クエスト9・海魚の力
やっと、来ました・・・。
あの子が、本気を出します。
まぁ、多くの人はわかってたと思いますがwww
Player-ミッド
通路の先、そこはさっきよりも明るく、ほんの少し広い通路だった。
師匠、ドンだけぶっ飛ばされてきたんだよ!?
「援軍か!」
「やれ!」
『気配察知』で敵がどこにいるかはわかっている。
でも、既に地図が敵のマーカーでいっぱいだ。
と言うか・・・。
「お前等、雑魚の相手をしてるほど暇じゃない!」
俺は一気にトップスピードまで持っていく。
相手の攻撃を避け、そして敵や味方の体を避け、どんどん先に進む。
そして、ついに人の波が途切れる。
「ミッド!?何で、ココに!?」
「・・・タマ二号?」
目の前に現れたのは、多くの敵に四苦八苦しながらもどうにか戦っているカイとイース。
「師匠をやったのは、どいつだ?」
「師匠?・・・お前、『守護神』か?」
俺にそんな声をかけてきたのは、後のほうでこの光景を、何かの試合のように観戦しているプレイヤー。
「さっき、誰かがぶっ飛ばしただろ!しかも、痛みにうめいてた!!」
「・・・あぁ、さっき俺がぶっ飛ばしたヤツか」
案の定、答えたの観戦してたやつだ。
それを確認すると、俺は全力で走る。
たぶん、今の俺ならタマでさえ軽く置いてきぼりにできる。そう思った。
そして、ヤツの急所めがけてダガーを叩きつける。
「ッ!?」
「速いな」
だが、相手は何事もなかったかのように受け止める。
俺は急いでバックステップを踏み、距離をとる。
「おいおい、まさかコイツ、『音速の剣士』か?」
「あの、このゲーム最弱って噂の?」
周りからチラチラと俺の悪評が聞こえる。
・・・・・・ほんの少し、心にダメージが。
「たぶん、さっきのは『風の戦乙女』だろ?そんなヤツの弟子が『音速の剣士』?馬鹿じゃねぇの?」
その言葉に周りが笑い出す。
・・・・・・すみません、師匠。俺、何も言い返せません。
でも、俺は周りの声を無視して今度は手数による攻撃を仕掛ける。
縦横無尽に攻撃を仕掛けるが、相手はそれをいとも簡単に全て受け止める。
「マジかよ。ミッドの攻撃を全部正面から受けきるとか・・・」
「・・・異常」
俺は一旦カイとイースのところに行く。
そして、俺達は背中合わせになりながら声を掛け合う。相手も攻撃のスキを伺っているのかにらみ合ったままだ。
「最悪なことに、一つ問題がある」
「何だ?これ以上増えると、俺過労死するかもよ?」
「残念だったなコレはカイ向けの仕事だ」
「マジかよ」
俺は二人に後ろからも敵が来ていることを話す。
それに驚きつつも、敵から目をそらさないのはさすがだ。
「カイ、呼べるか?」
「・・・まぁ、こんだけ広けりゃ行けるだろう」
「・・・何の話?」
俺はその言葉には答えずに、さっきのように敵の中心に飛び込む。
ただ、今回の目的は撹乱だ。それと、騒々しい音を立てて、カイの魔法スキルの発動をごまかすための。
すると、すぐにカイは『ペガサス』を呼び出し、それにさっとまたがる。
そして、『ペガサス』は翼をはためかせて天井すれすれを飛ぶ。
「・・・『ペガサス』の召喚スキル!?」
「アイツ、何者だ!?」
「魔法スキルだ!」
させるか!
