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【2】



 悩んでいるうちに、俊介の方から「迷うなら言わない方がいいよ」と引いてくれた。


「オレは律子ちゃんの異彩を聞き出すために、自分のを明かしたわけじゃないから。そこは誤解しないでね?」

「分かってる。あたしのことは……またいずれ」

「了解。気長に待ってるよ」

「もしかして、入居者全員の異彩を知ってる?」

「八割くらいかな。全員に異彩を訊いて回ったからね」

「……ホントに遠慮ってものを知らないんだね」

「オレは下のコンビニで働いてることもあって仲良しの住人が多いけど、挨拶しかしない人とか、数回しか会ったことない人もいるよ。店番は暇な時間も多いけど時給良いし、みんなと話をする時間は最高に楽しいって感じかな」

「ふーん……。異彩者が集まってるって居心地がいい?」

「個人的にはね。異彩のせいでかなり凹んだ時期もあったけど、ここに来てからは人生をエンジョイしてるよ。唯花(ゆいか)ちゃんみたいに可愛い子もいるし」


 唯花――ハルの妹。

 俊介の言う〝可愛い〟をアテにしていいのか疑問はあるが、ハルに似ているなら綺麗な顔立ちだろう。


「もし唯花ちゃんがアイドルになったら、間違いなく日本一って感じだよ」

「へぇ。そこまで言うってことはホントに可愛いんだろうね」

「うんうん。実際アイドル並みに遠い存在って感じだけどね」


 俊介は数年前、唯花を食事に誘ったことがあるという。イタリアンやデザートなど何度か声を掛けたが、どれも了承してもらえなかったため諦めたそうだ。


「唯花ちゃん、ハルを溺愛してるんだよね。いわゆるブラコンってやつ。オレの入る隙間ナシって感じだったし、そもそも彼氏を作る気ナシって感じに見えるんだよね」

「……俊介は管理人さんの異彩が何か知ってる?」

「いや、分かんない。唯花ちゃんの異彩は遅かれ早かれみんな知ることになるだろうけど、ハルの異彩を知ってる住人は少ない……いや、誰もいない可能性もあるな」

「管理人さんが今まで誰にも教えてないとしたら、ちょっとずるくない? あの人は住人の異彩を知り尽くしてるのに」

「それが、ノブおじさんに他言を止められてるっぽいよ?」

「ノブおじさん……管理人さんの叔父だよね? ボサボサ頭で白衣姿の」

「そう、ノブおじさんはいっつもそのスタイル。ハルは自分の異彩を見破る名探偵の出現を待ってるかもね」


 全住人に異彩を訊き回ったという俊介は御多分に漏れず、ハルにも質問していた。しかし教えてもらうことはできず、あたしと同じように「当ててみてください」と返されたそうだ。ヒントがほしいと頼んだところ、「僕の異彩は住人の皆さまと毛色が違う」と言われたらしい。


「管理人さんの言動で引っ掛かったこととか、不自然に思ったことはないの?」

「コンビニの仕事で言えば、掃除と時間とお金に細かい。口うるさい姑タイプって感じだよ」

「俊介が適当すぎるだけじゃなくて?」

「オレは大らかなだけだよ」


 人の心を読む力、氷のように冷たい息、あたしのオッドアイ――〝これらの異彩と毛色が違う〟と言うなら、逆に〝これらの異彩には共通点がある〟と考えてもいいだろう。

 異彩が生じている箇所・身体のパーツはバラバラだ。ただの身体的特徴もあれば、能力として使用できるものもある。共通点と言えそうなのは〝どれも隠すことができる〟くらいだろうか。


 しかしハルは「住人に異彩を言い当てられたことはない」と言っていた。それはつまり、自分で隠すことができる――もしくは傍目に見て分からない異彩だろう。他と毛色が違うとは言えない気がする。


 俊介がファミリアに入居したのは約五年前。ハルとは週に三日ほど顔を合わせているが、未だに異彩らしき部分が見えたことはないらしい。五年の付き合いがあっても気付かないとなると、意識的に探らなければ分からないだろう。


