クエスト13・猫妖精とオーディン
Player-ミッド
このゲームにおいて、長距離の移動は全て駅で行える。
まぁ、要するに現実の移動とそんなに変わらない。
ほんの少し遠くのダンジョンに行きたければバスを使って、県をまたぐようなら電車を使う。
そしてもっと遠くに行くなら新幹線。
あまりに普通すぎて面白くない。さすがに外観はこの世界のイメージを崩さないようにそれっぽいフォルムだけどな・・・。
あくまでバスとか言ってるのは見た目が似てるってだけだ。
正式名称があった気がするけど忘れた。
「・・・後、十分ぐらいでつく。降りる準備をしておけ」
「わかってるって」
「ねぇねぇ、北欧神話領ってどんなところなのよ?」
「私も楽しみです!」
ついてきた女子二人はわくわくと言う言葉を顔に貼り付けて俺に聞いてくる。
「見た方が早いんだけどな・・・」
「まぁ、簡単に言えばド田舎か?」
まぁそうだな。
ナゴヤは雑然としたと言うか、なんかゴチャゴチャしてるのに対してサッポロは周りを見渡せば木ばっかりだしな。
二人はどんなところだろうと言い合いながら終止ニコニコしていた。
そして、俺達はサッポロに到着。
駅から出ると、目の前に広がるのは緑で一杯の街。
建物や道路、いろいろなところに木々が生えていて、幻想的な雰囲気を醸し出している。
そして、一番目を引くものが・・・。
「なにあれ、大きいわね」
「そ、そうですね」
遠くに見える大きな木。
「あれが、サッポロのど真ん中にある北欧神話領の守護神支部だ。まぁ、予想はつくだろうけど、アレがこのゲームでの『世界樹』だ」
ココの守護神支部は『世界樹』の中にある。
木の根元に入り口があり、そこから中に入ることができる。
「あれ、実は最初ダンジョンだったんだよな」
「え?そうなの?」
「そうそう。で、俺達が攻略すると、あの中からモンスターがいなくなって、普通に住めるようになった。で、オーディンが誕生」
「そして、日本神話領のやつ等がそれをかぎつけて北欧神話領の守護神を結成し、オーディンがそこの代表になったと言うわけさ」
元々、守護神を最初に名乗り始めたのは日本神話領の『八百万の神々』って言うギルド。
そいつらがココを暮らしやすいようにいろいろとしたらしい。
まぁ、もちろんそれに反発するやつがいたが、そこは既に神名を持っていた腹黒『伊邪那美』と現代に蘇った侍もどきの『伊邪那岐』が説得して解決した。
「んなことはいいから、さっさと入ろう」
そんな話をしていると、いつの間にか『世界樹』の前に到着。
俺は懐かしいなと言う思いに浸りつつも中に入っていく。
中に入っていくと、そこにはロビーがある。
木の中なのに普通に会社とかのビルにありそうだ。
俺は勝手知ったるといった表情で奥に進もうとする。
「あ、すみません!困ります!」
そういうと俺は肩を掴まれた。
何だと思いつつ後を振り返ると結構可愛い女の子がいた。
・・・受付譲か。いつの間にかそんなもんまで作りやがって。
「何?」
「いえ、ココは守護神の『グリーン・ユグドラシル』です」
「・・・知ってるけど?」
「では、ご用件のほうをお願いします」
「・・・用があるのはそっちだと思ったんだけどな?」
「・・・貴方、何を言ってるんですか?」
何故か受付譲が俺を可愛そうなものを見る目で見てきた。
・・・俺は本当のことしか言ってないぞ!?
俺はとりあえず誤解を解くためにもファントムを探すが・・・。
「へ~。中ってこんな風なんですね」
「あぁ。結構綺麗だろ?」
「確かに、木の中とは思えないです」
女子二人といちゃついていた。
・・・後で三枚におろした後に八つ裂きだ。
「・・・オーディンに伝えろ。『八足の駿馬』が戻ってきたってな」
「あの、頭大丈夫ですか?」
「頼むから信じてくれよ!?」
俺が逆の立場でも無理だと思いつつもどうにかして頼んでみる。
すると、俺の後ろから誰かがやってくる気配がする。
「どうかしたのか?」
「あ、トールさん!」
トール?
そりゃまた、北欧神話領で雷の神様と同じ名前のキャラに会うとは思わなかった。
そう思いつつ振り替える。
そこには小柄な少年がいた。
おそらく、こいつがトールとか言うヤツなんだろう。
でも、何で敬語?明らかにこいつの方が年下っぽいぞ?
