クエスト12・神々の会合
Player-オーディン
「では、そう言う事でよろしいですか?」
むかつく。
あたしは目の前の男を見てそう思った。
目の前にはニヤニヤ笑う女。
周りには呆れているのか疲れている表情の神名持ち達。
ココは日本神話領の『守護神』本部。今日は月に一回の各神話領の定期連絡会の日だ。
主にバグモンスターの発生やこの頃問題になっている事柄の対策をしている。
もちろん、領地争奪戦に関わることもココでしている。
「どうかしましたか?まさか、オーディンともあろう貴女が自身が無いとでも?」
あぁ、今すぐコイツを地獄に送りたい。
思わず『神の投槍』をこの馬鹿に投げたくなるけど何とかガマンする。
うん、あたしはオトナだ。
「え、えぇ、もちろんですよ。それに、それが領地争奪戦の規則ですし」
たぶん、あたしの笑みは引きつったものになっていただろう。
後のほうにいる、『悪戯の魔神』と『轟雷の神』がはらはらしてみているだろうと言うことが安易に想像できる。
「では、そういうことで」
そう言うと、目の前の女、ケルト神話領裏のボスと言われる『魔女』が悠々と日本神話領の会議室を出て行く。
すると、周りにいた人達が声をかけてくれた。
でも、あたしは大丈夫ですと一言だけ言って、早々に退室させてもらう。
そして、『悪戯の魔神』と『轟雷の神』の二人が声をかけてくる。
「・・・どうするんですか?」
「もう、既に後が無いぞ?」
そう、後が無い。
あたし達の神話領は数週間前に『悪戯の魔神』の『神の鎖』とあたし直属の『疾風騎士団』がとある事件で壊滅的な打撃を受ける。
精神的なショックが大きかったのか、復帰している人があまりいない。
更に、そこで二週間に一度の領地争奪戦でこちらの領地が減らされてしまった。
「確実に、次で仕留められる。そうすると、貴女が・・・」
「大丈夫だ!俺の雷であのむかつく馬鹿を吹き飛ばす!」
「黙れ脳筋」
後の二人がコントを始めた。
いつものことだけど、今は正直な話、とてもうざい。
「ちょ!?」
「こんなところでスキルはだめだ!!」
「・・・あれ?」
気づけば無意識にスキルを発動しようとしていた。
・・・危ない危ない。
でも、勝てるとしたら・・・。
「やっぱ、コレ使うしかないんだよな~」
「やめてください。それを使えば相手はおろか、こちらも壊滅します」
「それを唯一可能にできるスピカに休暇を出したのも、貴女ですよ?」
そう、コレを何とかできそうなのが、元『八足の駿馬』で、あたしの親友のスピカだけ。
でも、頭の中にもう一人だけ浮かび上がる。
「・・・こうなったら、四の五の言ってられないか」
「ん?何かいい案でも思いついたか?」
「うん。『八足の駿馬』を使う」
「いや、だから『八足の駿馬』はアンタが自分で休暇を出したんだろ?」
『轟雷の神』が入ったとき、既にあの馬鹿はいなかった。
だから、本当の『八足の駿馬』を知らないのも無理はないだろう。
「・・・まさか、あの猫を?」
「・・・猫?」
「と、言うわけでアンタ、さっさと連れてきて」
きょとんと首をかしげる『轟雷の神』には悪いけど話を進める。
今はそれぐらい緊急事態だ。
「何故私なのですか!?」
「だって、アンタのところの『神の鎖』が仲いいみたいじゃない?」
「それを言うなら貴女のところのスピカに頼めばいいじゃないですか!」
「だって、あの子に休暇だしちゃったし」
『悪戯の魔神』の癖にその実真面目なことで有名な彼に任せ、あたしは自分の神話領のホーム、『サッポロ』に戻っていった。
Player-ミッド
「いや、今日もいい天気だな」
後から追いかけられていなければ。
いつものように俺はドS女とそのペットに追いかけまわされていた。
既に日常的な光景と鳴ってしまい、今では『最強と最速(笑)どっちが勝つか!?』と言うような賭けが公式化されている。
俺は馬じゃないぞ!?
