クエスト10・阿修羅VS猫妖精
Player-ロゼ
カイの広範囲殲滅型魔法スキルがどんどん放たれる度に通路から誰もいなくなる。
そして、最終的に残っていたのは私達三人と、範囲外にいた敵。
どうも、味方のほとんどは既にやられていたみたい。
「おし、とりあえず一段落。・・・で、次は誰だ?」
カイがそう言って周りを見渡すと、じりっと後ずさるPK達。
たぶん、本能的にわかっているんだろう。カイが、自分たちでは太刀打ちできないほどに強いのが。そして、PK達にとって最悪なことが『地獄逝き』。たぶん、まともにカイとぶつかればそれは免れない。
「・・・ッ!弓矢を持っているヤツが攻撃しろ!魔法スキルさえ使わせなきゃ――」
相手は、本当にどうしようもなかった。
気付きなさいよ、それが神器って事に。それに、カイはまだ・・・。
「・・・≪アポファシ・トゥ・ポシドゥーナ≫」
Gスキルを使っていないって事に。
ギリシャ語で、『海王星の裁き』。カイが槍を掲げると、その上空に水の塊ができる。
それはどんどん大きくなっていき、直径十メートルはある水塊になる。
「「「・・・」」」
・・・まぁ、この先はどうするかわかるでしょ?
「じゃ、ばいばい」
カイはそう言いながら槍をぶんと振り下ろす。
水塊もその動きに合わせて、流星の如く敵の集団めがけて突撃。それでほとんどのPK達のHPが削り切れてしまった。
カイは周りを見渡して一つ頷くと、私達の方を向く。
「・・・どうしようかな?」
「何が?」
「いや、後から敵が来てるんだろ?」
「そ、そうです!スピカさんが!」
「・・・なら、大丈夫か」
ミサの言葉を聞いた瞬間にカイはもと来た道を戻ろうとする。
私もそれについて行く。
「ちょ、ちょっと!?いいんですか!?」
「いいも何も・・・なぁ?」
「そうね」
あの人が雑魚に負ける?
ありえない。
「あの人、『戦争と死の神』直属の『四色の戦乙女』の一人だからな・・・」
「・・・あれ?スピカさん、『八足の駿馬』じゃありませんでしたっけ?」
「あぁ。それは『元』だ」
「ちょっと、それは私も初耳よ?」
「・・・そうだっけ?」
そう言うと、カイはうっかりしてたとか言って笑い出した。
「それに、知ってるか?『八足の駿馬』って、八本足なんだぞ?」
「・・・アンタ、何が言いたいの?」
「スピカさんだけじゃ、手と足を合わせても四本の足しかないんだよ」
「・・・はぁ?」
本当に、何が言いたいの?
「お?まだここにいたの?」
聞き覚えのある声に後を振り向くと、そこには際どい鎧を身にまとったスピカさん。
カイもそんなスピカさんの姿を見て視線を空中にさまよわせる。
「あぁ・・・やっぱ、この鎧は目のやりどころが難しいよね~」
そう言いながらあっはっはと笑うスピカさん。
「でも、大丈夫だったんですね!?」
「思ったよりも少なかったしね」
「でも、それ、少し・・・」
確かに、イメージとしては戦乙女。でも、いくらなんでもやりすぎだと思う。
翡翠色を貴重とした鎧で、全体的にピッタリとしたつくりなのか、スピカさんの体のラインがコレでもかと言うぐらいに出ている。更に、二の腕あたりや太腿の半ば、お腹のへその当たりが大胆に出してあって、男の子なら思わず見てしまうだろうということが私でもわかる。
まぁ、スタイルが良いからむしろ羨ましいけど・・・・・・。後で牛乳を飲もう。
「・・・ロゼちゃん、何で俺の胸を見るかな?」
「いえ、べっつに~」
「・・・私、自信がなくなってしまいました」
・・・どちらかと言うと幼児体系というか、スットンというか、ぺったんこというか・・・ミサがものすごく落ち込み始めた。
「あ、あの、さ・・・。ミッドに、カード渡しに行くんだろ?」
「あ、そうだった!」
「よし、出てくる敵は俺とカイ君で倒す。君達ははぐれないようについて来て!」
そう言うと、カイとスピカさんが走り出す。私とミサはそれに遅れないようについていった。
Player-イース
・・・私は、目の前にいる大勢の敵を相手に、タマと『神の鎖』を使って戦っている。
でも、私一人だけじゃない。
近くでは、いつまでもキンキンキンと連続して金属音が鳴っている。
それは、あの『阿修羅』のクリフと名乗っているプレイヤーとタマ二号が互いに激しい剣戟を交わしているからだった。
二人のスピードはほぼ互角。
でも、タマ二号はSTRが低すぎ、攻撃力が無い。
そのためにかタマ二号のHPがほんの少しずつ削られている。
「まさか、俺のスピードについてこれるヤツがいるとはな!」
「こっちも、スピードだけには自身があるんでね!」
でも、タマ二号の顔は焦っているように見えなくもない。
そして、タマ二号はまたも力任せに吹き飛ばされ、私の近くに降り立つ。もう、これで何回めだろう?