 ハルと接する際は、言動に引っ掛かる点がないか注視してみるか。


「このマンション、七年くらい前にできたって聞いたけど……当時、管理人さんは未成年だよね。マンション経営って子供でも始められるの?」

「ファミリアは元々ノブおじさんが管理してたんだよ。途中で責任者を交代したんだ」

「あたし、ノブおじさんとは一回挨拶を交わしただけなんだけど。どんな感じの人?」

「悪い人じゃないんだけど……正直、オレはちょっと苦手なタイプかな」


 俊介いわく、信行からは〝自分の内に他人を踏み込ませたくない〟という空気が伝わってくるそうだ。穏やかで話しやすい反面、言動の端々に排他的なオーラを感じることがある――そのギャップが若干怖いとのこと。あたしはそんなふうに感じなかったが……。


「律子ちゃんは入居したてだから分かんないと思うけど、ここに住んでると『異質さに苦しんでるのは自分だけじゃないんだ!』って元気もらえるよ」

「……そういうもん?」

「これから分かるようになるって。オレが保証する!」


 何の根拠もない保証とやらを信じたわけではないが――ひとまず「そうなるといいね」と返しておいた。



* * * 



 新しい仕事が始まったのは、ファミリアへの入居から一週間経った月曜日。ハルに用意してもらった求人情報から、ラベル貼りというアルバイトを選択した。


 午後五時に初勤務を終えて帰宅。夕食を済ませたところで甘い飲み物が欲しくなった。一階フロアへ下り、自販機に並ぶ商品からアイスミルクティーを選択。ガタンとペットボトルが吐き出される音に続けて、足音が聞こえてきた。


 音に釣られて振り向くと、飲食ブースに女性が入ってきていた。赤色ベースのロリータワンピースを纏っている。あたしより少し年下といったところか。

 彼女が「律子さん」と呟く。

 あたしのことを知っているようだ。

 何故だろうと思いつつ「どーも」と会釈した。


「混乱させてしまってごめんなさい。月下ハルの妹、唯花と申します」


 なるほど、と納得した。

 派手なロリータ姿に目を奪われてしまっていたが、確かにかなりの美少女だ。

 彼女は彫りが深く、フランス人形のような顔立ちをしている。腰付近まで伸びる茶色の髪は艶やかで、白い肌も美しい。身長は一五〇センチ程度だろうか。乙女を絵に描いたような可憐さがあり、あたしと正反対のタイプだ。レースがふんだんにあしらわれたワンピースもよく似合っている。


 そこで突然、唯花が「ありがとうございます」と口にした。何のことを言っているのか分からず首を傾げる。


「わたしのお洋服。似合うと思ってくださったのでしょう?」


 背筋に冷たいものが走った。

 まさかこの人……あたしの心を読んでいる?


「えぇ、ご想像どおりです」


〝人の心を読む〟という異彩の持ち主はハルの妹だったのか。俊介が「唯花の異彩は知ることになるだろう」と言っていたが、心を読まれるのは気味が悪い――という心情も唯花には筒抜けのようで、彼女から笑みが消えた。


「あ、すみません。失礼なことを考えて」

「いえ……いいのです。最初は皆さん、同じ感想を抱かれますから」


 唯花は「少しお付き合いいただけませんか」と言い、テーブルに目を向けた。ファミリアの管理人一家を邪険に扱うわけにもいかないため、ミルクティーを持って席に着く。唯花は紙パックのリンゴジュースを購入し、あたしの正面に腰を下ろした。


「あたしは自己紹介してないですけど。唯花さんは異彩まで見抜いてるんですよね?」

「はい。悪意を持って心を覗いたわけではないので、ご容赦いただければと。この力を日常的に使うこともありません」

「心の声を閉ざしたり開放したり……コントロール可能ってこと?」

「そうです。住人の皆さまの心を読むのも、わたしの異彩についてご理解いただくまで。その後は基本的に閉ざしています。そうするよう、兄さまからも厳しく言われていますから」


 彼女は小さく笑み、リンゴジュースに口を付けた。ハルと同じく綺麗な顔立ちだが、あまり似ていない。メイクの影響だろうか。


「唯花さんってハーフっぽい顔ですね」

「美容整形しているんです。可愛いものが大好きなので、自分もお人形さんみたいになりたくて……。兄さまは『今のままで充分だ』と反対したんですけど」



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