俺は魔法を放とうとするやつを次々と強襲。
詠唱は中断させてしまえばこちらのものだ。
でも、魔法陣のほうはうまく避けてもらうしかない。
「・・・タマ二号、もしかして、彼は・・・」
「今は説明してる暇はない。でも、たぶんアンタの思ってる通りだ」
今度は俺とイースが背中合わせになって敵を睨む。
「いいのか?味方が逃げたぞ?」
「違うな。お前等の見え透いた『挟撃』って罠を排除しに行ったんだよ」
「・・・お前、本当に『守護神』の人間か?」
そう聞いてきたのは、さっきまで俺達の戦いを観戦か何かのように見ていたやつ。
おそらく、リーダーか何かだろう。
「俺は、『守護神』なんかじゃない。ただの・・・猫妖精だ。お前こそ、何者だ?」
「『修羅界』のリーダー。『阿修羅』のクリフ」
『阿修羅』のクリフ。
まるで聞いたことのない名前だ。
たぶん、『阿修羅』ってのは自分で自称してるか、つい最近つけられるようになったんだろう。
「・・・気をつけて」
「わかってる。一応聞くけど、そっちの仲間は?」
「・・・あいつの攻撃で痛がってるうちに・・・」
「そうか・・・。参ったな・・・」
俺は、どっちかと言うと一対一じゃないと力が発揮できない。
大勢対俺にできることなんて、引っ掻き回すことぐらいしかない。
俺の攻撃力なんてたかが知れている。
こんなにいたら、回復の一人ぐらいいるだろう。攻撃しても焼け石に水なのが目に見えている。
「・・・タマが蹴散らす。・・・貴方は、下がっていて」
「いや、それなら俺はアイツを足止めしとく・・・!」
「っ・・・バカ・・・!」
俺はまた相手に突撃する。
すると、相手はそれがわかっていたかのように受ける。
俺は猛攻を仕掛ける。
だが、周りが黙っていない。
『気配察知』を駆使し、死角からの攻撃を何とか避け、反撃し、ダメージを与えてイースのほうへ蹴っ飛ばす。
すると、タマがどこからともなく現れては相手を食い千切っていく。
「『魔氷狼』はだめだ!プレイヤーのほうをやれ!」
・・・こいつ等、バカだな。
何で、気付かない。『魔氷狼』を捕まえたこいつが、弱いなんてことはありえない。むしろ、ものすごく強い。しかも、イースは『神器持ち』だ。
「・・・『神の鎖』・・・!」
イースがつぶやくように言う。
すると、持っていた皮製の鞭がいきなり鋼鉄の太い鎖の鞭へと変貌する。
これが、『神器』。通常ではごく一般的な武器にしか見えない。だが、武器の名前を言った途端にその力を解放するとか、ロマンとしか思えない機能を持っている。
「≪ゴゥ・フォミュラ≫」
そして、『神器』のみが持つ特殊スキル、通称Gスキル。
イースの持つ『神の鎖』の場合、決して効果のなくなることのない拘束という効果。まぁ、簡単に言えば、コイツをくらうとその場から一歩も動くことができなくなる。唯一、動けるほう方があるとすれば、イースが解除用スキルを発動させるほかにない。
最凶とは、まさにこのことだ。
そして、一番重要なことが・・・。
「・・・乙女に、攻撃しようなんて・・・言語道断」
「ちょ!?まっ!?いやぁぁぁあああ!?」
ヤツはドSだ。
しかも、さすが『神器』と言うだけあって、かなり強い。
後は、カイがうまくやってくれていることを祈ろう。
Player-ロゼ
「ったく!面倒なことを・・・ミッドの癖に!」
「で、でも、どうするんですか!?敵、いっぱいですよ!?」
そう、既に目の前は敵でいっぱい。
この中を、ミッドは突っ切ったなんていうの?
・・・・・・ふざけてるわね。
目の前にどんどん敵である、PKのレッドネームが迫ってくる。
わたしは数多く覚えているスキルを駆使し、どうにか攻撃をかわし、攻め立てる。そして、深追いはせずに、前に進むことだけに専念する。
「ミサ、大丈夫!?」
「は、はい!わたしも、DEXは高いので!!」
ミサはわたしの後に隠れて、弓を射る。
この子は、短剣と弓を中心に使った戦闘を得意としていた。
職業でいうなら『レンジャー』や『スカウト』と言ったところかな?