いや、忘れ去られた二つ名は馬だけど。
「・・・待て、タマ二号」
「誰が待つか!」
俺は壁を蹴って壁を駆け上がる。
コレは俺の持つレア防具『長靴』についているレアスキルのおかげだ。
この防具には≪猫足≫と言うスキルがついていて、どんなに足場が悪いところでも普通に歩け、更に高いところから落ちても確実に地面に降り立ってノーダメージで済ますと言うすばらしいものだ。
走ることしかできない俺の唯一の武器と言ってもいいかもしれない。
「・・・今日は話がある」
「で、ついでに俺も捕まえてワケのわからん願いも聞いてもらうと?本当にありがとうございました」
「・・・バカ」
そう言うと、俺達はいつものように追いかけっこを繰り広げる。
そしてしばらくすると、うまく撒けたのか、後から追いかけてくる気配がなくなる。
おし、と思って後を振り向いて見るとそこには誰もいない。
「おし、さすが俺」
「あぁ、さすがだな」
「おう、何しろ、コレであの変態女の言う、こと・・・」
あれ?ここに俺以外のヤツっているのか?
そう思って回りを見渡し、Pスキルの『気配察知』を手動で操作してみるがどこにもいない。
「・・・そうか、ボイスチャットか」
「そんなものが無いことぐらい、お前はよく知っているだろう?」
その言葉と同時に俺の目の前の空間がゆがみ、そこから中性的な顔立ちの男が表れる。
何で男だってわかったか?
残念ながら俺の知り合いだったんだよ。
「・・・『悪戯の魔神』か」
「あぁ、久しぶりだなミッド。いや、こういった方がいいか?―――『八足の駿馬』」
また、面倒なことになりそうだ。
Player-ロゼ
「・・・遅いわね、あのダメネコ」
「そんな、かわいそうなこと言わないで上げてくださいよ」
そんな私の言葉に苦笑しながら答えてくれたのは種族がエルフの少女。
つい最近この無所属領の男共の注目を集めつつある『喫茶ひだまり』の店主、ミサだ。
ミサがこのお店を手に入れてから、私達はこのお店によく集合してはお茶を楽しんだり、一緒にクエストやダンジョンに挑んだりしている。
今日、実はこのお店の定休日。だからミサと一緒に行こうって約束をしていたんだけど・・・。
「遅いわね」
「確かに。たぶん、イースさん辺りに追いかけられているんじゃないですか?」
「でも、遅すぎない?」
アイツなら、例えイースに追いかけられていても十分以内に来る。
でも、今日は既に三十分以上待たされている。
「カイもいないし、ホントどうしたのか・・・」
すると、後からちりんちりんと涼しげな音が響く。
ここの扉につけられている来客の鈴の音だ。
ミッドのバカに文句を言ってやろうと振り向く。
「ミッド、何して、ん・・・の、よ?」
勢いがどんどんなくなってしまった。
・・・だって、普通じゃありえないくらいに疲れている表情をしていたから。
「ゴメン、今日は、俺、ダメかも・・・」
「み、ミッドさん!?ど、どうしたんですか!?」
「ストーカー二号に掴まりかけた」
「それは災難だったな」
・・・あれ?
ココに私達以外のお客っていたっけ?
