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箱庭ゲーム  作者: 夜猫
領地争奪戦
15/52

クエスト14・猫妖精たちの参戦

Player-ミッド

 目の前には左目に眼帯、頭の横からちょこんと出ている髪、ツーサイドアップとでも言うのか、そんな感じの幼さの残る少女。

 だが、俺に向けて少女らしからぬ不適な笑みを浮かべている。


 「な、んで、お前がオーディンのプレイヤーネームを?」


 ライトは俺がアスカのネームを知っていたことに驚いている。


 「知り合いだからに決まってるだろ・・・」


 そういうと、俺はPVPの中止を選択し、この事態を引き起こした張本人がいないかさっと調べる。

 ・・・だが、おそらくは。


 「そこだぁぁぁぁああああああ!!」


 何かしらの手ごたえ。まぁ、予想通り。

 こいつはいつも条件反射的に、俺から見てアスカの右隣に立つ癖がある。

 たぶん、こいつが眼帯のアクセサリーをしているからだろうと思う。

 死角を埋めるためにあいつはココによく立つ。まぁ、それは俺やスピカも一緒だったけどな。

 周りのヤツ等はいきなり現れたロキに驚きの表情を浮かべる。

 いや、正確にはこいつの位置を性格に当てた俺か?周りが何故ロキの場所を・・・!とかそんな感じで驚いている。


 「一撃じゃ無理か・・・!?」


 「ちょ、ミッド君!?師匠になんてコトをしてるのかな?」


 ・・・目の前に現れたのは師匠。


 「あれ?・・・・・・とでも言うと思ったか、コノヤロー!」


 「・・・いいじゃないか、ちょっとした戯れだ」


 師匠の声がファントム、もう面倒だからトムでいいか。

 とにかく、さっきまで普通に師匠の声だったのにトムの声で言われる。

 コレがロキの特殊性。

 ロキは『悪戯の神』。だが、スキルがまさにそれを表している。

 まず、ロキの固有スキルの『かくれんぼシーク』と『なりすましドッペル』。まぁ、名前からしてわかるように『かくれんぼシーク』は敵から見つからなくなるスキル。例え俺みたいに『気配察知』のスキルとかを使っても反応しないって言うえげつない効果を持ち、さらに『なりすましドッペル』は一度触れて、登録すれば何回でもその人に成りすますことができる。しかも、PT組んでキャラデータを見てもまんまその人。装備も何もかもを真似するから見分けがつかない。

 さすがにスキルまでコピーはできないけどな。


 「大体、お前は甘いんだよ。師匠が大勢の前でその装備出るわけが無いだろ」


 師匠の装備は少しばかり目のやり場に困るもの。

 本人もそれを気にしているようで、大体この姿を見たヤツ等は師匠が恥ずかしさのあまり瞬殺されている。


 「俺も、まだまだ修行不足だな・・・。だがなミッド、この言葉を覚えておけ」


 このバカトムは何を言うかと俺はカタールにギリギリと力を込める。


 「『罠は二重に張れ』ってことだ」


 「既に、二つ突破したぞ!」


 「それともう一つ。『策士の言葉は信じるな』」


 俺がどういうことか聞きだそうとしたらユグドラシルのエントランスの入り口の扉がバンと音を立てて開け放たれる。

 俺は嫌な予感がしつつも後を見てみると・・・。


 「・・・し、しょう?」


 「・・・ミッド君」


 俺はまさかロキが化けているんじゃないかと思う。

 だが、現実はその張本人を俺が切り捨てようとしている。

 ・・・じゃぁ、本物?