この子は料理スキルを極めている、つまり、器用さに関係するDEXがかなり高い。それを生かして、器用さや、クリティカルが出やすい弓と短剣を使わせればかなり強い。
ただ、スキルがそんなになく、熟練度も低いのが問題。
ミサは初期スキルの応酬で何とかわたしについてきてる。
でも、現実は厳しい。
どんなにスキルを覚えていても、こんな数十人に囲まれてちゃ多勢に無勢だ。
わたしとミサのHPはがりがりと削られている。
今は、常時回復系スキルを多用してどうにかなっているというのが現状。
「・・・後でミッドをシメる」
「あの、ミッドさんに会えなかったら、それも難しいんじゃ?」
それは極力考えないようにしていたのに・・・。
そうして、四苦八苦しながら前に進んでいると、前のほうからざわめきが聞こえてきた。
「な、何だ、あれ?」
「あんなスキル、存在するのか・・・!?」
「『ペガサス』・・・?」
「アイツを攻撃しろ!魔法スキルと弓だ!」
まさかと思い、上を見る。
そこには、槍を携え、『ペガサス』に跨る、魚人キャラのプレイヤー。
「カイ、さん?」
そう、カイだ。
カイはこちらに気付いたのか、驚きの表情を浮かべる。
すると、口元がぼそぼそと動く。
・・・嫌な予感がする。
「ミサ!わたしに抱きついて!」
「はい!?何で急にそんなことを!?」
「いいから、さっさと来い!!」
わたしはミサを掴んで寄せると、早口で詠唱。
そして、魔法スキルを発動させる。
「≪堅忍不抜の陣≫!」
わたしが使ったのは防御用魔法スキル。
たぶん、わたしの勘が正しければ、カイは『海』系の魔法スキルを使おうとしているはず。
そして、カイの魔法スキルが発動する。
カイはその身の丈ほどもある三叉矛を振る。すると、その軌跡から次々と水の大槍が射出されて次々に敵がそれに貫かれては倒れていく。
わたしは心の中でどうにかもってくれと祈りながら体を小さくする。
そして、静かになるとそこにはわたし達以外、誰も立っていなかった。
「お前等、何でこんなところに?」
「何がこんなところに、よ!危うくアンタの魔法スキルで死ぬところだったじゃない!?」
「・・・あれ?PTってまだ解除してなかったんじゃない?」
「・・・え?」
急いでメニューを開ける。
すると、そこにはPTリーダーがわたしで、他に三人の仲間がいると言う表示が。
ついでに詳細をみてみると、そこにはカイの文字があった。
「・・・」
「まぁ、ミッドと言い何でココに?スピカさんのところにいた方が安全じゃなかったか?」
「いや、それが・・・。スピカさんにコレをミッドに渡せってお使いクエストを・・・」
わたしはスピカさんから受け取ったカードを見せる。
すると、カイは若干驚いたような表情になる。
「コレ、アイツが受け取るかな・・・」
「何、コレ?」
「いや、それは元々ミッドが持ってたレアアイテムなんだけど・・・」
「あ、あの!」
ミサがわたしとカイの会話に口を挟む。
・・・今、少し重要な話をしてたのに。
「どうした?」
「あの、敵の方が・・・」
周りを見てみると、いつの間にか敵に包囲されていた。
・・・いや、ついさっきも包囲されてたけどね。
「あぁ、それなら大丈夫よ」
「な、何でですか!?い、今にも攻撃してきそうですよ!?」
「大丈夫、大丈夫。こっちにはカイがいるから」
「・・・おい、えらく他力本願だな」
「と言うわけでカイ、本気で行きなさい」
「・・・まぁ、確かにコレは本気出さないとな。行くぞ、『海王星の三叉矛』!」
カイがそう言った瞬間、カイの持つ三叉矛が変化。
三叉矛の色が鋼の色から、海を思わせるような青に変化し、三叉矛のまっすぐな刃の部分が波打つような形状になる。
『神器・海王星の三叉矛』。それが、カイの武器の名前。
「ろ、ロゼ、さん!あ、あれ、神器!?」
「・・・そういえば、ミサに言ってなかったわね。カイは『守護神』の一人で二つ名持ち。しかも、神名」
「ギリシャ神話領の、三叉矛を持った、神名持ちって・・・!」
そう、あまりにも有名すぎる神様。
絶対に一度ぐらいは聞いたことがあるはずだ。
空と、海と、冥界を統べる神の一柱、海を統べる神。
「そう、カイはギリシャ神話領の『海と馬の神』よ」
用語集
阿修羅・仏教にて登場する、八本の腕に三つの顔を持つ守護神。『正義』や『火』を司るとされている。だが、帝釈天に娘を奪われ、戦いを挑んだことにより悪鬼神とされてしまう。
海と馬の神・ギリシャ神話に登場する、ハデスの弟で、ゼウスの兄。海の他に馬を司る。三叉矛はポセイドンの象徴とされている。
天馬・翼の生えた馬。本書ではカイが召喚できるペット扱いのモンスター。