「聞いてください!この変な人が自分が『スレイプニル』だって言うんですよ!『スレイプニル』はもう無くなった役職なのに・・・」
「ちょっと待て、今なんて言った!?」
さっき、聞き捨てならない単語が聞こえたぞ!?
「ですから、元『スレイプニル』の方は、今『風の戦乙女』と役職が変更になって、実質『スレイプニル』と言う役職はかなり前からなくなっていますよ?」
「あの馬鹿二人は何してんだ!?」
「さっきからなんですか!?しかも、馬鹿二人って!?まさか、オーディンさんとシルフさんのことを言ってるんですか!?」
受付のヤツが騒ぐが俺の耳にはそんな事は入っていなかった。
『スレイプニル』が無い?
あいつら、俺に『スレイプニル』をやらせるためにずっと欠番にしていたのか?
「俺はもうやる気がねぇってのに・・・」
「お前、ココの創設者に関わる神名持ちレベルの二人を馬鹿呼ばわりとはいい度胸だな」
残念なことに俺もその一人だ。
しかも、ポジション的にはオーディンのすぐ下。
「お前みたいな無名プレイヤーに言われてもな・・・」
俺が正直な感想を言うと、ちびっ子と受付の顔が引きつる。
「・・・お前、俺を知らないのか?」
「・・・知らない」
「そ、そんなことでよくココを突破しようと思いましたね?」
・・・何だか、俺も嫌な予感がしてきた。
でも、俺の時は『轟雷の神』なんていなかったよな?
いや、こんだけ時間がたったんだし、まさか、そろったのか?
「・・・なぁ、聞いてもいいか?」
「・・・いいけど?」
「お前、キャラネームは?」
「ライトだ」
「あれ?でもさっきトールって・・・」
「俺は、ココの神名持ちの一人、『轟雷の神』だ」
「・・・ついにそろったのかよ」
「お前、さっきから何をわけのわからないことを言ってる!?」
俺はファントムに助けを頼もうとさっきまでファントムのいたところを見る。
だが、既にいない。
どこに行ったのかと周りを見てみると・・・。
「コレに触れて行き先を言えば大丈夫だから」
「は~い」
「わかりました」
そう言って二人の女子と転移結晶と呼ばれるものでオーディンのところに行く姿が見えた。
いい性格してやがる、あの・・・。
「馬鹿ロキがぁぁぁぁああああああ!?」
「いい加減にしろ!先輩まで馬鹿にしやがって・・・!」
「やっぱ、そうなんだな!?お前、絶対あのファントムに呼ばれてココに来ただろ!?」
「な、何でそれを!?」
やっぱりか、そうかそうか・・・。
俺はゆらりと転移結晶の法へ向かう。
「ヤツを、三枚におろしてから八つ裂きにする・・・!」
「させるか、馬鹿!」
後から俺を止めようとライトが走ってくる。
それを俺は回避。ライトの後に立つ。
「悪いね。今の俺、機嫌が悪いんだ。邪魔するなら、喜んでPVPを受けるけど?」
周りに居合わせたやつ等がものすごく驚いた表情になる。
それはライトも同じで、ライトは俺がいつの間にか後ろに来たことに驚いたのか、慌てて後ろを向く。
「・・・お前、何者だ?」
「ただの、猫妖精だ」
Player-オーディン
「・・・?」
あたしは自分でもわからないけど、何故かしていた書類仕事の手を止めた。
そして、それと同時に部屋をノックする音。
あたしは一言だけどうぞと言う。すると、そこからは無所属領にいるはずのロキがいた。
「あら?ミッドはどうしたの?」
「いますよ。下に」
「・・・何で連れてこなかったの、って聞きたいところだけどライトもいないわね」
この二人はいつもよくいる。
特にライトは先輩先輩とこいつの後ろをついていってる。
なら、おそらくは・・・。
「アンタ、いい性格してるわ・・・トム?」
「だから、トムって呼ぶのはやめろよ。ミッドはまだしてないぞ?」
「いいじゃない。どうせあたし達しか使わないんだし」
そういうとあたしは椅子から立ち、部屋の外へ行く。
その後にトムもついてくる。
「どこに行く?・・・って、聞くまでも無いか」
「もちろん、アンタがけしかけたPVPを見に行くに決まってるじゃない」
そういうと、あたしとトムは転移結晶に触れ、一番下のフロアに転移した。