 「・・・ミッド君」


 「・・・な、何でしょう、お師匠様?」


 「・・・大馬鹿ヤロー!!」


 俺は何故か師匠のストレートをモロに受けた。

 それは、妙に腰の入ったプロのような一撃だった。






 どうも師匠が怒ったのは、自分がどんなに誘っても戻らなかったくせに、ロキに言われてほいほいついて行ったのが気に食わなかったらしい。

 俺は断じてココに戻ってないことを伝えて、誤解を解いた。


 「ほうほう、そういうことか」


 「そういうこと。まぁ、コレで完全に『八足の駿馬スレイプニル』が集まったわけなんだけど・・・」


 俺はちらりと『轟雷の神トール』を見る。

 そこには、ちびっこい少年がむすっとした表情で俺を見ている。

 どうも、俺が『スレイプニル』なのをどうしても信じられないらしい。まぁ、確かに守護神ガーディアン抜けたヤツが今更戻ってくるとか、面白くはないか。


 「で、ココには新顔の『トール』も含めて久しぶりに全員が集まったわけだ」


 「そうそう。いやぁ、ホントに久しぶりね」


 そういうのは、褐色の肌をし、更には眼帯をしている少々エキセントリックな少女、というか『戦争と死の神オーディン』である俺の知り合いのアスカがいた。ちなみに名前の由来は飛ぶ鳥散らす勢いの飛鳥。鳥どころか、このゲームのプレイヤー全般を散らしている。


 「で、そこの二人は?まさか、彼女?二股とかサイテー」


 「勝手に話を進めるな。こいつとコレは友人のミサと破戒僧だ」


 「誰が破戒僧よ!?」


 「お前以外に誰がいるんだよ!?」


 「ミサに謝りなさいよ!」


 「だからお前だって言ってんだろ!?」


 ギャーギャー言い出した俺達に変わって、師匠がロゼのことを紹介してくれる。

 すると、何故かトムが眉間にしわを寄せるが、すぐに元に戻る。


 「・・・でも、本当にこいつが『スレイプニル』何ですか?」


 「えぇ、そうよ。それに、ライトもやられそうだったでしょ?」


 「アレは・・・その・・・油断していただけです」


 「いや、それダメだろ?」


 俺はもっともなことを言ったはずなのに、何故かライトに睨まれた。

 ・・・何で?


 「まだまだ修行不足ね~。このゲームには、まだたくさんの神名持ちがいるんだから。それこそ、準神名持ちでも『アーサー王』は本当に強いでしょ?」


 「うっ・・・」


 どうも、こいつはあの『アーサー王』にやられたことがあるらしい。

 『アーサー王』はケルト神話領所属のプレイヤーだ。

 他の神名持ちのように、ある一点において特化しているのではなく、オールマイティな強さが売りだ。ただ、剣の性能が明らかに神器レベルだってことで普通にチート。

 更に厄介なのが、この『アーサー王』率いる『ブラウン・フォレスト』所属のギルド『円卓騎士団テーブル・ナイツ』。名前からしてわかるように、十二人からなる剣士系スキルのトッププレイヤー集団だ。