いつの間にか私の隣には中性的な顔立ちの人がいる。
ぱっと見では男か女の区別がつかないけど、顔立ちはかなり整っている。
でも、ミッドは何故か余計にげんなりする。
「・・・その、チート、何とかしろよ」
「何、ちょっとした悪戯だ。あ、注文はいいか?」
「え?あ、はい?」
ミサは中性的な顔立ちの人から注文を取るとすぐに調理スキルを使う。
そしてコーヒーを一杯淹れる。
「どうぞ。お口にあうといいんですけど・・・」
「・・・いや、おいしいよ」
「何、さりげなくこの場に溶け込んでいるだよ・・・」
そう言いながらミッドも私と同じカウンターの席につく。
「ねぇ、ミッド・・・」
「コイツは『ファントム』。名前からしてわかるように男だ」
「よろしく」
その人、つまりファントムが私に一言挨拶をする。
「あ、どうも、このお店の店主のミサです」
「このダメネコの仲間のロゼよ」
「そうか、この『ダメネコ』ね」
「黙れ。つか、何でお前がここにいる?オーディンの差し金か?」
「オーディンとは・・・。お前と古い仲なんだろう?名前で呼べばいいじゃないか」
「うるさい。俺は『グリーン・ユグドラシル』には戻らない」
さっきからやたらとミッドは噛み付くようにしてファントムに言う。
いい加減にしなさいと言おうとすると、またも鈴の音が聞こえる。
扉を見ると、そこにはイースがいた。
ただ、いつものポーカーフェイスを驚愕の表情に染めていたけど。
「イース?どうしたの?」
「・・・何で、リーダーが?」
「やっぱ、リーダーってお前だったのか」
「そうに決まってるだろ?『魔氷狼』は『悪戯の魔神』から生まれた三体の魔物の一体だぞ?」
「それを俺が知らないとでも思っていたのか?」
「いや、平和ボケしたお前はどうか心配になったからな」
この二人、さっきから何を言ってるの?
と言うより、これじゃ、まるでこの人が・・・。
「あの、まるで貴方が『悪戯の魔神』だって言う風に聞こえるんですけど?」
「・・・いや、そうだが?」
「「・・・」」
あっさりと事実を明かすファントム。いえ、『悪戯の神』。
そして、これが北欧神話領のナンバースリーと私達の出会いだった。
Player-ミッド
「で、何でココまで来たんだよ」
「いや、本当はイースに言伝を頼んだんだが・・・まぁ、何だ、イースを貶めるわけじゃないぞ?だが、イースでは少し無理があると思ったからな」
「で、ココ最近の俺の行動パターンを見越し、その『悪戯の魔神』の名前に恥じないくらいのトリックスター振りを見せてくれたってわけだ」
『悪戯の魔神』、北欧神話にて登場する神。
悪戯が大好きで『トリックスター』と名高い。後にオーディンに追放され、『神々の黄昏』を起こす張本人だ。
ただ、コレは絶対に起こさないな。ものすごく真面目ロキ(笑)と揶揄されるようなやつだし。
ちなみに、フェンリルの他にもヨルムンガンドとヘルという魔物も生み出している。
「理解が早くて助かる」
「こっちは全然助からないけどな」
俺はファントムとイースの二人を前にして言う。
たぶん、用件はあれだろう。
「俺はいやだぞ?」
「・・・そこを頼む」
端から見てたら最強に数えられるプレイヤーの一人が最弱のプレイヤーに頭を下げると言う不思議空間が出来上がっているようにしか見えないだろう。
でも、俺も一応は北欧神話領守護神の創設に関わる人物だったりする。と言うか、あのバカに巻き込まれただけとも言えるけどな。とにかくそんなわけで地位的には結構高いと思う。それに、俺は元『八足の駿馬』だ。と言うことは限りなく『戦争と死の神』に近い存在ともいえる。
「ミッド、アンタはロキに対して上に出れるとかどういうヤツなのよ?」
「元スレイプニルだけど?それに、俺はあそこじゃラタトスクもやってたしな」
「ラタトスク?」
「覚えてないか?」
「ラタトスクは、『グリーン・ユグドラシル』の諜報部隊、まぁ、言ってしまえばスパイのようなものだ。敵と俺達に対しての、な」
「・・・あの、意味がわかりませんよ?」
「自分達にスパイしてどうすんのよ・・・」
ロゼとミサが困惑した表情で言う。
まぁ、そうだろうな。
俺は説明する気がまったくないからファントムに丸投げする。
それを察したのか進んで説明。
「まぁ、敵の情報を集めるのはもちろん。裏切り者の粛清もこいつ等がまとめてやっている」
「簡単に言うと、対人戦闘のプロ。PKKだな」
PKKは、PKをキルするプレイヤーのこと。
まぁ、所詮はただのPKだ。
「で、あのバカは俺がEXスキルの≪スレイプニル≫使えばどんな敵も楽勝だとか言いやがって、俺にPKとかPKKをさせてたんだよ!?」
その後の贖罪クエストにどれだけ泣かされてきたことか・・・!