「タマ二号・・・」
「俺はタマ二号じゃないからな」
「・・・・・・でも、タマ二号じゃ、無理」
「俺のは時間稼ぎだ。後でカイが何とかする。それに、いくらなんでもショートメールぐらいは送っただろう?」
ショートメール。
フレンド登録したもの同士でのみ使える機能。フレンドにメールを送ることができるというシンプルなもの。
私は、このことをすぐに『戦争と死の神』に送った。
「・・・でも、時間がかかりすぎる」
「だから、俺が時間を稼ぐって言ってるだろ」
タマ二号はそう言うと、アイテムカードを取り出し、握りつぶす。
すると、減っていたHPバーがみるみる回復していく。
全快になったのを確認して、またクリフに向かってその小さな剣を振るう。
「しぶとい・・・!」
「残念だ。それが『音速の剣士』なんでね!」
また始まる激しい剣戟の音。
私は『守護神』なのに、プレイヤーの一人も守れない・・・。
あの時のように。
・・・また、繰り返しだ。
せっかく、今度はそれだけの力を手に入れたのに・・・。
「くらえ!」
そこで、タマ二号が隙を見つけたのか一気に相手に迫る。
捨て身の攻撃。
反撃を受ければまず無理な状況。
そこで、タマ二号が構え、唯一覚えているスキルを発動させる。
発動したスキルは高速で振るわれ、相手の首辺りに四回の攻撃が行われたことがわかるエフェクトが残される。
「なっ!?」
「残念だったな」
完全な致命的な一撃。
でも、相手のHPバーはやっと五分の一を削りきったところ。
それだけだ。考えられることは、タマ二号の攻撃力が低すぎること。でも、それにしたっておかしい。このゲームは完全スキル制。ステータスのウェイトはかなり低い。
だから、いくら攻撃力が低いタマ二号でもHPバーの半分ぐらいは絶対に行くはず。
そこから考え出されることは・・・。
「何だよ、その異常に高いステータスは・・・!」
タマ二号は相手との距離をとりながら相手に怒鳴るようにして聞く。
でも、あんな異常なステータス。どこの『守護神』を探してもいない。いたとしても、どこかのステータスが著しく低くなるはず。
「・・・Pスキル『阿修羅』」
「Pスキル?」
相手はぼそりとつぶやくように言う。
自分の絶対的優位を感じ取ったのか、最初の頃よりも饒舌になっている。
「俺はつい最近、ココの近くのダンジョンのフィールドで『夜叉』に会った」
「んな、バカな!?『夜叉』は神殿系のダンジョンの奥でふんぞり返ってるボスクラスモンスターだぞ!?」
「いたもんはいたんだ。で、俺は『夜叉』を一人で倒し、倒した時にこのPスキル『阿修羅』を手に入れた」
モンスターを倒してスキルを手に入れる。これは、ドロップスキルといわれるものだ。
モンスターを倒していると、超低確率で手に入るものだ。
「でも、ドロップスキルでそんなに強くなるはずが無い!しかも、つい最近だろ!?熟練度を上げたとしてもそこまでになるわけが・・・!それに、たぶんだけど、『夜叉』を倒して『阿修羅』なんてスキルが手に入るわけが無い!」
「そんなもん、俺が知ったこっちゃない!!」
そう言うと、今度はクリフが猛然と攻めかかってきた。
タマ二号はその攻撃をギリギリでかわす。
でも、さっきと違って攻撃をする暇がなさそうだ。
「・・・タマ、二号・・・!」
「来るな!危ない!」
タマ二号は左で何かを投げる。
すると、私の後ろで誰かが息を呑む声が聞こえる。
後を振り向くと、そこには不意打ちをしようとしていたPKプレイヤーがいた。
私は驚きつつも鎖の鞭をぶんとふるい、敵を倒す。
「いつまで、そんな芸当ができるかなぁ!!」
「なんの、ことだよ!」
「さっきから、お前はそこの女を守っていたんだろ?最弱の『音速の剣士』が、最強に限りなく近い場所に存在する『神の鎖』を、な!」
「・・・え?」
私が、守られていた?
タマ、二号に?
でも、思い当たる節がある。だって、タマ二号は相手の、クリフの攻撃は一度も受けていない。全部、紙一重で避けていた。
でも、それにも関わらずダメージを受けていた。
「まさか、他のプレイヤーからの攻撃を・・・?」
いつも、私が背中を向けているところに降り立っていた。
そういう、こと・・・?