 どうせ、こいつ等も前線に出てくるだろう。


 「つか、『アーサー王』に負けるのはまだまだだな。あんな、『木剣・エクスカリ棒』の力を見せてやる!ってふざけてるやつだぞ?」


 「いや、ヤツはついに二本目を手に入れた」


 「ドンマイ」


 既に『アーサー王』は最強の名をほしいままにしているらしい。


 「無理でしょ!?あの回復量はハンパないですよ!?」


 「まぁ、俺も言いたいことはわかる」


 あいつは、普通にケルト神話最強だと俺も思う。というか、Pスキルがえげつなさすぎる。


 「でも、俺が思うに『飛翔の雷槌ミョルニル』もかなり強そうだとは思うんだけどな」


 そう言うと、ライトは急に照れ出した。

 ・・・案外単純だな。


 「むしろ、不意打ち以外に脳のないお前はどうなんだよ?」


 「俺は昔とあまり変わってないぞ?」


 つまり、参謀的ポジションか。

 あるいは『ラタトスク』を率いての奇襲大作戦要員。

 で、一番問題なのが・・・。


 「何もできない、むしろすんなの大将」


 「ちょっと、それどういう意味よ?」


 アスカ、とある事情でGスキルを使えない神名持ち。

 『神の投槍グングニル』のGスキルは非常に強力だが、いろいろとマズい。

 まぁ、それを解決するために俺が呼ばれたわけだが。

 そこで師匠が言う。


 「どうせ、俺もミッド君とやるんでしょ?でも、それだと問題あるよ?」


 「・・・え?なんか問題ってありましたっけ?」


 「ある。俺がミッド君の全力について行けない」


 「・・・・・・お前、あれからもずっとSPD極振りか」


 「いいだろ、別に。俺がどのステータスにポイント振ろうが・・・」


 「まぁ、そのおかげでイースさんと毎日追いかけっこですもんね」


 「このダメネコはそれ以外にないし。てか、何でそれが問題になるのよ?」


 「簡単だ。俺達が今話している作戦はな、俺と師匠、そしてアスカが敵陣のど真ん中に乗り込むって作戦だからな」


 「「「・・・」」」


 「トム、何でライトもびっくりしてる?」


 「教えてなかったからな」


 教えとけよ。当時、領地争奪戦エリア・ウォー限定で最強を誇っていたんだから。

 そこで、トムは俺の心の声が聞こえたかのように説明を始める。


 「一応作戦名は『オーディンの行軍』。ただし、周りのプレイヤーからは『ICBM』だとか、『核弾頭』、『対地衛星攻撃サテライト・ビーム』というのが有名だったらしいけどな」


 「あの、どうして作戦名に対してそんな・・・」


 「言いたいことはわかる。けど、見たら納得できる」


 もう、嫌というほどに。


 「もう、こいつに彼氏の一人もできないのはアレのせいだと俺は思ってる」


 「アンタに言われたくないわよ。ヘタレのくせに、甲斐性もないからモテないのよ」


 「うっさい。彼氏作ってから言え」


 「あんたこそ」


 「本当に、オーディンと仲いいんですね」


 「まぁね。二人は結構古い付き合いらしいし」


 「あのヘタレに何で?」


 「とにかく!トム、説明だ!」


 「・・・お前が話の腰を折ったんだろう」


 トムはあきれながらも説明を再開する。


 「作戦はいたって簡単だ。アスカがミッドに騎乗。ミッドはダッシュ。スピカが敵の露払い。殲滅。終了。簡単だろう?」


 「先輩、簡単すぎてわかりません」


 「でも、それ以上に説明のしようがないよな?しかも、騎乗とか言うな。ただ運ぶだけだ」


 「そうだな、説明のしようがない。それに別にいいだろう?内容はそんなに変わらない」


 「要するに、ミッドがリアル『スレイプニル』をするってことよね?」


 「あぁ~・・・。たぶん、そんな感じ」


 まぁ、『スレイプニル』はオーディンの愛馬。これは要するにそれに騎乗して相手の陣に切り込む作戦だからな。

 師匠はできるだけ俺とアスカに攻撃が来ないように相手を適度に倒していくこと。


 「でも、今のミッド君なら必要ないと思うんだけどね」


 「師匠はそう言うけど、俺もかなり久しぶりだし・・・」


 「それに、物事にはあるゆる可能性が存在する。そう言うわけで保険は必要だ」


 参謀っぽい役割のトムが一言そう言うと、師匠は何も言わない。


 「じゃ、話はまとまったし・・・とりあえず、今日は遠路はるばる来てもらったわけだから休んでなさいよ。明日から本格的に作戦決めるわ」


 「そう言えば、この『スレイプニル』についていた女子はどうするんですか?」


 何故かライトは俺に対してものすごく冷たい態度で接してくる。

 まぁ、確かにこの二人はどうするんだろう?


 「・・・せっかくだし、『領地争奪戦エリア・ウォー』に参加してく?」


 「え?い、いいんですか!?そ、そんな、私達が入っても・・・!?」


 「・・・確かに、私達にできることはほとんどないわね」


 「ロゼもやっと俺のすごさがわかってきたか」


 「死んでくれる?」


 「サーセン、調子に乗りました・・・」


 「いやいや、二人とも結構すごいよね?ミサちゃんは弓でDEX高いから普通に戦力にできるし、ロゼちゃんに関しては、数少ない回復魔法極めている子だよ?」


 「本当に?しかも、回復魔法は・・・」


 何回も言った気がするけど、このゲームでは回復魔法を極めているやつが少ない。

 理由としては、たぶん地味だし、何より最初じゃ使う機会があんまりないからだろう。そして、敵が強くなってきて回復魔法を覚えようとしても、最初に覚えるのは初心者用の回復スキル。簡単に言うと回復がおっつかない状況に陥って、それならポーションで十分じゃんってことになるんだと思う。