Player-ミッド
「どうする、『轟雷の神』?お前が勝てば俺はココを出て行く。でもな、勝ったらあの真面目ロキって言うクソ野郎を狩りに行く」
「・・・お前に先輩がどうこうできるとは思わないけどいいぜ」
そういうとライトは俺にPVPを申し込む。
俺はすぐにOKボタンにタッチしてそれを受ける。
すると、広いロビーの一部から人がいなくなり、決闘可能エリアの外に弾き出される。
決闘可能なエリアは大体半径十メートルほどの円だ。まぁ、時と場合によっては設定で変更もできるけどな。
「俺が、お前みたいな無名プレイヤーに負けるわけが無い」
「人のセリフをパクんなよ」
ライトはカードを取り出すと、それを握りつぶす。
すると、カードはライトの右手の中に集まり、大きくなる。そして、それは槌の形を取り始める。
「・・・それが、神器『ミョルニル』か?」
現れたのは、ライトほどの身長もある大きな槌。
持ち運びに困るからカードにして持っているんだろう。
「よく知ってるな。『トール・ハンマー』の方がわりと多いのにな」
「御託はいいから、Gスキルでも何でもやってこい」
「お前に、Gスキルなんて使う必要は無いね。お前こそ、最初から本気で来ないと、一瞬で勝負がつくぜ?」
「そうだな、俺は弱いから、最初から本気で行くか」
俺もまたカードを取り出す。
既に『長靴』は履いている。後はマントと帽子、カタールを装備するだけだ。
「・・・まるで、『長靴を履いた猫』だな」
「そっちから来いよ。ま、どっちにしろお前の攻撃は当たらないけどな」
「言ってろ!」
そして、ライトが踏み込み、攻撃を仕掛けてくる。
俺は『スレイプニルの指輪』の力をオンにする。
「・・・『時よ、止まれ』」
指輪のPスキルの力を起動する場合、このフレーズを言う必要がある。
まぁ装備してる時、ずっと景色がゆっくり動いたりしていたら気持ち悪いしな。そのための配慮だろうと思う。
ゆっくりとした動きになったライトの槌による攻撃を全て紙一重で避ける。
いつの間にか大勢のプレイヤーが俺達の周りにいて、ライトを応援している。
完全にアウェーな空気だ。
「何だ、避けるので精一杯か!?」
ライトは自分の優位を感じているのか、ずいぶんと余裕そうだ。
・・・ここらで天狗の鼻を折っておくのも悪くは無いだろうと思いつつ攻撃を避ける。
だが、こうしてずっと避けているのも芸が無い。
まぁ、スキルを使ってやるか。
俺は≪リスタ・ソニック≫を使う。
光速で八連続の攻撃が放たれる。たぶん周りにはいつの間にかライトのHPバーが消失したようにしか見えなかっただろう。
ライトもそれに気づいて驚愕の表情を浮かべる。
「・・・何をした?」
「さぁな?まぁ、わかることと言えば、無名プレイヤーに神名持ちの『轟雷の神』のHPバーがいつの間にか削られてたってコトか?」
俺はそんな軽口を叩いておく。
コレで相手が乗ってくれれば楽なんだったんだけど、どうも相手は以外に冷静な人物だったらしい。
俺の動きに警戒をし始めた。
「・・・そっちから来ないなら、俺から行くぞ?」
俺はその言葉を置き去りにでもするみたいに駆ける。
次の瞬間にはライトの目の前。
瞬間移動したみたいにしか見えない俺に対し、驚愕の表情を向ける。
「・・・≪スレイ――≫」
「はい、終了!」
俺は聞きなれた声にスキルの発動を止める。
声の方向を見ると、そこには一人の少女がいた。
「やっと、出てきたか。このアホオ-ディン。わざわざこっちから気たのに、この歓迎の仕方はないんじゃねぇの?」
周りのギャラリーが『お前、オーディンになんてコトを!?』とか言ってるけど俺は無視した。
だが、オーディンはそれを手をさっと上げるだけで沈める。
「やっと来てくれたわね、あたしのスレイプニル」
「誰があたしのスレプニルだ、オーディン。・・・いや、アスカ」
これが、俺と久しぶりに会ったオーディンことアスカの最低な再会だった。
用語集
轟雷の神・雷、農耕を司る神。神器『ミョルニル』を所持し、豪胆な神であったとされる。