『時よ、止まれ』」


 俺は急にゆっくりになった景色の中を駆け抜けた。




Player-ライト

 行ってしまった。いや、むしろ逝ってしまった。

 あの『スレイプニル』は何かをつぶやくと、俺の時のように唐突に消えた。

 いや、よく見ればモンスターのHPバーが削れているものがちらほらと見えるから、あの大群の中を駆け抜けている途中なんだろう。


 「無理だろ!?」


 「無理じゃないわよ」


 そんな俺の言葉に否定の声をあげた人がいた。

 いや、さっき回復の戦略スキルを見せてくれたロゼと呼ばれている人だ。


 「確かにあいつはダメネコよ。けど、あいつならあれぐらいの中は余裕で切り抜けれるわ。少なくとも、あの騒動では大丈夫だったわね」


 「・・・」


 それを聞いて、俺は何とも言えない表情を浮かべていたんだと思う。

 一応、聞いてはいる。先輩の部下である『神の鎖グレイプニル』のイースから。

 あの、イースや『ポセイドン』でさえ対抗できなかった『阿修羅』と呼ばれているプレイヤーを『スレイプニル』一人で撃破したと。

 確かに、あいつは元とはいえ守護神ガーディアンだ。それなりに対人戦闘の経験もあるはずだ。でも・・・。


 「納得できないって顔ね」


 「・・・・・・まぁ」


 「分かる気もしないでもないけど・・・・・・やっぱ、わたしにはよくわかんないわね」


 それはそうだろう。

 何で今更戻ってきたんだよ、そう思う。

 なんだか、尊敬している二人の神名持ち二人を一気にとられてしまった感じだ。


 「確かに、あんな荒業はあのバカにしかできないわ。・・・けど、アンタもそうでしょ?」


 「・・・どういう、ことですか?」


 「わたしは、回復スキルが使える。じゃ、アンタは?アンタには何ができる?・・・アンタは、『轟雷の神トール』なんでしょ?」


 そう、それが俺の・・・。


 「たかがダメネコ相手にそれでどうすんの。仮にも、神様の名前貰ってるんだから、もっとシャンとしなさい!」


 そう言うと、思い切り俺の背中をバシッと叩く。

 ・・・若干HPが減ってしまったが、気にしないでおこう。

 ひどく不器用な感じがするが、これでも俺のことを元気づけようとしているんだろう。


 「ま、これからもがんばんさないよ新米神様君」


 「・・・わかりました。とりあえず、帰ります?」


 「お願い。こんなとこまで来ちゃうと、一人じゃ無理があるからねぇ」


 そう言うと、俺達は歩き出して・・・・・・蒼い塊にぶつかった。

 いったい何が起きたのかとバックステップを踏んで距離をとると・・・。


 「・・・イース?」


 魔氷狼タマにまたがったイースだった。


 「・・・・・・ロゼ、タマ二号は?」


 「・・・本日一回目ってわけね」


 ロゼさんは何やら意味のわからないことを言うと、イースにあっちと指をさす。

 だが、そこは・・・・・・。


 「モンスターでごっちゃだけど?」


 さすがに幾ら『魔氷狼』でもこれは無理だろうと言外にそう伝える。

 少なくともこんなところを普通に行けるのは、俺の知る限りでは先輩だけだ。あの≪かくれんぼシーク≫ならそれが可能だ。


 「・・・・・・問題ない」


 言葉少なにそう言うと、イースはタマの腹をかかとで軽く蹴る。

 それだけでタマは主のやる事を理解し、あのモンスターの大群に突撃していく。

 不意を打たれた形のモンスターたちは成す術もなく魔氷狼とその少女によって蹂躙されていった。


 「・・・何でも、ありね」


 「・・・だな」


 なんだか、格の違いを見せつけられて気がする。

 もう、イースさえいれば領地争奪戦エリア・ウォーも楽勝なんじゃと思える。

 いや、それがダメだからこういう状況なわけだけど。


 「こっちだ!」


 「「「了解!」」」


 またも、第三者の声。

 声の方向を向くと、そこには複数のプレイヤーがいた。

 ただ、俺は見た覚えのないやつらばっかだ。でも、ここには『グリーン・ユグドラシル』以外のメンバーが入ることができないはず。

 まさか、何かしらの裏ルート的なもので入ってきた侵入者かと『ミョルニル』を構える。


 「あ、『トール』さんチーッス。」


 「「ちーっす」」


 「(てぃーす(・ω・)/)」


 「今は忙しいんでまた今度ぉ!」


 「「さよならー」」


 「(バーイ (>∀<)/~~~)」


 そう言いながら俺達の横を通り抜けて行った。

 後ろの方からは『マジで隊長いるの?』とか、『元隊長だろ』、『でも、本物だったら意味なくね?』といった声が聞こえてくる。


 「・・・いったい、何なんだ?」


 「・・・聞かれても困るわよ」


 「・・・・・・帰りますか?」


 「・・・・・・そうね、それが一番」


 そして、俺達は一足先に戻ることにした。



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