いや、PKKは赤くならないけど。
「・・・まさか、ミッドが『守護神』やめた理由って」
「たぶん、贖罪クエストが面倒になってきたんだろうな」
「・・・どこまで行ってもミッドさんはミッドさんなんですね」
「だが、今回はどうしてもお前の力が必要だ!」
態度を一転。
今までの静かな立ち振る舞いに熱が入ってきた。
コイツは真面目なロキと言われるぐらいだ。いつも冷静。しかし、敵を陥れるときは地のどん底までと言うえげつない信条を持っているが、ココまで熱くなることは滅多にない。
「・・・なぁ、別に俺じゃなくても師匠を使えばいいだろう?」
領地争奪戦なら、師匠たち率いる『四色の戦乙女』の方が絶対に強い。
「・・・実は、オーディンを投入しなけりゃまずい」
「・・・・・・マジか」
それほどまでに、追い詰められているのか・・・。
「・・・どういう状況だ?」
「あぁ、実は俺達、『グリーン・ユグドラシル』はケルト神話領『ブラウン・フォレスト』に『サッポロ』のすぐ近くまで進行されている」
そう言って俺に地図を見せてくる。
すると、既に三分の一ほどが茶色、つまり『ブラウン・フォレスト』に領地を取られている。
「いろいろとアウトじゃねぇか!?」
「だから、オーディンを投入するって言っただろう?」
頭を抱え込む俺を二人の女子は不思議そうに眺めている。
そして、二人も地図を覗き込む。
「・・・これ、下手したら北欧神話領がなくなりません?」
「あぁ、ついでにオーディンの貞操もな」
「おい、ちょっと待て、今無視できない単語が出てきたぞ?」
何で、領地争奪戦でアイツの貞操が危機に陥る?
「『モリガン』が『グリーン・ユグドラシル』を存続させる代わりにオーディンの身柄を要求した」
「あの、変態がぁぁぁぁああああああ!!??」
俺はお前なんか『クー・フーリン』といちゃついていればいいんだよ!と頭の中で罵りつつファントムの襟首を掴む。
「それを先に言えよ!?さっさと行くぞ!」
「・・・お前がそんなになるからオーディンに言うなって言われてたんだけどな」
「あっさり言ってるくせにんなコト言うな!」
俺はメニューを開き、何かいるものはないかと考える。
「アイテムはこっちで用意する。だから、できれば早く来て欲しい」
「わかった!なら行くぞ!」
そう言って俺とファントムは席を立ち、『サッポロ』に向かおうとする。
「ちょっと、待ちなさい!」
「何だよ、俺は忙しくなるんだけど!?」
「さっきからアンタは何を言ってるのよ?もう、ワケがわかんないんですけど?」
ロゼが俺にそういう傍ら、ミサもロゼの後でうんうんとうなずいている。
・・・正直、説明がめんどくさい・・・!
「なぁ、こいつらもまとめて連れていっちゃダメか?」
「・・・まぁ、お前の仲間なら大丈夫だろう。・・・たぶん」
こうして、俺達は北海道、北欧神話領守護神『グリーン・ユグドラシル』に行くことになった。
用語集
悪戯の魔神・非常に狡猾で、悪戯が大好きな神。『轟雷の神』と仲がいいとされている。
神々の黄昏・追放されたロキが起こした戦争。熾烈を極めたとされている。