「それが、どうしたんだよ!」
「なら、こうすればどうなる!」
相手が今までは違う動きを見せる。
すると、剣が炎に包まれる。
阿修羅は戦神であると同時に、火や、太陽の神とされている。
つまり・・・・・・スキルの発動。剣が炎で包まれ、それを振りぬくと、炎の斬撃が放たれる。
そして、その先は・・・・・・。
「くらえ!」
私。
「タマ!」
私はこのゲームの相棒を呼ぶ。
けど戦っている位置が遠すぎる。
私の、ミス。
なすすべが無い・・・。
そして、一つの影が私の前に立つ。
その人も何かの構えを取り、スキルを発動させる。
もう、見慣れてしまった、北欧神話領の初期スキル、≪リスタ・ソニック≫。
タマ二号は、私に向かってくる炎を切り裂き、私を攻撃から守る。
でも、タマ二号のHPバーを見ると、すでに半分以上が消えてしまっている。
「ッ・・・、何だよ、これ、火傷、したみたいだなぁ!」
「どういうわけか、俺の攻撃には痛みが伴うらしい」
「それをわかってて、相手に攻撃してんのかよ!」
タマ二号はクリフに叫ぶ。
だが、クリフはなんとも思わないのか、タマ二号の言葉を鼻で笑う。
「たかが、ゲームだろ?別に、死ぬことはないんだしいいんじゃね?まぁ、別に俺には関係のない話だからなぁ!」
そう言うと、またスキルを発動させるのか、今までは違う動きを見せる。
それで、タマ二号をPKするつもりだ。
「・・・ダメ!」
「危ない!」
前に出て行こうとしたところを、タマ二号に止められる。
痛みにうめいているタマ二号は何と避けるけど、どこかかすったのか、HPがまた一気に減り、レッドまでいく。
もう、一撃を受ければ確実にPKされる。
「しぶとい、コレでトドメだ!」
相手は最早スキルに頼る必要が無いと思ったのか、剣を叩きつけて終わらせようとしているみたいだった。
私はそのスピードについて行けない。
タマも、遠くで戦っている。
万事、窮す。そう、思った。
すると、次に目に入った光景は、何故かココの入り口近くだった。
「カァーイ!!」
「くらえ!!」
直後、ついさっきまで私達のいた部屋には大きな水塊が落ちてきた。
それにより、部屋の中を埋め尽くしていたPKが壊滅的な打撃を受ける。
でも、本命のクリフは今だダメージがほとんどなさそうだ。
「どう、やって・・・?」
「ハッ!奥の手は隠しとくものなんだって!こっちも、Pスキルぐらいあるっての」
その言葉で思い出す。
タマ二号には、Pスキル『獣の力』がある。
たぶん、今回もそれが確率で発生したんだろう。
抱えられるようにして運ばれた私はタマ二号に優しく地面に下ろされる。
「何を、言っている!お前、見えてないとでも思っているのか!?」
「・・・マジか、アレがわかるとか、ドンだけだよ」
「ちょ!?ミッド、アンタ大丈夫!?」
「いや、全身大火傷ってこんな感じなんだな・・・」
「ろ、ロゼさん!?ミッドさんがピンチです!?」
「ロゼ!俺があいつらの相手をしてるから、その間にミッドを何とかしとけ!」
タマ二号の友人の女の子二人、ロゼとミサが大慌てで回復魔法を使ってHPを回復させる。
そしてカイ、おそらくは『海と馬の神』が代わりに戦う。
・・・でも、コレにはほとんど意味が無いはず。
それでも、タマ二号はHPが回復したのを確認するとまた立ち上がる。
そして、また敵に向かっていこうとしたタマ二号の袖を掴む。
「・・・ダメ」
「でも、アイツに対抗できそうなの、俺だけだし」
そう、それも現状。
今、現時点で相手の攻撃をかわし、反撃を与えることができているのはタマ二号だけだ。
「はいはい、そんなミッド君に師匠からのプレゼンツッ!」
「・・・」
先輩の言葉に何故かタマ二号が嫌そうな顔をする。
先輩はロゼに早く渡してと言うと、ロゼはほんの少し挙動不審になりつつも一枚のカードを渡す。
そこには、装飾品をカードオブジェクト化したために、カードの上に『ACCESSORIES』と書かれている。
それを確認すると、タマ二号はため息をつきたくなるような表情で言う。
「今回は、ありがとうございます」
そう言うと、タマ二号はロゼからカードを受け取る。
「あれ?素直に受け取ってくれるんだ」
「いや、あのバカ、むかつくんで」
「・・・そんな理由で」
呆れながらもどこか嬉しそうに先輩は笑う。
「じゃ、がんばってね。ただの猫妖精君」
「はいはい」
そう言うと、タマ二号はカードを握りつぶした。
用語集
魔法スキル・MPを消費して使うことのできるスキル。詠唱と魔法陣の二つの発動方法があり、神話領によって言語が違う。
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