 「・・・そういや、ロゼって蘇生魔法覚えたのか?」


 「あぁ、あれね。あの騒ぎで覚えたわ」


 「・・・確かに、そこまで極めているのは珍しいわね。今のところ、みんなはやっとがんばって上げ始めたから」


 そうなのか。

 ロゼはやたらと回復魔法の熟練度が上がっていたけど、まさかそこまでとは・・・。


 「じゃ、二人は一時的にこっちの味方っと。大丈夫よね」


 「もちろん。他の守護神ガーディアンでも、たまに無所属領のソロプレイヤーを一時的に雇うことがあるからな」


 「マジで?そんな仕事してるの?」


 「・・・知らないのか?傭兵ギルド『一匹狼』や『渡り鳥』といったところは有名だぞ?」


 全然知らなかった。

 俺はここを出てから本当に一人だったからな。

 途中でロゼに、そしてカイに会ったけど。あ、そして最後にミサに会ったわ。


 「・・・わたし、忘れてる」


 「意図的に忘れたん・・・すみません、急用思い出しまし、った!」


 唐突に聞こえた声に俺は迷わず逃げた。

 何でここにいるとも思ったが、もともと、こいつの所属ギルドみたいなものだった。


 「・・・待て、はな」


 「無理だ!」


 俺は猛ダッシュでその場を離脱した。




Player-ロゼ

 ミッドはこの部屋に現われたイースの声に反応して、いきなり逃げ出した。

 ・・・失礼するわね。


 「ごめんなさい、うちのダメネコが・・・」


 「うちのダメネコ、ね・・・」


 一瞬、オーディン―――アスカさんは遠い目をして言う。

 そして、元の調子に戻って入ってきたイースに向く。


 「で、どうしたの?確か、ミッドを追い回す任務だったわよね?」


 「追い回すなんて、そんな・・・」


 明らかにストーカー的な発想の任務にミサが突っ込む。

 でも、確かにやっていることはストーカーと変わりない。


 「・・・・・・タマ二号、ここですから」


 「タマ二号?」


 「ミッドのことです。タマに続く後継者にしようとしています」


 ファントムさんがアスカさんにそう説明すると納得したような顔になる。


 「・・・ま、アンタも大変ね」


 「・・・・・・そんなことない」


 イースは一言だけ言うと、もうここには用はないと言わんばかりにさっさと部屋を出て行く。


 「・・・あの、イースさんは守護神ガーディアンのメンバーですよね?」


 「そうだが、それがどうした?」


 「いや、上司に素っ気なさすぎじゃ?」


 私がそう指摘すると、目の前の北欧神話ビッグスリーは互いの顔を見つめて、視線で何かしらのやり取り。


 「「「普通?」」」


 「いやいやいや!?」


 それはおかしい。


 「ちょっとスピカさん、絶対おかしいでしょ!?」


 「ん?そう?」


 「・・・あの、イースさんは、私達といるときはもっと、その・・・ハジケてますよね?」


 「そう!それで、ミッド相手にいつもギリギリな下ネタ使う!」


 「そうです!そしてお仕置きされるんです!」


 ミサと確認が取れた。

 少なくとも、これが私達が最初に出会った残念な守護神ガーディアンの姿だ。

 断じて、寡黙で、颯爽とした、クールビューティーじゃない。

 それを聞いて何故か驚きの表情を浮かべる三人に、スピカさんが言う。


 「まぁ、正確にはミッド君といる時だけですけどね」


 「・・・・・・あぁ、なるほど。結構マジなんだ」


 アスカさんは心当たりがあるのか、自分ひとりだけで納得してしまう。

 他の二人を見てみると、わかっているのはファントムさんだけみたいだ。


 「よくわかった。イースのこと、頼む」


 「「・・・はい?」」


 私とミサは、何故かファントムさんから娘の友達を頼む的なノリでそう言われた。

 でも、何を頼まれたの?

 それが顔に出ていたのか、ファントムさんは続けて言う。


 「いや、そんなに気にしなくてもいい。ただ、普通に接してくれればな」


 「はぁ?」


 「わかりました?」


 こうして、私達の初めての遠征一日目は終了した。


用語集

戦争と死の神オーディン・北欧神話の主神。ルーンの秘術を得るために色々なことにチャレンジした猛者。『グングニル』を所持する。


グングニル・オーディンの持つ投げやり。投げれば必ず相手にあたる百発百中の槍。

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